捕り物劇でバトル!! 3




さらに同日の深夜。
「いくら町内をカバーしたところで、今夜に限って別の町に出るかも分かりませんよ?」
「そうですねえ・・・・あまり効率のよい策とは言えませんね」
苦言を呈したのはアサヌマ、力なく賛同したのはミズガシ。二人は深夜の町内を歩き回っている最中だった。
よく言えば、町の平和を見守る巡回。悪く言えば、深夜の町をうろつく不審者。
しかも住宅地のあちこちを覗き込みながらの散策活動。ミズガシが魔王でなかったら即座に職務質問されている。住民も通報を辞さない構え。
セドリックが言い出した案は、今夜も現れるであろう侵入者を探し出すために歩き回り、犯行現場へ彼を導くことである。心当たりがある以上、部外者にも等しいミズガシ達はサポートに付くしかない。
犯人に直接手は出せない勇者と魔王は頷いた。ナキヒトとミズガシはファミレスで別れ、別々の場所を見回っている。時刻は午後一時、日付けは二十三日。
夜闇に静まり返る無人の通り。ナキヒトとミズガシがいつもたむろする場所から近く、背後に市役所、左手に森林公園、道を挟んで右手に市立図書館がある。このまま進むと川に沿う南下ルート、コンビニや書店、焼肉屋とか蕎麦屋がある。
夜間を賑わす歓楽街から少し離れた場所は驚くほど無人に近い。時折、自転車の何人かと擦れ違うくらいだ。
ちなみに今、雪が降っている。日中のベテラン老人は達人の技で以てヨロヨロ走行する。恐れを知らない学生はすっ転んで自転車ごと車道に飛び出る。この市内ではよく見られる光景である。車の運転手の方が死ぬほどびびる。
街灯の下に群がる虫も冬では皆無。二人はミズガシの傘の下で地図を広げた。アサヌマがあることに気付いた。
「ミズガシさん、見て下さい」
「会長さんからもらった地図ですね。今夜、十四個目の丸印が付くんでしょうか・・・・」
「これまでの十三件ですが、謎の犯行があった場所を見ると、どうやら、お二人の自宅から微妙に離れているみたいなんです」
ナキヒトは一人暮らし、ミズガシは実家で両親と暮らしている。ナキヒトの自宅とは一人暮らしの部屋を指す。
「相手はナキヒトさんとミズガシさんを警戒しているんじゃないかと思うんです」
「犯人は私達に見付かったらマズイような、そういう立場の者だと?」
「おそらく。だって、犯行内容も普通じゃないし、犯人も普通の人間じゃないって言ってましたよね。近くにいるかもしれない勇者と魔王を警戒しても不思議じゃないです」
「なるほど・・・・私達が寝静まった頃に犯行に及ぶわけですか。私は大体、十二時半には寝ますからね」
「微妙に遅いですね。ナキヒトさんは九時には寝てますよ」
「早寝早起き、勇者らしいじゃないですか」
特に用事がなく、なおかつ面白いテレビがなければ21:00に就寝する勇者。特に用事がなくても朝五時に起きている。
普段ならば勇者が起床するタイムリミットまで四時間を切った頃、上空から人影が降ってきた。ブーツの厚い靴底が爪先から着地する。
「おつかれ~。空から見たけど、怪しい人はいないみたいよ」
アスファルトに積もる雪の層を吹き飛ばしながら現れ、シロツメは気のない所作で大鎌を後ろ手に持ち変える。白い雪の照り返しの中で黒髪と黒い刃が凶悪にきらめく。
メンバーの中で空を飛べるのはシロツメ一人なので、地上で歩き回るメンバーから離れ、上空から広い面をカバーしている。シロツメは勇者が抱える傍仕え第一号にして最強生物、夜闇を見通す目から逃れられる者はこの世に皆無である。
最強生物の報告は色よいものではなかった。アサヌマは短く溜め息を吐き地図の雪を吹き散らす。
「シロツメでも見付けられないか。やっぱり、相手は・・・・」
「相手は、何?ものすごい不審者ということ?すごい怖いわあ。こんな時にナキヒト様と離れてるなんて心細いわ」
「寝言は刃物を置いてから言ってくれないか?」
「やだもう!アサヌマったら!」 ザクン!!
