捕り物劇でバトル!! 2
同じ日の夜。
「いやー、かなりお待たせ。急な呼び出しにも関わらず快く参上する俺、登場!」
参上と登場、同じだろう。重複した物言いで現れた若い男。
ナキヒトとミズガシは冷たい目で出迎える。両者の間にある気持ちの落差が激しい。
外気温よりも冷たい視線を受け、男はたじろいだ。逃げられそうな雰囲気を察したナキヒトは立ち上がり、乱暴な所作で向かいの椅子を引いて差し上げた。
「まあ座れよ、ここに。そんで俺達と大事な話をしようぜ」
「どう見ても話し合いのテーブルじゃないと思うんだけど」
二十四時間営業のファミレスにて。
四人掛けのテーブル(喫煙席)の真ん中にはナキヒトのカタナが存在感ありありで置かれている。時と場合と話し合いの方向性によっては刃傷沙汰も辞さない構え。
他の席はまばらに人が座るが、勇者と魔王が発する負の気配を察し、空気を読んでむやみに立ち入らない。店員もお冷を運んだっきり近寄らない。一言で言うと、怖い。
ただならぬ様子の勇者と魔王。男はわけが分からず、とりあえず強制的に勧められた椅子に座った。差し向かいの二人を見詰め、努めて冷静な口調で尋ねた。
「何か、事件でも?」
目の前のナキヒトは腕組みをしたまま口を開かない。隣りに座るミズガシに視線を移す。押し付けられたミズガシは大きな溜め息を吐き、ようやく口上を述べた。
「お忙しいところ申し訳ありません。事件と言うか、未遂事件です」
「未遂?あっ、そう!未遂なら俺の仕業じゃないから安心していいよな。その前に事件も起こしてネーヨ。あーよかった。確かに今まさにこの瞬間マジで忙しいんで、率直に言ってくれ」
「お前が犯人だろうが!!」
その直後、バーン!と机を叩いて怒鳴られた。怒鳴ったのはナキヒトの方。男は椅子から三センチくらい飛び上がった。
「犯人!?何の!?」
「家屋不法侵入に加えて不法投棄に不法侵入!!オイあとなんだっけ!?」
「ナキヒト、重複してますよ!あっすいませーん!この人にスペシャル弩級パフェお願いします!」
ミズガシが早押しの要領で呼び出しピンポンを叩く。ちょっと黙っていろという意味で。
「お待たせしました!本日の気まぐれスペシャルサンダー弩級パルフェ・改です!」
魔王からの注文により、即座に運ばれてきた弩級パフェ(全長55センチ)がテーブルを揺らした。バイトのウェイトレスの細腕から繰り出されるガラスの器、盛られた重量級、アイスクリームと生クリームの山岳、霊峰の頂を模倣したと称される。器の縁を飛び越えてそそり立つ。全身全霊で以て重力に抗う逆徒の如きバランス感覚。全体図はご想像にお任せします。
これを目の当たりにしたナキヒト、専用弩級スプーン(全長30センチ)を構えたまま動かなくなってしまった。
この化け物パフェを相手に、どこから手を付けるべきか。ヤマアラシの針の如く無数に突き立つポッキーの群れ、どう対応するべきか。
「気まぐれってレベルじゃねえぞ。腹冷えるわァ・・・・」
「気にしない気にしない。勇者の胃は丈夫ですから」
「俺の胃、見たことあんのか?」
「ハイハイ、ありますよ」
おざなりなコメントを投げかけてから、ミズガシは男に向き直る。男は弩級パフェを見やり、寒そうにファー付きの襟元をかき寄せている。
「見てるだけで凍え死にそうなんだけど。それ一人前?パーティーサイズ?俺はパーティーに呼ばれたのか?」
「あなたが寒いわけないでしょうが。そうでしょうが、極北の若君」
