鍋大会でバトル!!
「テメエ、まだ白菜入れんじゃねえよ。順番ちげーよ」
「あなたこそネギ入れるの早いんじゃないですか。なんでバランス良く煮込もうとしないんですか」
(始まる・・・・ッ!!)
アサヌマ達は唾を飲んだ。正確に言うと、口の中の鳥団子を飲み込んだ。
一つの鍋に互いの菜箸を突っ込んでいるナキヒトとミズガシは、恐ろしいまでに無表情で睨み合っていた。何が彼らをそうさせるのか。
発端は夕方、シロツメが「もう春ですし、最後にあったかいお鍋でも食べたいですね」と言ったところから。その、のんきな発言が勇者と魔王の何かに火をつけた。
「なんで白菜が先なんだよ。普通はネギが先だろ」
「だからなんでネギが先なんですか?最初に火を通しておかないと、中りますよ」
「お前、ネギが辛いまま食いてーのか」
「そっちこそ白菜に芯が残ったまま食べたいんですか」
二人の部下達は鳥団子を咀嚼しながら、硬直した姿勢のままやり取りの顛末を窺った。手に持ったお椀と箸が小刻みに震えている。
「だから白菜の芯は抜けって言っただろ。それに少しくらい歯ごたえのある方がいいんだよ。グダグダに煮込んだ白菜なんか食いたかねえ」
「ネギも少しくらい辛い方がダシと合っていいんですけどね。煮込み過ぎて鍋の中で分離されると後々に見目が悪くなるんですよ」
「最後は雑炊にすんだろ。見目が悪かろうが誰も気にしねーよ」
「まあそうですけどね、最後にすべてを託そうとする手順からして間違ってるんですよ。ま、そうやって味を一緒くたにしようとする人は味なんか気にしないんでしょうね」
ミズガシのコメントに、全員の動きが止まる。ナキヒトは端の動きを止めた。湯気の立つ空間が冷たく凍る。始まる・・・・ッ!!
ナキヒトは箸をミズガシに叩き付け、鍋を引っ繰り返し、コタツも引っ繰り返し、壁に立てかけていたカタナを掴んだ!掴んだりはしなかった。普通に鍋にネギを並べ始めただけだった。
部下達は溜め息をつく。その溜め息も若干震えが入っていた。何事もなかったのはいいが、この押し殺した感情が怖い。抑圧された怒りが後々で一気に爆発するなんてことには・・・・それだけはやめてほしい。殺される。比喩なしで。ナキヒトの本気の怒りは冗談じゃない。
「なら一緒に入れたらいいだろ」
「そうですね。まだ始めたばっかりですし」
ミズガシもあっさり譲歩する。こんなケンカにもならない二人は初めてだった。全員、生きた心地がしない。
「スペース空けるぞ。お前らさっさと食え」
「いや、ちょっと、まだ残ってますから・・・・」
野菜と肉をドサッとお椀に入れられ、アサヌマは躊躇する。ものすごい山になっている。
「次の具が入れられねーだろ。いいから食え・・・・」
「食べます!!ものすごい食べますから!!」
自発的に食べたハズなのに、強制的に食らわされた気がする。アサヌマは味も分からないままいろいろ食べまくった。なんだろう、この、異様な緊張を強いられる鍋は。初めてだ。
シロツメは後悔していた。同じく山盛りにされた自分のお椀を空にすべく、ものすごい食べながら後悔していた。気軽に発言するべきではなかったのだ。こんなことになるなら言い出すべきではなかった。
まさか、ナキヒトとミズガシが筋金入りの鍋奉行だったとは・・・・
猫舌とゆーか、猫のイイダとウエスギは自分達の皿が冷めるのを待ちながら、部屋の隅っこで小さくなっている。こんなに山盛りにされたら熱も逃げない。しかしとても食べたいと思う雰囲気ではなかった。
胃が痛くなってくるのを感じながら、シロツメは目だけで鍋奉行×2を窺う。二人共、尋常でない目付きで鍋を睨んでいた。もしもその視線を向けられたら即死する。殺す気か。鍋を。
ミズガシは白菜を並べ始める。しかし次の瞬間、その菜箸をナキヒトの菜箸が掴んだ。ミシッ、と嫌な音が聞こえた。
「・・・・何を、するんですか」
「待て。お前、そんな並べ方でいいと思ってんのか」
「なんですって」
来たァ!!今度こそ、来た。ハシモトの眼鏡が湯気で曇るが、それを拭うヒマさえ与えない緊張感。
「それ、もっと火の通る場所に置けよ」
「あ、そうですね」
