捕り物劇でバトル!! 5




再び逃げ出した不審者。
逃げてみろ、とナキヒトが指し示した方向とは反対に向かい、市内の住宅街から遠く離れ、隣県へのバイパスである国道に向かう。
天地の高低差で擦れ違う車、運転手達は上空の男に気付かない。遥か眼下で走るライトが行き交うが、高速で飛ぶ男と到底比べものにならない。顔に当たるはずの向かい風さえ両脇に避けて擦れ違う。
夜の静寂を掻き乱す蛮行に、風の精霊は横目で見やり、気難しい顔で飛び去ってゆく。
精霊達は仲間に向けて呼びかける。風の息吹は突風となって車の横腹を押し、人間には聞こえない声で雷鳴の如き警笛を発する。
風の精霊。精霊の中では珍しく意地の悪いの性質を持ち、好奇心と気まぐれと天邪鬼を二乗する。すなわち警笛は集合の合図。領空権は今昔に渡り風のもの、こいつをタダで通すな。
悲鳴のような嬌声を上げ、風の精霊が寄って集って男にぶつかる。音速で走る男は突然の乱気流にもてあそばれ、空中でバランスを崩し、制止を余儀なくされる。
風の精霊達は興を削がれた。捕まえてみれば、単なる小物だった。もっと大きな飛行機とか、疾風の戦闘機だとか、翼を持つ夜宵竜(ディガル・ドラゴン)なのかと思いきや。あっという間に興味を失い、この後はどうやって標的を引き裂くか相談を始める。
空中で立ち止まった男は予期せぬ事態に焦る。前後左右はもちろん、地上にも戻れずに立ち往生する。
機嫌を損ねた精霊は間違いなく精霊王に言い付ける。上申を受けた王は我が子達を凌駕する邪悪ぶりを発揮し、報復と称する邪悪な戯れで以て、標的となる男をなぶり殺すだろう。その罪状が重罪の侵犯であろうとなかろうと、空の舞台ではどこからでも因縁を付けられ放題だ。
男の周囲にぎっしりと集まった精霊は瞳のない水色の目でにこやかにさざめく。無邪気な悪ふざけの哄笑が夜の闇にさざめく。
水色の三日月に詰め寄られた時、幸か不幸か、闇を切り裂く槍の音が響いた。轟音は男の頭上から降ってくる。
音の正体を聞き付けた精霊達は眉をしかめ、羽と衣を翻してとんぼ返りする。水色の集団はてんでバラバラの方向に飛び去ってしまった。
精霊がかき乱した風。顔を庇う男にいくつものつむじ風が当たり、嵐の豪風がカマイタチを伴いながら吹き荒れる。どうあっても立ち往生から逃れられない。
とうとう到達した槍の音が頭上から直滑降で貫く。驚くほど激しい衝撃が体を突き飛ばし、嵐の中を突っ切る形で引きずり落とされる。何が起きたか分からない男は脱出を喜ぶ前に、胸から背中まで通る刃物に気付き、叫びは血を吐いた。
空中分解しかねない錐揉みで落ちてくる体を確認し、ナキヒトは地上で一人呟いた。
「ジャストミート」
十分前、ナキヒトが十字路のたばこ屋の前から投げ放ったカタナ。寸分の狂いなく標的を捉えた。十キロ先にいるミジンコでも外さない。
ということで、男の逃飛行は十分で終わったことになる。
ドスンと音を立ててアスファルトの上に落下し、鼻先を車のタイヤが通過してびっくりする。国道のど真ん中である。
同じく、片側二車線のど真ん中に立っているナキヒト。車の方が裂けて通る。迷惑を顧みずに立ちはだかり、冷気に霞む遠くのアクシデントを見透かす。
後ろから走ってきた車の上に飛び乗る。運転手がびっくりしすぎて、ハンドルをめちゃくちゃに切って隣り車線にはみ出す。
「ゆゆ、勇者様!?」
「応。悪いが十キロ先まで急いでくれ。ここまで走ってきたんで疲れた」
運転手の若い男は意外にも快く了承した。後部座席に態度のでかい勇者を乗せ、オープンカーの速度を上げる。
「誰かを追ってるんですね!?起きて、メイコ!寝てる場合じゃない!」
助手席のメイコさん、ナキヒトが飛び乗った拍子にびっくりしすぎて気を失っていた。寝かせておいてあげようよ・・・・。
