[7]

「どうして…」

ぼんやりと天根はつぶやいた。
手にしていた拳銃を取り落とし、ふらりとその場にしゃがみこむ。
まるで体の芯から力が抜けてしまったよう。
黒い塊ががしゃりと落ちた先、横たわる人をただ視界に収めて天根はまた呟く。

「どうして」

答えは返らない。
何に対する、誰に対する疑問なのか。
目の前のものは答えない。天根の言葉だけが空しく響く。
そろそろと目の前に投げ出された手をとれば、それはまだやんわりとぬくもりを天根の冷え切った指に与えた。
しかし、与えただけだ。
それ以上の反応は無い。
そして、唯一伝えられてきたぬくもりも、少しずつ消え去っていく。
じわじわと生命そのものが抜けていくようなその感覚に、天根は我知らずぎゅうとその手を握り締めた。

「どうして!…バネさん!!!」




叫びは喉をいためたらしい。
天根が飛び起きた時、喉の奥から鉄錆びた味がしたから。
どくんどくんと五月蝿く鳴るのは、きっと自分の心臓の音。
こんなにも貪欲に命を主張している。
荒い息のまま、視線を横にずらすといつも通りの顔があった。
すうすうと軽い寝息をたてて、横で眠り込んでいる相手。
夢で見た、それよりずっと顔色はいい。
水でも飲もうと思い体を起こそうとしたが、その時になって天根は黒羽の腕にがっちりとホールドされているのに気付いた。
見た目の細さよりずっと力のある腕だ。
天根が軽く身じろぎした程度では外れるわけも無い。それどころか、天根がもがいた事で逆に離すまいと強く押さえ込まれてしまう。

「…なんだよ」

困惑してもう一度、眠る黒羽の顔を見る。
と、その顔が。いや、正確には天根の視界がぼんやりと歪んだ。
不思議に思い目を瞬かせると、ぱたりと雫がシーツに落ちた。目の前で水を吸い込み灰色に変色していくそれ。
ぱたり、ぱたりと何度でも落ちていく。

「なんだよこれ、なんで…俺…」

不安なのか
安堵なのか
悲しみなのか
喜びなのか
それ以外の何かなのか

天根の内から湧き上がる感情の揺らぎ。
それに名をつけるには、天根の精神はいまだ幼すぎた。

そしてただ夜闇に小さな疑問と、ほんの少しの涙が残されることとなる。