樹海でバトル!! <1/2>




その日の早朝、ナキヒトはコップから直接ウーロン茶を飲みながら外を眺めていた。
外の歩道では部下二人と魔王のミズガシが集まって、何かをゴチャゴチャ話し合っている。声までは聞こえてこないが、どうせあんまり大したことじゃないだろう。その証拠に、アサヌマとシロツメは割と深刻な表情でベラベラ喋っているが、対するミズガシはどうでもいい顔をしている。
ここのところ連日、天気がいい。昨日は日当たりのいい人んちの屋根で昼寝している内に夜になってしまった。一昨日は日当たりのいい自販機の上で昼寝している内に夜になってしまった。今日は河原の土手にでも行こうかと算段しているとあくびが出た。
煙草の箱を出して一本くわえる。ライターから火を点けていると、ミズガシが振り向き、自分に気が付くのが見えた。煙を吐きながら手を挙げたところで、事件は起きた。
「あ、」 ←アサヌマ
「あ、」 ←シロツメ
「わー」 ←ミズガシ
シロツメの長い髪が突風にかき乱され、アサヌマのシャツがはためき、ミズガシが、飛んで行ってしまった。
非現実的な光景を目の当たりにして、挙げかけた手が行き場をなくす。くわえていた煙草が口から落ちた。何が。起きた。
ミズガシが風に吹かれて飛んで行ってしまったとゆーことが分かった次の瞬間、ナキヒトは椅子から立ち上がり、じわじわ染み渡ってきた異常な事態に叫んだ。
「あー!!?何事だ!?」
何事どころじゃない。店内もそう思った。お客様!?店内のBGMをかき消す大声に、店員がコーヒーのデカンタを引っ繰り返し、品物を受け取った客がトレイを引っ繰り返し、バックヤードでドーナツを揚げていた油が煮えくり返り、車道を走っていたトラックが驚いて店の自動ドアに突っ込んだ。ガシャーン!ばかやろう、どこ見てやがる!! ←店主
怒号と悲鳴が入り乱れる中、のんきに一拍遅れ、蹴り倒した椅子が床に落ちる。床付けのスツールがもぎ取られて壊れた。
この半壊した店の中では軽症の方だとか、店内に突っ込んだトラックの運転手と店主との乱闘が始まったとか、散乱したドーナツが売り物にならないとか、そういうことの前に、自分はものすごいものを見てしまった。
魔王が風にすっ飛ばされて、飛んで行った?
「これは、アリか・・・・!?」
ナシだろう。いつから世間はそういうことになったのだろうと混乱するが、たとえ世間がそういう風に当たり前になったとしても、自分の中では甚だ許容でき難い事態である。何もかもひどい有様だ。
ナキヒトはとりあえず、傍らに降り注いできた瓦礫を踏み分け、謝罪の言葉もナシに外へ飛び出した。ひどい勇者である。


