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05.言葉はいらない 長い影が伸びる帰り道。 いつのまにか足早に暮れるようになった夕陽。 その中を。 茜色の空の下を。 歩く。 キイキイと自転車が鳴った。 天根の手が引く、彼の自転車の音は。 夕暮れに溶けて不思議にのびる。 少し前まで聞こえていた蝉の声は、今は秋の虫の音色に取って代わり。 草葉を時折揺らす風も、夏の熱を落としひやりと首筋に触れる。 黒羽は、右手を己の首筋に当てた。 「寒いの?」 黒羽の様子に気付いて、天根が聞く。 「ちょっとな」 黒羽が薄い笑みを見せる。 「秋だしね」 天根が頷く。 「秋だな」 黒羽が返す。 自転車の籠に入った鞄が、道路の段差でがたんと揺れた。 その拍子に、上に乗っていた天根のラケットが弾かれて落ちる。 カツンと乾いた音をたてて、それはアスファルトに転がった。 黒羽の手が伸びる。 天根の手が伸びる前に。 常より長いという天根のラケットは、黒羽の長い指に掴まれて空に浮いた。 「ほらよ」 「ども」 ほんの少しの空中浮遊。 二人の間の空気を渡って、それは天根の手元に戻る。 天根はそれをやや粗雑とも取れる手付きで、再び自転車の籠に押し込んだ。 その様子を目にしながら、黒羽は唯一自分が抱える鞄を肩に担ぎなおす。 教科書や参考書だけが詰まった鞄は、肩に食い込むようで。 黒羽が顔をしかめると、天根は控えめに自転車の籠を指差した。 入れてもいいということだろうが、黒羽は顔を横に振って断った。 見れば、もう曲がり角の分かれ道にさしかかっていた。 「じゃあな」 「うぃ」 黒羽が手を上げる。 天根が一礼する。 【 また 明日 学校で 】 また明日の朝…とは、もう言わなくなっていた。 |
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バネ部活引退後。 二人の登校時間が変わってしばらくしたころの話。 |