「俺と一緒でも速度違反で捕まるからな。法廷速度は守ってくれ」
「任せて下さい!メイコ、起きるんだ!起きてー!!」
「はっ。何!?検問!?追っ手!?」
過去に何かあったと思われるメイコさん。目覚め早々で追っ手と出て来る辺り、もしかして抜け忍だったんじゃないかな。
「デート中に頼むのは心苦しいが、ちょっと付き合ってくれ」
「あ、勇者さん?こんばんは」
ちょっとやそっとでは動じないメイコさん、肝が太い。だって忍者だもの。(ナキヒトの想像)



魔王とタンデム中のセドリック。すでに背骨が痛い。
「あっ!そう言えば、アサヌマ君。アサヌマ君はどこに行ったんですか?」
「俺に聞くなよオウワァ!!」
噂で持ちきりのアサヌマがバイクの目の前に飛び出してきた。オウワァ!はセドリックの悲鳴。急ブレーキ&横滑り。
「アサヌマ君!どこに行ってたんですか、大変なことに」
バイクの後ろから飛び出すミズガシ、人んちのブロック塀に激突するバイクとセドリック。アサヌマは携帯を片手にミズガシに駆け寄る。
「すみません、遅くなりました。いろいろ調べていたら・・・・あの、セドリックさんが塀にぶつかってますけど。いいんですか?」
「彼は気にしないで下さい。調べていたって、何をですか?」
「俺のことも気にしろ!」
セドリックは激怒、いきなり修理送りになりそうなバイクを引きずってくる。二人を前にし、アサヌマは調査の結果を報告する。
「不審者の正体は掴めませんが、もちろん人間でないことは確かです。裏が取れました」
ミズガシは剣呑な目付きでセドリックを眇める。彼の身内であることは言質が取れている。さっさと白状すればアサヌマが右往左往する必要はなかったのだ。
「若い魔女が箒を失ったことが分かりました。飛行具を奪われたとなれば、魔女の恥です。自分から言いたがらないため、時間が掛かりました」
「魔女が?よく連絡が付きましたね」
「ツテを辿りまくりました。本人は泣き暮らしているそうです。勇者の名を出して、ようやく彼女の母親から聞き出すことができました。犯人はあの男に違いありません。ヴァルプルギスの夜、したたかに酔ったところを奪取されたんです」
ヴァルプルギスの夜とは、時節の日に催される魔女と悪魔の無礼講である。人の目が及ばぬ山頂でたけなわとなる。
「人相については、現場に居合わせた悪魔が証言したからには間違いありません」
悪魔と聞いたミズガシはいい顔をしないが、彼らは己の名を賭けて証言の席では嘘を吐かない。電話越しとは言え、アサヌマがナキヒトの名を出したことは功を奏した。
では、原付バイクを失った男が予想外にも素早く逃走できた理由、魔女の箒か。
人間には扱えない道具である。むしろ普通の竹箒にしか見えない。素質と手技を持ち得る者が手に取ってこそ初めて性能を発揮する。いくら力を持つ者でも、難解を極める特殊分野である。
男の用意周到な逃走手段、計画的な犯行と言える。魔女の宴を荒らした事件も重罪だ。おそらく魔女達も血眼で探し回っていただろう。まさか国外に持ち出されとは思うまい。
魔女の飛行具はデリケートな操作を必要とし、御するなればタフな走りを兼ね備える。滑走距離を極小に抑え、離陸直後からとんでもない初速と加速を可能とする。
「昔、知り合いの魔女から教えられました。使い込んだ箒を熟練の魔女が扱えば時速二千キロで飛びます。持ち主以外には扱えないはずが、奪取した男が力づくでねじ伏せたようです」
そこまで報告し、アサヌマは顔を曇らせる。言いたいことは分かる。
「余程の力を持った人物です。今夜の件、ナキヒトさんは勝てると思いますが、男の背後から報復を受けることも考えられます」
「大丈夫、心配しないで下さい。私もついてますから、正当防衛でカタを付けましょう。控訴も辞さない覚悟で」