演技がかった仕草を咎め、冷たい口調で指す。男は真面目な表情で肩を竦めた。魔王に対する慇懃無礼な敬意を表する。
「あいにく俺は伯母さんの直系じゃねえ。正しく呼ばわってもらいたいもんだな」
「それは失礼しました、二代目」
ミズガシはわざとらしさを強調しながら丁寧に呼びかけた。男は異論がないといった風に、また肩を竦めて見せた。
十二月のこの時期、世界中で一番忙しい稼業を務める人物。父親は通称サンタクロースと呼ばれたオッサン、母親は専業主婦のお袋さん、家には犬が二匹いる。
「おう、セドリックよ。何様のつもりだ」
ガチャンとスプーンを鳴らし注目を引く。ナキヒトは白い息と共に男の名を吐きながら会話に割り込む。
「稼業とは言え、常識とルールってもんがあるだろうが」
険しい顔で凄まれ、セドリックは面食らう。
「ちょっと待てよ、ナキヒト・・・・。お前達が何を言いたいのか全部分からんのだ。ミズガシ、どうなってんだ」
「ちょっと、ナキヒト。これ全部一人で食べたんですか。激ヤバですね」
「ちょっとォ!!俺の話ィ!!」
空の器を見て眉をひそめているミズガシ。勇者の早食いに対する魔王の憂い。完全にセドリックより話題をさらっている。店内の客がオオ、とざわめく。さすが勇者。
話題をあちこちに飛ばさないでもらいたい。業を煮やしたセドリックはバン!とテーブルを叩く。
「で、俺に対する容疑は!?」
「ああ、忘れとった」
言うなり机上のカタナを手に抜き、切っ先はセドリックの鼻に突き付けられた。ナキヒトは無感動な口調でに宣告する。
「とある町内で不法侵入を繰り返してる不審者がいる。てゆか、そんな真似ができるのはお前だけだ。従って犯人はセドリック、お前だ」
「はあ、さて?知らん!!もっと詳しく!」
「家庭用の警備システムに引っ掛からずに侵入できるのはあなたしかいない、ってことですよ」
「まあ、俺ならば・・・・」
口調は弱々しいが、完璧な断言を匂わす。
家庭用のみならず、あらゆる感知器を素通りし、隣り近所で評判の獰猛な番犬さえも屈服する。猫は見て見ぬふりをする。野良犬には噛まれるが。
もちろんミズガシの言い分に間違いはないが、この自分に限って、不法侵入として咎められた犯歴はない。その行為を裁く法もなく、超法規的措置に当たる。世界でただ一人、セドリックにだけ認められた権利である。
当惑するセドリックに、ミズガシは難しい顔でなおも言い募る。
「時期が時期だけに」
今日の日付け、十二月の二十二日。もうすぐ日を跨ぐ時刻に差し迫っている。クリスマスは間近に迫る。
「そういうことで、私達はあなたを疑っているんです。お分かりですか?」
「お分かりも何も、かもしれない可能性で疑われても身に覚えがない」
「自分でやったことを覚えていないと言い張るのは自由だ、よくあることだ。今ならいい医者を紹介するぜ」
「ネーヨ!!しかも病気じゃねーよ!」
ナキヒトに刃物を突きつけられたまま怒鳴り返す。疾患を疑われるなら虚偽申し立ての方がまだマシだ。
混線する話は通じた。不法侵入の犯人に仕立て上げられているのだ。セドリックは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「俺じゃねー!!マジで!」
「かわいそうに。自分の所業を覚えていないとはな。自首を勧める」
「バカ!ナキヒト!」
「まあまあ、落ち着いて」 ガシャン!!ゴン!!