シロツメのおちゃめな照れ隠しの一発、大鎌の先っちょ五センチがアサヌマの背中に突き刺さる。アサヌマ、マジ吐血。目の前で惨事を見せられたミズガシの血の気が引く。
「アサヌマ君、背中が流血沙汰!!」
「気にしないで下さい。いつものことです」
「そうなんですよ!私ったらいつもこうなんです。アサヌマも冗談がキツイんですから~」
日常劇の如く流す二人、キャハッ!と笑って締め括るシロツメ。アサヌマの傷もすぐに塞がる。
古参同士の手馴れたやり取りに、ミズガシが試みた理解は遠く及ばず、刃物を持っている相手に安易なツッコミはやめようと思った。ナキヒトもここまでやらない。
ノリこそ軽いが、シロツメの索敵能力は軽んじられないため、やはり犯人の特異性が窺える。舐めてかからない方がいい。
魔王の付近を警戒しているなら、ここには現れないかもしれない。しかし広範囲を捜したシロツメは面白くない。自分の目を欺かれ、疑い深く辺りを見回す。
「市内は平和そのものでした。今夜は何もないかも。ミズガシ様はどう思いますか?」
「難しいですねえ・・・・。ナキヒトの方はどうでしたか?」
「ナキヒト様はここを真っ直ぐ行った場所から、少し入り組んだ場所にいましたけど~・・・・あっ!」
報告するシロツメにひらめきがあった。勢い込んで話し出す。
「前に見たことある人と一緒にいたんですよ!それで、誰かな~と思ったんですけど」
「ああ、それはセドリック・・・・」
「三田さんでした」
「誰だ!?」
突然現れた三田さんの存在にドキッとする。サンタさん。アサヌマの戸惑いに対し、シロツメはこともなげに答えた。
「あの人、三田さんでしょ?だって自分でそう言ってたし」
「マジで?後ろに何か、クロースとか・・・・」
「三田=クロース?」
「外人タレントを彷彿させるな」
「国籍は関係ないとして、ともかく三田さんが一緒にいたのよ。人間じゃないのは分かるし、ナキヒト様の知り合いなんでしょ?なんで三田さんがいるのかは分からないんだけど」
「知り合いであることは確かですが、彼に関係する件のようです」
「三田さんは事件に巻き込まれてしまったんですね・・・・」
むしろ、本人が激しく否定するまで犯人だと決め付けていた。これ以上の冤罪を彼に被せないため、ミズガシは詳細を語らないことにした。前略、セドリック冤罪事件。
好意的な取り方をするシロツメは気合を入れ直す。上司(ナキヒト)が住む町の平和を乱す者がいるならば、法が許しても部下が許さない。大鎌で切り刻むだけだ。
「犯人を見付けたらギッチギチに締め上げてやるんだから。ねっ!」
「ああ、お手柔らかに頼むよ。なるべく」
「一滴も残さず体液を搾り取ってやるわ。物理的に」
「物理的に!?比ゆ表現ナシで!?」
大鎌の柄を握り締め、雑巾を絞る動作と同じく、大胆な力強さを見せ付ける。ギチギチと嫌な音が聞こえてくる。アサヌマは耳を塞ぎたかった。
「アサヌマ、一緒に頑張ろうね!」
「嫌な連帯感だな。共犯になりたくない」
「なんでよー!」
アサヌマの了解が得られずシロツメはふてくされた。
腐れている場合ではない。散らばった個々と連絡を取るため、シロツメは再び空へと飛び上がる。