それでいいのか!!全員の心が一つになった。またもやあっさり譲歩したミズガシが杓子でシラタキをすくう。
「シロツメ、こんにゃくは嫌いですか」
「いえ、嫌いでは、ないです。いえ、大好きです!!」
「じゃあもっと食べなさい」
ミズガシにしては珍しく無表情で言われる。シロツメは引きつった笑顔で「ありがとうございます」と答えたが、やはり声も震えていた。本当はあんまり好きじゃないのに大好きですなんて言ってしまった自分が憎い。
「は?お前、その結んだヤツ嫌いじゃなかったのかよ」
「ひっ」
今度はナキヒトに言われて悲鳴が漏れた。シラタキを結んだ、その細いものの集合体が嫌いなことを、上司は覚えていた。何も今言わなくてもいいのに。ミズガシは眉をひそめた。
「え?嫌いなんですか?」
「ちがっ、その、あの、なんていうか!!」
横からアサヌマに肘で小突かれる。これ以上は余計なことを言うまいと決めていたのに、このザマ。自分の発言一つで事態がどんどんこじれていくのを感じた。なんとかここは切り抜けるしか。
「こっ、こんなにおいしく食べたの初めてですから!その、おいしいなァって思って!!思っちゃってですね!?」
「そうですか、それは良かったです。じゃあもっと入れましょうか」
「まだ冷蔵庫にあったよな・・・・」
(やめてェエエエエエ)
席を立っていくナキヒトを引き止めたい気分でいっぱいである。シロツメは代わりに思いっ切り箸を握り締めた。上司にそんなことをさせるのも滅多にないが、嫌いなものを食べさせられるのはもっと嫌だった。
壁の方を見ると、そろそろイイダとウエスギが食べ始めていた。それでもまだ熱いのか、舌を出したまま固まっている。かわいそうに、とその場の全員が思った。
「あ、忘れてました」
それを見て、今度はミズガシが立ち上がる。
「冷めてておいしくないですよね。あっためなおしますよ」
「ミギャッ」
「ギャッ」
猫が悲鳴を上げた。猫舌だとゆーのに、自分の感性でやられても困る。あつあつのお椀に交換された。するとそこへシラタキを洗ってきたナキヒトが帰ってくる。
「ばっかやろ、てめえ。猫なんだからよ、」
「ああ、そうですね。猫でしたね」
「肉しか食わないに決まってんだろ。野菜なんか食わねーよ」
今度は鳥団子だらけのお椀に換えられる。しかも湯気が立っている。イイダとウエスギは後ずさった。確実に死ぬ。
「ニャー!!」
「ぎゃあ!?痛ェ!?」
丸くなって寝ていた母猫が突然起き上がり、ナキヒトの耳に噛み付いた。ちぎれるかと思うほどの力だったのか、さすがのナキヒトも悲鳴を上げた。猫でも母親は強い。
ペッと耳から牙を離した母猫はそのまま子猫をくわえ、少し開いていた窓から飛び出していってしまった。ああいいなあ、とその場にいた全員は思った。いっそ猫バスが来て、この場から連れ出してくれないだろうか。夢みたいな話である。
「なんだァ・・・・?せっかく食わしてやろうと思ったのに」
「ナキヒトさん!!猫は猫舌なんですよ!!熱いものは食べません!!」
思わずアサヌマがつっこんだ。野菜も肉も関係ない、そういう論点から外れたことをすれば猫だって逃げる。
「ああ、そうか」
「そうなんですよ!!」
「まあ猫はいなくなったことだし、もうちょっと火力上げろよ」
「私はガスボンベじゃありませんよ」
こっちもさすがに怒り、ミズガシは憤然とした様子でカセットコンロを調節する。その隙に部下達は素早く集まり、ゴニョゴニョ話し合う。
(シロツメ、お前のせいだぞっ)
(反省してる・・・・こんなことになるとは~)
(あんまりにも久しぶりで忘れてたけど、あの二人が鍋を始めると大変なことに・・・・)
(鍋奉行ってヤツですね。ホントに意外なことで)
(オオツカはどうしたんだよ。なんで来ないんだ)
(鍋をやるって言ったら、急用を思い出したって、どっかに行っちゃったケド)
(逃げたな~)
(彼は知ってたんですね・・・・)
ちなみに上からアサヌマ、シロツメ、キムラ、ハシモト。当の二人は豆腐とモヤシのどっちが先か争い始め、部下達の談合には気付いていない。
(こうなったら、早く全部食べ切って終わらせるしか、ない)
(でも、ものすごい買い込んでたけど・・・・全部食べられる?)
