クロース談義でバトル!!




冬になって最近、よく聞く名前がある。
あんまりにもあちこちで耳にするものだから、シロツメは気になって気になってしょうがなくなってきた。思い切って自分の上司に尋ねてみることにした。
「ナキヒトさま、サンタって誰ですか?」
「ボランティア」
ベンチに腰掛けたまま、ナキヒトは煙を吐きながら答えた。なんておざなりな・・・・
極めて短絡的な回答に、一方シロツメはというと。
「そっ、それは良い人なんですね!?」
「そうかもな」
少しも疑いを持たないシロツメは感激した声を上げ、胸の前で自分の大鎌を握り締める。
最近、町の親子連れがよく口にしているサンタクロースとゆー人は、十二月二十五日に無償で子供達にプレゼントをしてくれるボランティアなのか。世間の行事や人情とかにはサッパリ疎いシロツメだったが、そのサンタクロースとゆー人物に対しては直感的に感動した。
幸いと言うかあいにくと言うか、本日こそが十二月二十五日である。シロツメは思い立った。
「私、その人を探してきます!」
「おう。がんばれよ」
ナキヒトは世にもおざなりな返事で部下を送り出す。何も知らないシロツメはベンチから立ち上がり、勝手に見当をつけた方角へと走り出した。
「必ず見つけてみせます。待ってなさい、サンタフリース!!」
「サンタクロースだから」
確かにクロースよりもフリースの方が温かそうだ、とナキヒトは思った。
シロツメがその訂正を聞いたかはともかく、とっくにどこかへと消えていた。サンタフリース探しの旅か。



「・・・・で、サンタフリースっていい人なんだって」
アサヌマはキムラと顔を見合わせた。唐突にやってきたシロツメの唐突な話題に戸惑う。
「でね、その人はボランティアで子供達にプレゼントをくれるみたいよ」
「サンタフリースじゃなくて、サンタクロースだって。そんなこと誰に聞いたんだ?」
まさかよりにもよって、この相手の口からサンタなんて聞く日が来ようとは。アサヌマは疑わしい口調で問い返す。
「ナキヒトさまに聞いたら教えてくれたわよ。十二月二十五日に来るらしいの」
シロツメはきょとんとした顔で即座に答えた。さも当たり前のような回答に、アサヌマの頭に乗っていた猫二匹がうなる。シロツメに殺されて猫に生まれ変わったイイダとウエスギ。
猫にまで怪訝な反応を返され、シロツメはどことなく肩身の狭さを感じた。
「何よー、何か違うの?」
「お前ナキヒトさんに騙されたな、だってさ」
キムラが猫の言葉を代弁する。そうだと言わんばかりにイイダとウエスギは喉を鳴らした。
「ええー。でも、サンタフリースって人、ホントにいるんじゃないの?あーゆー赤と白の服着て空飛ぶトナカイに乗ってくるんでしょ?で、こーんなデブいの」
通りに飾ってあるケンタッキーのカーネルおじさんを指さすシロツメ。確かに、クリスマス仕様で紅白の服とお仕着せの帽子を被せられている。その様は世間で知られているコカコーラ仕様のサンタクロースそのものに見えた。
四人(猫も含め)は再び顔を見合わせると、一瞬間をおいてから爆笑した。
「あっはっはっはっ!!バカだなシロツメ、あんなサンタクロース、ホントにいるワケないだろ!あんなの信じてんのか!?」
「お前もさ、意外とバカだよなー。そんな子供だましに引っ掛かるなんて!」
アサヌマとキムラは交互にシロツメの肩を叩き、抱いているサンタクロース概念を一笑に付した。猫まで背中をけいれんさせて笑い転げている。
シロツメはしばしポカーンとしていたが、通りに響き渡る様な笑いっぷりに気が付き、ハッと我に返る。
「それじゃナキヒトさま、私にウソついたの!?もー!!」 ボガン!!