残った二人。アサヌマは隣りのミズガシを見た。
「携帯電話、持ってないんですか?」
「私ですか?不携帯なんですよ、ほぼ毎日。特に困らないので」
「いや、今あったらいいな、って・・・・」
メールで、公園の近くにいるけどそっちはどう?ってすぐに連絡取り合えるのに。シロツメがいなかったら大声でそっちはどうですかー!!って叫ぶことになる。
深夜に甚だしい迷惑行為。ちなみにアサヌマは持っている、携帯電話を携帯している。(重複していない表現)
「ナキヒトも持ってないですよ。なんか、仕組みがよく分からないって言って。携帯電話にテレビと財布を付ける必要があるのか、って」
「仕組みって言うか仕様の問題だと思われます。凝り性なんですよ」
その器物の在り方について完全なる理解を果たしたら、勇者も携帯を持つのだろう。携帯中、魔王との戦いとかいろんな不注意により破損の可能性極大。
「ナキヒトに連絡する時は、家の電話から・・・・」
そこまで言った直後、爆音が夜の空気を突き破り、空に火花と鳥の群れが飛び散る。
カラスやスズメやチヨドリやニワトリが奇声を上げ、こだまになり損ねた音量があちこちに跳ね返りながらミズガシの耳を叩く。音とは空気の震動であると痛烈に知らしめる。鼓膜がビリッといった。
すぐに暗闇を取り戻す空を見上げ、二人は確信した。爆心地は南の方角。ナキヒトがいる場所に違いない。
「ミズガシさん、行きましょう」
「今の音、確実に建物が一個二個壊れてますよね・・・・」
「考えずに行きましょう!!」
ちょっと呆然としているミズガシを引きずり、アサヌマは勢いよく駆け出す。いつものことじゃないですか!



爆心地と思しき現場へ到着し、ミズガシとアサヌマが見た光景。道路に穴が空いている。アサヌマは低く呻いた。
「ああ・・・・この程度で済んでよかった!急ぐ必要なかったですね!」
「こ、これ、どの程度!?水が、ガス管が!!うおお!!」
ミズガシはぶっ飛んだ。安堵の表情を浮かべるアサヌマ、現状と一個も合致していない好感触な所感を述べる。
彼の背後では、地中から露出した水道管(上水道)と都市ガスの配給パイプが内容物を噴出している真っ最中。なんだろう、この、日常茶飯事で見えてはいけない諸々が露見している様は。明らかに公的機関の介入が必要な事態。
タマネギの腐敗集に似た臭いが鼻を突く。ガス!都市ガスがヤバイってえええ!!
「水が、冷たッ!!うおお!!」
水に弱い魔王。ミズガシでなくても真冬の屋外で水祭りは御免被りたい。横っ面に水道水を浴びせかけられ、もう本当にどうしたらいいのか分からない。どこに電話したらいい?
「あ、アサヌマ君。これはまずいですよ。冗談抜きで」
「逆に、これ以上まずい状況ってありますか?」
「いや、そうですけど・・・・」
ミズガシの頼りない肯定に対し、アサヌマは弱々しげに微笑んだ。安堵の表情ではなかった。諦めの境地である。
近辺の建物は辛うじて無事だが、アスファルトが局所的に破壊された。被害は片側一車線を跨ぎ、長径三十メートルくらいに渡り粉々、点滅する信号機の光が虚しく二人の人影を照らし出す。
深く抉れた道路は水浸し、黒光りを放つ水溜りがユラユラとざわめき、粘着質な音を醸し出す。明日は、あるのか・・・・。ちなみに明日は平日水曜日。