「そうそう、気にすんなって!イザとなったら俺が裁判所で無罪を証言してやるって!」
「その前にあなたが出頭命令を下される可能性が大なんですが」
軽い感じで力強く言うセドリック、ミズガシは冷淡な反応。駐車違反、及び速度違反、そんな人に太鼓判を押されても困る。
まあ、でも、天上界で強い権力を持つセドリックが居合わせた以上、悪魔よりも力強い証言を得られるのは確かだ。
「確かに、あなたが白を黒と言えば赤に覆せる可能性も・・・・」
「覆ってなくね!?」
へんな方向に変色している。セドリックはドキッとした。白を赤と断言してしまうとか、そんな権力ねえよ。三大原色を尊重しようよ。
そもそもセドリックが絡んで事態がややこしくなったのだ。彼の親戚がやらかした事件に巻き込まれたナキヒト達。決着の付いていない結果を鑑みると、身内で解決するのが好ましい、必然。
部外者の勇者と魔王の一行が絡まれた今となっては取り返しが付かない。対岸を飛び越えた火事が火の粉を散らす。
「箒の奪還を条件に、魔女協会から懸賞が掛かっています。魔女に対してアドヴァンテージを取りたい連中はごまんといるでしょう。今夜現れてもおかしくありません」
「そうですね。ナキヒトと鉢合わせたら、厄介なことに・・・・」



「よし、見付けたぜ」
国道のど真ん中に落ちている男を発見し、自分の狙いは外れていなかったと確信する。ナキヒトはオープンカーの後部座席に立ち上がる。
「ありがとよ。ここでオサラバだ」
「アディオス、勇者様!」
「やはりここで途中下車ですか」
女の声、車上で金属のぶつかる音が弾ける。
街灯と車のヘッドライトに照らされた夜闇の中、一際強く咲く火花。ナキヒトは殺気の方向を見もせず鞘を引き上げていた。
「なぜだ、メイコ」
カタナの鞘に鋭い刃物が食い込む。デートの邪魔をされて激怒したのかメイコさん。ナキヒトは守りを解かず、ナキヒトは助手席に立ち上がった刃物所持女に問い掛ける。
しかしメイコは答えず、静かに笑った。運転手の男 (三浦くん) は事態が飲み込めない。よそ見運転したら事故る。止まった方がいい!?どうなの!?
メイコの手には刃渡り三十センチのアーミーナイフが握られている。反射的に体の中心を守った鞘に遮られ、ナキヒトまで到達するには程遠い。斜に構えた視線が刃物越しに交錯する。
オープンカーの中で立ち上がる二人を見て、対向車線の人々が思わず二度見していく。ケンカ!?通報した方がいいの!?
両者共に武器を引く気はない。片手のナイフが緩んだ時が合図、メイコが左手にもう一本取り出す。ナキヒトはカタナを切り上げ、接触中のナイフを弾く。再びの火花と共に両者も宙へ飛んだ。オープンカーであることが幸いした。屋根がバリーンってなるからね。
しかし、冬にオープンカーとは無謀な勇気だなあ・・・・。運転手だけを乗せた車を見送り、ナキヒトはそう思った。張り切りすぎだろう、三浦くん。
高速で走る車からの離脱、二人は難なく道路へ降り立つ。その立ち位置、腰を打って動けない不審者を中点に置いての着陸。半径十メートルにも満たない距離を取る。
アスファルトに這いつくばる男を挟んで相対する。ぶつかり合う視線に蹴散らされ雪の粉がバッと飛んだ。
「俺の邪魔立てするならタダじゃ済まねえぞ。何者だ。大体の予想は付くけどな」
ナキヒトは言いながら、着地の衝撃で擦り切れたスニーカーを蹴って脱ぐ。靴下も蹴っ飛ばす。
「お前が何者か知らんが職業は知ってる。賞金稼ぎだろ?」
「さすがに私の素性までは分からないようね」
「不法侵入者に懸賞がついたのか。何やらかしたんだ?お前の正体よりも知りたいところだな」
「不法侵入は別として、もっとでかいヤマがあるのよ。その男が、」
