テニスボールを高らかに打ち合う音が聞こえるコート。
皆がそれぞれに自分に見合ったメニューをこなしている中。
委員会を終えて遅れてきた黒羽春風は、自分のパートナーがその中に見当たらない事に気づいた。
 
「なんだよ、先にアップしとけって言ったのに…」
 
ぽつりと不満をもらし、けれど彼のパートナーのやる気のなさは今に始まったことではないので。
見捨ててやろうかという気持ちが幾分芽生えたのだが、そんな二人の気質をわかりきってのメニュー配分なのか。
今日の練習は二人で行う事が多く、結局黒羽は面倒だと内心ではぼやきつつ、面倒をかけた張本人を探すべくきびすを返した。
 
 
 
 
−−−そして10分後。
 
 
「いねえじゃんか」
 
部室。トイレ。教室。
とりあえずめぼしい所はおおまか当たってみたのだが、どうにも姿は見当たらない。
かといって、部室にはしっかり彼のカバンがあった所から察するにサボリではないと思われたし。
手は尽くした、もう無理だ。
 
黒羽はイライラする気持ちを諦めへと移行し、今日のメニュー変更を決め部室へと足を向ける。
ほどなくテニス部部室の小さな扉が見えた。
少しさび付いたそれを力を込めて回した先。開いた扉の向こうに。
 
「…ダビデ!」
 
散々探し回った相手の姿を見つけた。
赤茶の髪はいつも通りセットされふわふわと踊っている。
その赤が、どういうわけか部室の隅−−ロッカーと角の合間に座り込んでいた。
扉に背を向けていたそれはしかし、黒羽の声で一つ跳ね上がりついで振り返った。
 
「…バネさん」
 
「お前なにやってるんだよ!
練習はもう始まってんだぞ、俺は先にアップしてろって朝練んときに言わなかったか」
 
どうやら入れ違いになったらしい。
散々探し回った挙句に相手は随分と近くにいたものだから、部活前に要らぬ時間をとられたと黒羽は怒り心頭だった。
火でも噴きそうなその様子に、ダビデは申し訳なさそうに頭を下げた。
ダビデはしゃがんだままだったので、そうすると立っていた黒羽からは益々ダビデの表情が捕らえにくくなった。
 
「ウィ…すんません」
 
素直に謝られてしまうと、もともと苛立ちが持続しない黒羽はすっかり毒気を抜かれてしまう。
しかたなく、一つ溜息の元。
腰をかがめて、拳で一つゲンコツを落とした。
 
ごん
 
小さな音。
 
「って!」
 
「これでチャラにしてやる」
 
「ウィ」
 
大分痛かったらしい。
少し涙目になったダビデをよそに、黒羽はさっさと背筋を伸ばし、丁度ロッカーわきに立てかけてあった自分のラケットを持った。
 
「さっさと行くぞ」
 
遅れた分、少しでも練習したいと思うのが黒羽の気持ちだったのだが。
しかしダビデはしゃがみこんだまま動かない。
いぶかしみ、つま先でダビデの膝を軽く蹴ってみるが、一向に変化の兆しは現れず。
 
面倒なパートナーの状態に溜息をつきつつ、黒羽は赤い頭を空いた手でペシッと叩いた。
 
「どうしたんだよ、なにか悩み事か?腹痛いか?」
 
「…」
 
「ダビデ、おい?」
 
「それ…」
 
「は?」
 
ふいに『ソレ』と名指されても。はたしで『どれ』なのかはまったくわからない。
それでも黒羽が辛抱強く言葉を待っていると、ダビデはようやくというようにぽつぽつと言葉を選びながら話し出した。
しかし、その内容ははっきりいって黒羽にはよく理解できなかった。
 
「俺の名前…天根ヒカル…」
 
「ああ、知ってるぜ」
 
「けどダビデ…」
 
「そら、お前が自分で言ったからだってみんなが言ってたぞ」
 
「……」
 
「おい?」
 
まただんまりをきめこんでしまったダビデに、黒羽はそろそろそんなには長くない堪忍袋の尾が、キリキリいい始めたのを感じた。
それでもなんとか平静を保ち、もう一度辛抱強くきいてやると。
 
突然ガバ!とダビデが顔を上げた。
 
 
 
 
「俺、ツッコミいれて欲しかったんだ!!!」
 
 
 
 
 
キラキラに渇望を込めた瞳。
そして、次第に引きつった笑いになっていく口元を止めることもなく、黒羽。
 
 
一瞬の間。
 
後。
 
 
 
 
「アホかーーーーーーーーーー!!!!!!」
 
 
 
絶叫と共に、黒羽の黄金の右(仮名)は綺麗にダビデの脳天を直撃した。
 
目の前に星が飛んだような衝撃をうけながら。
ダビデは『あのときバネさんがいてくれたら』と思ったらしい。
それを最後に意識が少しだけ遠くにいった。お花畑も見えたらしい。(後日談)

 
 
同刻。
黒羽の声は部活中のほかの生徒にも十分に響くほどの大きさだったのだが、コートで練習している皆の反応といえば。
一瞬だけそちらに注意をむけて、すぐまた戻るといったようなものだった。
 
 
それは六角中テニス部の、いたってごく普通の日常らしい。
 
 
 
 
 
おわり
 
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そんなこんなで『君の名は』の続きのような感じ。
やっぱりまだ書きなれてないころの話なので、言葉使いとかは見てみぬふりでお願いしたい。
お誕生日プレゼントとして、お友達に送りました。