当たって砕けろバトル!!
大晦日の昼に蕎麦屋で別れ、再び合流した勇者と魔王。ナキヒトとミズガシさん。
「あそこの蕎麦屋さん、初めて行きましたが、天ぷらがおいしかったですね。さすが職人技、プロの天ぷら。天プロ!!」
いきなり天プロ!!と言い出したミズガシ。ナキヒトは無言で二度見した。今、なんと言いなさった?ミズガシはフフッと笑った。
「私、今ちょっと外したこと言っちゃいましたね」
「いや、店主に言ってやれよ」
喜ぶんじゃないかな。言われた店主はナキヒトと同じく戸惑うかもしれないが、悪いことは言っていない。むしろすごく賞賛している内容だから。天プロ!!(何度も言う)
二人は市内のお寺にいる。のっぴきならぬ渋滞、人で人を洗うような混雑である。
お寺の狭い境内はまさに今日だと言わんばかりに混み合い、夜中とは思えぬ光量で照らし出され、塀に沿って並ぶ墓石もビカビカと光っている。御影石が黒光りする。ご先祖様も今日はテンションMAXである。たまに墓参りしろよ、花も換えろよ、早寝早起きしろよ。
なんと言うお寺なのか忘れたが、クリスマス事件において、ナキヒトと裏サンタクロースことロデリックとがかち合った十字路にほど近い。
主にナキヒトが破壊した十字路、信号機やアスファルト、たばこ屋さんや民家など、諸々のすべてはセドリックが直したので問題はない。お寺自体は被害をさほど受けていないのが幸いである。
しかし、セドリックが直す前の惨状を目の当たりにした市長が胃をやられて倒れた。
市長ォオー!!いつものことじゃないですか、しっかりして下さい!(副市長の慰め)
事件の翌日、ナキヒトとミズガシとシロツメの三人で病院まで謝りに行ったことが一番の事件。副市長にメチャクチャ怒られた。ごめんじゃ済まない。
過ぎ去ったわずか数日前の昔は、今年に置いていく。そうしよう、そうしましょう。年忘れと言うくらいだから大目に見てほしい。
「ナキヒト、ようやくもう一枚着たんですね」
「そうなんです~。この寒さの中で決して暖かそうとは言えませんが、私がむりやり着せました」
シロツメが頑張った結果が涙ぐましい。半袖シャツの上に毛糸の上着。開いた前から覗くシャツには 「県内 乗り捨てOK!!」 とプリントされている。レンタカーの会社からもらったのか。
しかし、ミズガシとシロツメも含め、他の参拝客はもっと分厚く着込んでいる。その中で悪目立ちするぐらい薄着のナキヒト。ナキヒトは涼しい顔で言う。
「暑さ寒さも彼岸まで」
「次の彼岸までずいぶん日数があるんですけど」
「違うか。心頭滅却すれば、涼しい?」
「今は寒いんですよ」
今は本当に寒い冬。雪が降り始めた夜空を見上げ、ミズガシは傘を開く。魔王は雨にも雪にも弱い。本当はハワイとかグアムで暮らしたい。
「温暖な辺りの欧州はよかったですね」
「いつの頃の話だよ」
「欧州と言えば、今頃アサヌマはどうしてるんでしょうね。お土産が楽しみです」
国内から出られないナキヒトの代理として出張中のアサヌマ。奪われた箒に一枚噛んだ件により、勇者の部下は魔女との折衝役を務めるため、スペイン経由でドイツに飛んでいる。帰国は間違いなく来年だろう。
「土産はともかく、魔女は底意地が張ってるからな・・・・」
ここにいない彼に思いを馳せていると、後ろからドーンと肩を叩かれる。
人混みとは言えなかなか強い当たりである。故意的なもの感じ、ナキヒトは渋い顔で振り返った。
「誰だ」
「俺だよ、オ・レ!久しぶりだな」
後ろにいた男は気さくな口調で答える。ミズガシとシロツメは初めて見る顔だった。まさか、久しぶりの知人を騙る詐欺なのでは・・・・と心配するが、ナキヒトの知り合いらしい。
「お前か」
「そう、俺だよ。お前も初詣か?」
「そんなところだ。お前は相変わらずだな」
どんどん進む会話。あからさまに割り込むのも野暮だが、ミズガシは小声でナキヒトに問う。
「あの、こちら、どちら様ですか?ナキヒトの知り合い?」
「知り合いって言うか、高校の時の同級生」
「そうそう、同級生!同じクラス。こちらのインテリ眼鏡さん、もしかして魔王さん?」
その呼びかけに対し、頷きかけたミズガシは男を二度見した。眼鏡はかけてないよ。
「確かに魔王ですが、視力はいい方ですよ?」
「ああ、目がいい方の」
悪い方の魔王はいない。現存していない。勢いに任せて喋る人だなあ、とミズガシとシロツメは思った。
「こいつ、赤井」