メイコはミニスカートを蹴って脱ぐ。両手のナイフを構えたまま、鍛え抜かれた長い足で男を指差す。
「ヤバイ物を盗んだ。私はブツを入手したいだけ」
ミニスカを脱いだ後には黒い短パン、ミニスカの下では隠し切れないようなごつい拳銃がベルトにぶら下がっている。40口径マグナム弾丸装填のリボルバー、人相手では殺意を否定できない。ヤル気満タンだ。
「なるほど、メイコ。俺達の標的がブッキングしたわけだ。この場合、俺達は獲物を争ってる最中ってことか」
「さすが勇者様。理解が早くて大助かりだわ」
冷たい笑みとは裏腹に、メイコは額にじっとりと冷や汗を浮かべる。冬の冷気が熱を奪って冷えゆく。
ナキヒトの方は冷淡なほど平静で、擦れ違った人に呼び止められたように、さもなく受け答えをしている。緊迫のパの字もなく通常運営。
目の前にいるのは単なる商売敵ではない。人類最強の勇者、現存の兵器では歯が立たない。世界全土の火力を一斉掃射しても勝てない。針の穴一つくらい空くかもしれないが。
誰一人として歯が立った実績は今昔においてゼロ。人間である勇者、対する人間の勝率もゼロである。歴史の教科書にも掲載されている。
そもそも、生物は勇者に対して敵意を抱くようにできておらず、小鳥も猛獣もあっという間に懐く。猛犬注意!の掲示が百枚くらい玄関に貼られたお宅の獰猛なジョン(雑種犬、四才)も尻尾を振ってお腹を見せてしまう。植物すらも頭を垂れる。(代表オジギソウ)
噛み付いた瞬間、返すカタナではなく、鞘で殴り飛ばされないだけよかった。物言わぬ行動が物語る、ナキヒトはメイコを歯牙にも掛けない。
勇者は人間を殺害できないが、肉体を越えて魂を齧り取られる威圧を感じた。痛くもない体が内側から痛み、ナイフを落として肩を擦りそうになる。
「カネが絡むなら譲ってやりたいとは思うが、俺もそいつに用事があるんでな。容易にくれてやるわけにはいかねえ」
「車に乗ってきた時には驚いたけど、いい加減にシラを切り通すわけにはいかなったわ。まさか勇者様が賞金目当てとは思いたくないわね」
「カネより名誉とかメンツとか、いろいろ面倒なものがあるんだ。承知しろ、メイコに退いてもらうしかねえな。どこの所属だ?俺が上に話を付けてやる」
「残念ね。私はフリーランスの賞金稼ぎバウンティハンターなの」
「そうか。残念だな」
ナキヒトは口の端を歪め、心の底から残念そうに言う。久しぶりに会った知人とすぐに別れざるを得ないシチュエーション。テンションの低さを物語る。
「なら、掛かってこい。死なない程度に揉んでやるとするか」
言い終わらない内、メイコは身を捻って一回転する。両手から投げ放った豪速球のナイフが時間差で二本飛び、動けない男の体スレスレに低く空を切る。
即死の魔弾を容易に見切ったナキヒトは鞘で叩き落した。間違いなくアスファルトに突き刺さり無効化される。
自分の狙いに向かって跳ぶ。メイコの目的は男が盗んだ物に他ならず、勇者とまともに争う気はない。勇者に向ける敵意は跳ね返り、必ずや己を滅ぼす。走る膝が自動的に震えたが、職業意識を喚起し、正面から吹き付けるプレッシャーをはねつける。
しかしナキヒトのスピードも相当だった。脚力にものを言わせたメイコが男の元に到達した時、目の前にはナキヒトもいた。
ドン、と音が鳴る。一気に踏み込んだ衝撃波がメイコの顔と言わず全身に浴びせ掛けられる。呼吸の一拍すら奪う。完全に外したと思ったタイミングを相手にかっ攫われる。
初めて味わった恐怖が恐怖と思えない。それは走馬灯と呼ばれる幻覚。限界を超えた恐怖を軽減するために脳が自動的に下した判断。メイコの視界は過去に勝ち得た業績に慰められた。目の前から目を逸らす自慰。
同業者の中でも自他共に認めるハイクラス。卓越した技量と運動神経を誇る自分が、完全に敵わない。一瞬で思い知る。ナキヒトの持つ鞘は彼女の側頭部に添えられていた。
