04.幼馴染


ずしりと。
急に背中にかかる重みが増した。
もしかしてと思い、壁にかかっている時計を見れば短針は22時をさしている。
時計に意識を持っていっていたためか、普段は聞き逃す こち こち と秒針が時を刻む音まで耳に入った。
あまりにも的確で、時間通りで。
黒羽は嘆息した。

「おい、寝るなら布団で寝ろよ」

無駄と、過去今までの経験上わかっていながら、それでもお決まりのように言う。
当然背後からの返事はない。
期待していなくても、実際無いとやはり気の抜けるもので。

「おい…おい、ダビ」

首だけめぐらせて背後を顧みるが、生憎と角度が悪いのか赤い髪しか見えない。
もう一度嘆息。
それにあわせ、ゆれた背中の向こうで赤い髪も僅かに揺れる。

「ったく、もう小学生じゃねーだろ」

少しして聞こえてくる。
すうすうという、小さな寝息。
そして背中に広がる、じわりとした他人の熱。
視界の端に収まった床に転がる、開かれたままの雑誌。

「重いんだぞ」

一応語りかける相手はいるものの、返答の無い言葉は独り言のようで。
黒羽は口を一文字に閉じた。
眉間に皺がよるが、それでも背中の気配は動かない。

「…知るか」

言葉を吐き出して僅かの逡巡の後。
黒羽は唐突に背後の重みを無視して立ち上がった。
当然、寄りかかっていた背後の気配は寄る辺を無くして。
結果万有引力の法則にしたがって落下。

ゴッ

かなり鈍い音がした。

「う…てぇー…」

流石に衝撃で目が覚めたらしく、それまで黒羽の背中に寄りかかって惰眠を貪っていた天根がぶつけた後頭部をさすりつつうめいた。
そんな天根の様子に黒羽は悪びれることもなく、天根の前に仁王立ちして先ほどと同じ言葉を繰り返す。

「寝るなら布団で寝ろ」

「…あ?バネさん?」

「『バネさん?』じゃねえっつの。お前、いい加減寝る前に布団行け。その癖どうにかしろ」

「…癖?」

寝ぼけたままの天根に、黒羽は容赦なく言葉を叩きつける。
それでも天根はまだ何をいわれているのかを的確に捉えられず、首をかしげた。

「その、夜10時になったらどこでも寝落ちる癖!いつか死ぬぞ?!」

それは天根の幼い頃からの習慣とも言えるものだった。
昼はそこまで寝汚いことはない天根だが、ほぼ毎日22時にコトリと眠りに引きずられるのである。
それはもう、体内に時計でも置いてあるのかと思うぐらいに正確に。
小学生の頃ならそれも笑い話だが、中学2年になった今でもこの状態では先が不安にもなろうというもの。
しかし、黒羽の心配をよそに、当人はいたってぼんやりとしたままだ。

「あー…俺、落ちてた?」

「ご丁寧に俺の背中でな」

「…スンマセン」

流石にその点は悪いと思ったらしく、天根は手を後頭部に当てたままでぺこりと頭を下げた。
そう素直に謝れれば特別腹を立てていたわけでもないので、黒羽は眉間の皺を緩めると手近に積み上げてあったタオルケットを掴んだ。
そのまま低い放物線を描いて、タオルケットが飛ぶ。

「ほらよ」

「わぶっ」

それはそのまま天根の顔に直撃した。
ばさりと音をたてて頭からタオルケットに包まれて、天根は変な声を出した。
それが可笑しくて、黒羽は口端だけ上げて笑う。

「さっさと寝ろ」

「うぃ」

ついでに枕も投げながらそう言う頃には、天根の目はもう閉じていて。
床にぐるぐる巻きのままで、早くも夢の世界に入ってしまった一つ下の幼馴染に。
黒羽はまた一つ、溜息をつかずにはいられなかった。



「ダビ、本気早過ぎ」










ダビデは夜10時になったら子供みたいに寝落ちしちゃうとかわいいじゃない。
そんな妄想から生まれました。
考えていたのは、自分が眠くて仕方なかった会議中です;;
なんか慈郎みたいでアレですが。ちょっとジロ忍みたいですが。
バネダビでよろしく。

タイトルと少し違っちゃった気もするけど、幼馴染ならではの認識みたいなものとかね。
そんな風に曲解してくれると助かります(笑)