次の瞬間、通りの向かいに立っていたカーネルおじさんが吹っ飛んだ。そのすぐ後ろ、店の壁にはシロツメの大鎌がグッサリ突き刺さっている。さよならカーネルおじさん・・・・
四散したクリスマス仕様の人形は粉々に砕け、こっちにまで破片が弾けてくる。アサヌマ達はゾッとした。夢を壊されたシロツメの怒りはハンパじゃない。
アサヌマは生唾を飲み込み、ずり落ちてきた猫を押さえながら言う。
「お、落ち着けよシロツメ。オレ達は別に、サンタクロースがいないって言ってるワケじゃ・・・・」
「シャラップ!!それ以上言ったら怒るわよ・・・・ウソはもうたくさんよ!!それ以上言ったら、ここら一帯の偽サンタフリースを皆殺しにするわよ!!」
「クリスマスの悲劇!!?まず、落ち着け!あと、フリースじゃなくてサンタクロースだから!!」
キムラも止めに入るが、意外なことにシロツメはガックリと肩を落とし、意気消沈する。希に見る悲壮感。
「いいのよ、もう・・・・三太なんて信じないんだからー!!」
『誰だ!!?』
誰だろう、三太さん。フリースに続き、サンタクロースに新しいジャンルが確立した瞬間であった。
「ナキヒトさまのバカー!!クリスマスなんて滅んじゃえばいいのよ!ついでに三太も滅べばいいのよー!!」
「あっ、シロツメ!?」
「待てよシロツメ!」
「ニャー」
シロツメはカーネルおじさんのガレキを踏み分け、自分の鎌を取り戻すと、アサヌマやキムラ、猫の制止も聞かず走り去っていってしまった。それはものすごいスピードで、あっという間に見えなくなる。
残された四人はと言うと、呆気に取られた顔でシロツメを見送っていた。
「シロツメ、可哀想に・・・・」
「てゆーか、ナキヒトさんもテキトーなこと教えるから」
「ニャー」
「そうだよな、俺達だってサンタクロースがいないって言ったワケじゃないし」
「でもさ、あんなウソっぱちのサンタなんかいるワケねーだろ。早めに教えといた方が良かったんだよ、きっと」
「ゴロニャー」
イイダとウエスギも賛成した。コカコーラ仕様の紅白サンタクロースで騙せるのは年端の行かない子供だけであって、シロツメがアッサリ誤魔化されていいものではない。
だが、本物を知らない方がよっぽど夢があったかもしれない・・・・アサヌマは遠くを見やり、真顔で呟いた。
「サンタフリースって、なんかユニクロにいそうだな」
「そんな安そうなサンタは嫌だ・・・・」
実際ありそうな気がして、キムラは気が滅入った。いくらなんでも実質、廉価だったら嫌すぎる。



「はあ~・・・・サンタは作り話だったのね・・・・」
アサヌマ達から別れた後、シロツメは10キロほと離れた通りで立ち止まった。歩道のブロックに座り込み、盛大な溜め息をつく。
「やっぱりこんな腐りきった世の中にそんな気前のいいボランティアなんて、いるワケはないのよね」
なにげにものすごいことを言っている。脱力した様子で鎌を側に置き、ヒザの上で頭を抱える。
ナキヒトの言っていたことはあながちウソではないが、それは世の子供達の道徳心をくすぐる為のシンボルめいた虚像だったワケだ。世間に広く定着しているサンタクロースの役目とは、そんなところなのだろう。大衆向けのイベントアイテムなのだ。
「ナキヒトさまも、ホントのこと教えてくれたっていいのに~!!」
思いっ切り期待を裏切られたシロツメ、サンタフリースなんていないのよーと呻いている。確かにそういう人はいないが。
「まったくもー、クリスマスなんて最低よ~!」
「クリスマスがどうかしたのか?」
歩道でグズグズやっていると、不意に声を掛けられた。頭を抱え込んでいたので、その声は低く、くぐもって聞こえる。それでも知り合いの声でないことは分かった。
誰だろうと思ったが、シロツメは疲れた声で返した。
「・・・・もう、今落ち込んでるところなんですから、誰だか知らないけどあっちに行って下さい」
「落ち込んでる?今日この日に?クリスマスなのに?・・・・そりゃダメだなあ、ホント」
こっちは深刻だとゆーのに、相手は至極軽い調子で言葉を繋げてくる。さすがにシロツメもムカッときた。
「なんですか、クリスマスクリスマスって!!私は今日この日にクリスマスもサンタも嫌いになったんだから、ほっといて下さいよっ!!」
人間相手に攻撃は御法度とされているが、今日とゆー日はガマンできそうにない。叫ぶ否やシロツメは大鎌を掴み、相手の顔も見ずに刃を振り上げる!