今の今から、一時間ほど前のこと。


「はい、それじゃ息吸ってー、止めて。はいお疲れさまー」
「どうも」
ミズガシは分厚い扉を押し開け、外のベンチに座る。しばらく待っていると別の扉から白衣の男が出てきた。手にしていた大きな茶封筒を渡して寄越す。
「できましたよ。コレ持って診察室に行って下さいね」
「どうでした?」
「いやー、相変わらず異常なしです。たまには悪いとこの一つも見付けたいところなんですが、ここまで健康だとレントゲン技師として物悲しいです・・・・エコー検査の技師も毎年泣き寝入りしています」
「恐ろしいことを言わんで下さい」
今まさに病院にいたミズガシはゾッとした。自分は何を望まれている?
人間の身ではあるが、元々は地獄の住人である。魔王の魂が人間に生まれ変わったミズガシは正しく言えば人間ではない。具体的に言うと、ビルの五十階から落ちても死なない。ちょっと骨がいかれるくらい。人はそれを人間と呼ばない。
根源の魂が砕かれない限り、記憶と経歴を継続したまま何度でも生まれ変わる。過度な外傷は肉体を壊すが魔王の魂までには及ばない。そしてまた別人として生を受ける。それが果たして生きている者と呼ぶのか、そう呼ぶのが正しいかも知らないが、ともかくミズガシは何度も勇者と争い、魂が死ぬ前に体が滅ぼされる感覚を何度も味わってきた。
その感覚がどんなものか、人も医者も神も知るところではなかった。死んだと思って目が覚めれば、別人の体に乗って道を歩いている。最初に思い出すのは、今自分がどこに何の用事に向かっているのかではなく、最後に見た勇者の一閃である。そこで初めて自分がミズガシと言う名の魔王だと納得がいく。
その感覚、敢えて表現の仕様もなかった。実に曖昧で夢のような現実は、自分にとってはまさしく実感するところであって、その実感を知らない他人に言葉で伝えることは簡単ではあるが、相手は頷くも心の底からは分からないだろう。死んだところで一生分からないだろう。死に方が違うのだ。
この筆舌し難い繰り返しを自分以外に理解し得る者はナキヒトしかいない。魔王を殺し、時には殺される勇者、立つ側はまるで違うが身上を同じくする。
今の体が何度目かの人生などとは数えたこともないが、魂だけが存続し続け、膨大な生の積み重ねを一身に集積する。人が一度リセットするはずの積み重ねを持ち続けることは、果たして幸か愚行か。
何度目かが人の何十倍ものであれば、蓄え続けた情報量はいずれ自分の許容を超えるのだろうか。いくら肉体が頑丈でも、その中身はどうだろうか。中身とは頭を指すのか心を指すのか。
なぜミズガシが病院に来ているのかと言えば、病気でもケガでもなく。年に一度の定期健診だった。誰に決められているワケでもなく義務でもない。

ことの経緯。

何年か前、ミスドでナキヒトとだべっている時によそ見運転のトラックが店内に突っ込んで来て、いい当たりをもらった二人だが、特に死ぬこともなく何もなかったワケだが、駆けつけた救急隊員にはそれこそ大事だった。
なんで大型4トン車に突っ込まれて掠り傷で済んでいるのか、もうおれたちがテンション上げて頑張って駆けつけた意味が分からない!!存在意義を否定されたも同然だ!おれもうこんなやりがいのない仕事辞めてやる!!そんなこと言うなよ藤田、おれまで悲しくなってきて、うっ・・・・!!そんなことねえよ藤田、元気出せよ。 ←ナキヒト
終いには突っ込んできた運転手も泣き崩れたので、そっちの方が百倍大変だった。どうして被害者の自分達がレスキュー隊や加害者を慰めないといけないんだろうと思った。
他の客や店員は咄嗟に逃げたり全然別のテーブルにいたので全員無事で、その大勢の中でヒットを食らったのがナキヒトとミズガシだけとゆー当たり所の良さ。いや、悪さ。狙い済ましたかのような周到加減である。
せめて病院まで搬送させて下さい、こんなの有り得ません。もしかしたら家に帰って翌日死んでるなんてこともあります、検査だけでもさせて下さい。と縁起でもないことを言って泣き付く救急隊員に「それくらいなら・・・・」とウッカリ承諾してしまった二人だが、検査されてもやっぱりなんともなかった。骨も肉も内臓も頭も無事だった。それがおおごとだった。
急患だって言うからテンション上げて非番から駆けつけたのに、何も異常がないなんてあんまりだ!!こんなひどい仕事辞めてやる!そんなこと言うなよ平田、おれだって彼女とのデートすっぽかして駆けつけたのに、明日には別れ話だ・・・・!!そんなことねえよ、話せば分かる。 ←ナキヒト
挙げ句の果てには医者まで絶望したので、こっちの方がさらに大変だった。医者にさじを投げられた。なんでムリヤリ病院に連れて来られて勝手に泣かれるんだろうと思った。こっちが泣きたい。
それから以後、二人の生態に疑念と恐怖と興味と研究意欲をかき立てられた医者達が立ち上がった!
勇者と魔王の不思議を解明してやるぜ!でも分からない、どうしてこの人達は五十階から落ちても死なないんだ!?もうこんな不毛な研究やめてやる!バシン!!(←さじを投げた音)そんなこと言うなよ原口、俺なんかこのために一週間も家に帰ってないんだぞ・・・・!!早く帰りなさいよ。←ミズガシ

