右斜め下を見る暗いパンダ。 <3/3>
今度は元凶@長谷川に向き直る剣。物々しい空気が漂う。長谷川は奇妙な現実に物怖じもせず、剣は再び牙を剥き出す気配、一触即発。
もはや夕暮れ時の商店街の雰囲気ではない。足達はいろんな人に頭を下げて 「なんでもないんです日常茶飯事です」 謝罪のオンパレードを始めた。その一方では、剣のターン!!
「それで、あんたは誰?」
「お前が捕まえているキツネの同業だ。名乗らん。規約違反の人間がいると聞いたが、契約は即刻破棄してもらう。不服申し立ても聞かん。ごねたところで無駄だと知れ」
長谷川の無礼な問い掛けに、剣は意外にも冷静に受け答えた。でも聞く耳持たん。
「規約とか最初に聞かなかったけど、それでも無駄だと言う?」
「長谷川も嫌味なところを突くなあ。九里子さんにそんな甲斐性があるとは思うまい」
「九里子にそんな頭があったら誰も傷付かなくて済んだのにね。全部九里子の自業自得とも言えるわい」
ごにゃごにゃ言う足達と小田原。九里子が有能だったら誰も今こんなところにいない。家でジュースとか飲んでくつろいでいる。
「あーわわ。確かに最初に言うの忘れてましたけど、いきなり人を捕まえておいて帰さないっていうのは不法ですよ!違法ですよ、異常ですよー!!」
慌てた九里子の異常発言。さすがに長谷川が異常だと気が付くも、今さら遅い。あとの祭りである。フェスティバルでもカーニバルでも開催すればいい。
あとの祭りフェスティバル(重複してる)を開催している九里子を横目に、剣は先を続けた。
「こちらのミスは認める。だが、予期せぬトラブルを盾に取られては堪らない。お前の依頼主としての権利はとっくに尽きた」
「権利どころか依頼もしてないけどね。僕の立場としては、そこにいる二人となんら変わらない気がするよ。僕は単に九里子ちゃんと一緒にいただけで、何も強制した覚えはないし」
うっそつけー。足達と小田原は心の中で思った。首輪とリードのオプションはどこに行った。
「今晩の豆腐メニューにつられてノコノコついて行ってしまった九里子よ、もはや頼みの綱も切れてしまったな」
「ここでは黙っといた方がいいと思うけど」
小田原のうっかりコメントを聞き逃さなかった犬耳。剣の耳がさっと動いた。なんですって。
「ひひー!!小田原さんそれはご内密にッ!!」
九里子は条件反射で足達の後ろに隠れるが、今まさにあとの祭り真っ最中な事実は変わらない。めちゃくちゃバカみたいな自業自得である。さあここからがハイパーお説教タイムです。
剣は険しい視線で九里子を串刺す。九里子が鳥肉だったらとっくに焼き鳥にされている。調理済みでおいしく頂かれている。
「どういう事情だ。言え」
「言えぬ!!言えない絶対言えないー!!」
剣にキツネ耳を掴まれて絶叫する九里子。言えぬ!!まさか麻婆豆腐につられてノコノコとぼとぼしたなどとは。沽券と立場とお給料に関わる。
二人の間に挟まれた足達は、無言のままやっぱり挟まれていた。下手に口を出して、ドロ沼を底なし沼にする気はない。
「お前は・・・・バカだバカだバカな子ほどかわいいと思っていたが、ここまで愚かしいとは予想しなかったぞ!!俺でも予想できるかッ!煮込んで食うぞキツネそばにしてな!!」
「剣さん、いろいろ混ざってる」
「あ、足達さん助けてくださあい!!」
「そして用済みとなったあたしはこの修羅場を眺めながらスプライトでも飲むのであった」
「おおお小田原さんにも助けてほしいなあー!!」
キツネそばにされる寸前の九里子が叫ぶ。縁石に座って缶ジュースを飲んでいる小田原。ここまで歯車が噛み合わない救出劇も珍しい。一方足達は、九里子に揺さぶられ続けて制服のボタンのどっかが弾け飛んでいた。
このままでは自分が危うい・・・・悟った足達は無理に九里子を引き剥がした。ドカンと突き飛ばす。
「いーから持って帰れ、祖国に輸送しろ!!」
「あぎゃ!!」
「いいのかい?」
しかし突き飛ばした先が剣ではなく、長谷川にど真ん中ストライク。九里子はがっちりキャッチされてしまった。いい当たりだが、判定はクロだった。
「ありがとう、じゃあそういうことで九里子ちゃんはもらっていくよ」
「あああ足達さん違う違います!!宛先が違いますー!!」
「そうは、」
「させるかー!!」
何事もなかったように去ろうとする長谷川、コンパクトに小脇に抱えられていく九里子、足達と小田原が吠えて奪取にかかる。三人の視線が交錯する!誰が敵か味方かも分かりませんね。
ここからの展開が速かった。小田原の可もなく不可もなく普通のグーパンチが長谷川を襲うが、あっさり避けられた。そこを足達の容赦ない二の腕から繰り出されるラリアットで打ちのめされたのは、九里子だった。攻撃の宛先が間違っている。長谷川は超展開ですべてを回避した。
小田原のグーパンチはともかく、数多の不審者と数多の小田原に制裁を下してきた実績を持つ足達から逃れるとは、並ではない。九里子が泣いた。
「足達さん痛いです~!脳に、衝撃が!!」
「ガマンしてくれ九里子さん。次は当てる、ブチかます!!」
「照準を絞って下さいー!!」
もう一回ブチかまそうとした矢先、九里子を抱えたままの長谷川を捕らえる手があった。
「そこまでだ、人間」
剣が長谷川の腕を掴む。長谷川は振り解けない。
滅多なことでは腕力を行使しない剣にしても、軽く九里子を超える。九里子を引き合いに出すのは間違っている。軽く足達を超える。
そのまま相手を拘束するかと思いきや、剣の取った行動は期待を裏切った。
「ほげー!?」
「あげ!?」
「なんで私まで!!」
反対の手で九里子を弾き飛ばし、巻き添えで小田原と足達が潰された。一箇所に集められて団子状態になった。これはなんだろう、なにだんごと言うんだろう。
しかし長谷川は未だに剣に掴まれたままだった。両者の視線が交錯する。バキューン!!
