梅雨明けが遅かったのに。
明けても雨の方が多いとすら感じたのに。
そんな夏も終わりかけた今日。
 
非常に、厳しい残暑の日。
 
 
 
 
 
 
【ふわふわ】
 
 
 
 
青い空に白い雲。
夏にお決まりの澄み渡ったそれを頭上に、少し強めの風が吹いている。
寂れた屋上にもそれはもちろん等しく吹いていて、屋上の給水塔の影に在った影にも心地よく届いた。
風の届いた、丁度階段口から死角になるその日影。
そこにふたつの人影。硬いコンクリートの床に寝転がる少年達の姿。
そのうちの一つがむくりと頭を上げた。
 
「いたい、げんかい…」
 
「んー?」
 
ぼそりと抑揚無く呟いたのは、柔らかな日差しの色をした髪を後ろで一つに束ねていた天根。
それに、隣に寝転がっていた黒羽が気乗りのしない疑問を投げかける。
天根はそれに返答するでもなく、腰まで起き上がり両手を後頭部へ持っていく。
そのまま、髪を結わえていたゴムを力任せに抜き取った。
まとめられていた髪は、すぐに音も無く天根の肩まで落ちる。
 
「しばりすぎて引きつれたんだろ」
 
「うん、すっげぇいたかった。ねられない」
 
「そら、あおむけになってたら痛ぇだろうな」
 
黒羽が笑ってそう言うと、天根は少し唇を尖らせた。
 
「でももうへいきだし」
 
あきらかに笑われたので不服と思っているのだろう。
でもそんな表情すら、普段無表情に近い天根を知っている黒羽には新鮮で。
 
「なら来いよ」
 
「うぃ」
 
手招きしてすぐ隣を指すと、天根は軽く頷いて。
でもあおむけは懲りたのだろうか、今度は両手を床について、うつぶせになった。
ひんやりとした感触が気持ちいい。
そのまま、天根はもともと半眼に近いような瞼をゆっくり閉じようとした。
が。
 
「やっぱ犬っころみてぇだな、お前」
 
わしわしわし。
 
「…バネさん、あつい」
 
黒羽の手が前触れ無く天根の髪に伸びて、容赦なくかき回した。
その突然の振る舞いに、いくら涼しい日陰とはいえ空調などない戸外。
流石にクセのある髪が首筋あたりに絡みついて、天根はその暑さにうめいた。
けれど黒羽は気にする様子も無く、笑いながら手を動かしている。
 
「ふわふわしてっし、赤茶っぽいし、雑種の子犬みたいだなー」
 
「…ざっしゅ……おおいぬこいぬがざっしゅざしゅ」
 
「つまんねーよ!しかもわけわかんねーし!!」
 
間髪入れず、ぐしゃっと一段と強く髪を掻き回されて、しかも手の力の強くなったものだから。
天根はコンクリートとちゅーをしてしまわないように、気をつけなければならなかった。
 
しばらくそんな均衡が保たれた後。
ふいに、バタン!と振動すら伴うような音が屋上に響いた。
その音が屋上の立て付けの悪い扉を蹴り開けるときの常套音だと知っていた二人は、視線を合わせた。
耳を済ませていると、次いでバタバタと無数の足音と複数の話し声が聞こえてくる。
 
『どこいったんだろーね、二人とも』
 
『登校日だって言うのに、いい度胸だよね』
 
『きっとこのあたりにいるに違いないのね』
 
それは二人にとってあまりにも聞きなれた声であり。
そして慣れ親しんだ仲間だった。
3人が黒羽と天根を探しているのは会話を少し聞いていれば明白。
そこまでしてこの広いとは言いがたい屋上でわざわざかくれんぼをする必要などなく。
 
黒羽は天根の髪に置かれたままだった手で、ペチペチと天根の額を叩く。
きょとんとした表情で見上げてくる天根に自然と笑みが濃くなって。
 
「さて、いくか?」
 
「うぃ」
 
もちろん天根からの返答はYESで。
それを聞いて黒羽はもう一度天根の髪を撫でた。
そうしてその後はすぐに二人とも立ち上がり、仲間たちと合流して階段を降りていった。
ちなみに髪を下ろしていた天根は、日差しの元に出た時にじんわりした汗が嫌で、すぐにまた髪をしばってしまったらしい。
 
 
 
 
終り
 
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普段はきっとこんな見てる方がやきもきするような事を普通にしているに違いないと。
思った。