「今日に限って穏やかじゃねえなァ。どうした?」
「なッ・・・・!!?」
予想しない手応えにシロツメの息が詰まる。鎌の切っ先はアスファルトに深々と突き刺さっていたが、相手には一ミリたりとも掠ってはいない。
「少し落ち着けよ。今日くらい刃傷沙汰は避けてもらたいもんだ」
声は背後から聞こえてきた。相手は肩越しにシロツメの手元を見下ろし、面白そうな声で笑う。
「な、なんですの、あなた・・・・」
シロツメは力任せに柄を引っ張り、慌てて後ろを振り返る。みすみす背後を取られた動揺に平静を失い、一歩下がる。
自信からだけではなく、自分は自他共に認めるつわものだ。ナキヒトが魂から精製した最高の人造物。その自分をやり過ごすとは勇者か魔王、神でもない限りできはしない。
「オレか?参ったな・・・・オレを知らないとは、今日は損することになるぞ」
相手は声からも判る通り男だった。人間に見えるが・・・・黒い上下で固めた格好は、地面から生えた一本槍のように不気味な様を模していた。
分厚いジャケットのフードにはたっぷりの茶色いファーが絡み付き、その首からはストッパーで留めたライダーゴーグルがぶら下がる。完全に冬仕様のスタイルで、まるで極寒の地からの来訪者であった。しかしとても、ここまで完全装備になるほど気温は低くない。
シロツメは鎌を退き、妙な男を上から下まで見る。人間に見えるが、人間ではない・・・・
「・・・・何者ですか。神との合いの子ハイブリッドですか、それとも突然変異による神もどきミュータント?」
「おいおい、もどき呼ばわりかよ。そういう悪い子には贈り物はやんねえぞ」
「ふざけないで下さい。人間でなければ滅ぼしますよ」
「ホントにオレを知らないのか?想定の範囲外だな。オレも焼きが回った・・・・」
男は悲しそうな口調とは裏腹に肩を揺すって笑っていた。武器を下ろしたとは言え、シロツメは慎重に見据える。
「私は忙しいんです。何か邪魔をするならお相手しますよ」
すると、男はピタリと笑いを止めた。最初から漂っていた不気味な感じがさらに増す。
ただ真顔に戻っただけだと言うのに、その予兆は大きく膨れ上がった。シロツメは無言で鎌の柄を手に力を込めた。自分ともあろうものが緊張を強いられるとは。
「忙しい?お前が?」
男は若い見目だが、その口調には明らかに練れたものがあった。一個の頂点を極めた師匠のような、弟子を諌める態度。シロツメは柄にもなくギクリとした。
勇者や魔王のように外見と内面の履歴が一致することもなく、内外には大きな隔たりを持っている。不気味だと感じたのはそのせいだ。
「今日と言う日、オレより忙しいなんて滅多なこと言うんじゃねえぞ」
「何を・・・・」
ザリ、とブーツの下でアスファルトが鳴る。距離を詰め、男は一歩踏み出してきた。シロツメは驚いてもう一歩下がった。
「相当ご機嫌斜めのようだしな、言っても聞かねえだろ」
男は肩から斜めに下げていたボストンバッグを少し揺すり、開いたジッパーから無造作に手を突っ込む。
何かされると思い、シロツメは咄嗟に鎌を構える。しかし、男の方が早かった。
「じゃあ、メリークリスマス!!」
「あわ」
間抜けな顔になったシロツメの鼻先に、相手の手の平が突き出された。しかもその手の上には小さな小包が載っている。店でやってもらうなら包むだけで五百円も取られるような豪奢なラッピングに包まれ、箱本体をも隠してしまっている。
手と柄の間から目を覗かせ、シロツメは恐る恐る小包を見た。確かめるまでもなく、これは・・・・
「あの、これって・・・・プレゼント、ですか?」
「言うまでもなく当たり前だろ?今日はクリスマスだろーが」
「わ、私にですか」
「おいおい、お前のほかに誰がいる?いいから受け取れよ。メリークリスマスつったろ。それともいらねえのか?」
「はっ。はい!ほしいです、もらいます!!」
再三疑おうとしたところへ引っ込められそうになり、慌てて小包を受け取る。
持って分かったが見た目よりもずっと重みがある。表面のヒヤリとした冷気に掠められ、皮膚が粟立つ。自然の冬くらいでは寒さを感じないはずだが。
シロツメは考えた。十二月二十五日に無償でプレゼントをくれる人とゆーのは・・・・思い出した!
