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時は近代。産業革命前後のヨーロッパと考えて入ただければよろしいかと。 人々の生活に人工の光が差しこまれ、闇に生きる者達が少しずつ追いやられ。 しかし強い人工の光の分だけ色濃くなった闇。 その光と闇が混沌とした時代である。 ヨーロッパのある深い森。その奥に人々に存在を知られていない古城。 そこに住を構えるのは、もう数百という歳月をかさねた吸血鬼。 そしてその吸血鬼を父親とした息子二人であった。 その一人、銀糸の髪に青灰色の瞳を持つ青年・名はシロウという。 シロウは純粋な吸血鬼ではなかった。彼は人間の母親と吸血鬼である父の間に生まれたのだ。 母は吸血鬼である父に見初められ、奪われるようにこの古城に連れてこられたと聞く。 心の弱かった母親は、異形の者の子種を産み落とすことに正気を保てず、シロウを産み落とした日に狂って死んだ。 女を愛していた吸血鬼は女の亡骸をガラスの棺に閉じ込めて、永遠に腐敗せぬよう呪をかけた。 そして女への執着はその血を半分だけ身に宿したシロウへと向けられる。 シロウは幼い頃よりただ、その吸血鬼のモノとして生きることを強要させられていた。 シロウはダンピールと呼ばれる存在であった。 ダンピールとは吸血鬼と人間の間に生まれた者。 日の光の下に出ても灰にならぬ体と、不死と言われる吸血鬼を消滅させる事の出来る力を持つ者。 毎晩のようにシロウを組み敷く吸血鬼は、睦言のようにシロウにささやく。 「お前の力で私を殺してみるかい?」 それはシロウには出来ぬことであった。 それをすれば間違い無くシロウは自由の身となれるだろう。 しかし、目の前の吸血鬼を失えば、自身の存在理由も共に消え去るだろうと、シロウは霞がかった思考の奥で感じていた。 変化は突然であった。 シロウを支配していた吸血鬼が消滅した。 彼は戯れに人の生きる空間へと侵入し、ハンターと呼ばれる者達と聖職者によって、杭を穿たれたのだ。 しかし、それを古城で待つシロウが知るはずも無く。 独りの夜が続いた。 孤独が一月を越えた時、シロウは城を出る決心をする。 理由は自身にもわからぬ。 ただ、己の身のうちから焼け出される炎のような氷のような感覚が、シロウを動かさずにはおれなかったのだ。 日の光に臆する事も無く、人外としての外見的特徴の無いシロウは誰の目に止まる事も無く人の世界へと消えて行った… 人の世界に入って数ヶ月。 シロウは今だに自分が何を求めているの可がわからなかった。 フラフラと足取りも頼りなく街を徘徊する彼は、行き交う人々にどう映っていたのだろう。 しかしそんなことはシロウには関係の無い事であった。 彼にとって世界はあの吸血鬼であり、吸血鬼こそが彼の全てであった。 支えを失った心は瞳を曇らせ、灰色の空をただ映す鏡。 しかし幸か不幸か、彼の外見は目を引く者であり、シロウは若い人間の男達に幾度と無く暴行を加えられた。 痛みすらも遠く。 何もかもが手からすり抜けて行く虚無。 闇の一色に染められた世界。 そこに一筋の光が差した。 朦朧とする意識の中、シロウは光を見る。 意識を取り戻したシロウが初めに眼にしたのは見知らぬ天井。 ついで、見知らぬ男の顔。 男は沈痛な面持ちでシロウを見つめている。 シロウが音を立てないためか、彼はシロウが目覚めた事に今だ気付かない。 男の顎、その髭に気付き、シロウは自分の前から消えた吸血鬼にはあっただろうか?とその場に相応しくない考えを。 「……誰?」 零れた言葉は純粋な疑問。 それに反応したのは藍色の瞳。 男の名は、サイレンと言った。 サイレンは、街の裏通りで倒れていたシロウをその場で見捨てる事が出来ず、自身の住居に連れ帰ったのだと言う。 なんてお節介な人間なんだろう。 これも人間というものなのだろうか? シロウは理解できない。 サイレンは、シロウに行く当てはあるのかと聞く。 行く当てなど、自身が居きるべき場所など無いのだと。それはなんなんだろうとシロウが答える。 サイレンはその藍色の瞳をしばし閉じ。 「それなら私と共に暮らしませんか?」 それこそ青天の霹靂。 なぜ人間である彼が、人外の自分を招き入れようとするのか。 しかし自分の外見が人と変わる事のないものであると気付き、それならば。とシロウはサイレンに応じた。 共に暮らすようになってから一番に気付いた事がある。 これもまた間の抜けた話ではあるが、サイレンは街はずれの教会の神父だった。 それでもいいと。 シロウは彼と共に生きた。 嵐は突然訪れる者。 この町にも慣れ、ある日独りで町にでたシロウを掴む腕。 驚愕に見開かれた青の瞳に映ったのは、鈍い輝きを放つ金の髪。 鋭い眼光を持った男。ニクスだった。 続く。 |
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妄想日記第2弾。吸血鬼ネタです。続き物になってしまった辺りがなんともいえません。 とりあえず士朗が毎回可哀相な目にあってしまうのが妄想日記。 この話、あとエレキもでてきます。 |