「今さら僕を捕まえてどうする気だ?九里子ちゃんのみならず契約者にまで危害を加えるのが、契約違反とは言わないよな」
「契約違反だと?これはアフターケアだ。クーリングオフとでも言ってもらおうか」
「ありがたいね。でも僕には要らぬ心配だ。ありがた迷惑だね」
「分かるか九里子、ここから男同士の超絶バトルが始まるんだぜ。主に殴り合いでな!!」
「うわわ、そんなこと言わないで下さいよ小田原さん。いくら剣でも契約者に手を出したらタダでは済みませんよ・・・・」
「すみませんと言うのはお前だ!!お前が剣か長谷川かハッキリしないせいでこの不毛なバトルが始まるんだぜ!!」
「よく分かりませんがすみませぬ!!」
「その前に早くどけ、降りてくれ、下車しろ!!なんでこのまま話を進める!」
三人団子になっている状態で、上から九里子、小田原、足達の順序。最下層の足達はそろそろ限界を迎えようとしている。
「契約切れだ」
最終通告が下された。だんご三人衆は剣の鋭い指摘に顔を上げ、ぎょっとした。長谷川の足元。
長谷川の足には黒い影が絡んでいた。彼自身の影ではない。地面から這い出した腕のような形が二本の足を掴む。物理的に、現実的にもありえない現象に度肝を抜かれる。
「これは・・・・」
一番驚いたのは長谷川。地面から生えた影から足を抜こうとしても叶わない。塗りたてのコールタールに埋まったような感触。それどころか地面より下に爪先がめり込んだような感触でもある。
人肌の温度にも似た生ぬるさが伝う。その間にも黒い影は面積を増やし、長谷川の膝にまで侵食を広げる。しかし不思議なことに、剣にはまるで触らない。
「なんだありゃ!?きもちわりー!」
小田原が九里子を押しのけて立ち上がる。が、足達の上に立ち上がったもんだからそのまま足を掴まれて引っ繰り返された。
「ドラァ!!人の上に両足で立つなァ!!九里子さん、なんなのあれ!?」
「あ、あれはァ・・・・!!」
おののく九里子。どすんと落ちた腰で後ずさりする。足達の問い掛けに答えたのは剣。
「契約違反に対する制裁だ。執行された者は闇に落ちる」
ものすごいアバウトな答えだったが、なんだかただならぬ事態なことは分かった。闇に落ちる?
