「好き」って言って


それから






それから?









□■□ はなれない手 □□










「ダビデ…好きだ」

「バネさん…」

「愛してる」

「うん」



頷いて、もう一度上げられた顔は日に焼けていたはずなのになぜか白く見えた。
きしり…と二人分の重みにベットがうめく。
そこに腰を下ろした天根。その肩に手を置き、そのまま体を傾けていく。

「んんっ」

唇を押し付ける。
触れた唇はやはり女のものほど柔らかくはないが、その事実が。それが天根のものだということが、驚くほど黒羽を刺激した。
たまらず、薄く開いたままのそこへと舌を滑り込ませる。
驚き奥に引っ込んでいた天根のそれへ接触し、巻き込むように絡めるとぼやけた視界に移る天根の端正な顔が歪んでいた。
眉をきつく寄せて苦しげに目をつぶる。
実際に苦しかったのだろう、息を吸い込む気配はなかったのだし、きっと天根の肺は今これ以上ないぐらい酸素を欲しているに違いない。
なのに唇を離すのを惜しいと、離せないと思ってしまう心が黒羽の腕に力を込めさせた。
肩から背中、もう一方は首の後ろから頭部へと伸ばされた手は離れることを良しとしない。

「むっ…ん!」

じんわりと天根の瞼から涙が溢れた。
黒羽のシャツを握り締めていた手がブルブルと小刻みに震える。
本当に、そろそろ限界なのだろう。
実際のところ惜しくはあったが、黒羽は唇を解放した。

「プハッ!…はっは…」

解放された瞬間、肺に流れ込む大量の酸素。
しばらくは言葉も出せず、天根は荒い呼吸を繰り返した。
独特の癖のある髪が、ほとんど変わらない幅を持つ肩が、それと呼応して揺れるのを黒羽は黙って見ていた。

部屋は灯りもつけずに薄暗いまま。
薄青のカーテンから、僅かに月明かりが差し込んでいるだけ。
男二人で寝るには狭すぎるベットに重なり合うようにして、その場の空気はいまだ沈黙を保ったまま。

「ダビデ」

天根の息が整った頃合を見て、黒羽は再び天根を呼ぶ。
その声に言葉なく視線だけを返す顔に、もう一度唇を寄せた。
今度も天根は抵抗しない。
掴まれたシャツはそのまま、ぎゅうと再び力が込められるのを引きつれる感触で知るが、それだけのこと。

唇は、満足する事を知らないように飢(かつ)えて。
天根を貪った。

キスをするのに目を開けたままだなんて、マナー違反じゃないかと。
そんな話を部活仲間としたことを思い出す。
こんな甘ったるい空気のなかで、関係ない仲間の顔を思い浮かべてしまった自分に、黒羽は苦笑した。
しかしそれを確認する余裕は天根にはない。

普段も眠そうに、もしくは機嫌悪そうに、半分閉じている瞳が。(それがそのどちらの理由からでもない事を、近しい人は知っている)
今日は完全に閉ざされて、涙さえ浮かべて。まるで拒絶しているようなのに。
天根の手は黒羽のシャツに縋りついたまま。
背中がベットに落ちても、それは変わらない。

「ダビデ」

「バネ…さん」

呼びかければ答える。
うっすらと瞳を開ける。
拒絶の意思がないことを、差し出す体。

「ダビデ」

「うん」

「背中に手、まわせ」

「……あ、れ」

言われて、天根はシャツを手放し黒羽の背へ伸ばそうとした。
したのだが。
震えた指先は、そこから離れようとしない。いくらシャツが皺になっていても、なぜか放せない。

「むり」

「そうか」

ぎゅっと握り締められた掌は、何を示していたのだろう。
考えないようにして。考えないようにして。
余計な思考は排除して。
黒羽はその分、唇を落とす事に専念した。
だから天根も、それを受け入れることだけに専念する。

瞼にも。額にも。頬にも。
数え切れないキスの雨。
それを全て、シャツ一枚握ったままで受け止める黒羽より一つ年下の姿。

煽られないはずがない。


けれど。


「ダビデ?」

「うん」

声をかければ開く瞳。
唇を落とせば閉じる瞳。

首を押さえていた手を下方へとずらしていくことも、なぜかためらわれて。
だから優しく髪をかき混ぜる。
ほの暗い中でもうっすらと朱を主張するそれが揺れると、きつく寄せられていた天根の眉が弛んだ。
頬をさすれば、無意識だろう目じりにたまっていた雫がつぅとこぼれた。

それを見ていた。



「ダビデ」

「うん」

「…もう寝るか」

「?」


黒羽の言葉に、うっすらと開いていた天根の瞳が丸くなる。
首を傾げてみせたのだろう、柔らかな髪が黒羽の首筋を撫でる。
それをくすぐったいなと思いながら。

「このまま、寝ちまおうぜ」

もう一度、そう言うと。
天根は少し口を尖らせた。

「きんにくつう…なる」

「体を鍛えるためだと思っとけよ」

「うぃ」

黒羽とベットに挟まれる形で横になっていた天根の、当然といえば当然の答えに苦笑を返す。
天根はわかったのかそうでないのか。
一つ頷いて、あとは何もいわなかった。

黒羽が体を沈めると、長い間シャツを掴んだままだった天根の手がはじめて離された。
流石に下敷きにするのは悪いと感じ、体を天根の少し横へとずらした後、黒羽はその手を取って握り締めた。



「おやすみ、ダビデ」

「バネさん、おやすみなさい」



交わした言葉を最後に、室内は完全に夜闇に包まれた。
繋いだままの手から、トクトクと血の流れる音が響いた気がして。
もう少しだけ、力を込めた。










「好き」って言って


キスをして




抱きしめあって


キスをして










それから先は まだ見えない














 
 
 

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とあるバネダビ祭に捧げたバネダビSS。
未遂な上にありえんくらい甘い…。
書いたあとしばらく封印していた一品。