それはもうお互いに曖昧になってしまった記憶の底。
 
 
 
初めて出逢ったときのこと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ゆうやけこやけ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それはまだ黒羽春風が小学二年生の頃。
学校の友達と、授業が終わったあとも校庭で遊び続け、いい加減に帰宅しなさいと先生に言われ。
仕方なくついた帰り道。
 
いつもならそのままオジィのアスレチック場に向かうのだが、今日はどうしてか行く気にはならず。
(行けばそこにはきっと顔なじみの子がいたのだろうけれど)
春風は道端に生えていた草を一本ちぎって、それを振りながらテクテクと川べりの道を歩いていた。
空を見上げると綺麗な夕焼け。
白かった雲も薄いオレンジ色になり、時折赤とんぼが視界を横切っていった。
 
ふと、それに目をとめたのは偶然。
赤とんぼばかりだった空に、少し色の違うトンボがいた気がして。
(気のせいかもしれないけれど)
思わずそれを視線で追った先に、それはあった。
 
ふわふわと揺れる赤いもの。
川岸の草むらの中で、まだ緑色の多いそこに夕焼けがポツリと落ちたように茜色の部分。
なんだろう、と思いそこへと足を向けたのもその日の気まぐれで。
数歩傍によったところで、春風の耳は小さな声を聞き取った。
 
「っすん…すん…」
 
「ん?」
 
それはとても小さな、泣き声だった。
消え入りそうな声音は、目の前の赤いかたまりから聞こえてくる。
その時、春風の足下でガサリと音がした。
そっと近づいたつもりだったが、足下への注意をおこたってしまったらしい。春風の靴の下には古くなったビニール袋が落ちていた。
突然の物音に、赤いかたまりは一つ揺れる。
よくよく見ればそれは赤い髪の小さな子供だった。
小さな頭を小さな膝にうずめて、小さな背中をよりいっそう小さく丸めて座り込む姿。
なぜか気になって、春風はその隣までザクザクと草を分けて近寄り(もう音がしてしまったので、気にするのを止めた)隣に座り込む。
 
急に隣に座られたのが余程驚いたのだろう。
小さな頭がそっと上げられる。
膝の隙間から少しだけ見えた子供の瞳は薄い茶色で、鏡で見た自分の目や家族の目は真っ黒だった春風はちょっと驚いた。
もっとよく見ようと顔を近づけると、子供はさっと顔を伏せてしまう。
そしてまた、小さくすすり泣く声が聞こえてきて。
春風はたまらなくなって、声をかけた。
 
「こんなとこで、なに泣いてんだよ?」
 
けれど、子供は黙りこくってしまい声を出さない。
春風はそれでも辛抱強く、もう一度同じことを聞く。さっきより、優しめに。
 
「こんなとこでさ、なに泣いてるんだよ?」
 
「…ぼくの」
 
「ん?」
 
「ぼくの…かみ。…へんないろだから」
 
ようやく聞き出した声は、か細く。春風は聞き取るのに思い切り集中しなければならなかった。
そして聞いたその内容に、ぽかんと口を開けてしまう。
 
「なんで?
んなことねーだろ?」
 
春風にしてみれば、目の前に座り込む子供の髪の色も、少しだけ見えた目の色も。
どれも自分にはない綺麗な色で、いいなあとぼんやり思っていたところだったのだ。
けれど、子供にはまったくそうは思えないらしい。
顔を上げずに、もごもごと聞き取りづらい声で言葉を返す。
 
「でもみんな…おかしいっておこる」
 
「おかしくねーよ、綺麗じゃん。
夕日みたいな赤くてオレンジ色!」
 
話を聞きながら、春風はきっとこの子はいじめられているんだと、まだ幼い頭で思った。
いじめていることがどのくらい良くないのか、そんなはかりはまだ春風の中には明確にはなかったけれど、漠然と小さい子を泣かせたりしてはいけないと。
クラスでもガキ大将になりやすい春風は思っていたのだ。
だから、目の前で顔を上げない子供の髪の毛をそっと撫でてやる。
 
「変なこと無いよ。変なこと…あらへん!なんてな」
 
思わず出たのは、昨夜聞いた父親の言葉だったのだが。
(そのあと、母親が父親の頭を軽く叩いていたのだが)
その言葉を聞いて、子供がそっと顔を上げた。
 
「…プッ」
 
そうして、ほんの少しだけ笑う。
子供に笑顔が浮かんだのをみて、春風も嬉しくなって笑った。
 
「笑えるじゃん。そのほうがいいって」
 
「そぉなの?」
 
「そうなの!」
 
小首をかしげてきょとんとする子供に、春風は置いたままだった手で子供の頭をくしゃくしゃともう一度撫でた。
力が強かったのか、子供はぎゅうっと目をつぶる。
その様子がまたおもしろくて、春風は益々笑みを濃くした。
 
「俺は黒羽春風。六角小二年生。お前は?」
 
「…あまねひかる。いちねんせい」
 
「一年か、じゃあ俺よりいっこ下だな。
じゃ行こうぜ、ヒカル」
 
言いながらヒカルの手を掴んで立ち上がらせる春風。
 
「どこに?」
 
行くのか、と問われて。 春風は二ッと笑った。それは先ほどの笑みよりもちょっとイタズラめいていて。
 
「もちろん!お前をいじめたやつんとこに、仕返しに行くにきまってんだろ!」
 
「…うん!」
 
大きく首を立てに振って頷くヒカルに、春風は人差し指をもったいぶりながら立てた。
そしてちょっと物知りそうに。
 
「ばっか!
今時カッコイイ挨拶は『ウィー』だぜ?言ってみ?」
 
「うぃ?」
 
「ん…まあいいか!」
 
 
再び首を傾げて答えるヒカルに苦笑しながら、春風はヒカルの手を繋いだ。
 
そうして暮れゆく空の下で。
二人仲良く、川岸の道を歩いて行った。
上機嫌の春風の『ゆうやけこやけ』に、ヒカルも声を合わせて(わかるところだけ)歌う。
時折歌詞を間違えながら。
それでも楽しそうに、二人の影は伸びていった。
 
 
 
 
 
 
 
ゆうやけこやけでひがくれて
 
やまのおてらのかねがなる
 
おててつないで みなかえろ
 
からすといっしょに かえりましょう

 
 
 
 
 
 
 
 

 

バネダビ幼少期出会い編捏造〜実は花畑でKOIに落ちたっていいんじゃないアナザー〜(長)
つまり花畑でなく川べりの草むらで。(だからなによ)
ずっと前に自サイトの絵板でブツブツいってたものです。
バネとダビは小さいころからの知り合いでもいいけど、このぐらいもいいよねって話。
そして、ダビがその髪とか目の色でいじめられててもいいよねって話。
ダビの駄洒落好きも返事が『ウィ』(アニメでは綺麗に無視)なのも、もとはバネさんの影響よ。
っていうか、バネさんが今のダビを作ってるのよみたいな妄想でした。
(ほんと妄想だ)
(妄想はなはだしい)(盗人猛々しい)(関係ない)
 
そんなハートです。(このコメントが一番わからないよ)