コックリさんの終了を正しく行わなかった者は、なんらかの弊害を被ると脅されている。これは強制終了の予兆。九里子を呼び出しておきながら帰さずにいる長谷川への制裁。足達にも分かる。
さらに闇の手は長谷川の体を舐める。さすがに長谷川も危ういと覚えたか、驚愕の表情を浮かべた。
「大変なことになるって、これかい?痛くはないけど、かゆい」
「のんきー!!ステキに元気!!たっ大変なことですよー!そんなんなったら私じゃどーにもできませんから~!!だから言ったのに!」
当事者よりも焦る九里子。しかし自分では近寄りたくないのか足達の後ろでバタバタしているだけだった。九里子の手に負えないのは見た目にも分かるので、足達は敢えて前には押し出さなかった。
長谷川は剣に捕まえられたまま、かゆいと言っている。不思議現象を目の当たりにしておきながら少しも臆していない。現代っ子、あまり自分の危機を気に介さない。長谷川は純粋に不思議な目で見ている。
「狸(タヌキ)の仕業だ」
剣は言い捨て、足元の影を蹴る。追求する間もなく変化は起きた。
一蹴された影は一瞬、黒い水溜りとなって地面に落ち、地中に吸い込まれ消えてしまった。剣の呆気ない所作によって不可思議な現象は収まった。
「消えた・・・・」
「消えちゃったね」
「消えちゃいましたね・・・・」
上から、足達小田原九里子。剣は長谷川を解放すると、後ろへと軽く突き飛ばした。自分の仕事は終わりだとでも言うように。びっくりした割には一瞬で終わった。
元凶の九里子がどうにもできないことを剣が一人で片付けた。齢五百年ベテランは伊達ではない。コックリさんのエリート。
不思議がる女子三人衆だが、長谷川は怪訝な色をちょっと浮かべただけだった。お前だよ、お前が今まさにピンチだったんだよ。まるで部外者の顔をしている。自覚しているのかわざと外しているのか。
「まず、これで僕は危機を脱したわけかな」
「九里子との契約も切れたわけだ。こいつは本社に連行する」
「ほ、本社ホギャー!!」
おざなりな長谷川の言葉に、投げやりな剣の受け答え。そこへ九里子が反応した。一メートルくらい上にぶっ飛んだ。足達が耳打ちする。
「本社?九里子さんの・・・・勤め先?」
「わわ、私は支社デス。本社はとても怖いところデス」
語尾から即死の予感がする。小田原はポケットから純白のハンカチを取り出した。見送る感じで振って見せる。
「さよなら九里子。あばよ!!」
「見送らないで下さい~!!ほんとに怖いんですから~!!そ、お、小田原さんも一緒に行きましょう、そうしましょう!!粗茶デスが!!」
「うむ、ぬるい!!」
九里子が取り出した緑茶(缶)を一蹴する小田原。ゴガーン。(ヒット音)粗茶程度では誤魔化されない、誘惑されない。まさにお茶を濁すという。
「九里子ちゃん」
小田原にも見放され怯える九里子、その肩を叩く者があった。長谷川。笑顔装備。
「そんな怖いところへ君を連れて行く鬼と、一緒に帰ったら三食麻婆豆腐が食べられる僕と、どっちがいい?」
「ええと、うーん、迷いますね」
足達と小田原は無言で頷き合い、親指を立てた。突入の合図。
「もはや情状酌量の余地なし、今だ唸れ!!」
「食らえダブル制裁!!」 ドズン。
「あふェ!?」
大地を踏みしめた二人の突進から繰り出されるワンパンチ、合計して二発。ボディにいいパンチ入りました。意識は地獄を見るまもなく天国に召された。普通に打たれ弱い。
二人分のこぶしを受けた九里子は呆気なくKOされた。ダウンした。崩れ落ちる体をすかさず拘束する足達。
「剣さん、今の内に連れ帰るんだ。お返しします」
「見事な手筈だ。それと約束を忘れるなよ」
「ちゃっかりしてるわね・・・・」
内容を問わなければ。傘でつつかれている九里子しかないけれど。
首根っこを掴まれて差し出された九里子を受け取る剣。これで長谷川も手出しできない。
「あーあ、残念ながら。今日は僕が麻婆豆腐を三人前食べるのか」
「あんたのうちは何人家族で一体何人前の麻婆豆腐を一気に作るのか問いたい」
残念がる長谷川コメントにつっこむ小田原。九里子が一人いなくなっただけで何人前余分に出るのか問いたい。ホームパーティが始まる予感がする。
「そうだ。言っておくが、人間」
剣はグッタリした九里子の首根っこを掴みながら(子猫の持ち方を参照)振り返る。視線は長谷川を向いている。釘を刺すような鋭さ。この場合の方法は、かなづちと釘を用いる。
「長谷川の名、お前はブラックリストに挙げられる」
「怖いことを言うなあ。具体的に教えてもらわないと、僕もどうすることやら」
あんまり怖がっていないことは分かる。懲りない。懲れ、懲ろうよ!!その図太さに、足達はかなづちと釘を容易するところだった。しかし剣の対応は冷静であった。
「侮るな人間。今回は見逃してやるが、次はない。死ぬぞ」
「死ぬとまで言われちゃ僕も命が惜しい。忠告どおり、危ない橋は渡らないでおくよ。黙っていても九里子ちゃんはまた来るだろうからね」
肩を竦める長谷川。困った口調だが顔は笑っている。剣は足達と小田原を見た。