「あっ、もしかして、三太さん!?」
「誰だよ!!?・・・・相当間違ってるな、それ。オレはセドリックだ」
「セドリック?なんだ、三太さんじゃないのか・・・・」
妙な名前に急いで訂正を入れるが、シロツメは聞いていない様子だった。しかもなんか微妙にガッカリしている。これでは報われない。セドリックは空になった手で指を振る。
「誰から聞いたか知らねえが、ちゃんと覚えとけ。クリスマスにタダでプレゼントしてくれる優しいお兄さんは、このオレだっつーの」
シロツメはためつ眇めつ小箱を引っ繰り返して見ていたが、話はちゃんと聞いていた。
「私の上司から聞いたんです。十二月二十五日に来るボランティアの人のこと」
「まあ、中身はボランティアに違いないが・・・・ナキヒトだろ」
「え、知ってるんですか?」
唐突に出された名前にびっくりして顔を上げる。相手はなんでもないという顔をして頷く。
「オレはとっくに知ってるよ。お前がシロツメだろ」
「そうですけど・・・・なんで知ってるんですか?会うのは初めてですよ」
「当たり前だろ、仕事だぜ。いや、ボランティアだぜ?なんなら世界中の名前言ってやろうか?聞く気があるならだけどな」
「いらないですよ。それよりあなた、ナキヒトさまの知り合いなんですか?そんなこと一言も言ってませんでしたよ」
「あいつまだ生きてたのか。とっくに知ってるつったろ。去年来た時、お前は別の場所に行ってたらしいから知らないだろうな」
ナキヒトはサンタクロースが知り合いだとは一言も言わなかったが、去年来たとも言わなかった。二重に騙された気がして、シロツメの怒りは再燃した。
「もー、ナキヒトさまも教えてくれれば良かったのに!」
「最初に教えたらお楽しみがなくなるだろーが。知ってたら面白くないだろ」
そう言われればそうかもしれない。ナキヒトは確信犯的に隠していたのかもしれない。
「そ、そうですね。びっくりしました。えー、でも、本当にもらえるとは思いませんでした!すごい、ホントにいたんですね!!」
そのはしゃぎようにセドリックは気を良くした。今時こんな喜ぶのは小学生くらいで(それ以上は年齢制限があるからだ)、まさかこんなリアクションをもらうとは思わなかった。
「サンタさんとゆーのは、あーゆー格好じゃないんですね」
赤と白のサンタスーツを来たドナルドを指差しシロツメが問う。するとセドリックは見るからに苦い顔に変わった。
「あれは・・・・オレの親父が昔、面白半分にコーク会社と契約したからだ。いい迷惑だぜ、今さらあんなの流行んねえぞ」
「そうなんですか。結構かっこいいと思うんですけど。紅白でおめでたい配色じゃないですか」
「お前とはシュミが合わねえな」
おめでたいのはお前の頭だ、といいかけたが口をつぐむ。二代目の身分としてはこれからの世襲制を考え直した方がいいかもしれない。すっぱり名称を変えた方が出直しも利く。
まずは仕事だ。いや、ボランティアだ。半分だけ開いていたバッグを全開にして別の包みを取り出す。
「手、出せ」
「あ、はい。なんですか?」
シロツメはしばらくリボンをいじっていた包みを脇に抱え、そこに大鎌を支えて両手を差し出す。
「これがアサヌマ、イイダ、ウエスギ、はいメリークリスマス」
シロツメに渡したものと似た包みを矢継ぎ早に載せていく。次々に出てくるプレゼントに慌て、シロツメは指を広げる。
「これがカトウ、キムラ、はいメリークリスマス」
「こ、これ、まだあるんですか?」