遅れ馳せながらナキヒトが紹介する。勢い任せトークの男の名前が判明した。
「自己紹介が遅れ申し訳ありません。初めまして、赤井です」
軽いノリの割に丁寧な挨拶だった。
「因幡は相変わらず変わってないよなあ、寸分たりとも。それにしても久しぶり。卒業以来か?」
「先月、戸の尾町のローソンで会ったぞ」
「ああ、そう言えば。すっかり忘れてた。相変わらず記録力が冴えてるな。勇者だから?」
「勇者だからな。あと記録力じゃなくて記憶力だからな」
「アッハハ!!さすが因幡、相変わらずいいこと言うなあ」
食い気味で発言をかぶせてくる赤井くん。シロツメはミズガシにこそっと聞いた。
「因幡って誰ですか?」
「ナキヒトのことですよ」
勇者の称はナキヒトだが、平成の当代では因幡の姓で市役所に届けられている。何故って、お父さんとお母さんの名前が因幡だからとしか言いようがない。テストの時もナキヒトとは書かずに因幡と書いて提出してきた。
「知らなかったです~。因幡様ですか・・・・。言いづらいです」
「無理して言わなくても」
「じゃあミズガシ様は?」
「私は山上です」
市役所への出生届及び、テストの時、同上。本名は山上星一。どうしてかって、お父さんの名前が星司郎さんだから。名付け的な話で。
おっかさんは美江子さん。家でジャニーズのカウントダウンライブ見てるよ。星司郎は付き合いで見ている。母さん、このキスマイフットツというグループは、口から怪光線を吐く人達だったかねえ・・・・。
ミズガシの両親の話は尽きないが、ナキヒトはシロツメを紹介した。
「俺の部下。シロツメ」
「初めまして、お見知りおきを。因幡もといナキヒト様の部下シロツメです」
「おやまあ、可愛らしいお嬢さん。いや、お嬢さんでは、ない・・・・!?」
まじまじとシロツメを見つめ、赤井はたじろぐ。一瞬で見抜く眼力には定評がある。赤井の言う通り、シロツメに性別はない。
「よくお分かりですね。すごいです」
「いやいや、職業柄というか」
「お前の仕事ってなんだ?」
「宅配業者」
職業関係ねえ!!会話を小耳に挟んだ通りすがりの人達より、無言のつっこみ。空気が震えた。
「それじゃあ特別に、今日は俺の彼女を紹介しようかな!ジャーン!理沙ちゃんです」
赤井の後ろで隠れるようにしていた女性が前面に押し出される。晴れ着の和服が似合う美人であった。ナキヒトに覚えはないため、高校時代の同級生ではないことは分かる。どこで赤井と知り合ったのか定かではないが、本当にこの男でいいのか?と質したい。
理沙ちゃんは自ら名乗り出るつもりがなかったのか、気配がまるで感じられなかった。すごい達人だ。
彼女は若干きついまなざしでナキヒト達を見返すが、敵意の表れではなく、限りなく恥ずかしさの類である。少しメイコに似てるな、とナキヒトは思った。
初詣デートの最中に悪いことしたなあ、と思い、ミズガシはなるべく友好的な感じで話しかけた。
「引き止めてしまい、すみませんね」
「いいえ・・・・こんばんは、理沙です」
ラジオのDJみたいな感じで挨拶された。もう少し後に出会っていたら、あけましておめでとうございます。
「あけましておめ!」
「まだだよ」
赤井のフライングゲット新年、ナキヒトのバッサリ切り捨て。まだ三十分ほど早い。
「お前、少し落ち着けよ。騒ぐな。いい歳になって、羞恥心を持て」
「俺は落ち着いてるって。ところでさっきから気になってたけど、因幡のそれ、高校の時のカーディガンだろ?物持ちよすぎるだろ。羞恥心持てよ!」
「うるせえ」
胸元のロゴが校章と「HIGASHI HIGH SCHOOL」の刺繍。市立東高校。ミズガシは北高校。
「シロツメ、どこの箪笥から出したんですか。この、もはや古着・・・・」
「え、普通に置いてありましたよ?普段着かと思ったんです。あちこちに毛玉が付いていたので、取るのに苦労しました~」
ハサミで一つずつ切ったのだ。几帳面なシロツメの処置が涙ぐましい。対して頓着がない上司。外出用の普段着ではなくて、完全に家着。
「これから新年だってのに、お前のガサツなお着物にはガッカリだよ。それに比べて、どーよ!理沙ちゃんの立派な晴れ姿!」
赤井のノロケ。理沙ちゃんは無言で真っ赤になっている。湯気で雪が溶けそうだ。
「新年を迎えるにあたっての正装は礼儀だ」
「そうだろ?理沙ちゃんは美乳だから補正ゼロで和服が似合うんだ」
「黙れェエエーい!!」 ドス!!