こういう経緯で、せめて年に一度の定期健診を受けて下さいと泣き付かれた。
もちろん義務でもなければ誰に強制されているワケでもない。頼まれたあの時に、診療室の隅に追い詰められてゴリ押しされたナキヒトがそれくらいなら・・・・と逃げ腰で頷いてしまったのが発端だった。
一度承諾してしまったものはしょうがない。口先だけでも約束は約束、むげにすっぽかすのも気が引ける。
前に一度、すっかり忘れていた時は、白衣の集団に富士山麓の樹海で追い詰められた。人気のないところなら被害も出ないだろうと選んだ場所だったが、白衣の集団は現れた。
何故ここにいることが分かったのか、ナキヒトとミズガシは逃げ腰で樹海のど真ん中で心の底から引いた。一カ月がかりの捜索の末、医者の集団はやっと辿り着いたらしい。その情熱を今後の医療発展に役立ててほしいと思う。
勇者対魔王の戦いに乱入した医者×10は、誰もかれも目が血走っていた。一ヶ月の間にいろんなことがあって、最初二十人いたメンバーは半数に減り、体は一回り大きくたくましくなっていた。その根性で今後の過酷な労働条件を乗り越えてほしいと思った。
医者の出で立ちは尋常でなかった。荒縄を持ったり麻酔を持ったりハサミを構えていた。ナキヒトとミズガシは頷き合った。やらなければやられる。今世紀初、勇者と魔王が休戦協定を結んだ瞬間であった。歴史的瞬間。
勇者と魔王vs狂った白衣集団のバトルは激闘を極めた。
噴火で隆起した足場の悪い岩場が吹っ飛び(ナキヒト)、医者が三人重傷を負った。鬱蒼と茂った潅木が焼き払われて(ミズガシ)、他の三人が重症を負った。火事に巻き込まれ、今まさにオレ首吊ります!吊ります!!と差し迫った自殺願望者の三人が諸手を挙げて樹海から飛び出して行った。見たこともないスピードだった。ここにいたら死ぬ。結果オーライでも本末転倒でもある。
難を逃れた残りの医者四人が、仲間の犠牲はムダにしない!と決死の覚悟でナキヒトとミズガシをとっ捕まえたのは、宣戦から半日後のことだった。樹海の半分は死の森と化した。
そして二人は三日がかりでいつもの病院に搬送された。貨物列車に監禁されて。病院に着いた時、誰も彼もズタボロで、「ふざけんなコラァ!!」 医者の内二人はミズガシに殴られて全治一ヶ月の大怪我を負っていた。普段は温厚な魔王もキレる泥沼であった。
それから後、白衣の集団に取り囲まれる悪夢にうなされた二人は、これからはおとしなく自主的に病院に行こう、ということで合意した。義務でもなく強制でもなく、自主的に。でなければ悪夢が再来する。