結果は見た通りだが、原因の人物を探さなければ。推理や憶測などという甘い過程をすっ飛ばし、間違いなくナキヒトがやったに違いない。ミズガシは周囲を見渡す。
「ナキヒトー!」
「おう、ここだ」
「地中から!?」
唐突にナキヒトの声が聞こえ、アスファルトの小山の中から本人の姿が出て来た。自分も埋まったらしい。
「何があったんですか?」
「いやあ、参った」
続いてセドリックも姿を現す。少し離れた場所からのお出まし。二人共、黒く薄汚れているし、水浸しだし。黒いセドリックがナキヒトを指差す。
「こいつがよォ、メチャクチャやったんだよ」
「はあ、そうですか・・・・」
「俺のちょっとしたジョークに本気で怒るんだもんな!参ったよ。俺はちょっと場を和ませようとしただけなのにな!ナ!」
「なんて言ったんですか?」
「冬の風物詩、猫鍋って、いいダシ出るんだろ?一回食ってみたいよな。って」
「出汁って。あれは鍋という容器に猫を人為的に収納し、もしくは猫の習性を利用して自発的に鍋に収まる様子を指す名称ですよ。決して料理ではないんですよ」
「だよな!で、ナキヒトマジギレ。勇者、怒りの一撃。被害、水道管、ガス管、そして俺」
「俺の部下に猫がいるってことを考慮した上で発言するべきだったな。知ってるかセドリック。この地元では年に一度、人を百人ほど収納できる鍋で芋煮を行うことを。来年はお前を煮込んでやろうか」
「俺はいいダシ出ねえよ!!出るとしたら汗くらいだっつーーの!!」
「物理的に体液を搾り取る!!」
シロツメと同じこと言ってる。この上司にして部下あり。いくら上位階級の神だとしても物理的に絞られたらタダじゃ済まない。ねじ切れて干乾びる。
汗の出汁、まずそうだなあ・・・・。ごく一般的な意見をよそに、ナキヒトはカタナを振り上げた。
「中点から真っ二つだ!」
「数学的に!?」
勇者対サンタクロース。前者が一方的に殺意の凶刃を振り上げている。後者、まったく対抗できていない。何かの板切れで身を守る。
ナキヒトその人は敵じゃないです!味方とも言い切れないですけど!落ち着いて下さいナキヒトさん!ミズガシとアサヌマの二人掛かりで一生懸命に制止をかけたことで、セドリックの命運は次へと生き延びた。
「こらーナキヒトー!!話せば分かります!」
「話して堪るか!離せお前ら!!」 ゴガッ!!
二人によって羽交い絞めにされ、ナキヒトは猛獣のように暴れまくる。などと言えば聞こえはかっこいいが、野犬狩りで捕まった野良犬の表現が関の山である。
ちなみに、拘束されているのは上半身だけなので、自由を得た足でセドリックを蹴っ飛ばした。それが上記の打撃音。セドリックは五メートルくらい先に転がっていった。
「やめましょうナキヒトさん!被害が拡大するだけですからァ!!」
「そうですやめなさい!アサヌマ君、ガムテープかなんか持ってきますか!?」
「針金とかの方がよくないですか?」
「近くの工事現場からワイヤー借りてきましょうか。頑丈にまんべんなく縛っておけば・・・・」
「タコ糸なら持ってるけど」
「俺は肉じゃねーぞ!!ラーメン屋の手作りこだわりチャーシューか!」 ドガッ!!