黙っていても何かあれば九里子が足達に泣きつくことは見えている。剣でなくとも分かる。
「以降の呼び出しには誰一人応対しない。二度と手を出すな」
「九里子さんにね」
「主に九里子にな」
「そして足達と小田原。タダで教えてやるが、お前達は今回も赤点だ」
「誰のせいだと思ってんだコンチクショー!!元はと言えば、九里子が長谷川の陰謀に巻き込まれたせいでだな!十分に勉学に励めなかったのであった」
「そう言いきってしまえるあんたが羨ましいわコンチクショウ」
勉学に励まないのはいつものことであった。そんなことを言われなくても、剣でもなくても分かる。迫り来る赤点に向け、今夜は心置きなく十時に寝るぞ!と足達は心に決めた。
「ではさらばだ赤点ども。俺は近い内に顔を出す」
「今おさらばすんな!!今日の深夜呼び出すぞ!寝かさぬ!!」
小田原の雄叫びを無視し、剣は九里子を担いでいなくなってしまった。どうやって帰るんだろうと思った。徒歩だ。本社が隣町にあるわけでもなかろうに。
残された赤点ども、長谷川を含め三人、無言で帰り支度を始めた。終わりが呆気ない。
「今回のヤマは危なかった・・・・危うく公衆の面前でパンチラ及びパンモロするところだった。ジャージでよかった」
「何も公衆の面前でトラックの荷台から飛び降り参上しなくてもよかったと思うのは私だけか」
小田原は駐輪場から自転車を引っ張ってきた。駐輪場でわざわざ着替えてきたのだ。スカートの下にハーパン。
荷物も何も、全部そこら辺にブチ撒けていた足達は、通り過ぎる買い物客に「なんでもないんです、お騒がせしました」と謝りながら片付けた。今日は謝罪の嵐だった。
「ホントは反省してないだろう」
スーパーのビニール袋と鞄を両手に下げた長谷川、そこへ小田原が詰め寄る。
「あんたのことだから、ほとぼりが冷めたらまた九里子を呼んでやろうなどと、考えているだろう!!」
「君にしては考えが冴えている。この調子なら明日の試験も絶好調だよ、おめでとう」
「いや、まあ、褒めるなって!改心すんなって!!」
「皮肉だってことに気付け小田原。あと絶対改心してない」
真に受ける小田原、通訳する足達。よく聞けば心がこもっていないことにすぐ気が付く。長谷川は容易に信じられない。小田原は激怒した。
「なんだと!?あたしを騙したなよくもー!!全然改まってねええええ!!何がおめでとうだ!!」
「いや、君の頭が」
「おめでたいってか!!」
ようやく話が繋がった。会話が通じた。確かに祝したい状況である。
「もういい分かった。明日は赤点確実だと剣にお墨付きをもらったことだし、今日は麻婆豆腐パーティしようぜ。そうしよう。長谷川家でご相伴に預かろう」
「行きたくねえええ」
足達は魂の底から切なる拒否を絞り出した。なんでそんな流れになる。ここは普通に自宅直帰するところだろう。
早く帰ってジュース飲んで寝たい気持ちで一杯なのに、そうは小田原の問屋が卸さない。すぐ傍に裏切り者がいた。しかもやたら物分りのいい返答があった。
「よし分かった。不本意ながら今日は招待しよう」
「不本意なら招待すんな。私は行かない。じゃあそういうことで」
サッと背を向けて歩き出したところを小田原に捕まえられた。足達、孤独な反逆劇。
「そんなこと言うなよ・・・・あたし一人で長谷川に勝てると思うなよ!」
「だったら行くなあああ!!心の底から行かないことをお勧めする!!きっとロクなことにはならん!コーラ買ってやるから帰れ!!」
「君ら二人では九里子ちゃんの代わりにもならないだろうけど、足元にも及ばないけど、人数は多い方が楽しいよ。ほら、三人寄れば騒がしいって言うし。騒ぐだけなら君らにもできるだろ?」
「ほら見たことか!!うわべだけで絶対歓迎されてねえええ!!」
言葉の端々から嫌味があふれ出ている。もう隠しようがないTHE・建前だらけの長谷川。本音が隠しきれてないどころか、もう言いたいことしか言っていない。
「三人寄ろうぜ!騒ごう!」
「寄らん!!騒がん!!」
「いや、ほらさ、このまま長谷川家に侵入して、長谷川の邪魔をしてやるのさ・・・・」
奥さん聞きました?のポーズで小田原がささやく。何を邪魔してやると言うの。
「麻婆豆腐パーティなんてこちらの口車さ。あいつは油断してる。長谷川も明日テストの身、徹夜で勉強の邪魔をしてやるのさ」
「お前、こすい・・・・」
「別に僕は今さら教科書開かなくても構わないけどさ。君らが大変だろうね、明日」
「あっ、しまった長谷川め!!どうしよう足達」
どうにもならん。足達は無言で小田原の頭をすっぱたく。長谷川を陥れるより己の身を案じろ。
すると長谷川は慈悲深いほほえみで頷いた。足達は掴まれたワイシャツを引き千切る勢いで脱しようとしたが、無理だった。小田原が皮ふまで掴んでいる。さすがに皮ふは脱げない、まずい。
「はい!じゃあ今日は、徹夜で君らの試験対策を講じるとして、まずは微分積分だ」
その日の夕方、商店街に悲痛な叫びが響き渡った。びぶんせきぶんー!!アルミホイルを裂くような悲鳴。鉄板を切り裂いたような断末魔が。
その悲鳴は一晩中やまなかったという。出所は長谷川家。おやつも夜食も麻婆豆腐だよ!
