捕り物劇でバトル!!
「連続強盗事件、ですって?」
「正確には、もどき、ですな」
一軒家の座敷に通され、座卓を挟んで向かい合う。怪訝な顔で聞き返すミズガシに、家主の町内会長が頷きながらも訂正を加える。
机上に広げられた地図を覗き込むミズガシの隣りでは、ナキヒトが気のなさそうな顔で座る。今日は何故だか、町内会長の自宅に招かれ、不思議な相談事を受けていた。
地図は全市を示し、所々に赤い丸が書き込まれている。会長は赤いサインペンで丸を指し示す。
「ここが被害に遭った家。昨日までに五軒、団地が三部屋、アパートが五部屋。全部で十三件の被害が報告されたようです」
「十三件!?警察に届けましょうよ、それ。大変じゃないですか」
連日に渡り、朝刊の見出しを賑やかす事件。ここで初めて正確な件数を初めて知った。テレビやラジオでは 「強盗」 と報じるが、大きな食い違いがある。
情報の食い違いについて。世間の報道と会長の発言、どうやら違う。その辺を弁え、ミズガシは控え目に問い返した。
「で、もどき、というのは・・・・」
「実を言うと、盗られた物は何もないんですよ」
「は?」
強盗と前述しておきながら話が違う。ミズガシはさらに問い返す。不思議な話。だから、もどき?
もしかして未遂なのか。ミズガシは最大限に想像力を働かせた。住人が力尽くで撃退したのか。自己防衛が強固過ぎるだろう。平和過ぎるだろう。
会長はペンを机に置き、難しい顔でフーッと溜め息を吐く。ナキヒトはお茶請けの豆しとがきを齧っている。
「犯行を見て端的に強盗と述べたが、実はそうではなく。まったく違うようです」
「つまり、仰る意味が」
「物を盗らず、物を置いていくんですよ」
「はあ?」
「こう、物を置いて・・・・」
「いや、ジェスチャーで仰られても・・・・」
やおら立ち上がりボディランゲージで状況説明を始める会長、やんわり制するミズガシ。ナキヒトは勝手に急須でお茶のお代わりを淹れている。自分の家?ここ、ナキヒトの家?
もどき、と称する意味は把握できた。強盗もどきを呼ぶならば不法侵入者、もしくは不審者、辿り着く先は変質者である。
いろんな名称は存在するだろうが、どう頑張っても変質者の域を出ないし、入り込んだ部屋が思春期最盛期を迎えた少女の聖域であったならば万死に値する。八つ裂きどころか十六裂きにされても情状酌量の余地はない。キャー!(少女の悲鳴) 誰だゴラァアー!!(鈍器を持った父親の登場) キャー!!(不審者の悲鳴) お父さん勝手に入らないでよ!(多感な年頃の主張)
目に浮かぶ想像はさておき一方、まったく状況が掴めない。なぜか物を置いていく犯人の心境も定かでない。ミズガシは無言でナキヒトを引きずり戻し、差し向かいの会長に詳細を求めた。
「お話の続きを・・・・てゆかナキヒト、あなたの町のことなんですよ?」
「住所的な意味でな」
「だったら話を聞きなさい。なんで他人事なんですか」
「俺は被害に遭ってねーよ」
「そうですけどね。私も被害に遭ってないですけどね」
「強盗もどきであって、強盗じゃない。人の家に忍び込んで、何か物を置いていくんだろ?害はないと思うけどな。なんの罪に当たるんだ?」
「まあ、不法侵入とか、不法投棄ですかね。不法投棄は怪しいですが」
「なるほど」
半分ほど納得した顔で頷く。ナキヒトの家に忍び込む強盗もいないだろうが、いたとしたら剛の者だ。もはやファンタジーの世界に生息するモンスターかなんかだろう。
非現実的な生物を真に受けて恐れる心がないので、ナキヒトはいまいち危機感が足りていない。相談を持ちかけた会長も立つ瀬がない。ミズガシは溜め息を吐いた。
「もしもですよ。深夜ふと目が覚めたら、枕元に人が立っていたら・・・・私が無表情で立っていたらどうするんですか?」