今年も人間ドック並の検診を受けたミズガシは、ヘトヘトになって病院から出てきた。一泊二日で、そして今朝。
二日目の今日、早朝に内視鏡を飲まされて、レントゲンを撮って、病院食でもいかがですかと勧められたが丁重に断って逃げてきた。こんな疲れる仕事は年に一回でも断りたい。十年に一回でもご免だ。
「あら、ミズガシさま?」
午前八時半、通勤ラッシュの人混みを逆走していくミズガシにのんきな声がかかる。
「こんな早くからどーしたんですか~」
「シロツメ・・・・おはようございます・・・・」
振り返ると、歩道の脇でシロツメが手を挙げている。答えた声に元気がないことは自分でも分かった。
「おはよーございます。で、どうしたんですか?なんだか疲れてるみたいですけど」
「分かりますか・・・・」
体より神経が疲れた。別に病気でもないのに、こんなにも疲弊しているのはおかしい。
反対にシロツメと言えば、いつもの明るい笑顔で駆け寄ってくる。手にいつもの大鎌を持っていなければパーフェクトだった。道行くリーマン達がのけぞって回避する。朝から怖いものを見せ付けられる恐怖。
「大丈夫、じゃないですよね・・・・何かあったんですか?顔色が悪いですよ」
「いえ、大丈夫です。ちょっと、いろいろあっただけです・・・・」
「ちょっとどころじゃない顔色ですよ!昨日からお顔を見ないもので、心配してたんですよ~」
「すいませんね。シロツメこそ、一人で」
「おーい、シロツメ!」
何をしてるんですか?尋ね返そうとしたところで、また別の声が聞こえてくる。向こうから車道を渡ってくるアサヌマが見えた。赤信号の合間を縫って駆け寄ってきた。
アサヌマは二人のところまで来ると、怪訝な表情でミズガシを見た。
「あ、おはようございます。その顔、どうしたんですか・・・・」
「私の顔色はいいんです。大丈夫ですから」
「いや、ここにバリウム付いてますよ・・・・」
「これは失敬」
そう言えばバリウム検査もやった。アサヌマに頬を指されて袖でこする。こっちの方がよっぽど恥ずかしい。
「そう言えば、ナキヒトはどうしたんですか?」
バリウムはともかく、シロツメもアサヌマも一人で歩いていたとは珍しい。いつもはナキヒトと一緒にいるハズだが、その主人の姿はない。シロツメはハッと気が付いたように答える。
「そーでした!!今まさにナキヒトさまを探してるところなんですよ~」
「ミズガシさん、見ませんでしたか?一昨日から見ないんです。おかしいなー」
「私も昨日から出かけてましたから・・・・どこかに遊びに行ってるんじゃないですかね。屋根の上は探しましたか?公園のベンチは探しましたか?土手は探しましたか?どこかで寝てるんじゃないですか」
「そんな取説のトラブルシューティングみたく言わなくても・・・・」
アサヌマはとりあえず上司の名誉のために言い訳した。実際、天気のいい日ナキヒトはいろんなところで寝ている。日当たりのいいところなら自販機の上でも寝ている。場所を選ばぬ強気である。
三人はとりあえず空を見上げた。今日の天気はくもり、冷たい風。のち雨の予報。三人は顔を見合わせて、頷いた。
「室内だ!!そこだ!」
「屋内ですよ!今日のナキヒトさまは、屋内にいる!!」
「インドアですね」
合点がいった。外を探していても見付からない。ならば屋根の下にいる。虫や猫と同じ生態だと思われる。
その時、静かに吹いていた風が急に強さを増した。シロツメは眉をひそめて風上を見る。
「それにしても、今日は風が強いですね・・・・前髪が~」
季節柄、台風が来てもおかしくない。嵐にも似た暴風が吹き付けてくる。前髪のみならず時折、体をもぎ取られるような突風に、アサヌマもシャツの前をかき合わせながら言う。
「今日は暴風注意報が出てるからな。あ、傘が飛んでった」
「看板も飛んでる~」
「いろんな物が飛んでいきますね」
三人の視線が追う先、ちょっと目も当てられないような髪形をした中年男性が 「なんてことだ、騙された!!風速三十メートルにも耐えるんじゃなかったのか!?」 頭皮付きのかっこいい髪型を追いかけていた。確かに彼は騙されたかもしれないが、今はそっとしておいた方がいい。
「こんな天気なら、ナキヒトさんも遠くに行ってないと思うけど、どこに行ったんだ?」
心配している様子ではないが、呆れた顔で呟くアサヌマ。滅多なことでは心配に値する人物ではない。
「案外アッサリ近くにいたりしてね」
「だったらいいんだけど」
「急な用事なんですか?」
「そんなことはないんですけど、ナキヒトさんを探してる人がいるんですよね」
「あなた達の他に?はー、そりゃ珍しいことで」