(ムリ。お前が責任取って俺達より二割り増で食えよ)
(こんなことなら私達も逃げるべきでしたね。私の三番目の妻も、税務署と鍋奉行には気を付けろと言っていました)
『三番目!!?』
「なんだお前ら、うるせーぞ。何が三番目なんだ」
「なんでもありませんッ!!」
そんなハナシは聞いていない。慌ててアサヌマが遮り、他の全員は口を噤む。そしてハシモトの後妻、脱税でもしていたのか。鍋奉行と比べる意味が分からない。
「そんなことよりさっさと食え。豆腐入れるぞ」
「豆腐よりモヤシが先じゃないですか。分かってませんねナキヒト」
「お前よー鍋にモヤシ入れんなよ。すき焼じゃねーぞ。そのなんでも入れればイイっつー根性がダメだ」
「いいじゃないですか、モヤシ。日の当たらないジメジメした場所で暗所栽培されたところが」
「選定基準が分からねえ!!」
故郷の地獄を思い起こすとゆーことで魔王は日の当たらないジメジメした場所を好む。それを食材に求める意味が分からない。ナキヒトの言い分はもっともだったが、こっちも豆腐の量がハンパない。五パックくらい持ち込まれているのを見たアサヌマ達は、ゾッとした。
シロツメは折れかけた箸を置き、二人の手を止めるべく尽力した。
「あの、ナキヒトさまとミズガシさまも食べて下さいよ。私達ばっかり食べてるじゃないですか!」
「そっ、そうっすよ!なんか悪いですし!!」
言い募る部下達に、ナキヒトとミズガシは顔を見合わせた。
「いや、別に俺は食わなくても。一ヶ月くらい食わなくても平気だし」
「そんなことを言わず!どうか箸を収めて!!」
もはや凶器を収めるよう懇願する有様であった。こうなったらミズガシに懇願するしかない。
「ミズガシさま!!」
「私も作ってる方が面白いですし。基本的に私、鍋物が嫌いなんです」
クリティカルヒットだった。じゃあ何故わざわざ!?と問いたい。シロツメは空になったお椀を持ったまま後ろに倒れた。もう成す術がない。
「ほらほら、私の分も食べてください。私は見てるだけで十分なので」
「あわわわ」
「あわわわ」
昏倒したシロツメが脱落したので、アサヌマとキムラに次がやって来た。なんで俺達、魔王に鍋を作らせて配膳させてるんだろう。不思議な現状が耐え難い。
「おい、ハシモト」
ナキヒトの注意がハシモトに向く。標的にされた気分。ハシモトは未だ眼鏡を曇らせたまま硬直した。
「いえ、結構です!!家で妻が待っているので帰らせて頂きますっ!!」
『何番目の!!?』
ナキヒトとミズガシも含めて、全員の疑問が一つになった。箸と空になったお椀を放り出すように置き、ハシモトは逃げた。上手いこと逃げやがった。その素早さをアサヌマとキムラは恨んだ。
あまりの速さに追い付けなかったナキヒトはポカンとしていたが、すぐに我に返る。
「じゃあお前ら二人で全部食えよ。余らせてもしょうがないだろ」
「ええええ」
「ええええ」
「おいおいテメーら、俺の鍋が食えないってのか・・・・」
「こっ怖いですよ!!いちいち怖く言わないで下さい!!食べますから!」
「できる限りは!!善処します!」
脅迫されて食べる鍋もおかしい。なんだろう、この惨状。
上司の言い分には逆らえないが、これではあまりにも横暴ではないか。二人は目の前の鍋を引っ繰り返しそうになったが、そんなことをしたら、豆腐の代わりに自分達が八等分される。
湯気の熱さだけではない、汗が出てきた。冷や汗の方。アサヌマは急いでシロツメを叩く。
「おい!!シロツメ、起きろ!!続行!!」
「うーん・・・・もう食べられない・・・・」
「寝言言ってんじゃねー!!」
「寝言じゃなーい!!現実!!」
ベタな寝言かと思いきや。現実に引き戻されたシロツメはびっしり冷や汗をかいていた。
「お、おそろしいことに、ゆ、夢の中でも鍋大会が・・・・!!」
「現実でもだー!!」
「しょーがねーから豆腐と一緒にモヤシも入れたぞ。俺の意義に反するけどな」
「いいじゃないですか、モヤシ。私は食べませんけど」
ドカーンと山盛りで出される。その山盛りを見せ付けられ、三人はもう見てるだけでお腹いっぱいです。そう言いたかった。
