[6]

後味の悪い、仕事だった。

「バネさん、何拗ねてんのさ…」
「拗ねてねーよ」
「嘘」
「…後味、悪かったなと思ってよ」

黒羽の脳裏に数時間前の出来事がよぎる。
それはいつもと同じ仕事だった。
いつもと同じ、そう。
同じように天根は引き金をためらい無く引いた。
銃口を向けた相手は。

「まだガキだったんだぜ」
「だから?」

天根はきょとんとしている。
首をかしげて、頭上にある黒羽の顔を見上げた。
息がかかるほど近い距離で。
天根の疑問は黒羽の胸に痛みを与えた。

「別に、相手が子供だって関係ないし。
あいつは『敵』だよ、バネさん」
だから撃ったんだ。
当たり前。

迷いの無いその答えに、眩暈がする。

「じゃあ…じゃあ俺がもしもお前に銃を向けたらどうする」
「え」
「俺が組織を裏切って、組織からお前に俺を消すように言われたら」
「なに」

「お前は、俺を撃つか?」
(今日と同じように。今までと同じようにためらい無く)

こんなことを話しているのに。
黒羽の顔は静かだった。
何の感情の揺らぎも無い、無に近い心の見えない顔。
天根は目を瞬かせる。
こんな黒羽を見るのは初めてだった。
今までも理解できない表情をしている時は稀にあった。それでも、ここまで何も無い顔をみせられたのは初めてで。

「なに、言ってんの?」

言葉が上手く出てこない。
天根は自分でもわかっている足りない頭で、必死に黒羽の言葉を反芻した。

バネさんが俺に銃を向ける。
バネさんが組織を裏切る。
バネさんが俺の前からいなくなる。
俺がバネさんを撃つ。

「だ、って…バネさんは『仲間』で」
「どうしてもやむ得ない事情があったら?」
「でも…ずっと一緒で」
「『上』から俺を消せと命令されたら?」
「それは『上』の言葉は絶対で…でも、で…も」
「ダビデ…」
「わ、かんねぇ…わっかんねえよ、俺」

天根は額をおさえて、唇を噛んだ。
ぶる、と天根の体が震えたのが、繋がりあった場所から伝わる。
黒羽の体の下に組み敷かれたまま、天根は瞳を強く閉じた。
自身の中のパラドクスに、初めて直面したのだろう。
わからない、と小さく繰り返す天根は、迷い子のようだった。
震えるその唇に、黒羽は自身の唇を沈黙の下に降ろす。

「冗談だよ」

紡がれた言葉は、天根の中の矛盾を隠すためのもの。
その声にうっすらと天根の瞳が開かれる。
薄く水膜のはった先に見えたのは、いつも通りの黒羽の苦い笑みだった。
その言葉を最後に、室内は闇に閉ざされる。
布地の波だけが幾重にも折り重なり、変化して過ぎた。

意味のある存在など。
知らなくて良かった。