おしまい!足達と小田原が新たな犠牲となることで解決しました。(2008/10/23)
今度は元凶@長谷川に向き直る剣。物々しい空気が漂う。長谷川は奇妙な現実に物怖じもせず、剣は再び牙を剥き出す気配、一触即発。
もはや夕暮れ時の商店街の雰囲気ではない。足達はいろんな人に頭を下げて 「なんでもないんです日常茶飯事です」 謝罪のオンパレードを始めた。その一方では、剣のターン!!
「それで、あんたは誰?」
「お前が捕まえているキツネの同業だ。名乗らん。規約違反の人間がいると聞いたが、契約は即刻破棄してもらう。不服申し立ても聞かん。ごねたところで無駄だと知れ」
長谷川の無礼な問い掛けに、剣は意外にも冷静に受け答えた。でも聞く耳持たん。
「規約とか最初に聞かなかったけど、それでも無駄だと言う?」
「長谷川も嫌味なところを突くなあ。九里子さんにそんな甲斐性があるとは思うまい」
「九里子にそんな頭があったら誰も傷付かなくて済んだのにね。全部九里子の自業自得とも言えるわい」
ごにゃごにゃ言う足達と小田原。九里子が有能だったら誰も今こんなところにいない。家でジュースとか飲んでくつろいでいる。
「あーわわ。確かに最初に言うの忘れてましたけど、いきなり人を捕まえておいて帰さないっていうのは不法ですよ!違法ですよ、異常ですよー!!」
慌てた九里子の異常発言。さすがに長谷川が異常だと気が付くも、今さら遅い。あとの祭りである。フェスティバルでもカーニバルでも開催すればいい。
あとの祭りフェスティバル(重複してる)を開催している九里子を横目に、剣は先を続けた。
「こちらのミスは認める。だが、予期せぬトラブルを盾に取られては堪らない。お前の依頼主としての権利はとっくに尽きた」
「権利どころか依頼もしてないけどね。僕の立場としては、そこにいる二人となんら変わらない気がするよ。僕は単に九里子ちゃんと一緒にいただけで、何も強制した覚えはないし」
うっそつけー。足達と小田原は心の中で思った。首輪とリードのオプションはどこに行った。
「今晩の豆腐メニューにつられてノコノコついて行ってしまった九里子よ、もはや頼みの綱も切れてしまったな」
「ここでは黙っといた方がいいと思うけど」
小田原のうっかりコメントを聞き逃さなかった犬耳。剣の耳がさっと動いた。なんですって。
「ひひー!!小田原さんそれはご内密にッ!!」
九里子は条件反射で足達の後ろに隠れるが、今まさにあとの祭り真っ最中な事実は変わらない。めちゃくちゃバカみたいな自業自得である。さあここからがハイパーお説教タイムです。
剣は険しい視線で九里子を串刺す。九里子が鳥肉だったらとっくに焼き鳥にされている。調理済みでおいしく頂かれている。
「どういう事情だ。言え」
「言えぬ!!言えない絶対言えないー!!」
剣にキツネ耳を掴まれて絶叫する九里子。言えぬ!!まさか麻婆豆腐につられてノコノコとぼとぼしたなどとは。沽券と立場とお給料に関わる。
二人の間に挟まれた足達は、無言のままやっぱり挟まれていた。下手に口を出して、ドロ沼を底なし沼にする気はない。
「お前は・・・・バカだバカだバカな子ほどかわいいと思っていたが、ここまで愚かしいとは予想しなかったぞ!!俺でも予想できるかッ!煮込んで食うぞキツネそばにしてな!!」
「剣さん、いろいろ混ざってる」
「あ、足達さん助けてくださあい!!」
「そして用済みとなったあたしはこの修羅場を眺めながらスプライトでも飲むのであった」
「おおお小田原さんにも助けてほしいなあー!!」
キツネそばにされる寸前の九里子が叫ぶ。縁石に座って缶ジュースを飲んでいる小田原。ここまで歯車が噛み合わない救出劇も珍しい。一方足達は、九里子に揺さぶられ続けて制服のボタンのどっかが弾け飛んでいた。
このままでは自分が危うい・・・・悟った足達は無理に九里子を引き剥がした。ドカンと突き飛ばす。
「いーから持って帰れ、祖国に輸送しろ!!」
「あぎゃ!!」
「いいのかい?」
しかし突き飛ばした先が剣ではなく、長谷川にど真ん中ストライク。九里子はがっちりキャッチされてしまった。いい当たりだが、判定はクロだった。
「ありがとう、じゃあそういうことで九里子ちゃんはもらっていくよ」
「あああ足達さん違う違います!!宛先が違いますー!!」
「そうは、」
「させるかー!!」
何事もなかったように去ろうとする長谷川、コンパクトに小脇に抱えられていく九里子、足達と小田原が吠えて奪取にかかる。三人の視線が交錯する!誰が敵か味方かも分かりませんね。
ここからの展開が速かった。小田原の可もなく不可もなく普通のグーパンチが長谷川を襲うが、あっさり避けられた。そこを足達の容赦ない二の腕から繰り出されるラリアットで打ちのめされたのは、九里子だった。攻撃の宛先が間違っている。長谷川は超展開ですべてを回避した。
小田原のグーパンチはともかく、数多の不審者と数多の小田原に制裁を下してきた実績を持つ足達から逃れるとは、並ではない。九里子が泣いた。
「足達さん痛いです~!脳に、衝撃が!!」
「ガマンしてくれ九里子さん。次は当てる、ブチかます!!」
「照準を絞って下さいー!!」
もう一回ブチかまそうとした矢先、九里子を抱えたままの長谷川を捕らえる手があった。
「そこまでだ、人間」
剣が長谷川の腕を掴む。長谷川は振り解けない。
滅多なことでは腕力を行使しない剣にしても、軽く九里子を超える。九里子を引き合いに出すのは間違っている。軽く足達を超える。
そのまま相手を拘束するかと思いきや、剣の取った行動は期待を裏切った。
「ほげー!?」
「あげ!?」
「なんで私まで!!」
反対の手で九里子を弾き飛ばし、巻き添えで小田原と足達が潰された。一箇所に集められて団子状態になった。これはなんだろう、なにだんごと言うんだろう。
しかし長谷川は未だに剣に掴まれたままだった。両者の視線が交錯する。バキューン!!
