【 NO.11 二等分 】




それは一枚のおせんべいから始まりました。





「あららぁ」

「残っちゃったのね」

「オジィ、数え間違えたんだろ」

「もう年だし」



それは六角中テニス部の部室でのこと。
ことは数分前にさかのぼる。
いつものように土曜日の部活。午前中の練習も一段落というところで、彼らの監督である通称オジィがくれたもの。
『みんなで食べなさい』
そんな風にして偶々通りかかった佐伯に渡されたものは、一袋の煎餅だった。
なんでそこで煎餅かということは誰もあえて突っ込みはしない。
もともとオジィが持ってくるものはそんなモノが多いのである。
現に、先週は羊羹だった。

そんなわけで一袋のお煎餅は、部活後のカロリーを必要とする男子中学生の胃に無事おさめられることになったのだが。
みんなで1枚ずつ食べて…さて問題が出た。

「それにしても一枚あまりなんてね」

佐伯は苦笑する。
彼らの目の前のテーブルに置かれた煎餅の袋。その中にたった一枚残るそれ。
もちろんみんな一枚で足りるはずはない。
よくよく周囲を見渡せば、特に天根と黒羽はじぃっと熱い視線をその煎餅に送っていた。

「俺はいいよ。お煎餅はそんなに好きってわけじゃあないし」

たった煎餅一枚でいがみ合うなんて佐伯の柄ではなかった。
素早く戦線離脱を申し出ると、それに続くように樹も『遠慮するのね』と辞退した。
残ったのは黒羽と天根である。

「…バネさん、俺煎餅好きだし」

「気が合うな、ダビデ。俺もだ」

「…」

「…」

そのまま話は進展しない。
部室には既にこの4人以外は姿無く。(みんなお昼を食べに行きました)
佐伯は溜息をついた。

「このままじゃあらちがあかないだろ?
二人が譲らないなら、半分にすればいいじゃないか」

「そうなのね、サエの言うとおりなのね」

ぶっちゃければ、佐伯は弁当が食べたかった。
むしろこの状態から抜け出したかったのだが、人のいいパートナーは最後まで見守るつもりらしく。
樹と弁当を食べるつもり満々であった佐伯は妥協策を持ち出すことにしたのだ。

佐伯と樹の言葉に二人は一瞬顔を見合わせ。
少し不服そうではあったが、しぶしぶ承知した。

「しかたねぇな」

「ウィ」

「それじゃあ公正を期すために、俺が半分にするね」

黒羽と天根が頷いた所で、佐伯は無造作に煎餅の袋を持ち上げると。
あっというまに袋の上から煎餅を割ってしまった。
バリン!と小気味いい音をたてて煎餅が二つになる。

しかし。

「…サエー…」

「あー」

困ったような樹の声。
それもそのはず。

煎餅は確かに二つに割れていた。
面積の割合にして、二対一という具合ではあったとしても。

「とりあえず二つにはなったし」

笑ってほら、と差し出す佐伯に黒羽も天根も渋顔が強くなった。
そして二人が同時に手を伸ばした時。
もちろん、大きい方で二人の手がぶつかってしまう。
二人の視線が至近距離でぶつかり合って。

「…ジャンケンするか、ダビデ」

「…ウィ」

お互いに譲り合うという気持ちはとりあえず皆無らしいダブルス二人を見て。
佐伯は本当にこの場を離れてお弁当を食べたくなった。
それでも樹はといえば『がんばるのね、恨みっこなし!』と応援し始める始末。
溜息は何度でも出るもので。

「恨みっこなしだぜ」

「ウィ!」

見れば黒羽も天根も、手をかざしたりして今時古臭いジャンケン必勝法を本気でやっている。
もう関与するだけ無駄と思い、佐伯は傍観を決め込む事にした。

そうして数秒の後、熾烈なジャンケンが始まる。
もちろん勝負は一発勝負。
先に勝った方が大きい煎餅を食べられるという、非常に単純明快なルールの下。
黒羽と天根の手が空を切った。

『じゃんけんポイ!』

『あいこでしょ!あいこでしょ!』

『あいこでしょ!あいこでしょ!』

『っしょ!っしょ!』





「ていうか…」

「すごいのね、もう15回目のアイコなのね」

数えている樹もすごいと思ったが。
とりあえず黒羽と天根のジャンケンは樹が言ったとおり、もうずっとアイコが続いている。
たった二人のタイマンジャンケンなのにもかかわらず、である。
黒羽がグーを出せば天根もグー。
黒羽がパーを出せば天根もパー。
黒羽がチョキを出せば天根もチョキ。
というように。
このジャンケン、終りがない。

「二人とも思考回路が一緒なのかな…ある意味凄くダブルスに向いてるのかも」

「よく飽きないのね」

佐伯と樹がぼんやりと会話している横でも、かわらずアイコだけのジャンケンは続いている。
このジャンケン、ずっと見ていたいな…なんて思った人間はとりあえずいないとして。
時計の針だけがコチコチと時を刻んでいた。
と、そこへ突然扉が開いた。

「あれーみんなまだここにいたんだ」

「剣太郎」

「どこいってたのね?」

元気印よろしく扉を開けたのは葵。
にこにこ笑顔で部室に入ってきた。
よくよく見ると、ほっぺにご飯粒がひとつついていて。

「剣太郎はもうお昼食べちゃったんだね」

「今日はおにぎりだったからさ!もー足りなくて足りなくて!」

大きな声で話しながら葵が寄ってくる。
それでも黒羽と天根のジャンケンは続き。

「あー!オジィの煎餅残ってるんじゃん!
いっただきー!」


ひょいっ

バリバリッ


『あ』

はもったのは佐伯と樹である。
ほんの一瞬で、袋に入っていた二片の煎餅は葵の口に放り込まれてしまった。
葵はそれを美味しそうに噛み砕いて租借している。

『っしょ!っしょ……って!!?』

佐伯&樹よりさらに遅れて気づいたのが、争っていた当人達。
気づいた頃には狙っていたお煎餅は跡形も無く。

「あー!美味しかった!
…ってどうしたの?」

綺麗にかすも残さず食べ終えて葵。ふと気づいた。
見回した周囲の空気がおかしい事に。
というか。

「バネさん?ダビデ?」

この二人がおかしい。
じわじわととてつもなく恨めしそうな顔で、じり…と寄ってくる。
葵の第六感がその瞬間発動!

「わーーー!!?」

とりあえず危機を察して、背を向け部室から素早く飛び出した葵。
そのすぐ後を。

『待てーーー!!けんたろーーーーーーー!!!!!』

見事なハモリ具合で黒羽と天根は追いかけていったのであった。

バタバタバタ
騒々しさはすぐに埃と共に消えて。
残ったのは部室に佐伯と樹の二人だけ。
しばらくあっけにとられていた二人であったが。

「…お昼にしようか、いっちゃん」

「そうなのね、サエ」

ようやく、といった感じ。
お昼にするために、なごやかに部室を出て行ったのだった。







『ゆるさねーぞ!ケンタロ−−−!』

「なんなのさーーー!?」


三人の追いかけっこ…というか葵の逃走劇は、この後午後の練習が始まるまでの間続いたという。







オワリ



 
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木更津兄とさとちんは、これを書いたころにはまだ私の脳内にしっかりとは存在していませんでした。
友達とのサイトのお題の部屋で【ぬくぬく25】を書いたときのもの。
サエ→樹っちゃんは確定している。バネダビも。
剣太郎は、可愛いよね。オジィ、なんか孫にいろいろあげるみたいにみんなに駄菓子とか与えそうですし。