「通報するわ!!そんで手近な鈍器で殴りかかるぞ」
ナキヒトの布団の近くにある鈍器 : 目覚まし時計、ガラス製の灰皿。
「ほら!そのくらいびっくりするんですよ、一般の人は。その気持ち分かりましたか?」
「そんでお前は俺の枕元に立って何する気?」
早起きを促す。(模範的な解答)
ナキヒトの疑問はさておき、ミズガシは会長に向き直る。会長は相変わらず難しい顔で腕組みをしている。
「ともかく危険な人物ですね。不法侵入の挙げ句、物を取らず逆に置いていくとは、不可解すぎやしませんか?それにニュースでは強盗と言い切っていますね」
「確かに不思議な怪人物。犯行内容もまさに不可解なため、新聞やテレビでは端的に強盗と言い切るしかないようです。被害に遭った住民が被害届けを出すかどうか迷っている点も踏まえ、警察は本格的に動いていません。動けないと言いますか。まあ、報道の自由と言うヤツですな・・・・」
「はあ・・・・」
報道だけが先走っているだけに、実際は 「強盗もどき」 止まりらしい。正確には不審者の不法侵入か。
「住民に危害は加えられていないものの、町内外では不安が急上昇中ですな。侵入経路も謎、犯人は証拠も残さず、何しろ警察が到着する前に素早く逃げるもんですから、捕まえようがないんです」
「褒めるつもりは毛頭もありませんが、いやにスピーディな犯行ですね」
「ヒット&アウェイ・・・・まさに神速の極みです。神出鬼没とはまさに今の事件。そこで、ぜひともお願いがあるのです」
深く頭を下げられ、ミズガシとナキヒトは顔を見合わせた。後者がいち早く釘を刺す。
「俺らは人間の揉め事に介入できんぜ」
寄る辺もなく断る。ナキヒトも難しい顔で首を横に振る。
「犯人を捕まえてくれってハナシなら、どんな理由があろうと駄目だ」
「私もナキヒトと同じ意見です。被害状況には同情しますが、私達が手を貸すことはできません。やはり警察に任せるべきでは・・・・」
「もちろん分かっています。捕まえてくれなどとお頼みできる理由がありません」
会長はきっぱりと宣言する。ならばなぜ二人を自宅に招いたのか。それこそ不可思議、二人は再び顔を見合わせた。
「お願いしたいことは、犯人への牽制です」
言葉少なに提案された意味を咀嚼してみれば、大して難しい内容ではない。
「つまり見回りをしろと?ミズガシ、どう思う」
「直接手を出さなくても、犯罪への抑止力に繋がるなら構わないんじゃないですか?もしも犯人を見付けたらすぐに通報すれば大丈夫ですよ」
「まあ、そこからはもちろん警察の仕事だな」
「私達が深夜に町内をウロつくことで平和を取り戻せるならお安い御用ですよ」
「深夜にウロつくって、相当人聞き悪ィーな。不良かよ」
ナキヒトはちょっと想像してみた。深夜、町内及び市内をウロウロする勇者と魔王。
セット行動は大して珍しくはないが、存在感と迫力だけなら抜群。しかし明確な目的もなく徘徊する様が不気味すぎる。通りがかりの門扉で飼い犬に吠えられてもおかしくはない。
日付けが変わったら普通に家に帰って寝るし。必要以外の残業は御免被る。お給料も出ませんし。一応のところ、ナキヒトは会長に尋ねた。
「会長、それって報酬はあるのか?」
ミズガシが頭を叩こうとした時、会長は机の下から何か取り出してきた。古いアルバムらしき冊子。中身をチラッと開いてみせる。ナキヒトも反応を見せた。
「ヘッドロココのキラカード、どうかね・・・・」
「マジかよ!!それはもちろん最終形態だよな・・・・?」
「もちろんだ。元は息子の持ち物だが、処分は私に任されている。犯人を見付けた暁には、スーパーデビル初版のキラカードもセットで出そうじゃないか。というか、これを全部あげよう」