誰かいただろうかと考えたが、ミズガシに思い当たる節はなかった。シロツメが補足する。
「それがですね、一昨日のことなんですけど、知らない男の人がナキヒトさまの居場所を知らないかって訊いてきたんですよ。で、私達がナキヒトさまを探しに行ったら・・・・」
「見付からないんですね。誰だったんですか?」
「さあ・・・・アサヌマ、知ってる?」
「オレだって知らないって言っただろ。人のハナシ聞いてろよ」
「そうだっけ。で、どんな人で何の用事だっけ?」
「人のハナシ聞いてろよ!!見てろよ!」
すでに忘れているシロツメ。最後は辛うじてナキヒトを探すという心当たりだけ残ったらしい。アサヌマはひとしきり怒ったあと、胸ポケットから何か取り出してくる。
「その人、ナキヒトさんを呼んでくれつって・・・・」
と、ミズガシはアサヌマの肩越しに後ろの軒先を見た。道に面してガラス張りになっている店がある。店内の人気はまばらだが、コーヒーやモーニングセットを頼んでいる客が数人。
その窓際、ミスドのカウンターに座るナキヒトと目が合った。トレイにウーロン茶だけを乗せ、傍に付いた肘にアゴを預けてこっちを見ている。あっちは何やってんだ?と、なんでもない風に眺めていた。いた。
ミズガシはアサヌマとシロツメを振り返り、店の方を指差して促す。
「いましたよ。ナ、」 ビュー。
キヒト。と続けようとしたミズガシの言葉が切れる。二人は続きの声を聞くことができなかったのは、強い突風が吹き付けたからではなかった。
「あ、」 ←アサヌマ
「あ、」 ←シロツメ
「わー」 ←ミズガシ
ミズガシが吹っ飛んだ。突風に煽られて飛んで行ってしまった。ものすごい絵ヅラではあるが、現実には相違なかった。
シロツメは前髪が乱れるのも構わず、ポカンと口を開けたままその現実を見送る。アサヌマは胸ポケットから取り出した手をそのまままま、ナキヒトは挙げかけていた手をさわよわせ、くわえていた煙草が落ちた。
「あー!!?何事だ!?」 ←ナキヒト
魔王が突風にかっさらわれた。非現実的な絵ヅラを目の当たりにし、ようやく我に返るナキヒト。
店内のBGMをかき消す大声に、店員がコーヒーのデカンタを引っ繰り返し、品物を受け取った客がトレイを引っ繰り返し、バックヤードでドーナツを揚げていた油が煮えくり返り、車道を走っていたトラックが驚いて店の自動ドアに突っ込んだ。ガシャーン!ばかやろう、どこ見てやがる!! ←店主
「あー!!ミズガシさまが風に乗って!?」
「何故に!?わ、ま、ともかく追っ掛けよう!!ミズガシさんーん!」
どこ見てるバカヤロウで済むハナシではないが、事態を目の前で目撃した二人に取ってはこっちの方が百倍大変だった。店の方は半壊、ナキヒトは今度こそ運よく直撃を免れていたが、なんとも言えない顔で窓の外を凝視する。
当の二人は慌てて風下に向かって走るが、もうミズガシの姿は見えなくなっていた。どんだけすごい突風だったのか。
確かにすごい風だったが、人一人さらっていく風ではなかった。そもそも人は風で吹っ飛ばされるほど軽くない。せいぜい転倒するのが関の山、しかしミズガシは百段階くらいすっ飛ばしての荒ワザを実践して見せた。魔王だからとかそんな問題じゃない。魔王そんなに軽くない。
「なんだ、事件か!?」
「あ、ナキヒトさま~!!ミズガシさまが風に乗って行っちゃいました~」
「だからなんでそんなメルヘン風に言う!!メアリーポピンズか!」
「お前ら、落ち着け」
かつて店であった瓦礫をかき分けてナキヒトが飛び出してきた。メルヘン風に言うシロツメをアサヌマが押し留め、それをナキヒトが宥める。二人共一杯いっぱいだ。
「な、なんかミズガシさんがですね、ともかく飛んで行っちゃったんですけど・・・・!!」
「見てたが、なんでだ。どーゆーこった」
ナキヒトも風下を振り返るが、やはりミズガシの姿は跡形もなくすっ飛んで、見えなくなっていた。
倒すべき魔王がいなくなったのは喜ばしいと思うも、自分の手で下した手柄でない限り、こっちも勇者として後味が悪い。不戦勝では始末が付いていない。そもそも何も片付いていない。
「お前らここで待ってろ。ちょっくら見てくる」
「私も行きますよ~!空から探した方が早いです~」
「あ、ナキヒトさん、これを!!」
「ん?」
走り出そうとしたところでアサヌマに何か渡される。メモのようだが中身まで読んでいるヒマはない。とりあえず受け取って、再び走り出した・・・・





(2006/12/15)


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