ナキヒトの足に当たった小石がすっ飛び、タコ糸などと言い出したセドリックの顔面にヒットした。さようなら、世界の子供達・・・・。クリスマス終了です。
「だから落ち着いて下さい!ナキヒトさん、どう考えても分が悪いですよ・・・・」
「アサヌマァ!!お前どっちの味方でモノ言ってんだ!!」
夜気を切り裂く雷鳴の如き一喝。上司の怒声に中てられ、アサヌマは身が竦む。勇者に雷を落とされたら町ごと吹っ飛ぶ。
「ちょっと、やめなさいよナキヒト。こんな夜中に大声出すんじゃないですよ」
ただならぬ事態に陥り、ミズガシは急いで間に入る。内輪揉めしてる場合じゃないっつーのにね。
「そうだソーダ。あとで大変なことになるのはお前だぞ」
「あァ!?なんつったオマエ!!」
「ちょっとアンタも黙っててくれませんかね、セドリックさん。マジで」
半ばから折れた電柱の後ろでヤンヤ言うセドリック、刃物沙汰で飛び出すナキヒト、その襟首を電光石火で掴むミズガシ。
解決策としてセドリックの案を採用したというのに、これではまったく成らない。溜め息と共に怒りを吐き出す。
「二人共、よく考えなさい」
魔王の真剣な説得。
「今は夜盗を捕まえるのが先でしょう。盗みなのか嫌がらせなのか分からないんですけど、人様の屋敷に忍び込むこと自体が違法、次は何をするか分からないんですよ?町内会長から頼まれた役目を忘れてはいけません」
「火付け盗賊改め方」
「そう言えばアナタ、最近ずっと鬼平シリーズ読んでましたね」
ヒマな時は市の図書館に入り浸って小説を読んでいるナキヒト。この前は横山秀夫を読み続け、終いには「刑事になりたい」と言い出したので、ミズガシは呆れた。あなた勇者ですよ・・・・。
「火盗も刑事も同じ職業だろうが。今夜の俺は鬼平と呼んでくれ」
「呼びませんよ。お呼びでないんですよ。まあ、石炭と言えば火に繋がりかねないですし、無きにしも非ず。不審者がへんな気を起こして火事なんか起こしたら大変です」
「火事はないと思うぞ」
ミズガシの危惧に水を差したのはセドリック。不審者に心当たりがあると言っていたが、さらなる断言口調であることにナキヒトも気付いた。
ナキヒトはセドリックに詰め寄る。そろそろ相手の正体を明かしてもらう頃合いだ。
「お前が知ってる不届き者ってのは、誰なんだ」
あまり手荒なマネは・・・・と、ミズガシが止めようとした時、ナキヒトは突然あらぬ方向に首を巡らした。つられて、他の全員も道の向こうを見やる。
人気はなく、暗い細道は明滅する信号機に照らし出され、どこかで救急車のサイレンが鳴っている。水道管から噴き出す水はほとんど収まり、ピチャッと跳ねる音が聞こえる。
視線は宙を舞う。ナキヒトは見ているのではなく、遠くから迫る音に傾注している。
「何か・・・・聞こえるんですか?」
ミズガシはナキヒトに問うが、身振りで制される。何が来る?
未だ姿かたちの見えない気配にそら恐ろしさを覚える。いっそのこと暗がりから凶暴な野犬か熊でも出てきてくれた方が分かりやすい。
夜気に噛み付くような唸り声、気配は唐突に姿を現した。覚束ないナキヒトの目が細道に焦点を結ぶ。が、カタナを抜くまでに至らず。冷たい臭いが鼻をくすぐる。
獣の咆哮は駆動音、ギッと金属の擦れる音と共に、一台のオートバイが暗がりから躍り出る。鼻先でブレーキ音。一堂、びっくり。もうちょっとで原付に轢かれるところだった。
間髪入れず、ライダーは両腕を振り上げて大きな袋の中身をブチ撒けた。
「これでも喰らえェエー!!」
「うわっ!?」
「ナキヒトー!?」
これでも!のコレの内容は定かでないが、きな臭い粉塵が辺りを包み込む。ナキヒトは大量の黒い塊に押し潰されてしまった。勇者を埋めるくらいだから、並大抵の量ではない。
トラックの荷台から滑り落ちる土砂の如き、袋の内容量を明らかに超過した体積である。アサヌマが駆け寄る傍から黒い土砂が崩れ落ちてくる。
「ナキヒトさん!!」