「まだあるに決まってんだろ。こっちがエスミ、オオツカ、で、メリークリスマス」
セドリックの手は止まらず、慣れた様子でボストンバッグを開く。中身は無尽蔵のようだ。
「ハシモト、ヒガシ、フジワラ(日本名)、でもってメリークリスマス」
プレゼントは上に積み重なり、山のように高くなる。シロツメはバランスを崩さないようにするので文字通り手一杯だ。
「このプレゼント、直接みんなに渡した方がよくないですか?」
「いいんだよ、あいつら毎年ってことで大して喜ばねえからな。こっちは時間割いて来てやってるつうのに。それで、これがナキヒト、ミズガシ、面倒だがメリークリスマス」
「お二人にもくれるんですね」
「当たり前だろ、ボランティアだ」
ようやくセドリックの手が止まった。シロツメと言えば、少しでも動けば山が崩れそうでジッとしているしかなかった。別の意味で緊張を強いられる。
「お、一つ余ったな」
前に回してきたバッグの中身を覗き、セドリックは呟く。あれだけ調子よく大量に出てきておいて、まだ入る隙間があったのかとシロツメは感心する。
「おまけだ。特例でメリークリスマス」
山の登頂に最後の一個をドン、と置かれ、またぞろ焦る。もはや両腕で一緒くたに抱え込みながら聞き返す。
「これは誰にですか?」
「黙ってお前がもらっとけ。分かりゃしねえよ」
「い、いいんですか?他の人は一個ずつなのに。ナキヒトさまに怒られますよ」
「そしたら言っとけ。お前は今年、いい子にしてなかったからだって」
「なっ、ナキヒトさまはいい子ですよ!!」
勇者をいい子呼ばわりするのもどうかと思うが。至極真剣な物言いに、セドリックは笑って言い返した。
「そしたらそれはお前の好きなようにしとけ。それで文句はないだろ」
「そうですけど・・・・じゃあ私の好きにさせてもらいます」
「そうか?さて、」
そう言うとセドリックはバッグを閉じて担ぎ直す。その頃にはすでに中身が入っているように膨らみ始めていた。不思議な鞄だ。
「オレは行くぜ。今日はメチャメチャ多忙だからな」
「サンタさんですからね!これから子供達にプレゼントを配るんですよね。あ、」
「どうした」
そこでシロツメは気が付いた。そう言えば、クリスマスにプレゼントをもらえるのは子供限定なのでは。その思惑を相手は見透かして先読みする。
「人間は百年で済むが、お前らは特例だ。年月のサイクルっつーもんがあるだろ」
相手はどこからか出てきたバイクに跨り、ゴーグルを引き上げながら答える。バイクは今まで在ったはずだが見えていなかった。荷台には別の大きなボストンバッグがいくつも載せられている。
サンタはトナカイに乗ってくるんじゃなかったの・・・・シロツメは何度目かガックリしたが口には出さなかった。相手の好みにあれこれ口を出すのも出されるのもイヤだし、せっかくプレゼントももらえたことだ。
それはそれでセドリックの趣味なのだろう。赤と白にトナカイなら、真っ黒尽くめにはバイクの方が似合う。
「なるほど。考えてますね、いろいろと」
「いろいろと?」
感心した口調で言われ、セドリックは怪訝な声で返した。いろいろと?シロツメは構わず言葉を続ける。
「来年もまた絶対来て下さいよ、特例なんですからね!」
「まあな。そいつら、落っことすなよ」
「大丈夫ですよ。めっちゃ早く持って行きますから」
それがまずいんじゃないかな、と思いつつ、スターターを捻りエンジンをかける。その音と風に紛れ、途端に冷たい北風が吹き付けてきた。