「な、なぜ豆腐とモヤシが一緒に・・・・!!」
「うん・・・・割とうまいけどな・・・・」
「ヘルシーだけど絶対食べすぎ~・・・・」
三人は半分泣きながら食べた。と、そこへ別の人員が現れた。バーンとドアを開けて入ってきた。
「今日は鍋大会だって聞きまシター!ワタシもぜひ鍋仲間に!仲間由紀恵ー!!」
『何事ー!!?』
三人はおののいた。何が。しかしナキヒトとミズガシは動じない。もう鍋しか見てない証拠である。
「おう、来たかフジワラ」
「最近見ないから母国に帰ったかと思ってましたよ」
「いたんだ!!」 ←アサヌマ
「いたんだ!?」 ←シロツメ
「もっと早く来ーい!!」 ←キムラ
来たのはフジワラ、母国は中国の福建省。もう日本語ベラベラ。しかもいらんことまで覚えていた。ちなみにミズガシの部下である。
ともかく人数が増えたのは助かった。自分達だけで見た目十人前をたいらげなければ、と思っていたところへ心強い。鍋仲間だろうが仲間由紀恵だろうがありがたい。
フジワラは上がりこんでくるとハシモトがいた席に座った。それから鍋を覗き込み、意味ありげに唸る。
「オー、この食材から見ると・・・・」
「な、やっぱりモヤシはおかしいよな?」
「そんなことないですよ。なんでナキヒトこそシメジを忘れてるんですか。頭おかしいんじゃないですか」
いきなり頭おかしい発言。アサヌマ達は声もなく唇を噛んだ。しかしやっぱりナキヒトはミズガシを斬り倒したりしなかった。
「いーや、ここはマイタケだろ。シメジなんか入れねーだろ普通。フジワラ、判定を!!」
「ワタシだったらブナですネ」
ホントにどれでもいい。今日の二人は力押しではなくて、鍋で勝負を付ける気だ。なんてややこしい。
「ワタシが見るに、今日の具にはコレですネー」
と。止める間もなくフジワラが持ってきた何かを取り出し、鍋の中にブチまけた。全員の口が「あ、」の形で緊張する。キムチ。
『あ───!!?』
次に上がったのは叫び声とゆーか、悲鳴であった。ナキヒトとミズガシの声がずば抜けて大きい。もう何が何やら、真っ赤。赤一色。何が入っていたかなんて分からない。
「お、お前、な、なんてことを」
抑揚のない口調でナキヒトが瓶を取り上げる。よっぽどショックだったのか顔色が悪い。
「せっかくキレイに並べてたのになんてことするんですかッ!!」
ミズガシも怒った。アサヌマ達はヒッと叫んで身を引く。目に見えない風がコンロの火を吹き消す。熱風だけならまだいい、地獄の炎に当てられては一溜まりもない。声もなく壁際に後ずさる。
ナキヒトがフジワラから奪い取ったキムチの瓶はすでに空っぽだった。つまり、全部、投入したとゆーことか。
しかしフジワラは悪びれた様子もなく、「まあまあ」と勇者と魔王を制する。
「豆腐にモヤシと来たらコレですヨ。ピリッと刺激を」
「ピリッとどころじゃねーよ!!」
敢えて擬音を当てはめるなら、ビリッと。舌がちぎれそうだ。ミズガシの手の中で箸が砕けた。
「どーしてくれるんですか・・・・これじゃ味も何も分かりませんよ・・・・」
「み、ミズガシさん、落ち着いて」
「ちょ、コンロ溶けてますから・・・・」
「前髪が焦げた・・・・」
一触即発、ミズガシの炎ならここで全員蒸発してもおかしくない。三人は揃って宥めに入るが、怖くて壁際から一歩も動けない。ミズガシは折れた箸をフジワラに突きつけた。
「それじゃあ、フジワラ!!あなたが責任持って全部食べたら許しましょう!!」
「あーあ。こりゃいくらなんでもムリだろ」
「ナキヒトは黙ってなさい!!こうするからには好きなんでしょう、キムチが!!」
ナキヒトを一喝し、彼はなおもフジワラに完食を強要する。暴君というか、もはや当然の報いというか。
「分かりまシタ・・・・と言いたいところですが実はワタシ、嫌いなんです」
「何がですか。マイタケがですか」
「キムチが」
『何ィ───!!?』
壁際の三人が絶叫する。そんな、ここまでしといてそれはないだろう。責任丸投げである。こんな無責任、見たことがない!