小山に埋められたナキヒトに呼びかけるが返事はない。上司の一大事に焦るが、足元に転がってきた塊の正体に気が付く。
「これ、石炭です!!」
ミズガシはピンと来た。110番している時間はないが、不審者、バイクの音、石炭。頭の上に星が飛んだ。(比ゆ表現)
「誰だか知りませんが、不審者発見!!」
相手は人間ではない。言うや否や、謎のライダーを原付ごと獄炎で薙ぎ払う。
間近で地獄の業火を受けたアサヌマとセドリックは引っくり返った。倒れる電柱、道路標識、街灯その他諸々、余波を受けた小料理屋の看板がもげた。爆発する間もなく消えたガス管。被害が甚大。政府が介入する事態。
破壊力抜群の獄炎を喰らった十字路は粉々。謎のライダーがどなたかご存じないが、跡形もなく消し飛んだはずだ。吹き荒れる爆心地にミズガシが現れる。
「やりましたか?」
「主に俺らがな!!ゲッホ!!すっげー煙!!」
さらにアスファルトが剥げた地面に転がったセドリックが怒鳴る。アサヌマは飛んできたシロツメに助けられ難を逃れた。
俯瞰するアサヌマからは曇った現場が見えない。獄炎は空気をも根底から揺るがし視界を狂わせる。破壊された現場にはしばらく誰も近付けない。
「シロツメ!犯人は!?」
「待って・・・・あら?生きてるわよ!?」
五体満足で動く者を捉え、心底から驚くシロツメ。索敵の目は被害現場を走り去る不審なバイクを見付けた。
魔王の攻撃を受けて死なない者を挙げるなら、ナキヒトを除けばおのずと数は限られる。神との合いの子ハイブリッド、もしくは突然変異による神もどきミュータント。もっとも恐ろしい相手は上位階級の神による臨場である。御前に傅けば戦慄と呼ぶに相応しいそのもの、全力の獄炎すら指一本で止めてみせる。
その存在であるセドリックはちょっと転がったくらいにしておいて、地上で元気に喚いている。上空から見下ろす二人は言葉を失う。彼の耐久性に感動したからではない。
謎のライダーが上記三種に含まれる人物なことはご明白。だからこそ意味が分からん。
「なんでそんな人が、ナキヒトさんを石炭の山に埋めるのか・・・・」
「絶対にタチの悪い「もどき」よ!!そうでなきゃ、ナキヒト様が負けるわけないじゃないの~。そもそも、石炭って何よ?」
相手が本当に神もどきだとしても、まさか大量の石炭に押し潰されるとは思わなかっただろう。バイクに轢かれた方がマシだった。
抜刀を持ち出すまでもないと踏んだナキヒトの誤算が敗因。やられた本人はまだ出て来ない。出て来られないのか。ハッと気付いたミズガシ。
「あっ、忘れてた!!ナキヒト大丈夫ですか!?」
「忘れてたのか。おい、ナキヒト!!起きろ!」
石炭の山に向かい、ノコノコやって来たセドリックも大声で呼びかける。反応ゼロ。
獄炎の爆風を受けたにも関わらず、黒い塊はびくともしないまま残っている。
ミズガシの実家、地獄から呼び出した獄炎とは名ばかり、魔王が振るう力は発火の域を超えて純然たる破壊をもたらす。石炭の山は火が着く前に崩れているはずなのに、ただごとではない。セドリックは溜め息を吐いて首を傾げた。
「しょうもねえ。完全に埋まってるな」
「だからって黙ってるわけにもいかないでしょう。早く助けないと煤だらけになりますよ」
「窒息するとかじゃないのか・・・・」
二人が手を出そうとした時、うず高く積もった石炭が内側から吹き飛んだ。中からカタナを振り切ったナキヒトがようやく出て来た。
「マジ殺す!!この俺を!!ミズガシ、あの野郎どこ行った!?」
「いってええ!!目に!当たった!!」
モロ両目に石炭の破片を食らって仰け反るセドリック。ダメージ大。
「相手はやはり人間ではありません。シロツメが見付けたようです。こんな場所で不埒なマネを働くとは、逃がしてはいけません」
「よっしゃ!!捕まえ次第火あぶりだ、火盗改として!」
「言っとくけど火盗ってそういう意味じゃねーからな!!」
