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黒羽の視線に気付いて、天根が顔を上げる。
「なんだよ、バネさん」
当然の疑問に、黒羽は沈黙したままだった。
天根の顔に不機嫌の皺が寄せられる。それでも黒羽は黙ったまま、ただ天根を見る事をやめようとしない。
天根は嘆息して、視線を自分の手元に戻した。
時々、黒羽はこうして天根の理解できない表情をする時がある。ただ、それだけのことだ。
自分は馬鹿だし、黒羽はそうでない。だから理解できない。そんな事はもう大分前からわかっていること。
天根は黙々と手にしている黒い機械の塊を手入れしていた。重く硬い、容易く人の命を奪う事のできるそれを馴れた手付きで扱う。
まだ黒羽の視線がもの言いたげに刺さるのを感じる。
でも話す言葉が見つからないので、黙っていた。
しばらくそのどうにも重い空気が続き。
「お前…慣れたな」
ふいに黒羽が口を開いた。
「慣れたって…なに今更」
黒羽の言葉の真意がわからず、天根は眉根を寄せて顔を再び上げた。
存外に黒羽の顔が近くにあり、息を呑む。
そのまま口づけられるのだと悟って、瞼を下ろした。
ぬるい他人の体温が内臓の一番近くで交じり合う。
その中で。
『今更か…本当に、今更だよな』
黒羽の自嘲にも取れる声が耳に残った。