魚釣りでバトル!!



市立病院の近くを流れる、川。
アサヌマは釣り竿とバケツを二人に渡し、勝負内容を説明する。
「時間制限は三十分です。魚の大小に関わらず、より多くの魚がバケツに入っていた方が勝ちです」
制限時間が三十分。ナキヒトはアサヌマの頭を釣り竿で叩いた。
「三十分で釣りができるかっつーの。俺は昔、川の主(※魚)とのバトルで、三日三晩寝ずに引き合ったんだぞ」
「えー、どんな魚が釣れたんですか?すごい魚なんでしょう!?」
聞き返したのはミズガシ(※魔王)。勇者と三日三晩渡り合える魚類にドキドキ感が抑え切れない。もしかしたら、二言三言くらい喋るかもしれない。オノレ、人間メ。
ナキヒトはサイズを測る様に両手を広げてみるが、すぐに首を横に振った。
「体長はお前の二倍くらいあった。細かすぎるウロコがびっしりと生い茂り、体表は触るのも躊躇われるほどヌメヌメしており、川の藻がびっしりと絡み付き、思い出せば、ホント、お前の二倍くらいあったよ。お前を二倍のサイズにしたら、川の主そっくりだ。ちょうど二倍だったよ」
「私がヌメヌメしてるみたいじゃないですか!!なんで私を引き合いにしたんですが、私に川の藻が絡み付いているみたいじゃないですか。イヤ!!」
聞かなけりゃよかった表現力。ミズガシを相似で二倍にしたら、川の主。ウロコがびっしり、川の主。あらやだ、川の主?久しぶりー。
アサヌマは、その時その場所に自分が居合わせなかったことにホッとした。しかも、自分の上司が川の主とバトっていた過去は、今、初めて知った。勇者の知られざる過去。
「それで、ナキヒトさんは川の主をどうしたんですか。魚だから食べたんですか?」
「バカヤローテメー。ウロコびっしりでヌメヌメした魚なんか食えるわけねーだろ。食いたくもねーだろ」
「へー。じゃあ、私の二倍サイズの魚を川に逃がしたんですか?」
ナキヒトは、ふと遠い目で遠くを見た。どこ?ひこうき雲?遠くを見すぎている。
「陸に打ち上げられた川の主は、陸上でもなお暴れ続けた。ものすごい生命力だった。その場にいた釣り人を薙ぎ倒しながら暴れ狂い、巨体が跳ね上がる度に舞い上がる土煙、川の主の抵抗は地を揺るがした」
「本当ですか」
「怖いですね」
「幸いにも死傷者はゼロだったが、負傷者多数。未曾有の川の主ハザードだった。到底バケツに入るサイズじゃなかったことは確かだ」
転がるバケツ、転がる釣り人達、舞い上がる土煙。当時の現場を想像し、アサヌマとミズガシはゴクリと唾を飲んだ。水中から引きずり出された川の主の抵抗が目に浮かぶ。アサヌマは目頭を押さえる。
「まさか、そんな巨大な魚が・・・・ミズガシさんの二倍サイズの魚類が・・・・まさか、ミズガシさんが・・・・」
「アサヌマ君、私と比較するのはやめましょう、ね。なんかもう最後の辺りで私が暴れてるみたいになってますから」
「俺は川の主の生命力に敬意を評し、キャッチ・アンド・リリースを試みた。しかし川の主の怒りは収まらず、なおも釣り人達を薙ぎ倒した」
一体どれだけの数の釣り人が犠牲になったのだろうか。早く逃げろよ、もっと遠くへ。ポカーンと見ていたのか。呆然とする気持ちは分かる。
「川の主がこれ以上暴れ狂えば、被害は拡大する。針はグイ飲みされていて、なかなか外すことができなかった。俺は最後の手段で、川の主を川へ帰ってもらうよう交渉した」
「ナキヒトさんが平和的に?」
「ナキヒトの勇者的な力によって?魚と話ができるんですか?」
「殴って川に追い返した」
魚を殴る勇者。特に平和的ではない。交渉もしていない。
昔話にケリが着いたので、アサヌマは用意構え!の合図を出した。
「では、釣り対決!始め!」
ピー!!(ホイッスルの音)
ナキヒトとミズガシは同時に釣り竿を振り、川の中ほどに釣り針を落とす。道具は公平、アサヌマが買ってきた練りエサで勝負する。
「おりゃー!来い、魚め!!」
「おい、静かにしろ」
むやみに叫ぶミズガシ、少しずつ離れていくナキヒト。
「だって三十分しかないんですよ!?焦りましょうよ!!さあ来なさい魚よ!ヘイヘイ!!」
「俺、十キロくらい上流に行くわ」
「それがいいですね。ミズガシさん、おそらく魚釣りが初めてなんでしょうね」