「今さら僕を捕まえてどうする気だ?九里子ちゃんのみならず契約者にまで危害を加えるのが、契約違反とは言わないよな」
「契約違反だと?これはアフターケアだ。クーリングオフとでも言ってもらおうか」
「ありがたいね。でも僕には要らぬ心配だ。ありがた迷惑だね」
「分かるか九里子、ここから男同士の超絶バトルが始まるんだぜ。主に殴り合いでな!!」
「うわわ、そんなこと言わないで下さいよ小田原さん。いくら剣でも契約者に手を出したらタダでは済みませんよ・・・・」
「すみませんと言うのはお前だ!!お前が剣か長谷川かハッキリしないせいでこの不毛なバトルが始まるんだぜ!!」
「よく分かりませんがすみませぬ!!」
「その前に早くどけ、降りてくれ、下車しろ!!なんでこのまま話を進める!」
三人団子になっている状態で、上から九里子、小田原、足達の順序。最下層の足達はそろそろ限界を迎えようとしている。
「契約切れだ」
最終通告が下された。だんご三人衆は剣の鋭い指摘に顔を上げ、ぎょっとした。長谷川の足元。
長谷川の足には黒い影が絡んでいた。彼自身の影ではない。地面から這い出した腕のような形が二本の足を掴む。物理的に、現実的にもありえない現象に度肝を抜かれる。
「これは・・・・」
一番驚いたのは長谷川。地面から生えた影から足を抜こうとしても叶わない。塗りたてのコールタールに埋まったような感触。それどころか地面より下に爪先がめり込んだような感触でもある。
人肌の温度にも似た生ぬるさが伝う。その間にも黒い影は面積を増やし、長谷川の膝にまで侵食を広げる。しかし不思議なことに、剣にはまるで触らない。
「なんだありゃ!?きもちわりー!」
小田原が九里子を押しのけて立ち上がる。が、足達の上に立ち上がったもんだからそのまま足を掴まれて引っ繰り返された。
「ドラァ!!人の上に両足で立つなァ!!九里子さん、なんなのあれ!?」
「あ、あれはァ・・・・!!」
おののく九里子。どすんと落ちた腰で後ずさりする。足達の問い掛けに答えたのは剣。
「契約違反に対する制裁だ。執行された者は闇に落ちる」
ものすごいアバウトな答えだったが、なんだかただならぬ事態なことは分かった。闇に落ちる?
