|
もう「好き」の前にはもどれない そう自覚したのはいつごろ? ○△× (まる・さんかく・ばつ) 「バネさん、バネさん」 笑顔で追いかけてくる小さな子供。 身長は同じ位の、もしかしたら自分よりもガタイのいい、けれど小さな子供。 振り向いて手を差し伸べると、体全体で飛びついてきた。 全力だったのだろう、さすがにその勢いを受け止め切れなくてそのまましりもちをついてしまう。 足下にあった下草がちぎれたのか、青臭さが広がる。 落下の衝撃に、腕の中の子供は驚いて目をしばたたかせた。 「びっくり!」 「俺も驚いたよ」 「うん」 会話が繋がらないのはずっと前から。 年齢は一つしか違わないのに、目の前の子供は自分よりずっと心が幼い。 けれどそれは愚かな幼さではなくて。 「ダビデ」 「あい?」 愛しさというんだろう。 呼びかけに素直に顔を上げて返事をする、その頭に手を置いた。 ふわふわの髪をかき混ぜるようにぐしゃりと撫で回すと、猫のように目を細めた。 こんな表情をする時は、機嫌のいい証拠。 「お前、猫みたいだな」 「このまえは犬っていった」 「くだらない事おぼえてんなよ」 苦笑しながら、いまだ地面に座り込んだまま髪を撫で続けてやる。 やっぱり目を細める。喉がなったら本当に猫だ。 「バネさんの手、大きくてきもちいい」 「お前の方がでかいだろ?」 「そうだね」 視線が近い。 声も耳を通して鼓膜まで直接くるぐらい。 子供は手を伸ばしてくるので、その意図を感じて手を合わせてやる。 触れたところは熱かった。 子供の体温だ。 そっと、というと語弊があるかもしれない。 実際はパチン!とちょっと派手に音がしたから。 そうして重なる手は、やはり子供の方が大きかった。 それに対する感想は薄く、子供は何をしたかったのだろう。ただ満足そうに笑う。 「今日はよく笑うな、お前」 「えーかお笑顔はにっこにこ」 「…最近ひねりないぞ」 「いっ」 この体勢からは蹴りも何も無いので、合わせていた手を離してそのまま額を叩いてやる。 ぺちっといい音がして、子供は目をぎゅっと閉じた。 無防備な姿。 「俺はお前のテストの点数が心配だ」 「バネさん心配なし」 「…日本語の勉強、もう少ししろ」 「俺、国語点数いいよ」 「漢字はな」 子供はなぜか漢字テストだけは点数が良かった。 変なところに記憶力が固まっている、というよりは丸覚えなのだろう。 国語に定番の、文中から意味を見出す課題にはいつも三角がついていたのを知っている。 解釈が独特すぎて、いつも子供の言葉は丸をもらえない。 「なんでいつまでたってもカタコトかな」 「カタコト、なかったことにしない?」 「いい加減殴るぞ」 「ごめんなさい」 謝ると、赤い髪がパラリと落ちた。 今朝は朝練がなかったから、ワックスをつけていないのだろう。 ぐしゃぐしゃの髪が益々からまる。 それを片手でかきあげてやると、日に焼けた額が見えた。 いつも見慣れたそれが急に引力を持ったように、視線をひきつける。 惹かれるままに唇をよせると、鼻の奥に子供の匂いが触れた。 音さえしないかすっただけの触れ合いから過ぎると、子供は目を丸くしている。 「バネさん」 「ん?」 「ときめきた!」 「は?」 子供は何が言いたかったのだろう。 ときめいた?ときめきがきた?どっちにしろ言葉が間違っている。 何より、ここで言う言葉はそれでいいのだろうか。 だからテストでは三角なんだよと思ったりもするのだが、今は子供の三角に安堵する。 今の自分に丸の言葉は、少々きつかった。 「バネさんに俺もする」 「いや、遠慮するぞ」 「ケチ」 「ケチでいい」 そのまま顔を近づけてきたので、丁重に辞退する。ふくれっつらはわざとなので綺麗に無視。 そうしていい加減体勢がきつくなってきたので、子供の体を押しやると素直に離れた。 ふいに空いた空間が寂しい。 子供がしっかり立ち上がったのを見て、自分も地面に手をついて立ち上がると。 