あられもなく裾をはだけて生足キック。宙を舞う理沙ちゃんのハイキックが赤井の脇腹を鋭く的確に穿つ。丸太を薙ぎ倒すようなものすごい音が聞こえた。
一瞬のアクションを目の当たりにし、呆然と見つめるナキヒト達。誰も見切ることができなかった。ドターンと倒れる赤井、荒い息を吐きながら裾を直す理沙ちゃん。
「貧乳で悪かったな!お前とヨリを戻した私がバカだった!滅びろ!!こっ、この、肉好きめェエエーー!!」
滅びろとまで言われた。人が人相手になかなか聞ける言葉ではない。勇者も魔王も発言する機会が失われて久しい。
肉好きという謎の罵倒を残し、理沙ちゃんダッシュ。着物の不自由さをまるで感じさせないスピードで走り去るその姿、女豹である。
ナキヒトは引き止めようとしたが振り切られ、さらにミズガシも追いかけようとしたがアッサリ突き飛ばされ、シロツメは何がなんだか分からない内に擦れ違った。全員、無力。
「起きろ、テメー!!赤井!!」
地面に転がる赤井の胸ぐらを掴んで引きずり上げる。あばらを粉砕されている場合ではない。
「うわっ、待ってよ理沙ちゃん!褒めただけなのに、ひどくないか?」
「今のは完全にお前がひどいな。貧乳って言ったも同然だぞ」
「美乳が女性にとって必ずしも褒め言葉とは限りません。ある意味、微妙な・・・・」
「微乳は確かにひどいです~」
理沙ちゃんの与り知らぬところで胸囲評価がどんどん改変されていく。微乳ではもっとひどい。
ナキヒトは赤井を人ごみに向かって押しやる。今ならまだ間に合う。
「早く追いかけろ。まだ遠くには行っていないはずだ。あの調子じゃ途中でコケてるかもしらんぞ」
「そうだな!何せ、ここに来るまで三回くらい転びかけたからな。じゃあな!来期の同窓会で会おうぜ。グッバイ!」
「ナキヒト、ちゃんとお知らせのハガキ返送しましたか?」
「さあ・・・・部屋のどこかにあるかもしれねえ」
曖昧なナキヒトの記憶。新聞紙の間に挟んで忘れている可能性もなきにしもあらず。
「あっ、そうだ。俺からの豆情報!」
理沙ちゃんを追って走り出す赤井だが、途中でナキヒトを振り返る。
「ここの寺のおみくじ、やたら当たるらしいぞ。理沙ちゃんもそれが楽しみで来たんだ。興味あったら引いてみろよ」
「お前はたぶん大凶だな」
「いやいや、俺は大吉だから!大吉以外は見たことないから。大吉が出るまで諦めないし。むしろ係の人に大吉下さいとまで言うよ、俺は。職業柄として」
その気持ち、大事にしたいよね。努力も職業もまったく関係ない意気込みだが、ミズガシは素直に感心した。
「じゃあ、みなさんも頑張って!」
「あなたも頑張って」
「魔王さんも頑張って!」
「ええ、まあ・・・・」
混雑などものともせず颯爽と走り去る赤井を見送る。いいフットワークだ。
「おみくじですかあ」
赤井が残していったおみくじの話を振る。
「私は大吉を引いたことがないんですよね。いつも吉か小吉とか」
「はいはーい!おみくじってなんですか!?私もやってみたいです!おみくじってこんな感じですか?」
魚釣りみたいなジャエスチャーで興奮するシロツメ。海の主マグロを釣り上げるが如き所作。そんなに大胆なアクションではないことは確かだ。
「シロツメもやってみましょうか。おみくじは未来をちょっと見通すラッキーアイテムみたいなものですよ。大吉を引いたら、来年は当たり年ですよ」
「ほあ~。すごく楽しみです~」
「よし。じゃあ行くか。ミズガシ!!今日の勝負はそれだ!」
「それですか!?」
「それだ!」
ちょっとテンションが上がるナキヒト。勇者と魔王のバトル、おみくじで勝負。
ふざけてはいない。いつもこうだから。はさみ将棋や野球勝負よりも穏やかで、そして何より公平性がグンと上がる。
「自慢じゃないが、俺は大吉を引く自信がある。なんだか今年は当たりそうだ」