「終わりだ、っつーの」
ナキヒトのピリオド宣告に対し、自重の笑みを漏らす。反射的に構えた拳銃の引き鉄は引けない。そして勇者も人間の頭をかち割れないが、確かにメイコの心を折った。
一拍遅れ、振り切った鞘から衝撃が生まれる。冬の夜気をわずかに散らすそよ風である。側頭部の髪一房を揺らす程度。
「メイコ、退け。度胸は認めてやる」
「情けは無用・・・・」
「んなワケはねえ。そんで、お前がほしいのはこれだろ?」
おもむろに頭上に手を伸ばし、遥か高みから落ちてきた箒を掴み取る。ナキヒトの手に現れた物を見やり、メイコは目を見張る。
「俺に免じて、これを持って帰れ。俺はこんな物に用はないんだよ」
黙るメイコをよそに、ナキヒトは箒を眺める。魔女の所持品。
おそらく、経験の浅い歳若い魔女が奪われたのだろう。魔女御用達の飛行具を他人が扱えるとしたら、そいつはかなりのアッパークラスだ。
足元に転がる男にも目もくれず、重ねて箒を突き出す。
「懸賞が掛かってるのは箒のみだろ?犯人の身柄はデッドオアアライブ。死んでない以上身柄は俺が預かる。煮るなり焼くなりな」
千切り、もしくは三枚下ろしの選択肢も。
ナキヒトの言う通り、犯人の生死は問わない条件だ。メイコが勇者との交戦を避けなかった理由は箒を発見したことにある。
魔女の道具という厄介極まりないシロモノを巡り、同業者なら撃退できるが、いきなり現れた勇者と取り合う事態に陥るとは。自分自身の生死を問わない行動の理由はプライドに起因するものである。勇者の寸止め一つにすら値しない。すんでのところで標的を違えた運命に安堵した。
勇者に顔を覚えられた不届き者は未来永劫に渡り呪いに縛られる。子孫から血を辿って元凶の先祖を見透かし、ナキヒトは否応なしに過去を思い出し、子孫は覚えのない蔑視に恐れおののく。子供を持たないメイコもまた未来に恐れを抱く。
ナキヒトの狙いは箒ではなく男の身柄。寸分の狂いがメイコの命を救った。
数秒の逡巡、ようやく箒を受け取る。ナキヒトは表情を変えずに命じる。
「箒はくれてやる。間違いなく魔女に届けろ。最初からお前の仕事だ」
「さすが勇者様。話が早い」
「長いこと世の中見てると要らねえことまで察しが付くのよ。さっさと行け。殺す気でこの距離まで近付いた人間は久しい、褒めてやる」
「お褒めに預かり光栄・・・・では」
神妙な表情で一歩下がり、メイコは路肩の闇に姿を消す。ちょうどその時、ブレーキ音と衝突音が同時に炸裂した。
「メイコ!!待ってくれ!何が一体どうしたのかサッパリだが、とりあえず乗ってくれ!」
ものすごい勢いで戻ってきた三浦くん。まだ地面に転がっていた男がぶっ飛ばされた。ナキヒトは中央線に立っていたので無事だった。
これにはメイコも苦笑い。地面に刺さったナイフは回収し、ミニスカは回収せず、ハンター丸出しの格好でドスンと助手席に座る。
「とりあえず空港まで行って。マドリッドに飛ぶわ」
「スペインか!?今から!?よし、任せてオッケー!」
今の時刻から空港に向かって国際線に搭乗、どう考えてもハードスケジュール。しかし三浦くんに任せたら大丈夫なのだろう。
巧みに梱包された箒は狭い後部座席に収納する。手荷物には見えないが、検査と税関を突破できる偽装を施されている。心配しなくても国境を越えて活動するメイコの手筈に間違いはない。
「ご配慮に感謝いたします。またお会いしましょう、勇者様。アディオス」
メイコはウィンクを残し、オープンカーは軽やかに走り去る。防寒しろよ、三浦くん・・・・。





(2013.8.27)
 
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