やっぱり子供は同じ位の背をしている。 一年の違いは、もうあまりないように思われた。 なのに、どうしてこんなにも。 「バーネさん」 「そこを伸ばすなよ」 「バーネさん」 「…」 子供は笑いながら怒られるのを知っていて、楽しそうに声を風に乗せた。 本気で怒られないことをわかっていて、繰り返す。 幼い子供が母親の名前を何度でも呼ぶように、存在を確かめるように。かまって欲しくて? 「バーネさん」 「はいはい」 生返事を返しながら、ポケットに入れっぱなしだった携帯を取り出すと、画面には意味不明な数字の羅列。 おそらく座り込んだときに押してしまったのだろう。 それを綺麗に消去して、表示された時計をみると意外と時間はたっていなかった。 「いまなんじ?おやじ?」 「5時間目が始まるちょっと前」 ゴツンと拳を落としながら、答えてやると子供は痛かったのか頭を押さえた。 その腕を捕まえて、そのまま引っ張りながら歩き出す。 手を引く事に対して、子供の抵抗はない。 その反応のなさにコイツ誘拐されるんじゃないのか、なんて考えてみたりして。 一瞬後にそれが現実にありえないことだと自分でツッコミを入れた。 だって子供は自分と同じ位のガタイをしていて。 独特の長いラケットを自在に振り回すぐらいには筋力があって。 黙っていれば女は寄っても、不審者に攫われる対照にはなりにくい。 なのにどうして考える。 誘拐されるなんて。 ああ、そうだな。 「俺がしたいのか」 「なにを?」 「秘密だ」 「また秘密主義!」 口を尖らせて抗議する言葉を右から左へ聞き流す。 子供はそれを感じて益々口を膨らませた。 でも手は離さない。子供から手を離す事など、ないから。 繋がっていたいのは一緒だから。 でも繋がっていたいと思うのに、理由はきっと違う事で。 子供の全信頼を受容しながら、そのまま引きずってしまいたい衝動にかられる。 きっと子供は幼いから、何も思わずに自分の手に掴まってついてくるだろう。 連れて行かれる場所がどこかなんて考えもせずに。 先が見えなくても目隠しされても何も話してもらえなくても。 きっとついてくるのだろう。 繋がった体温、それだけで安堵して。 「バネさん痛い」 「え?」 知らずに酷く力を込めて握ってしまっていたらしい。 少しだけ顔をしかめた言葉に、慌てて手の力を緩めた。 すると子供はまた笑顔。 小さく鼻歌なんかを歌い始める。 どうして振りほどかないの。 どうして振りほどけないの。 いつかその手をいいように、とってしまうかもしれないのに。 それでも子供は笑顔のまま。 笑えないのは自分だけ。 木々の間を抜けると、丁度チャイムが鳴っていた。 手を離すべき場所まで、あともう少し。 いつか丸の言葉を聞くのが怖いから 君は三角のままでいて そうして 俺には大きな罰を 終 |
|
真面目にバネダビ。 バネさんとダビデでなく、バネダビ。むしろバネ→ダビ。 バネさんにとってダビは今でもあった頃のままの子供。 ダビにとってバネさんは今もお兄さん。 これ以上ないぐらいに近くて、でも恋愛には一番遠い場所。 ダビがいくらなんでも馬鹿になりすぎたかと、むしろ可愛くなりすぎたかと…反省。 頭が弱そうだな…国語はきっと成績あんまり良くないと思います。(て前に書いたら20.5巻でほんとバカっこということが。) ダビデはきっと捉え方が一般と違うから、いい答えだけどちょっと違うんだなーっていう。 模範解答にはならない子。自由なの。心も体も。 バネさんは地に足がついてる子。ついてるから、ついてないダビデを時には羨ましく思うはず。 バネさんはダビデをつれていきたいけれど、地に足のついた子だから連れて行けずにいる。 これはきっと千南も同じなんだろうな。いや、千南は両方地に足ついてるけど。 (あとがき長すぎだよ)(むしろ足りないよ)(わたしホモスイッチ入りすぎだよ) |