「私だって大吉を引いてみせますよ」
「じゃあ私はアサヌマの分もおみくじります」
おみくじる。シロツメの造語がおみくじを動詞に変換する。
ということで、三人はお寺の社務所に向かった。
人の流れから少し外れた場所に、また別の人混みができている。お守りなどを扱う社務所兼売店である。ナキヒト達は列の最後尾に並んだ。
「前から疑問だったんですけど、お寺と神社の違いってなんですかね?」
「墓があるかないかの違いじゃね?」
てきとうなことを言うナキヒト。違う、そうじゃない。でもここでは省略いたします。各自お調べ下さい。
「出店で唐揚げ買ってきましたよ~。あと甘酒もらっちゃいました」
器用に三人分を抱えてくるシロツメ。しかも大鎌を小脇に挟んでいるので、シロツメの周りだけ人が避けていく。ちょっとだけ混雑から解放される。
唐揚げと甘酒の組み合わせって、意外とうまい!三人が驚愕していると、列の奥から声が聞こえてきた。
「大吉を下さい!!」
「恥ずかしいからやめろ!!」 ドス!!
あの声は赤井と理沙ちゃんキックだな、とすぐに分かった。無事に合流できたらしい。心配はないでしょう。でも係の人は大吉をくれないだろう。
「大丈夫ですかね、赤井さん・・・・あばらが丈夫だといいんですが」
それより理沙ちゃんの着付けが心配になる。ミズガシが心配していると、列が進んだ。
「次の方、どうぞ」
「おっ、来たぞ。俺達だ」
アルバイトと思しき若い巫女さんに促され、ナキヒトは張り切って前に出る。
「大吉を下さい」
「アナタもですか!」
「ナキヒト様、それはズルイです~!私が先にやりたいです!おみくじりたいです」
「そうです、それがいい。シロツメが先におやりなさい」
ミズガシはナキヒトの襟首を掴んで下がらせる。
窓口に座る男と目が合う。慇懃に無礼が付くような目付きである。咎められてもしょうがない、すみませんねと謝る。
「おみくじ、三人分お願いします」
一回百円、三百円を払う。
「どうぞ」
社務所の窓口にある箱を示される。この中から札を選び、番号に従っての結果を頂く。
「さあ、シロツメ。一つだけ取るんですよ」
「はい!・・・・これにします!」
「私に渡すのではなくて、係の人に渡しましょうね」
「はい!お願いします!」
「お預かりします」
窓口の男はシロツメから木の札を受け取り、わずかに耳を動かした。どういうわけなのか、本来あるべき箇所とは別の部分に耳が見えた。ミズガシはおやっ?と思ったが、男はジロリと見返し、黙って手を突き返す。
折り畳まれた薄い紙を受け取り、シロツメはワクワクしながら開く。
「どうぞ」
淡々とした口調で促される。続いて、ナキヒト、ミズガシの順番で箱に手を入れる。それぞれ、運命のおみくじ結果を手渡される。
ミズガシにおみくじを渡す時、男は再び耳を動かす。ドーベルマンのような黒い両耳が見えた。
「頭上に注意」
「え?」
「足元にも」
「は?」
「よいお年を、魔王さん」
「は、ええ・・・・」
「何を言ってんだ。邪魔になるだろ」
ナキヒトに引っ張られ、列の横に避ける。すでに次の客を相手にしている男に聞き返す術はない。
なんだか腑に落ちないミズガシは、代わりにナキヒトに問い返す。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。今の人、耳が普通じゃなかったですよね?」
「人?人じゃねえだろ。犬だろ」
「はい?」
「お二人共、見て下さい!私のおみくじる、大吉って書いてますよ~!」
「ええ?お前イカサマしてないか?」
「ひどいです~」
自分の発言とミズガシの戸惑いを置き去りに、ナキヒトはシロツメのおみくじを見る。本当に大吉だった。
