【冬の日】




日が沈むのが早くなり、気温もぐっと冷え込んで冬らしくなった頃。
夕方の5時を回ればすでに暗くなっていく周囲。それでも例年よりは温暖の傾向だとテレビの天気予報でいっていたが、それにしたって寒いものは寒いと。
黒羽は首まわりに巻いていたマフラーを掴んで思う。
少し前まで綺麗に色づいていた校庭のプラタナスの葉も、先日訪れた季節外れの台風の影響でかほとんど散ってしまい枝ばかりを残している。
足下に落ちる葉を踏みしめて帰路につく、その先に見慣れた色を見つけて黒羽の足は少し早くなった。

「よぉ、ダビデ」

「バネさん」

校門の少し手前。
リュックから飛び出た常識外の長さのラケットと、自転車を引いた後姿。
黒羽の声に振り向いた顔は、けして表情豊かとは言えず。しかしそのかわりというのか、無造作にまとめられた髪は豊かに広がっていた。
黒と表現するにはわずかに明るく、しかしけして茶が混じっているわけではない色。不思議なその髪に縁取られて天根の顔は日の暮れた夕刻に酷く現実離れして黒羽の目に映る。
キィと自転車のブレーキが静かに響く。
黒羽の足が止まると、天根の歩調も自然止まり。
じっと見つめてくる天根の視線には偽りが無い。ただ見ているだけ。

「部活、おつかれさん」

「ああ」

「どうよ、調子のほうは」

「好調も好調…」

「使い古された駄洒落に俺は容赦ねえぞ」

「…こう、調子よく…」

「苦し紛れ」

断続的に流れる黒羽の言葉に天根はごもごもと口ごもり、空を見上げる。
(そっぽを向くと言う方が正しい)
子供じみたその仕草に(実際はまだ14になったばかりの子供なのだが)黒羽は口端を上げて、同じように視線を空に放り投げた。

キィキィと。
思い出したように鳴る自転車の声。そして二人分の足音。
それ以外の音のない、静かな夕暮れ。
静かな夜。
頭上には広がりゆく黒い世界。
旅客機の赤い光が、蒼い星空の中で点滅しながら通り過ぎていった。


「動く星」

「ばか、飛行機だろうが」




吐息は白い名残を残し、消えた。









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12月上旬頃。季節外れの台風が千葉近くにきた時に中途半端に書いてあったものを発掘。
改定前のタイトルは【マフラー】でした。
なにをするつもりだったのか。(昔の自分と向き合いたい)
星空が好きなので、いつも気付くと文章に組み込んでしまいます。