■カブトムシ■□□




夏も終わりに近づいた日。
日中の暑さも忘れ、秋の気配を漂わせ始めた夜の入りに二人、帰路につく途中の事。





「お、カブトムシじゃん」

黒羽は外灯の明かりの下でうごめく、甲虫を見つけて笑った。
その声に天根が足下を見ると、なるほどそれは角も無い為に一見するとコガネムシか何かと間違われかねないが、確かにカブトムシであった。

「まだいんだ、珍しいね」

「産卵を終えたってとこか?」

「さあ」

角の無いカブトムシは、二人の足下でじりじりと動いている。
それをいつのまにか足をとめ、ぼんやり見ていた黒羽が、思い出したように天根を振り返る。

「そういやガキの頃、こいつらが出てくる夢見たぜ」

「へえ」

唐突な話題の転換に、天根はさしたる反応もなく同意の言葉を手短に発音した。
天根の会話には発展性が無いと良く言われるが、実は黒羽も突拍子ないことにかけては天根に通じるものがある。
とにかく思いついたら口に乗せるというような、自分の中の時間を行くタイプで、黒羽との会話に慣れていない人間には時々めんを食らうこともあるほどだった。
しかしそれは日常会話の少ない相手の場合のみで、幼馴染のテニス部面面。まして小さい頃から共に育ったような天根には、今更それを不思議がったりすることはない。
もっとも、二人揃って突拍子ないのだから、これは二人の成長過程で独特な会話システムが組まれたと見たほうが理にかなっているとも考えられる。

ともかく。
天根は黒羽の言葉の続きを受け取る為に、深い闇色の目をじいと見つめた。
その視線を受けて、黒羽は片手を顎に当て少し視線を上にずらして思い出すように言葉を舌にのせはじめる。

「なんかよ、小学校んときか。夏休みにサエや樹っちゃんやお前とか、ようするにみんなとカブトムシを取りに行こうって話になってな」

「ああ、よく行ってたもんね」

「そうそう。そんでな、こいつは夢ん中なんだけど、やっぱ俺らはおんなじように虫かごと虫取り網を持って裏山に行くわけよ。
あ、勿論前日にハチミツとかをクヌギとかに塗っといてさ」

「うん」

「で、俺らは意気揚揚と、前の日に蜜を塗った木のある広場にいったらよ…
こっんなでけえカブトムシと、クワガタがいたんだぜ!」

黒羽は、両手でめいっぱい大きな丸を描いてみせる。

「しかもよ、カブトムシは完璧な丸型でな」

「丸いんだ」

「おお、ちなみにクワガタはすんげえ長い」

「長い」

天根の脳裏には、丸座布団みたいなカブトムシと、ベンチより長いクワガタがぼんやり浮かんだ。
なんというか現実を絶する為に、子供のお絵かきみたいな単純な線だったが。
天根が想像力を豊かにしている間も、黒羽の話は進んでいく。

「俺達はさ、めっちゃくちゃ興奮して網で捕まえようとしたんだ。
けどもちろん網なんかに入るわけ無くてよ。どうしようかって時に、サエが良い案を出したんだぜ」

「夢の中でも、サエさんは頭いいんだね」

「だなぁ」

それは佐伯本人が聞いたら口を開けて呆れそうな会話だったが、生憎と今は帰宅途中の上二人きりであったので、誰もおかしさを指摘するものはいなかった。
黒羽はうんうんと頷き、天根も納得するように一つ頷いた。

「で、サエさんの案て?」

「それがな、折角こんなに大きいカブトムシなんだから、乗って帰ろうぜっていうんだ」

「乗るの」

「おう、乗った乗った。お前と俺と剣太郎はカブトムシ。サエと樹っちゃんは一匹のクワガタに二人で乗ってよ。
亮と淳もクワガタ二人のりで、生憎と聡のぶんだけはなかったんだ」

「で、虫に乗って山を降りたの?」

「それがさ、飛んだんだよ!こう、びゅーってな。ふわーって!
みんなでカブトムシやクワガタに乗って、家まで帰るんだ。空が青くて、すんげえキモチよかったこと覚えてるぜ」

「SKYですかい?」

「おう!」

天根の不意打ちのような駄洒落に、黒羽は落ち着いたまま夢を思い描くような笑顔で、思い切りそれはもうしこたま、天根の後頭部に蹴りを入れた。
とてもいい音をたてて、天根の後頭部が鳴り、次いでカブトムシやら羽虫のいる地面に膝を追って崩れ落ちる。
そんな天根の様子を視界の隅に置きざりにし、黒羽は止めていた足を再び自宅に向かって動かし始めた。


ちなみに。
昔話のせいか、妙に上機嫌になった黒羽が「空も飛べるはず」を口ずさんでいたのは誰も知らない事。
つけくわえるなら、綺麗に置いてけぼりにされた天根は、寝転がった場所が場所だけに、自慢の髪の間に羽虫がうんとこさ入ってしまい、その日の風呂は1時間以上かかったらしい。

黒羽のスピッツ話は話題に上がる事はなかったが、後日天根の羽虫事件は佐伯の知れることとなり。
しばらくはそれが六角テニス部の、酒の肴ならぬ、アサリの肴になったのだった。





おわり
 
 
 

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なんかどうしようもない感じに、どうしようもなくギャグ落ち?になりました。
バネも大概にボケだという話。
バネのいっている、カブトムシに乗って空を飛ぶという大変メルヘンな夢は、実際に私が小学生の頃見た夢です。
どうにもインパクトのあるメルヒェンな夢だったために、今も思い出せるという…。
しかしどうにもしまらない文章になってしまったなぁ。