おみくじの内容は多岐に渡り言及する。おおよその運勢、これからの心構えとか指針、行動の過程や結果などが示されている。これらすべての項目を組み合わせると階乗の数だけ無数に存在するため、シロツメの大吉と他人の大吉は違ってくる。
例えば、願い事の項目が「心配ありません。望むようになります」であっても、学問が「怠らず努力すれば安心です」とも出る。安堵をもたらし危機感を煽る文が同居する場合も。これを飴とムチ現象と呼ぶ。
しかしシロツメに至ってはまったく危機感を持たない。すべては上司のナキヒトに順ずるので心配や安心とは無縁の存在なのだった。のんびりと読み上げる。
「いろいろ書いてありますね~。おおむね宜しいようです。あっ、でも・・・・」
「何か悪いことがありますか?」
「旅行、盗難に用心することです、って・・・・私、旅行はしないので、別にいいんですが」
「出張は多いですけどね。旅行なんでしょうかね?とりあえず気を付けたらよいでしょう。で、私はと言うと・・・・」
ミズガシは薄目でおみくじを開く。薄目で見ても結果は変わらないのに。
「中吉!!まあまあですかね。ナキヒトは?」
「当たれ大吉、当たって砕けろ!俺も中吉!!引き分けだ」
同じく薄目のナキヒトも同じく中吉。あっさり引き分けになってしまった。今回の勝負は終わってしまった。ここでお話終了ですよ。のちは蛇足。
敢えて言うならば、勝者はぶっちぎりでシロツメ。中吉では大吉に太刀打ちできない。
「ナキヒトも中吉ですか~。大凶だったら面白かったんですけどね」
「大吉もそうだが、大凶なんて滅多に出るヤツいねーだろ。逆にそうだったら面白すぎるだろ」
遠くから「大凶だ!!」と聞こえてきたが、叫びの発生源は探すまでもない。あんなに意気込んだのに、かわいそうな赤井くん。来年も頑張って。
おみくじの内容を検めるため、三人はもっと明るい場所に移動した。その時、ナキヒトが声を上げた。
「ミズガシ。足元・・・・」
「はい?」
何か柔らかい物を踏んでズルッと滑った。すみませーん!バナナの皮が!!(チョコバナナの屋台より)
バナナの皮を踏んだミズガシは背中からドターン!と転ぶ。痛いと言うより、驚くやら恥ずかしいやら。慌ててシロツメが助け起こす。
「ミズガシ様、大丈夫ですか?めちゃくちゃ勢いよく滑りましたよ~」
「ヒイ、めっちゃ痛い・・・・」
屋台の人も慌てて飛んできたが、別の皮を踏んだ拍子にズダーン!と転げた。被害者も加害者も同じ凶器によって。
「すみません!!手元が滑って、バナナの皮が飛んでしまったんです。予想以上に滑りがよかったんです、バナナの皮が。ツルッと、スベスベしていました」
「滑りすぎだろ、何もかも」
不用意な発言に、周囲が大きくざわめく。ミズガシはゾッと総毛立つ。
受験生の視線がつららみたいに尖り、突き刺さる脅威すら感じる。勇者と魔王でなかったら、物理攻撃だったら、今頃ハチの巣にされている。チョコバナナ屋台の人、頑張って。
「スパイクでも履けよ」
あまりためにならないナキヒトからのアドバイス。
屋台の人はお詫びにと、ミズガシにチョコバナナをくれた。ちょっと得をした。
「ミズガシ様よかったですね。背中、びしょ濡れですけど・・・・」
「もう、新年から、最悪です・・・・最悪のスタート・・・・」
「まだ行く年だよ」
「じゃあ今年受ける限度の苦難を収め切ったんですかね。これ以上悪いことは起きないですよね。明日からリセットなんですよね。私ここでセーブしますよ」
お寺がセーブポイント、て。これ現実ですよ。
チョコバナナの割り箸を握り締め、うわ言のように畳み掛けてくるミズガシ。ナキヒトとシロツメは返す言葉がなかった。早く魔王を乾燥機に入れてあげないと死んでしまう。
あまりにも哀れなので、ナキヒトはポケットから取り出したポケットティッシュ(重複にあらず)をミズガシに差し出す。