「じゃあな。また来年イイ子にしてたら会おうぜ」
「承知しました!ナキヒトさまにも言っておきますので!!」
律儀な答えであった。それを聞き届け、アクセルを空け、地面から足を離す。ぐんと景色が遠ざかり、景色が線になって走り出す。
あっという間に見えなくなるセドリックとバイクを見送っていたシロツメだが、咄嗟に思い出し、大きく口を開いた。
「どうもありがとー!サンタフリースさん!!」
そう言うと、満足してシロツメは反対方向へと歩き出した。早く山のようなプレゼントを配らなければ。浮かれた足取りだが、一個も落とすことなく跳ねるように行ってしまった。


その頃、百メートルほど行った先でセドリックは急ブレーキをかけていた。
「オレはユニクロの商品か・・・・」
ぼやき、肩のボストンバッグを担ぎ直すと、彼は長い旅路に向けて急いだ。死んでも三代目の呼称は「サンタクロース」で固めよう。




「ナキヒトさま~!!ほら、これ見て下さいよっ!サンタフリースさんにもらったんですよ!」
「なんだ、その新しいジャンルは。クロースだって言っただろうが」
同じベンチにいたナキヒトを見付け、シロツメは証拠だと言わんばかりの勢いで小包を突きつけてきた。
包装はまだ解かれていない。サンタクロースのプレゼントはラッピングを解いたが最後、決して他人の手では元に戻せないようになっている。
「もらったんだろ?取っとけよ」
ナキヒトはくわえた煙草を揺らし、大して大きなリアクションも見せないまま答える。
「ええー、もっと驚かないんですか?ナキヒトさまの知り合いじゃないんですか?」
「今さらなこった。見飽きたぜ」
「そんなこと言ってー。あ、なんで私達の居場所が分かったんでしょうか。スゴイですね」
「仕事だからだろ」
「ボランティアですよ。もー、これナキヒトさまの分ですよ。他の人達には全部あげてきちゃったんで最後です。あ、ちゃんと名前書いてある」
「もらってきたのか。で、それは誰の分だろうな?」
「ぎくり」
自分の分を受け取りながらナキヒトが問う。シロツメはまともに動揺した。
他には全部渡して来たという割に、シロツメは二つ包みを持っている。言うまでもなく例の最後のおまけである。
ナキヒトはしばらく黙っていたが、息を吐く。白く立ち上ったのは息ではなく紫煙だった。寒い中でも息が白くならないのは人間でない証拠だ。
「まあいいや。どうせ年に一回だ、もらっとけ」
てっきり何か言われると思いきや。意外な許しにシロツメは念のために聞き返した。
「お、怒りませんか?」
「なんで怒るんだよ。怒られたいのかよ?」
「いいえ!!もらっておきます!」
「そうしとけ。面倒だがメリークリスマス」
「同じこと言うんですね~」
「ああ?」
これまた面倒くさそうに答え、ナキヒトは無造作に包装のリボンを引っ張ると、ラッピングはただの過剰包装に成り果てた。原形など留めていない。
途端に落ちてきた粉雪に紫煙を吹きかける。包みの中身は空だった。目の前一帯に白いものがチラつく。
「どうせなら積もらせんなよ。面倒だから」
「積もったっていいじゃないですか、きっとキレイですよ~」
「そりゃ良かったな」


そいつは良かったな、と北に向けてもう一度煙を吐く。粉雪は大粒に変わった。





(2005/12/28)

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