唾を飛ばしてナキヒトに掴みかかる。テーブルを挟んでの小競り合い、ミズガシが諌める。空の器でセドリックを叩き、プラスチックの灰皿でナキヒトを殴る。
「周りに迷惑ですから静かにしましょう。ね!」
強制的に沈黙を強いられた二人は頭を抱えて突っ伏す。魔王による一撃二劇。
事情聴取をまとめ、ミズガシは考えた。
家人に気付かれずに侵入を果たし、物を置いていく。しかし否定するセドリックの仕業ではない。と、すれば・・・・。
「別の人物の犯行ですね」
あっさり推測を翻す。疑いを掛けられたセドリックはガバッと起き上がり、バン!と机上を叩いた。
「ほら見ろ!見たことか!」
「すみません、私達の早とちりでした」
「俺はまだ準備段階だっつーの。お忙しいところ呼び出しておいて、何?その態度。まずは地べたに頭こすり付けて謝ってもらおうか。いわゆる土下座ってヤツさ・・・・」
「え?俺、生まれてこの方そういった経験やノウハウがないもんだから、まずは見本を見せてもらおうか」
「物知らずだなお前は!こうやるんだよ!」
「おいミズガシ、見ろよ。あれが土下座ってヤツらしいぞ」
「ちょっと、笑っちゃ悪いですよ」
ゲラゲラ笑っている二人に気付き、ファミレスの床で己の頭頂部を晒していたセドリックは我に返る。
「めっちゃ本気で見本を見せたというのに悪意の仕打ち!!俺の心が折れるぞ!」
「いやいや、恥じるなよ、むしろ誇っていいと思うぞ。なかなか堂に入る土下座だった。どこで習得してきたんだ?」
「なめんなよテメエ!!家で一日一回はやってるわ!」
笑いを堪えて、堪えきれないナキヒト。セドリックのキレ気味な返答に、とうとう爆笑。家庭内で一日いち土下座、て。どんな家庭環境なのか気になる。
ザ・ドゲザのプロは虚ろな視線を実家の方へ飛ばし、指折り数えた。
「まずは寝坊で怒鳴られて、昼前に昼寝して怒鳴られて、夕方はさっさと犬の散歩に行けって怒鳴られて、飯時によく分かんねえ理由で怒られる。マジでヤベーから、俺の一日。お前なんかうちの母ちゃん見ただけで土下座するからな、マジで」
「お前が怒鳴られる理由はよく分かったが、夜は早く寝ろよ。まずは大部分がそれで解決するからな」
ナキヒトからの真っ当な回答。勇者のマジレスに対し、セドリックは力なく頷いた。そう、最低でも日付けが変わる前に就寝しよう・・・・。健康と家庭の平穏のために。
「むしろ今は忙しいから寝てる暇がないっつーの。俺は夜型体質だから」
「早起きは三文の得ですよ」
魔王ミズガシより、非常にためになるレスポンスをいただいた。勇者と魔王は寝なくてもいつでも元気いっぱいだから。
平成の世のサンタクロースは両手で顔を覆い、それができたら苦労はしねーよ・・・・と呻いた。だって夜の方が働き者になるじゃん!気持ち的に、精神的に、逃避心情的に。
こいつは深夜、行うべきメイン事項より部屋の掃除に一生懸命になるタイプだな、と見透かされた。無言の二人に見つめられ、ザ・ダメ男は両手で顔を覆う。
「やめろ!!俺の日常を見透かすな!プライベートな面を表沙汰にするな!」
「そう言われても分かるよ、俺は」
「私も分かります」
「お前ら占い師か!?カウンセラーか!?」
大きな声を出すセドリックの頭頂部に、カタナの硬い部分を振り下ろす。ナキヒトは話を巻き戻した。
「人知れず家屋に侵入し、物を置いてくる。これがテメエの所業でなければ神か悪魔の仕業だ、マジで」
「俺の頭頂部に加えられた打撃痕にも注目してよ。これも事件だっつーの」
頭をさすりながら訴えるセドリック。凹んでない?ナキヒトは取り合わず追求を続けた。
「ネタは上がってんだよ。さっさと白状した方が身のためだ。さもなくば俺の隣りにいる魔王が地獄の苦痛を与えるぞ」
「この人が犯人です!って張り紙でもしましょうかね」
「社会的に抹殺!?この俺を!?」
世の中が恐れているほど地獄は怖くないし、普通に地獄の住民が住民票をもらって生活しているため、普通に社会が形成された治安国家である。死んだ人とか来ない。来たら、何それオバケ!?住民が怖がってしまう。
地獄での社会的抹殺が着々と進みつつあるセドリック。国境に関係なく、地獄にもサンタクロース行くよ?顔を隠してビクビク歩かなければならない。
自分の心配をまったくよそに断罪内容の構成が進んで行く事態。セドリックは愕然とした。地獄には自分の来訪を心待ちにする子供達が・・・・!!身に覚えのない罪状で出入り禁止になることは避けたい。っていうか、張り紙のゲラを今、手渡された。
「こんな感じでどうでしょうか。この顔にピンと来たら!」
「国際的な指名手配犯になって堪るか!!却下!!」 バリーン!!