「とりあえずこれで拭けよ、背中を」
「貴重アイテムをありがとうございます。これ「県内乗り捨て無料」ってチラシ挟まってるんですけど、レンタカー会社と契約してるんですか?勇者のスポンサーなんですか?」
「知らねーよ。駅の斜め向かいにあるだろ、レンタカーが。ティッシュもらっただけだよ。そこでシャツも配ってたんだよ」
「粗品程度に、景気いいですね」
「ホントだよな」
「来年から消費税が上がるって言うのに・・・・」
世間では重大事項だが、魔王が言うと妙に細かいし、世界の命運に関わる発言に聞こえる。
「その内、私達にも税金かかるかもしれないですよ。勇者税、魔王税とか」
「何言ってんだお前。兎角、俺ら建物とかぶっ壊すからな。経費でどうにかなるもんじゃねえよな」
勇者の行為に因る利益はまったくないが、損害は大いに発生する。最近の損害は市長の健康。(過度のストレスにて入院中)
ナキヒトに勇者の給料はないが、勇者の行いに因る経費は国がすべてを負担し、勇者が建物をぶっ壊しても水道管を破壊しても道路を分断しても、すべて国の国庫から出費する。国の懐が痛むところでナキヒトの良心はまったく痛まない。ただ、市長が入院した件では土下座した。
魔王の扱いはちょっと異なる。勇者と戦うことで発生した損害、これに関する負担は世界の上位各国が平等担う。担当国は、目に見えぬ神々からの不透明な恩恵に預かるため、決して平等とは言い難い。現在はミズガシが在住する国が四割を負担している。
勇者を有する国家は特にラッキーはない。魔王とセットで帳尻が合う、もしくは、ギリギリ赤字になる。
ナキヒトもミズガシも別にお金なくても困らないが、二人の財布は国家に直結している。屋台で唐揚げを買っても車を買っても個人の財布は痛まない。
「毎年の確定申告で、アサヌマが死に掛けてるって聞きましたよ」
「アサヌマは俺の秘書兼始末人だ。大体、収入がないのになんで俺が収支を報告する必要があるんだよ」
「やってるのはアサヌマ君ですけどね。確定申告って言うか、ナキヒトの被害報告ですけどね。かわいそうなアサヌマ君」
「お前!!お前だっていろいろ壊してるからな!?取り返しが付かないくらいにな!」
「なな、なんですって。あなたがいろいろやらなきゃ私だって平和に暮らしてますからね?ナキヒトのせいですよ」
「なんだとォオ!!風が吹けば桶屋が儲かる的なこと言いやがって!」
「儲かってないから、一銭も!!ナキヒトが黙ってれば私だって黙ってますよ、キイイ!!」
キイイ!!(魔王の咆哮)
「やめて下さいよ~」
シロツメが止めるのも聞かずに掴み合いが始まった。先に手を出したナキヒトがミズガシの顔をひっ叩く。ビターン!!と痛そうな轟音が鳴り響き、除夜の鐘がかき消された。
勇者の先制攻撃に対し、ミズガシも負けじと胸ぐらを掴み返す。反撃に怒ったナキヒトはミズガシの髪の毛を掴んで近くに木にガンガン打ちつける。ご神木が。樹齢五百年の大木が嫌な音を立てて軋んでいる。ミズガシも悲鳴を上げる。
「痛い!!後頭部よりも、確実に背中が痛い!」
「背骨が折れ曲がれ!!」
折れ曲がれ。(命令形)
「折り曲げ厳禁!折れたら困るんですから!こうなったら、これでも食らいなさい対勇者ローキック!」 ジャリッ。
「あいたー!!脛が削れる!!」
「痛いー!!髪の毛引っ張らないで下さいよ!」
参拝客の注目が集まり、なんだなんだ、勇者と魔王の戦いか。おそらく今年最後の見納めだ、応援しようぜ!ということで、赤井とリサちゃんもやってきた。
「がんばれ因幡ー!!俺はお前を応援してるぞ!百人乗っても、」
せーの、だいじょーぶ!!イナバ物置。
「なんですか、それ」
申し合わせたような周囲からのコールに対し、シロツメが怪訝な顔で聞き返す。
