「よおツガル、またその曲やってんのか?」

かけられた声は突然。
言葉も、脈絡の無いものだった。



階段



「はぁ?何、突然」

いきつけのゲームセンター。
今は平日の夕方といってもまだ早い時間のためか、いつもならみかける顔ぶれがほとんどない。
別に会いたくて待っているわけじゃないけれど…
そんなことを思いながら、一叩きしたあとの第一声だった。
突然すぎる会話のはじまりに、どぎまぎするのが抑えられない。
背中に目立つ赤いリボンを揺らしながら振り向いた先。もう聞きなれた僅かに皮肉の混じったような声。
フードを目深まで被った…達磨だった。

こちらがIIDXの台に上がっている為、少しだけ見下ろすような視線になる。
もともと、年上と達磨は言っているが…その身長はツガルとほとんど変わりが無い。
その曲、と言われてツガルは眉根を少し上げた。
今さっきまで彼女が叩いていたのは、彼女が大好きなOSAMU.KUBOTAのPrestoである。
『また』と言う達磨の言葉の部分に、なんだかもやもやとした気持ちになり。

「別にいいじゃない、私はオサクボ好きなんだから」

と少しだけツンとした物言いになる。
そのままクリア画面を残して台から離れる。すぐに達磨が叩くのだろうと思って体を横によけたのだが、達磨は上らなかった。
ツガルが不思議に思う間に、二人の間をぬって、見知らぬプレイヤーが筐体に向かう。

「…なに?順番待ちじゃなかったの?」

なぜかこちらをじっと見ている達磨の視線。
落ち着かなくて、そう聞いてしまった。
相変わらず、彼の表情はよく見えない。何を考えているのか、読めなかった。

「別に、今日はもう叩いたからな。てゆうかお前のプレイ見てたし」
「はぁ…?」

なんだか話の内容が見えない。
もともと、よく口げんかに近いことにはなるのだが…今日は輪をかけて意味不明だった。
ぽかんと思わず口を開けてしまうツガルに、達磨は何か言いよどんでいたのだが。

「…つか、マジで良く叩けるよな。オサクボ。お前LIGHTプレイヤーだろ?
でも今の7星だったじゃんか」
「え…ああ、だってあの曲はやりやすいもん」

話がIIDXのことに切り替わったので、ツガルも気持ちが軽くなり言葉を返す。
いつのまにか、二人の距離は人1人あけたぐらいになっていた。
デラの話をするのは好きだった。
なんのてらいもなく、年齢も性別も関係なく。1人のゲーム好きとして会話できるから。

「やり易い!?あんな階段だらけの曲がか!?俺あれ系は滅茶苦茶苦手だぜ…」
「えー?何いってんの!?階段ほどやり易いものなんてないじゃない!
私もう少し腕が上がったら、絶対に革命をクリアしてやるんだから♪」
「…うっわ…しんじらんねぇ…俺ぜってぇムリ」
「ムリって…でも達磨だってクリアできてるじゃない…階段どうやってるのよ」

ムリといいながら片手を額に当てて嘆息する達磨。
しかし、彼が余裕で階段を含む曲をクリアしているのをツガルは何度か見たことがあったので、気になって聞いてみると。

「そりゃあれだ。こうやって…ダダダダーンってつぶすんだよ」

と、達磨は片手で鍵盤をつぶすようなしぐさをしてみせる。
それこそツガルには信じられなくて。

「うっそ!そんなんで叩いてるの!?何でそれで当たるのー!!信じられない!」

こうやってやるのよ!と、ツガルも階段を押す真似をする。
それは親指まで使った綺麗な動きで、爪先のネイルが天井のライトに反射して煌めく。
細く白い指先が踊るように。

「…あー…」
「何?」

突然達磨が視線をずらしてあさっての方向を見る。
なんとなく無視されたような感じになって、ツガルは少しムッとした。
しかし、それに気づいているのかいないのか、達磨はそっぽをむいたまま。

「何でもねぇよ。あんま気にしてっと禿げるぞ」
「なッ!!!!なんですって!」
「ひっつめてると、禿げやすいって聞くしな・髪」

平然とそんなことを言ってのける口。
わなわなと震えはじめたツガルの両手。
それが次にどうくるか、達磨にはわかっているはずだったのだが。

「…ッ、はんかくせっ!!!!!」

バッチーーーーーン!!

思い切り頬をはたかれる。
なぜか、わかっていてもいつも避けられないのだ。


「おーおーやっとるやないか♪なんや、また痴話げんかかぁ?」

そこへ楽しそうな声が割ってはいる。
赤い髪を逆立て、タバコをふかして上機嫌な顔見知り。

「痴話げんかなんかじゃありませんっ」
「こんな乱暴者と一緒にすんなよっ」

一斉に向けられた言葉に、それでも彼はにやにやとした笑みを崩すことなく。
丁度空いたIIDXの筐体へと向かう。

「まぁ、あれやな。若いってのはええことや」
「…師匠、親父臭いですよ」
「うっさいわ!ほんまのオヤジに言われとうないわ!」

すれ違いざまのセリフになぜか、この店の店長が参入しツッコミをいれたり。
返されたり。

入口を見れば、いつのまにかドヤドヤと人の訪れる気配。
このゲームセンターに来てから、いつのまにか出来た知り合い。
ほんの数秒もあとには、みんなで声をかけあうことになるのだろう。

達磨と二人きりの時間も終り。
ちらりと、ツガルが達磨の方を見ると。
はたかれた頬をさする達磨と目が合った。

「何だよ」
「何よ」

「何でもねぇよ」
「何でもないわよ」


まるで鏡のように同じ言葉。
ぷいとそむけた頬は、どちらの頬こそ赤かったのか。
誰も見ていなかったので、それはわからないままであった。



そして夜が始まる。










階段はダルツガで。実はダルツガと打とうとして、ダルセムと打ったのはヒミツの方向で。
(別にダルセムを考えた事はないですよ、念のため。ただうっかりセムと打っただけのことです)
はじめて書いてみたんですが、どうにも二人の話し方がわからず未消化のまま。
中学生恋愛ってすばらしい。そんな気はしませんか?
オサクボ譜面は階段好きーにとってはたまらない譜面だと思うのです。
それだけのお話。