受け取った手で真っ二つに断裁。妙に上手い似顔絵が右と左に分かたれた。いつ描いたんだ、今描いたのか。
「いきなり破らないで下さいよ。その似顔絵、なかなか似てるでしょ?ナキヒトが描いたんですよ」
「いやあ、お恥ずかしい」
「お前か!お前が!?びっくりしたわ!」
「しかし俺の力作を真っ二つにしてくれるとは、見上げた度胸だ。現物も同じようにしてやろうか」
「顔はやめて!!」
「ナキヒトは図工とか美術が得意なんですよ」
「この状況でよくそんな話題続けられるな!!」
セドリックに刃物を突きつけるナキヒト、ナキヒトの得意分野について話し出すミズガシ。
もはや悠長に構える余地なし。凝り固まった疑念を打破するため、己の潔白は己の手で示すしかないのだ。
などという建設的な思いは建て前であり、セドリックは怒り任せにテーブルをバーン!と叩いた。机上から雪の粉が舞い散る。ここいらが潮時と言う風にナキヒトも刃物を自分の傍に納める。
「どうする。俺達の推理は外れたぞ」
「絶対そうだと思ったんですけどね。あの人、バイク乗りですし。バイク通勤ですし」
「バイク通勤はさておく。まずは整理させろ。誰がどこに侵入して、何を置いていったって?詳しく教えてくれ」
問われた二人は顔を見合わせ、ミズガシが答える。
「誰かが住宅に侵入して、何かを」
「それだァ!何かって、なんだ?まさかDSなんとかじゃねーだろ?俺は基本的にキャッシュ・クレジットや電子機器類は扱わねえ」
クリスマスの朝、枕元に現金や小切手が置かれていても困るが。困らないが、戸惑いは起きる。今回の件と一線を画すが、まさに事件である。
「私達が聞いたところによると、妙な物でした」
「妙な物ってなんだよ。オッサンの枕元にぬいぐるみ?女子中学生の枕元に投資情報誌?俺はいつの時代も個人のニーズに応えてる」
「じゃあ俺にアレくれよ。針のないホチキス」
「馬鹿にすんな!!最寄りの文房具店でお買い求め下さい!」
「石炭だそうですよ」
「言っとくけどアレな、思ったより頼りないからな。調子に乗って十枚くらい重ねて使うと嫌な手応えがくるぞ。って、石炭!?」
ナキヒトのニーズに苦言を呈している流れで、重要な言葉を聞き流してしまった。セドリックは二人の顔を見返す。
「そうそう、石炭な。そもそもなんで石炭なんだよ、って話だよな。燃料系?」
「嫌がらせ系じゃないですか?枕元に黒い石があったら、誰だって驚きますよ」
「この昨今、リアルに石炭見て石炭だって分かんねーだろ。バーベキューで見るくらいにしておいて」
「あれは木炭」
黒いダイヤの異名を取る鉱物はその時代においては貴重であったことに間違いないが、今は平成の世、だからなぜ枕元においていく、という点に帰結する。枕カバーが汚れてしまう。そしてお母さんに怒られてしまう。
外で肉や野菜を焼くアウトドア行事、いわゆるバーベキューやりたいなあ。済し崩しに流れていく話題。石炭がすっかり頭から吹っ飛んでいる。
しかし流されていくセドリックではない、石炭と聞いたら黙っちゃいられない。あと、片付けが大変だからお母さんにどやされる。
「石炭と聞いたら黙っちゃいられねえな。犯人の目星は大方、ついた」
知己に基づき思い当たる、確固たる人物像が浮かび上がってきたのだ。力強い宣言を受け、ナキヒトは頷く。
「マジかよ、すげーな。お前の推察力ハンパねえな。バーベキュー仲間か?」
「ちげーよ!!ミズガシ、お前なら分かるだろ?俺が犯人じゃないってこと」
「分かります。しかしお言葉を返すようで申し訳ありません、本当にバーベキュー仲間じゃないんですか?」
「疑い晴れてねええ!!いい加減に焼肉から離れろ!!」
なぜそこまで石炭の出所に拘るのか。有り余るほどそれを持っている人物と友達なのか、疑われている。二酸化炭素を排出しないエコなエネルギーが台頭しつつある時代だというのに。
セドリックはガックリ項垂れ、マイナス零度の溜め息を吐き出した。ガラスの器に白い霜が張り付く。
「いっそのこと、友達なら話が通じるんだけどな」
(2013.8.19)

