場所は校舎の一角。廊下の中ごろ。





「…くん、仁王くん」

「んん?」

仁王の鼓膜をその音が振るわせたのは突然だった。
眉を寄せて其の音を振り返る。
そこにはレンズの先、意志の読めない顔。

「なんじゃ、柳生か」

「なんじゃではありませんよ、私が何度呼んだかわかりますか?」

「さあ」

実際意識の端に引っかかった回数は1回半だけだった。
けれどその数自体に興味もなかったので、仁王はただすこし肩をすくめる。
唇の下にある小さな星が僅かに上がってみせた。
その仕草に、柳生も肩をすくめる。

「相変わらずですね」

「俺らしいじゃろ」

「ええ、とても」

柳生が頷く。
それにあわせ、仁王は大地を踏みしめていた足を動かした。
合わせていた視線は自然と外れた。
背を向ける形となり、柳生の前には時折冗談のように揺れる銀の後ろ髪が映る。
それを追うわけでもなくただ見つめた。
廊下は思ったよりも短かったようだ。

そして、ふいに視線をずらす。
仁王の立っていた位置、その場所から見えるもの。
窓の枠が邪魔になり全てが見えたわけではなかったが、確実に見えたものがひとつ。

「目は口ほどにものを言い、という言葉がありましたか」

柳生は開いたままであった窓に手をかけて閉めながら、眼下の景色を今一度目にする。
広いグラウンド。薄茶けた土の色。
同学年の何人かは顔を良く知る人間、その中に。
一際強いものを纏うその姿。


「皇帝はどこにあっても皇帝ですね」



指を上げて、窓の鍵に手をかける。
しかし鍵は下りなかった。
窓はかみ合わず、僅かな隙間を残しいまだ開かれている。

窓を抑える手に力をこめると、外と中を寸断する音が廊下に響き渡った。