つきん つきん つきん
 
痛い
 
 
ずきずきずき
 
痛いて
 
 
もう いやや
 
 
 
『忍足は天才だ』
 
『お前は最高だ』
 
『お前はお前はお前は』
 
 
 
 
テニスしかないんだよ
 
 
 
 
 
■■痛み■□□
 
 
 
 
 
ズクン
 
深いところで鈍い痛み。
ぎゅうっと胃がしめつけられて、ギリギリと雑巾絞りのようにねじられているような。
きっと雑巾もこないな痛みを味おうとるんや。
なんて阿呆な考えで紛らわせるほど軽いものでない痛み。

 
「…っ」
 
左手をジャージの上から腹部に当てて、押さえれば傷みが引くわけではないが無意識の行動。
ダメだ。
今はダメだ。
 
「?どしたんだよ、侑士ー?」
 
ふいに声をかけられて、現実の世界を認識する。
周囲にはいくつもの掛け声。ボールを打ち合う音。
授業も終り放課後。部活のテニスコートに立っている自分。
 
目を凝らすと、ダブルスのペアである岳人が不審そうに顔を覗き込んでいた。
先ほどから会話に乗ってこない相棒を心配しての純粋な行動だろう。
知られるわけには、いかない。
 
「なんでもないで?」
 
ほら、笑え。
 
「ええー?そうか?顔色悪くね?」
 
まだ少し疑惑的な彼の瞳に、万全に映れ自分。
 
「今日はちょお曇っとるし、そのせいやない?」
 
口端上げて。 目を細めて。 出るな、脂汗。
 
じわじわと背筋を這い上がる悪寒。
ギリギリと内側から襲う痛み。
本当はすぐにでもこの場から駆け出して、トイレに駆け込んで胃の中身全部ぶちまけてしまいたい。
思うだけで身体は正直。ほら、せりあがってくるもの。
 
「ちょお、行ってくるわ」
 
「は?何処にだよ」
 
「野暮な事きかんといて〜?お花摘みやん」
 
大きな大きな岳人の目。
そこに真実と映るよう、少し大げさに手振りをつけて。
予想通り、相棒は騙されてくれる。
 
「なんだ、トイレかよ。花摘みとかいうなよな〜。じゃあ俺あっちのコートにいるから、早くこいよー!」
 
からからと明るく笑いながら、目先に居た滝を捕まえに走り去っていく。
 
多分自分が戻ってくるまでの間の練習相手になってもらうつもりなんやろ。
あ、手ぇ掴んだ。
あーあ、滝苦笑しとるわ。
 
顔に笑みを貼り付けたまま。
岳人がこちらを振り向かなくなるのを確認して、すっときびすを返す。
足は少しずつ速くなり。
どんどんどんどん速くなり。
一番近く。クラブハウスのトイレに駆け込んだ。
 
バタン!
 
予想したより大きな音が出てしまい、扉をしめておきながら自分で驚く。
心臓が跳ね上がって。
それに連動するように再び主張する痛み。
後ろでに個室の鍵をかけて、胸の上までせりあがってくるものを解放しようと口を開く。
しかし、ここまでくると逆に頑固なもので。
内側に溜まったそれは喉の奥につまったようになり、なかなか出てこない。
躊躇いは無く、右手の人差し指を開いたままの口に突っ込んで、かぎ状にまげて喉の奥に触れた。
 
「っうっ…げぇっ!げっ…!ゲホォ…」
 
ドバッと。 とたん逆流してくる胃の中身。
どばどば流れて、洋式のトイレに飛び散った。
 
びちゃびちゃ
嫌な音。
薄水色だった水は、たちまち汚れてぐちゃぐちゃになる。
つんと鼻につく胃液の臭い。
それに反応して、胃の壁がヒクヒクいっているような気さえ。
 
「ゴホッ…えっえっ…」
 
二度目の嘔吐はそれに引きずられる形となった。
生理的な涙が瞼ににじみ、視界を曇らせる。
左手でなんとかコックを回すと、激しい水音とともに嘔吐したものが流れていった。
それでもわずかに立ち込めた臭いは消えず、二度・三度と水を流した。
 
 
ようやく空気が清浄といっていいほどになり。
ひくついていた胃の内壁も落ち着きを取り戻した頃合。
手洗い場の蛇口をひねり、手にわずかばかりついた汚濁を洗い落とす。
そのまま顔も洗おうとして、眼鏡をしていた事に気づき濡れた手で眼鏡を外し鑑の前に置く。
ばしゃばしゃと両手で水を掬い上げて顔に当てるようにして洗うと、少しだけ気分が晴れた。
 
生憎タオルをロッカーに置いたままだったので、顔から水気を払っただけで眼鏡をかける。
クリアになった視界で鑑に映った顔は、泣いているように見えた。

 
「…よわよわやん… はは………昼飯、全部吐いてもうたわ…」
 
ぼろりと。 水道水と違う塩気を含んだ水が、頬を伝った。
 
 
 
■□□
 
 
 
「あ、侑士!おそいぞー!」
 
ピョンッと一つ飛び上がって、岳人は走ってくる。
ほとんど汗をかいていないような様子から、まだそんなに本格的な練習はしていないのだろうと思われた。
 
「堪忍やて、岳人」
 
ポンポンと大分低い位置にある頭を叩いて謝る。
手を頭に置かれてチロリと岳人は忍足を見上げ。
フッと表情が曇った。
 
「侑士…目、赤い」
 
「ん?ああ、これな。可笑しいやろ?すっきりしたろおもて顔洗たんやけど、目こすりすぎてな。
ゆうか、男が目赤くしとったら突っ込んだらあかんて」
 
「えー、そうなのかよ。
てゆか侑士、まっぬけー!」
 
コロリとまた表情をかえ、笑うから。
忍足も笑う。
 
「まぬけはないやろ」
 
笑いながら、二人でコートへとむかっていく。
足取りは軽く。
 
 
 
 
ズキン ズキン ズキン
 
鈍い痛みは 続いたまま
 
 
 
今日も ツクリモノの笑顔で
 
 
 
 
 
 

 
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忍足は原作でもほんとうに笑わないキャラなので(試合中なので当然といえばそうかもしれませんが)。
しかもストレスのありそうなA型(偏見)だったので、まだ中学生だし過度の期待に対するストレスから胃を痛めちゃっててもいいかなって妄想。
跡部も周囲からのプレッシャーはあるんだけど、跡部はそれを受け止めて跳ね除けるだけの自分への確固たる自信があるとおもうから。
 
誰にも心の闇を見せられない忍足ということで。