ダビデが顔を腫らして来た。






「なにやってきたんだ、お前」


「ケンカ」




右頬を真っ赤にして、目の上に青タンを作って。
鼻血を拭いた後までありやがる。
もしやと思い右袖を見れば、ガクランから覗く白いシャツは泥と血で薄汚れていた。
『血ってのはなかなか落ちないんだぞ!』という、場違いな首藤の言葉を思い出す。
いつもワックス三種も使ってキープしているという髪型は、乱れに乱れきって。

「『ケンカ』じゃねえだろーが!」

「むぅ」

頭の痛くなる思いでそう怒鳴ると、ダビデはムスッとした顔をさらにむくれさせる。
まったく、どこでしてきたのやら。

「とりあえずあがれ。勉強の前に消毒だ」

「…うぃ」





家で勉強を見てやるという約束をした。
それというのも、机にかじりついてするタイプの勉強をコイツが苦手としていたからだ。
どれくらい出来ないのかと、ノートを開かせて。
見なければ良かったと後悔するほどの、破壊力を持ったノートだった。五教科ともだ。

勉強ときき、なかなか首を縦に振らないこいつを先輩権力を持って脅し…おっと誘い。
部活が終わってから来るというので自宅で待っていればこの状態。


「ったく、目が離せねえな」

「なんで」

「バカ、動くんじゃねえよ!消毒できねーだろうが」

頬の傷にとりあえず消毒液をぶっかけて。
居間から持ってきた救急箱をあさる。よくわからないが、とりあえず傷薬で大丈夫だろうと検討をつけた。
動くな、と言われたからか。
ダビデは口を尖らせたまま、黙っておとなしくしている。
治療のために顔を覗き込んで、黙ってればそれなりなのになあ等と思う。
もっとも、今はダビデ曰く『ケンカ』のお陰で大分ユニークに崩れているが。

「もしも生活指導の宮っちに知れて、部活止められたりしたらどうすんだよ」

「…」

「大体、相手誰だ」

「三年の岡崎と井上と…」

溜息まじりに聞くと、ダビデはしばらく考え込んでからボツボツと名前をあげはじめた。
ていうか。

「おい、何人とやってきたんだ…」

「…四人」

あきれてものも言えない。
もっとも今ダビデが上げていた面子はどっちかといえば嫌な面々だったので、それ以上同情の気持ちなどわかないが。
ていうかコイツ、よく四人相手にこれですんだな。

手にしていたバンドエイドを勢いよくダビデの額に張り付ける。
バチンといい音がした。

「いでっ!」

「ほい、終了!」

「バネさん…乱暴!」

「うるせえ。
で、何でケンカになったんだよ」

普段何を言われても割と受け流す…というか他者の言葉に興味の無いダビデが。
ケンカなどよほどの理由でもあったのだろう。
まあ、つまらなすぎる駄洒落にいちゃもんをつけられたのなら、それはそれで相手の気持ちも納得できるんだが。

「…言ったから」

「ああ?」

ボツリとダビデが呟く。が、小さすぎてくぐもったその声は聞き取れない。
思わず聞き返すと、ダビデは口を尖らせたまま。

「あいつら、バネさんの事悪く言ったから」


間。


「は?」


「だからケンカした。いけんか?…プッ」

とりあえず反射的に足が出たのは。
まあ仕方ないと思う。


「…けが人にこの仕打ち…」

「つまんねーこと言ってっからだ」

床に転がって伸びているダビデに、座布団を投げる。
バフッと鈍い音がして、ダビデの傷だらけの顔が見えなくなった。
慌ててそれをどかそうとする手もまた、あちこち擦り剥けていて。


「サンキュ」


嬉しいと思う気持ちは、しかし伝えるには気恥ずかしく。
口の中で一瞬だけ言葉にして、消した。


「え?何。なんか言った?バネさん」

もそっと座布団の脇からダビデが見上げてくる。

「年下がでしゃばんなくてもいいって言ったんだ」

「…うい、すんません」

言いなおすと、視線が情けなく下に落ちたので。
手を伸ばして髪をぐしゃぐしゃに撫でてやった。
本当に手加減なしに、思いっきり撫でてやった。

「こんのバカ」

「うぃ…」

言葉とは裏腹に上がる自分の口端。
笑っている事は自覚していたが、見せてやる気はまったくなかった。






ところでふと気付く。
ダビデのヤツ、鞄何で持ってねーんだ?







おわり





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ダビデをボコボコにしたかったんです。(酷)
というか、他人の感情に疎いあの子がケンカなんて自主的にする理由は、バネちゃんだろうと。
身長も筋力もあるので、相手はもっと凄い事になっているかもしれません。
しかし、文章の〆方がいつもと同じパターンになりそうだったのを慌てて直したら、凄まじい違和感を放ってくれました。
上手く文章をまとめるにはどうしたらいいですかね。(きくな)