「あれ?ご存じない?これ鉄板ネタだったんだけど。実際やると、三人目くらいでボコボコにされるんだけどな!」
「ナキヒト様に無礼なマネを・・・・あなた、やっぱり嫌いです。ここで切り倒します」
言うなり、赤井に向かって大鎌を振り上げる。空気がビシバシ鳴る。
基本は穏やかな気質のシロツメ、勇者に仇為す輩に待ったはなく、命令を待たずに抜刀する。何がなんだか分かっていない赤井は、ポカンとしている。え?ご神木を?そこへリサちゃんが割って入る。
「ごめんなさい、この人は馬鹿なの。ものすごく馬鹿だから許してあげて。わたあめをあげるから機嫌を直して」
「ありがとうございます!リサさんは好きです。ナキヒト様見て下さい、もらっちゃいました!袋がかわいいですね~」
「食い物もらって喜んでんじゃねェエエ!!」
「おっ、機嫌直ったか?俺の大凶もおまけにやるよ」
「俺に大凶を被せてくるな。手渡してくるな」
中吉に大凶を合算したらマイナスになってしまう。そんなことはないが、気持ち的には非常に納得が行かない。まあまあ、と赤井は仲裁に入る。
「勇者と魔王の問題はもっともだが、新年早々から寺社仏閣で騒ぐことはないだろ?あ、もう年明けた?明けましたね、おめでとう!」
謹賀新年、過去形にて。ミズガシがナキヒトの脛を抉っている頃に日付けと年が変わった。ミズガシもようやくナキヒトの手を振り払う。
「赤井さんの言う通りです。私達の争いはもっともですが、新年は心穏やかに迎えるべきではないでしょうか」
「ミズガシ、落ち武者みたいになってるぞ」
「ナキヒトのせいですよ」
落ち武者発言で爆笑した赤井がリサちゃんに引っ叩かれた。
年末に床屋に行ったミズガシは中途半端なところで髪を結っている。あの時、もう三センチ切ってもいいかな、って言わなければ・・・・。
「まあ落ち着いていこうぜ。ここは一つ、俺の大凶に免じてだな・・・・」
「大凶にそんな効果が?」
「ナキヒト様、今日はおみくじるで勝負だって言ったのに、自分で怒ってミズガシ様を殴るのはよくないと思います」
「殴ってねーよ。頭掴んで木に打ちつけただけだよ」
「かなりひどい暴行ですよね。私、落ち武者状態なんですけど」
「俺の脛も三センチくらい凹んだはずだ。引き分けだ」
当初の勝負通り、痛み分けで終了。のちの掴み合いは要らなかったはずだ。ナキヒトは手の中の紙片を持て余す。
「ところでこの紙はどうすればいいんだ?捨てていいのか?燃やすのか?」
「違うぞ因幡。あそこに結ぶのさ」
赤井が指差す先には木造りの格子があった。枠や渡しの棒にびっしりとおみくじが括り付けられ、空間が白く埋められている。なぜかは知らないが、先に倣っての行為。
「ちなみに、おみくじを持って帰ると呪われるぞ」
「嘘だろ」
「ああ、嘘だ」
「赤井、ちょっと住所教えろよ。官製ハガキで年賀状を出してやるから」
「やめろよ!!お年玉付き年賀状は!?」
地味な嫌がらせを働く勇者。わーい年賀状だ!あれ?これ、普通のハガキだ・・・・。ぬか喜びさせる年賀状。
「おみくじを結ぶ前に、ちゃんと読んでみましょうよ。ナキヒトの中吉にはなんて書いてあるんですか?私の中吉は・・・・旅行、盗難に用心することです、って・・・・」
「魔王から盗んだら呪われるな」
「私は呪いのアイテム持ってませんよ!!」
「じゃあ俺は・・・・求人、気に入ったようになります。・・・・勇者やめてもいいのかな」
「ダメなんじゃないですか?他には何かいいこと書いてないんですか」
「お産、支障はありません。産むのか?俺が?」
「ナキヒト様、産むんですか?」
「いや、俺に聞くなよ」
ちなみに、待ち人の欄はシロツメも含めた三人とも、「来ません。もし来たとしても遅くなります」 だった。
アサヌマ・・・・。遠い地のアサヌマに思いを馳せた。
