どうしようかと今になっても迷っている様子のテッドを、フーギは半分呆れながら見た。
「まだそんな顔してる。気にすることなんて全然ないんだよ?」
「そう言われてもさ・・・」
 フーギに言われ、決まり悪そうにテッドが頭を掻く。次いで普段と変わりない自分の格好を見下ろし、更に眉を下げた。
「俺、こんな格好だし。行儀作法なんて全然知らないし」
「だから、そんなこと気にしなくていいって。新年パーティって言っても身内だけの食事会なんだから。さ、行くよ!」
「お、おいっ・・・」
 腕を掴まれ、テッドはフーギに引きずられるようにしてマクドール邸の門をくぐった。


 クレアやパーン、グレミオも席についたマクドール邸の食堂は、この時にしか出さない燭台に花瓶、テーブルクロスによっていつもより華やか且つ厳かな雰囲気に包まれていた。食堂に入ったときはその空気に思わず足が止まったテッドだったが、最後に入室してきたこの家の主であるテオも普段とそれほど変わらない服装だったので、ほっと肩の力を抜いて示された席に座った。
「・・・早いもので今年も僅かとなってしまった。この一年、皆が健康で過ごせたことを嬉しく思う。来年も皆にとって良い年となるよう」
 食事の前に感謝の祈りを捧げたあと穏やかに言ってグラスを掲げたテオに合わせ、皆もグラスを掲げる。それが済むと和やかに食事が始まった。フーギが言ったように身内だけということに加え、グレミオがいつもより更に腕によりをかけて作った料理はどれも美味しく、お腹が満たされていくにつれ作法など気にならなくなり思う存分料理を味わった。それは隣に座ったパーンの普段と変わらない食べ方に影響されていたかもしれない。


「ね、気にしなくて良かったでしょ?」
 窓辺に立ち、温かい湯気をたてているココアの入ったカップを手にして外を眺めていたテッドにフーギが笑顔で声をかけた。
「ああ・・・。最初はちょっと気後れしちゃったけどな」
 和やかな空気のまま食事は終わり、しばらく皆で談笑したあとフーギとテッドはもう遅いからとテオに言われて部屋を出た。そのまま帰ろうとしたテッドをフーギが熱心に引きとめ、それに負けてしまったテッドはマクドール邸に泊まることになった。しかもフーギの部屋で一緒に。さすがにそこまではと思ったが、グレミオに追い立てられるようにして部屋に放り込まれ、結局一緒に寝ることになってしまった。二人分のココアを差し入れ、あまり夜更かししてはいけませんよ、と微笑って言ってグレミオが出て行くと、フーギは楽しそうにベッドを整えて夜着に着替え始めた。彼が使っているベッドは二人が寝ても十分な広さがあるので問題はないが、見た目十代半ばの男二人が並んで寝ることが照れくさいことに変わりはない。結局フーギはまだまだ子供なのだな、と機嫌のいい彼を見てテッドは内心で苦笑した。
「でも早いよね、もう一年たっちゃうなんて。なんか今年はあっという間だった気がする」
「そうだな」
「今年はすごくいい年だったからちょっと残念」
「・・・そうなのか?」
「うん。だってテッドと会えたから」
 屈託なく笑って言うフーギにテッドは言葉を失くす。そして無意識に左手で右手を押さえていた。
「来年もこうやって新しい年を迎えられるといいね」
「・・・・・・・・」
 フーギのその言葉にテッドは曖昧に笑い返しただけだったが、フーギはそれを気に留めた様子もなく同じように外を眺めて街の明かりに目を細める。その時、新しい年の訪れを告げる鐘の音が遠く響いてきた。
「あ・・・! 明けましておめでとう、テッド。今年もよろしく」
「ああ。おめでとう、フーギ。・・・よろしくな」
 向かい合ってぺこりと頭を下げた二人は、目が合うと同時に笑い出した。
「なんか、かしこまって言うと笑えてきちゃうよね。・・・あー、なんか眠くなってきちゃった」
「いつもこんな時間まで起きてないもんな。グレミオさんにもあんまり夜更かしするなって言われたし、もう寝るか」
「うん」
 頷くが早いか、フーギはベッドにもぐり込むとすっかり寝る体制に入ってしまった。
「テッドも早く」
「ああ」
 苦笑しつつテッドもベッドにもぐり込む。独りに慣れすぎているだけに隣に感じるぬくもりに違和感というか戸惑いを覚えずにいられなかったが、次第にそれは心地よいものへと変わっていった。


「・・・フーギ? 寝たのか?」
 先ほどまで朝になったらあれをしよう、これをしようと言っていたフーギがぱたりと話さなくなったので、相槌を打っていたテッドが顔を向けると健やかな寝息をたてているフーギの横顔が薄闇のなか目に入った。
「まったく・・・」
 寝かたもまだまだお子様だ、と笑みをもらすとテッドは上半身を起こしあどけないフーギの寝顔を柔らかい眼差しで眺めた。
「ありがとうな・・・」
 こんな自分と出会えて良かったと言ってくれて。来年も一緒にいようと言ってくれて。
「俺もお前に逢えて嬉しかったよ」
 ―――どうか、この一年も彼にたくさんの幸福が訪れますように。300年前に失くした自分の分まで、彼に天の祝福と加護が与えられますように。
 心の底から願い、フーギの柔らかい黒髪を一度だけそっと撫でるとテッドは再びベッドにもぐり込み、かけがえのない温もりを感じながら眠りへと落ちていった。



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