「セドリック、ちょっと黙っててくれませんか?」
「俺も会話に混ぜろよ!!俺の目を心配しろよ!眼科どこだよ!?」
方向性が決まりかけているところに、正直に言うとうるさい。大詰めの局面において、気持ちは分かるが、石炭が目に当たったくらいで騒がないでほしい。ナキヒトはセドリックの肩にバン!と手を置く。
「目と歯は大事にしろ。あと、病院すぐそこだから頑張れ」
「的確なアドバイスありがとう。深夜外来だよね。で、そういうことじゃねーって」
ナキヒトの腕に力が入り、掴まれたセドリックの肩がギリギリ鳴る。
「いい加減にあの野郎の正体を言え。教えろって言ってんじゃねえ、さっさと吐け。この期に及んで何を渋ってんだ」
鬼の形相で脅す勇者。セドリックは明後日の方向を向いて口笛なんか吹いちゃってさ。誤魔化してるつもりなのか。
「いや、まあ、ね。正直に言うと、あんまり言いたくない」
「俺の目を誤魔化せると思ってんのか」
「言いたくないなら私が言ってあげましょうか。私達の話を聞いて確証を得たってことは、あなたの身内なんですね」
ミズガシに図星を切り込まれ、セドリックはアハハと笑った。なんで笑ったの?ナキヒトの堪忍袋が破裂した。
「身内だからってなァー!!テメェー!!隠し立てするとは言語横断!!」
「横切ってるし!!マジ痛ェー!!」
カタナの切れる側でビシバシ叩くナキヒト、めちゃくちゃ叩かれるセドリック、この際だからもっとやれとけしかけるミズガシ。この世の地獄絵図・縮小版である。(第一版、第一刷。増刷計画有り)
夜空の向こうからパトカーのサイレン音が聞こえてきそうな頃、上空からアサヌマが上司に現状を告げる。
「ナキヒトさん!!犯人が逃げました!西の方向、修正南南西です!」
セドリックを叩く手を止め、ナキヒトの目は南南西を睨んだ。端的に言うと、生かしちゃおけん、という目付き。犯人逃げて、法廷速度を越えて逃げて。
「シロツメ、来い!!」
抱えていたアサヌマを地上に下ろし、シロツメはナキヒトの傍らに駆け寄る。片手に巨大な鎌を用意する。
「神もどきみたいですけど、私一人でも大丈夫ですよ。勇者に仇為す不届き者は即刻滅ぼすべきです。ナキヒト様の仇は任せてくれませんか?」
シロツメの大鎌はナキヒトが持つ「勇者の剣」と同様、狩る獲物の魂を削り取る凶刃であり、申し出の言葉はあながち嘘ではない。必ずや討つだろう。
遠い過去より、勇者の障害を排除する露払いとして働き、相手が純粋な神未満ならば、この歯牙は長きに渡り数多を屠った経歴を持つ。忠実なるしもべサイドアームとして、コロシの数ではナキヒトを上回る。
戦歴豊富なシロツメに一任した瞬間、こともなげに終わることは明らか。だがナキヒトは部下の上申をすげなく断る。
「いーや。お前が出るまでもねえ。あの野郎は俺がやる」
「ええ~?それこそ、ナキヒト様が出るまでもないと思うんですけどォ。いいですけど~」
「日付けは変わったな。今日中に終わらせる。行くぞ!!」
シロツメは助走をつけて地上から踏み切る、ナキヒトはその足を掴んで上空に舞い上がる。二人はフワッと風に乗った。直後、勢いよく音速の域に達する発進を受け、近くの川から盛大な瀑布が巻き起こる。
爆発的な嵐が去ったような道路に魚が打ち上げられ、セドリックの顔面に川魚が直撃した。水飛沫と魚を避けながらミズガシとアサヌマが檄を飛ばす。
「ちょっと!!くれぐれも生け捕りにして下さいよ!!最低でも半殺しで!」
「ナキヒトさん!これどうするんですか!?こんな惨状じゃ鬼平、来ますよ!?」
「鬼平は来ねえだろ、長谷川平蔵は」
フツーにパトカー来るよね、これ。水浸し魚まみれになったセドリックだけが冷静に意見を述べた。真冬の川水かぶって、めちゃくちゃ寒いんだけど。





(2013.8.19)
 
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