「じゃあなんで入れたんですかー!!」
「みなさんが好きそうだと思ったモノで。鍋と言えばキムチでしょう」
『偏見!!』
「ではワタシはこれで。今日からしばらくオイトマを頂きますので、魔王さんヨロシクですネー」
ハシモトに続き、風の如く去っていくフジワラ。残された全員はやり場のない憤りを背負ったまま、ポカーンと見送った。
「ま、なんだ・・・・」
静寂の中、先に口を割ったのはナキヒト。やたらと声が響いた。
「な、ナキヒトさん・・・・」
「どうするんですか、それ・・・・」
「そ、れは、いくらなんでもムチャなんでわ・・・・」
部下の嫌な予想をよそに、ナキヒトは穴あき杓子で鍋の中身をすくう。何もかも真っ赤、見分けも付かない。なんだろう、これ。自分で入れたハズの食材が分からなかった。
はーやれやれ、と溜め息を吐き、ナキヒトは自嘲めいた笑みを浮かべた。なんで負けた気になっているのか。
「しょーがねーからこれ、全部お前らで食え」
「ええええええ!!?む、ムリ!!ムリです無茶です!!」
「みっ、ミズガシさま助けて下さい!!ムリだって言って下さい!!私達がやったんじゃないんですから!」
シロツメはミズガシに助けを求める。最後は魔王に頼った。ミズガシは実にキッパリ言い切った。
「でも食材をムダにするのは惜しいですからね。食え」
が、人選を誤った。食え、ってこたーないだろ。これを。それこそ無理無駄無謀の領域である。こんな謂れのない責め苦、耐えられない。
アサヌマとシロツメとキムラは誰からともなく目を合わせた。キムラは引きつった笑みだった。
「はーい、注目ー」
「なんだ?」
「どうしたの・・・・」
「俺、いちぬけ」 バタッ。
「ばかっ、テメー!!キムラ!!都合よく気絶するなー!!」
「うわーん取り残されたー!!」
「何やってんだ、さっさと食え、片付けろ!!」
「こんな危険物、このままにしておけませんからね。さっさと片付けちゃいましょう」
「危険物処理・・・・!?」
「ヤダー!!こんなの食べられなーい!!食べたら死んじゃうって!」
部下の喧騒はさておき、しかしナキヒトは割と冷静だった。
「食っても死なねーぞ。食い物には違いないんだからな」
「そうですよね。キムチ鍋にはなっちゃいましたけど、致死量じゃないと思いますよ」
『致死量!?』
ミズガシも割と冷静だったが、言っていることが穏やかじゃない。物騒すぎる。こんなことならフジワラを待たずにおとなしく完食するべきだった・・・・
「俺は食わないからな。がんばれよ」
「私もいりませんから、どうぞ遠慮なく」
惨状とゆーか、戦場とゆーか、取り残されたアサヌマとシロツメは唾を飲み込んだ。なんだ、この人達・・・・鍋奉行は人に食わせるだけで満足する、と。それこそ責任丸投げなのでは。
税務署と鍋奉行に気を付けろ。フジワラの三番目の妻の格言を今さら思い出したが、今さらどうにもならないことを、二人はようやく悟ったが、遅かった。逃げられるワケもなかった。
で、次の日。
「もう食べられない」とベタな寝言で寝込んだアサヌマとシロツメに、ミズガシは「やっぱり致死量でしたか」と、至極テキトーなことを言っていたという。お前のせいだよ。
(2006/4/6)