他にもいろいろ書いてあるが、読むといろいろ考えてしまうので、敢えて目を通さない。
「あっ、ちょっと見て下さいよ。「争い事」ってありますよ!」
「なんだと?絶対に俺の方がいい!」
「その自信はどこから来るんですか。いや、私の方が絶対にいいですよ。だって、努力が実るでしょうって書いてありますし」
「魔王が努力など笑わせるぜ。実家で餅ついてろ!!」
勇者から魔王へ謎の罵り。ミズガシは愕然とした・・・・。
「あ、そう言えば私・・・・今年、実家の餅つきに参加するの忘れてました・・・・」
「そりゃ残念。既製品でガンバ」
勇者から魔王へ、心のこもらない慰め。シロツメは目頭を押さえる。明日、餅つきの準備をしようと思った。
「その点、俺の方はいいことが書いてあるだろう。争い事、自分から言うと負けます。控えましょう」
そう言えば思い出した。おみくじで勝負しよう!そう言い出したのはナキヒトだった。
隅々まで読んでも、斜めに読んでも、それ以上のことは書いていない。さらに上下逆さまに読んでみても結果は変わらない。ナキヒトはおみくじを丁寧にたたみ、木枠に結んだ。
「さあ、これで今日の勝負は終わりだ。きれいに終わろうぜ」
「ナキヒトのあがきがすごかったですけどね。なんで裏まで探したんですか」
「ナキヒト様は負けず嫌いじゃなくて、諦めが悪いです」
ミズガシとシロツメもおみくじを結ぶ。人々の願いや運試しの中に埋もれ、きれいさっぱり水に流す感じで、心穏やかに行く年来る年を越したい。
腰に吊ったカタナを取り上げ、ナキヒトは遠い目で呟く。
「しかし、この刃物は今年も使い道がほとんどなかったな」
「もう年が変わってますけど。年末にものすごく活躍したじゃないですか。あれで帳尻が合ったと思えばいいじゃないですか」
「いや、年度末の決算だと考えれば、まだ出番が残されているはずだ」
「ええ~。また何か壊すんですか?勘弁して下さいよ。せめて松の内は心穏やかに生きたい・・・・ニンジンじゃがいも玉ねぎ等を刻む時に使えばいいじゃないですか」
「あと豚バラ肉な。カレーかよ!!」 ドスン!
「うぐ痛い!!」
返すカタナのノリツッコミで胃袋の辺りをドスンとやられた。胃袋から去年の天ぷらそばが出てくるかと思った。元旦から暴行を受けた。
「ナキヒト様~!これ髪にベタベタするんですけど!?」
「うわっ、顔面突っ込んで食うな」
開封したわたあめに苦戦しているシロツメ。もうこれは、髪を丸ごと洗わないと取れない。
「どうすればいいんですか~」
「もう、丸洗いしろ。それが一番早い」
「どんな洗剤を使えばいいんですか!?」
「シロツメ、普通にシャンプーでいいんですよ。洗濯機じゃないんですよ」
「そうなんですか?そんなに簡単なんですか?よかったです~」
「アハハ」
安堵するシロツメ、勘違いを笑うミズガシ。その後ろ姿を見やり、ナキヒトは愕然とした。
ミズガシの後頭部に、べったりバナナの皮。
その頭でずっと歩いてきたのかと思うと、笑いが込み上げるよりも、ゾッとした。なんで気付かないのか。
一気に十歩くらいミズガシから距離を取る。知り合いだと思われたくないから。急に離れたナキヒトに対し、ミズガシは怪訝な表情で振り返る。
「ナキヒト、どうしたんですか?」
「え?俺は因幡ですけど」
「え!?」
ナキヒトは見たこともないものすごい早歩きで、要・丸洗いの二人から高速で離れた。勇者としてあるまじき見て見ぬふり。
2013年アップのクリスマスの続きです。今?平成27年度ですね!(2015.6.6)
ミズガシの、天プロ!が言いたかっただけでの小話ですね!学生時代に住んでいた近所に、ちょっとお高い蕎麦屋さんがあって、大人になってから初めて入りました。すごくおいしい!という思いを込めた小話でした。