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[17] 単調な着信音が鼓膜に届く。 天根は酷く重く感じる瞼を二度三度瞬きし、ゆっくりと開いた。 薄汚れた天井。 見慣れた壁。 首をめぐらせて周囲を見、その風景から黒羽の部屋だと思い当たる。 次に反動をつけて上体を起こそうとして、上手く行かずに上がりかけた半身が再びベットに落ちた。 ドサリと軽い音。 空気中に舞い上がる埃が、窓から差し込む光に照らされて見えた。 頭を枕に沈めたまま、天根は右手を握り・放し・握りを繰り返す。関節がごわごわに固まっているようだった。 きしんでいるのは右手だけではなかったらしく、同じように左手・右足・左足と動かすと、そのどれもが久しぶりに駆動したかのように不調を訴える。 気のせいか頭まで重くひずむようだった。 ともすればそのまま閉じそうになる瞳をこじ開けて、天根は再び室内を見渡す。 ベットサイドに椅子。その横に水桶とタオル。新聞紙は床に散らばったまま。 見慣れた部屋に、見慣れた姿は無い。 何故?というもっとも単純な問いは、天根の身体を動かす事に成功した。 ゆっくりと慎重に、手をついて身体を起こすと、左肩が意識せぬ位置で痛みを訴える。 そういえば撃たれたのだった…ぼんやり思い返しながら壁におざなりにかけられた日めくりのカレンダーを見る。 天根の記憶にあるよりも2日ほど経っていた。部屋の主が日めくりを怠っていなければ、丸二日間ほど眠り続けていたことになるだろう。 どうりで。 ふと、カレンダーのすぐ下にある小さなテーブルの上に視線がとまる。 煙草や紙くずにまみれて無造作に置かれている、小さな機械の集合体。 「…携帯」 先ほど耳に届いたのは、この音だろうか。 きしむ腕を伸ばし手にとったそれは、天根所有のものだった。 画面は一件のメール着信を伝えている。 天根のメールアドレスを知っている者は多くは無い。もともと筆不精で無頓着な天根には、メールよりも必ず返事が返される直接通話の方が利用率が高いためだ。 短縮ボタンを親指で軽く押すと、最短ルートでメッセージが表示される。 温かみも何も無い、言葉だけを伝えるための電子画面にはたった一言。 『gleam』 その文字を脳裏に納めると、天根は携帯を掴んだままベットを抜け出した。 ← |