コックリさんの終了を正しく行わなかった者は、なんらかの弊害を被ると脅されている。これは強制終了の予兆。九里子を呼び出しておきながら帰さずにいる長谷川への制裁。足達にも分かる。
さらに闇の手は長谷川の体を舐める。さすがに長谷川も危ういと覚えたか、驚愕の表情を浮かべた。
「大変なことになるって、これかい?痛くはないけど、かゆい」
「のんきー!!ステキに元気!!たっ大変なことですよー!そんなんなったら私じゃどーにもできませんから~!!だから言ったのに!」
当事者よりも焦る九里子。しかし自分では近寄りたくないのか足達の後ろでバタバタしているだけだった。九里子の手に負えないのは見た目にも分かるので、足達は敢えて前には押し出さなかった。
長谷川は剣に捕まえられたまま、かゆいと言っている。不思議現象を目の当たりにしておきながら少しも臆していない。現代っ子、あまり自分の危機を気に介さない。長谷川は純粋に不思議な目で見ている。
「狸(タヌキ)の仕業だ」
剣は言い捨て、足元の影を蹴る。追求する間もなく変化は起きた。
一蹴された影は一瞬、黒い水溜りとなって地面に落ち、地中に吸い込まれ消えてしまった。剣の呆気ない所作によって不可思議な現象は収まった。
「消えた・・・・」
「消えちゃったね」
「消えちゃいましたね・・・・」
上から、足達小田原九里子。剣は長谷川を解放すると、後ろへと軽く突き飛ばした。自分の仕事は終わりだとでも言うように。びっくりした割には一瞬で終わった。
元凶の九里子がどうにもできないことを剣が一人で片付けた。齢五百年ベテランは伊達ではない。コックリさんのエリート。
不思議がる女子三人衆だが、長谷川は怪訝な色をちょっと浮かべただけだった。お前だよ、お前が今まさにピンチだったんだよ。まるで部外者の顔をしている。自覚しているのかわざと外しているのか。
「まず、これで僕は危機を脱したわけかな」
「九里子との契約も切れたわけだ。こいつは本社に連行する」
「ほ、本社ホギャー!!」
おざなりな長谷川の言葉に、投げやりな剣の受け答え。そこへ九里子が反応した。一メートルくらい上にぶっ飛んだ。足達が耳打ちする。
「本社?九里子さんの・・・・勤め先?」
「わわ、私は支社デス。本社はとても怖いところデス」
語尾から即死の予感がする。小田原はポケットから純白のハンカチを取り出した。見送る感じで振って見せる。
「さよなら九里子。あばよ!!」
「見送らないで下さい~!!ほんとに怖いんですから~!!そ、お、小田原さんも一緒に行きましょう、そうしましょう!!粗茶デスが!!」
「うむ、ぬるい!!」
九里子が取り出した緑茶(缶)を一蹴する小田原。ゴガーン。(ヒット音)粗茶程度では誤魔化されない、誘惑されない。まさにお茶を濁すという。
「九里子ちゃん」
小田原にも見放され怯える九里子、その肩を叩く者があった。長谷川。笑顔装備。
「そんな怖いところへ君を連れて行く鬼と、一緒に帰ったら三食麻婆豆腐が食べられる僕と、どっちがいい?」
「ええと、うーん、迷いますね」
足達と小田原は無言で頷き合い、親指を立てた。突入の合図。
「もはや情状酌量の余地なし、今だ唸れ!!」
「食らえダブル制裁!!」 ドズン。
「あふェ!?」
大地を踏みしめた二人の突進から繰り出されるワンパンチ、合計して二発。ボディにいいパンチ入りました。意識は地獄を見るまもなく天国に召された。普通に打たれ弱い。
二人分のこぶしを受けた九里子は呆気なくKOされた。ダウンした。崩れ落ちる体をすかさず拘束する足達。
「剣さん、今の内に連れ帰るんだ。お返しします」
「見事な手筈だ。それと約束を忘れるなよ」
「ちゃっかりしてるわね・・・・」
内容を問わなければ。傘でつつかれている九里子しかないけれど。
首根っこを掴まれて差し出された九里子を受け取る剣。これで長谷川も手出しできない。
「あーあ、残念ながら。今日は僕が麻婆豆腐を三人前食べるのか」
「あんたのうちは何人家族で一体何人前の麻婆豆腐を一気に作るのか問いたい」
残念がる長谷川コメントにつっこむ小田原。九里子が一人いなくなっただけで何人前余分に出るのか問いたい。ホームパーティが始まる予感がする。
「そうだ。言っておくが、人間」
剣はグッタリした九里子の首根っこを掴みながら(子猫の持ち方を参照)振り返る。視線は長谷川を向いている。釘を刺すような鋭さ。この場合の方法は、かなづちと釘を用いる。
「長谷川の名、お前はブラックリストに挙げられる」
「怖いことを言うなあ。具体的に教えてもらわないと、僕もどうすることやら」
あんまり怖がっていないことは分かる。懲りない。懲れ、懲ろうよ!!その図太さに、足達はかなづちと釘を容易するところだった。しかし剣の対応は冷静であった。
「侮るな人間。今回は見逃してやるが、次はない。死ぬぞ」
「死ぬとまで言われちゃ僕も命が惜しい。忠告どおり、危ない橋は渡らないでおくよ。黙っていても九里子ちゃんはまた来るだろうからね」
肩を竦める長谷川。困った口調だが顔は笑っている。剣は足達と小田原を見た。
黙っていても何かあれば九里子が足達に泣きつくことは見えている。剣でなくとも分かる。