それから二十九分後。

「まったく当たらねえ・・・・」
一人で十キロはなれた場所に陣取ったナキヒトだが、今日はまったく釣れない。
いつもなら勇者の釣り竿には爆釣予感なのだが、ミズガシの雄叫びで逃げてしまったようだ。魚どころか空き缶一つも釣れない。
「あと一分か。どうせミズガシもボウズだろーがよ」
などと呟いた瞬間、十キロ下流から雄叫びが上がった。
「き、来たー!釣れたー!!おおもの間違いなし!!」
「何っ」
ナキヒトは自分の釣り竿を置き去りに、大物をひと目見るため下流へ走る。
「何が釣れた!?」
「すっ、すごいヤツが!来ました!!」
ブルブル震えている竿を必死で掴むミズガシ、後ろでオロオロしているアサヌマ、集まる釣り人、ギャンギャン吠えている散歩中の犬、釣果を期待しているノラ猫、釣り雑誌のジャーナリスト、近所の人々、市立病院の入院患者。集まり過ぎだろう。
「この勝負はもらいましたよ!!おりゃー!!」
ミズガシは川縁でせめぎあう獲物を力任せに引き揚げる。
飛び散る水飛沫、空中を舞う大物の影、見上げるナキヒト達、地元の新聞社の記者。
バーン!と音を立て、大物は陸に打ち上げられた。メッチャでかい。確実にでかい。サイズは、ほぼちょうどミズガシの二倍。
『川の主だーー!!』
居合わせたほぼ全員が悲鳴を上げる。巨体には細かいウロコびっしり、ヌメヌメ、緑の藻が絡んだ魚、間違いなく川の主である。アサヌマはうろたえてナキヒトに問い掛ける。
「川の主を釣り上げたのっていつのハナシですか!?」
「去年の今頃?春?川のここら辺だった」
「最近じゃないですか!!百年くらい前の話かと思ってたんですけど!!しかも、この川!?」
「さすが川の主・・・・俺に殴られた程度じゃピンシャンしてるってわけか」
「感心してる場合じゃないでしょ!!ああ、釣り人が!!ジャーナリストが!!」
久しぶりの大物川魚に興奮したジャーナリストが川の主に近付きすぎ、巨大な口にハムハムされている。食まれている、とも言う。人をも喰らうサイズとは。
針をグイ飲みしているため、ミズガシはなんともできず、ものすごいビギナーズラックに慌てる。ラッキーかどうかは各々の判断に任せるとして、釣り竿を掴んだまま、なおも慌てる。
「えっ、ちょっと、どうしたらいいんですか!?火を起こしますか!?」
当方に食する迎撃の用意アリ。食べたい人いる?
「食えるワケねーだろ!!糸を切るんだよバカ!」
「誰かハサミ持ってませんか?」
「俺がやる!!」
ミズガシはズラッと勇者の剣を抜く。(糸を切るために)
因縁の対決相手が刃物を持ち出したその瞬間、暴れ狂った川の主が大きくジャンプした。着地した先で水飛沫が上がる。

ラスト一分で勝ったミズガシ。
川の主の尻尾だけがバケツに入っている。巨大な尻尾が、小さなバケツに。すっかりはまって抜け出せなくなっている。
尻尾以外の胴体は陸上でドタンバタン上へ下への大騒ぎ。薙ぎ倒される釣り人、食まれる新聞記者、ウロコに咬み付く野良猫集団。市立病院の入院患者、伊勢郎さん(93歳)が呟く。
「ワシはあああ、もっとでかいヤツを見たことが、あるううう」
「マジか!!」
「やったー!私の勝ちですね!」
「あ、そう。ミズガシさんの勝ちですね。三十分経過しましたので」
「俺だって、あと十分あれば!!」
勝利宣言するミズガシ、判定を下すアサヌマ、膝を付くナキヒト。
※川の主はキャッチアンドリリースされました。川に。




(2018.4.15)

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