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夜がふける。
大分前から壊れて使い物にならない鍵がきしむ窓に、ネオンが映りこむ。
所々ヒビの入った硝子窓はだらけた原色の洪水を室内に乱反射させ、窓際に置き去りにされたしなびたサボテンの鉢から砂が舞い上がっていた。
隙間風と称するとなんとなく心わびしい気になるのは何故だろう。
実際、窓の完全に閉じられない隙間から忍び込んでくるのだからそう認識するのが妥当なのだが。

ネオンの明かりしかない部屋。
光源がないわけではない。電気が止められているわけではない。
ただ、今は闇に紛れたかった。

黒羽の手が天根の頬に伸びる。
だらしなく降りた朽葉色の髪が指先に絡んだ。
肘にふとした感触。天根の指だった。
そろそろと伸ばされたそれは、きゅうと黒羽の腕を掴む。
誘っているのか。すがっているのか。
黒羽はそれをいいように解釈した。

黒羽の顔が近づいてくるのを、天根はうっすらと瞳を開けたまま待った。


口付け、というには深いものが闇の中落ちていく。
舌先に残るニコチンが、酷く苦かった。


触れ合う事に、言葉はいらなかった。
少なくともこれまでは。