「以降の呼び出しには誰一人応対しない。二度と手を出すな」
「九里子さんにね」
「主に九里子にな」
「そして足達と小田原。タダで教えてやるが、お前達は今回も赤点だ」
「誰のせいだと思ってんだコンチクショー!!元はと言えば、九里子が長谷川の陰謀に巻き込まれたせいでだな!十分に勉学に励めなかったのであった」
「そう言いきってしまえるあんたが羨ましいわコンチクショウ」
勉学に励まないのはいつものことであった。そんなことを言われなくても、剣でもなくても分かる。迫り来る赤点に向け、今夜は心置きなく十時に寝るぞ!と足達は心に決めた。
「ではさらばだ赤点ども。俺は近い内に顔を出す」
「今おさらばすんな!!今日の深夜呼び出すぞ!寝かさぬ!!」
小田原の雄叫びを無視し、剣は九里子を担いでいなくなってしまった。どうやって帰るんだろうと思った。徒歩だ。本社が隣町にあるわけでもなかろうに。
残された赤点ども、長谷川を含め三人、無言で帰り支度を始めた。終わりが呆気ない。
「今回のヤマは危なかった・・・・危うく公衆の面前でパンチラ及びパンモロするところだった。ジャージでよかった」
「何も公衆の面前でトラックの荷台から飛び降り参上しなくてもよかったと思うのは私だけか」
小田原は駐輪場から自転車を引っ張ってきた。駐輪場でわざわざ着替えてきたのだ。スカートの下にハーパン。
荷物も何も、全部そこら辺にブチ撒けていた足達は、通り過ぎる買い物客に「なんでもないんです、お騒がせしました」と謝りながら片付けた。今日は謝罪の嵐だった。
「ホントは反省してないだろう」
スーパーのビニール袋と鞄を両手に下げた長谷川、そこへ小田原が詰め寄る。
「あんたのことだから、ほとぼりが冷めたらまた九里子を呼んでやろうなどと、考えているだろう!!」
「君にしては考えが冴えている。この調子なら明日の試験も絶好調だよ、おめでとう」
「いや、まあ、褒めるなって!改心すんなって!!」
「皮肉だってことに気付け小田原。あと絶対改心してない」
真に受ける小田原、通訳する足達。よく聞けば心がこもっていないことにすぐ気が付く。長谷川は容易に信じられない。小田原は激怒した。
「なんだと!?あたしを騙したなよくもー!!全然改まってねええええ!!何がおめでとうだ!!」
「いや、君の頭が」
「おめでたいってか!!」
ようやく話が繋がった。会話が通じた。確かに祝したい状況である。
「もういい分かった。明日は赤点確実だと剣にお墨付きをもらったことだし、今日は麻婆豆腐パーティしようぜ。そうしよう。長谷川家でご相伴に預かろう」
「行きたくねえええ」
足達は魂の底から切なる拒否を絞り出した。なんでそんな流れになる。ここは普通に自宅直帰するところだろう。
早く帰ってジュース飲んで寝たい気持ちで一杯なのに、そうは小田原の問屋が卸さない。すぐ傍に裏切り者がいた。しかもやたら物分りのいい返答があった。
「よし分かった。不本意ながら今日は招待しよう」
「不本意なら招待すんな。私は行かない。じゃあそういうことで」
サッと背を向けて歩き出したところを小田原に捕まえられた。足達、孤独な反逆劇。
「そんなこと言うなよ・・・・あたし一人で長谷川に勝てると思うなよ!」
「だったら行くなあああ!!心の底から行かないことをお勧めする!!きっとロクなことにはならん!コーラ買ってやるから帰れ!!」
「君ら二人では九里子ちゃんの代わりにもならないだろうけど、足元にも及ばないけど、人数は多い方が楽しいよ。ほら、三人寄れば騒がしいって言うし。騒ぐだけなら君らにもできるだろ?」
「ほら見たことか!!うわべだけで絶対歓迎されてねえええ!!」
言葉の端々から嫌味があふれ出ている。もう隠しようがないTHE・建前だらけの長谷川。本音が隠しきれてないどころか、もう言いたいことしか言っていない。
「三人寄ろうぜ!騒ごう!」
「寄らん!!騒がん!!」
「いや、ほらさ、このまま長谷川家に侵入して、長谷川の邪魔をしてやるのさ・・・・」
奥さん聞きました?のポーズで小田原がささやく。何を邪魔してやると言うの。
「麻婆豆腐パーティなんてこちらの口車さ。あいつは油断してる。長谷川も明日テストの身、徹夜で勉強の邪魔をしてやるのさ」
「お前、こすい・・・・」
「別に僕は今さら教科書開かなくても構わないけどさ。君らが大変だろうね、明日」
「あっ、しまった長谷川め!!どうしよう足達」
どうにもならん。足達は無言で小田原の頭をすっぱたく。長谷川を陥れるより己の身を案じろ。
すると長谷川は慈悲深いほほえみで頷いた。足達は掴まれたワイシャツを引き千切る勢いで脱しようとしたが、無理だった。小田原が皮ふまで掴んでいる。さすがに皮ふは脱げない、まずい。
「はい!じゃあ今日は、徹夜で君らの試験対策を講じるとして、まずは微分積分だ」
その日の夕方、商店街に悲痛な叫びが響き渡った。びぶんせきぶんー!!アルミホイルを裂くような悲鳴。鉄板を切り裂いたような断末魔が。
その悲鳴は一晩中やまなかったという。出所は長谷川家。おやつも夜食も麻婆豆腐だよ!
おしまい!足達と小田原が新たな犠牲となることで解決しました。(2008/10/23)
