たとえば偶然。
電車に乗って。
運良く座席が二人分空いていて。
並んで座り、いつものように体重を預けると拒む空気はなく。
受け入れられて、瞼を閉じた。
 
 
 
「なんや、電車に乗っとると泣きたくならん?
ノスタルジィやね」
 
ふいに呟かれた言葉。
後方へ刻々と流れていく景色。
背中に伝わる緩やかな振動。
 
向かいの車窓から差し込んだ夕日が瞼の裏を焼く。
オレンジ色の世界。
 
「…ジロ、寝とんの?」
 
声が柔らかに降ってきて、耳朶をくすぐった。
本当はずっと起きていたのだけれど。
どうしてか答える事も重い瞼を開く事も出来ず、寝たふりを続けるしかなかった。
 
傍らで苦笑する気配。
髪を撫で行く感触。
涙がふいにこぼれそうになって。
それが幸いか悲しみか、どちらからのものとも知れず。
ただ、心から湧き上がり溢れかえる。
 
 
ガタタン
ガタタン
 
電車は走る。
暮れ行く夕日の中、幾つもの街を。
電車は走る。
 
 
 
終着点は 遠い。