「袋小路に追い詰めてやるぜ!!」
「世間は今や森羅万象カードですよ」
盛り上がる二人に対し、ミズガシは冷めた口調で水を差す。話題の最盛期が昭和で止まっている二人には聞こえない。
ちなみに当代ナキヒトと同じくミズガシの生まれは平成元号。
「よし、強盗もどきを追い詰めて通報してやろうぜ。それだけでキラカードが手に入るならお安い御用だ、深夜の公道をウロついてやろうぜ」
キラカードと聞いたら黙っちゃいられない。報酬のレア性に心を奪われたナキヒト。力強くこぶしを握る。
「私はキラカード要らないんですけど」
「絶対お前もテンション上がるって。そもそも森羅芭蕉ってなんだよ」
「芭蕉!?私が知りたいですよ!!」
森羅芭蕉 : 世界のすべてが芭蕉で満たされている様。もしくは俳人の最盛期を指す。
「ナキヒトの造語ですけど」
注釈に対し、ミズガシの補足。店頭では取り扱っておりません。
自分のカタナを取り上げて息巻くナキヒト、自衛のために鈍器を持ち歩くべきか考えるミズガシ。鈍器の用途は、犯人を見付けたナキヒトが斬りかかる前に打ちのめすため。
ちなみに勇者はナキヒトの方である。人間代表の勇者が、犯罪者と言えども人間相手に危害を加えてはいけない。それを止めるのが魔王ミズガシというのも、いただけない。いただけないが、鉄筋コンクリートか何かで殴り返さないとナキヒトは止められない。
ないない尽くしの状況だが、この際道具も手段も選んでいる場合ではない。ミズガシはナキヒトに提案した。
「鉄パイプか何かで殴れば大丈夫ですよね?」
「犯人を?もしくは俺を?」
「大丈夫な方を取捨選択して下さい」
「俺かよ!!」
魔王に鉄パイプで殴られて平気な人と言ったら、この世で勇者しかいない。逸材と称するしかない。そんで、なんで自分が殴られる必要があるんだろうか。ナキヒトは純粋に悩んだ。一応危険性だけは伝えておく。
「俺でも死ぬわ」
「じゃあ素手で殴れって言うんですか?私の手が痛いじゃないですか」
「まずは俺を鈍器で殴打しない道を模索しようぜ。会長もなんか言ってくれよ」
「おっと、重要なことを忘れていた。犯人を割り出す手掛かりを思い出した」
膝を打つ会長。犯人の割り出しより鈍器に狙われる自分のことを思いやってほしい。何もしてないのに魔王に討伐されてしまう。
しかし手掛かりと聞いたら黙っちゃいられない。二人は机越しに身を乗り出す。
「手掛かりってなんだ!」
「手掛かりってなんですか!」
一気に一辺に二人分の体重を受けた机が斜めに傾いだ。会長も負けじと反対側を押さえ込む。室内で物理的なシーソーゲーム。二対一でもまったく引けを取らぬ攻防。
「まあ落ち着いて、おち、落ち着け!!」
両側でギッコンバッタンやってる内に、机上のお茶やお菓子や地図はすべて床に振るい落とされた。会長の奥さんが見たら激怒する。ホウキで叩かれるだろう。
会長の一喝、バーン!と机をこぶしで叩き、机を掴むナキヒトとミズガシの手を振り払う。机上一掃セール。
さすがに黙らざるを得ない。言われた通りに落ち着いて座り直すと、会長はようやく手掛かりを告げた。
「犯行の前後、バイクのエンジン音が聞こえるそうな」
ナキヒトは座布団の傍らからカタナを取り上げ、相談の場を辞する。ミズガシも立ち上がった。
「会長さん大丈夫です。私たちに任せて下さい。この一件に関して、ご心配めされることはありません」
「なんと。なんと?まさか犯人の見当がついたとでも?」
「まあ、会長。待ちな」
続いて立ち上がろうとする会長を手で制し、ナキヒトが発した声は口調とは裏腹に硬く、事務的な質を帯びていた。
「知り合いにそういうヤツがいる」
(2013.8.19)
