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日本特有の蒸し暑さと、梅雨に訪れるふとした肌寒さ。 そんなものが交互に曖昧に続く、7月のこと。 「今年も七夕、雨だったな〜」 「は?何を今更」 呟き、というよりもおそらくその言葉は、他者へと向けられたものであろうそれ。 唐突に振って沸いたような話題に、セムは目をいぶかしげに細めた。 視線の先には、カウンターを挟んで向かい。孔雀がぼんやりと頬杖をついている。 『七夕』などという日本的な話題が留学生であった孔雀の口から出ることも不思議だが、なによりそれが既に過ぎ去っていることがセムの毒舌を強めた。 「暑さでボケたのかジャック。 今日が何日か言ってみろ?」 「…うわっ、今すげぇ馬鹿にされてる気分だ」 「気分じゃなくて馬鹿にしてるんだ」 「もっとひでぇよ、セム」 へたり、とカウンターに突っ伏しながら。 孔雀は情けなそうに眉を下げた。 そんな姿をすると外見が大柄な孔雀は、なんとなく大型犬のようにも見えて。 思わずセムは口端をあげてしまう。 『わらうなよ〜…』などという呟きもその笑みを深くするしか効力はなくて。 「酷いも何も、今日はもう15日だぞ?それがどうして今更7月7日の七夕の話題になるんだ」 ボケたのかと思うのが正当だろう。 そう言い放つセムに、孔雀の伏していた顔ががばりと跳ね上がった。 「仕方ねぇだろ!俺、そんとき撮影でこのあたり離れてたんだし!」 「…ん?…そうだったか」 言われて。 必死な顔で迫られて。 セムは首を傾げて見せた。 忘れられていたのだと、そう思わせるようなセムの態度に孔雀はあげた顔をまたカウンターへと落としてしまう。 続けざま、ぐじぐじと指でのの字をカウンターに描き始める。 「…俺、すんげぇ会いたくて仕方なかったんだけど… つーか、昨日までいなかったろ?俺……。そんなに存在感ないかよぉ…」 「ああ、それで昨日まで店が静かだったんだな。 エリカくんとどうしてかと不思議に思っていたところだ。納得がいった」 うんうん。 頷いてひとしきり納得してるセム。 孔雀の頭上に黒々と暗雲が立ち込めてくる。 ずどーんという効果音がとても似合ってしまいそうな落ち込みぶりだ。 「七夕に雨降って…仲間に織姫と彦星の話聞いて…俺はセムを想ったのに…迷わず!」 「誰が織姫で誰が彦星だ」 ゴツ。 言葉と共にセムの拳が軽く(?)孔雀の頭上に落ちるが、赤い髪が少し揺れただけで孔雀は顔を上げない。 いぶかしく思い耳を澄ませば、なんとなし鼻をすするような音。 「…お前、本気で落ち込んでるのか?」 「うー…!」 溜息と共にセムが声をもう一度かけると、うめきと一緒に少しだけ見上げた孔雀の目。 バチリと合ったそれはずいぶんと赤かった。 気のせい出なく鼻頭も赤い。 「…いったいいくつだ、お前」 「セムとたいしてかわんねーよ…」 「たちの悪い冗談のようだな」 「…俺、もう立ち直れねぇ」 それきり完全に沈没してしまう孔雀。 ぐじぐじ、ずるずる。 まるで子供が泣いている時のような音が、人気のない店内に響く。 しばらくの間それは続いて。 やがていつの間にか振り出したのか。 気づけば窓の外から雨の落ちる音が染み入って来る。 ひんやりと、少しだけ気温の下がった時間。 どれくらいそうしていたのか。 ふぅ… ふいに、小さな溜息が空気を振るわせた。 そして。 殆んど間をおかず。 「いでっ!いってえって!セム!」 孔雀の訴える声。 髪をひとふさ引っ張られて(それほど力は強くはなかったようだが)。 その痛みに眉をしかめて顔を上げたその眼前。 黒い髪と白い肌、赤い目。 驚きにこわばる孔雀の頬に、小さな濡れた感触。 耳に届く、軽くて可愛らしい音。 「…忘れるわけ、ないだろうが…馬鹿が」 聞き取れるか取れないか程度の、小さな呟き。 赤い頬。 眉間を寄せて、しぶい顔。 けれど不機嫌と普段ならとれるその表情も、今はまったく違うものに見えて。 「セムセムーーーー!!!!!」 「続けて呼ぶな!抱きつくな!盛るな!馬鹿もの!」 「大好きだよっ!!」 「俺は嫌いだっ!!」 カウンターを蹴り飛ばさんんばかりに飛び掛られ、抱きつかれて。 セムは顔を真っ赤にしたまま怒鳴り続けることになる。 怒声が止むのは(止めさせられるのは)あと数秒後・・・ :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 7月15日。それは715DAY! そんなわけで久しぶりの(本当に久しぶりの)クジャセムSSでした。 書いてる本人が、一番内容を理解してません。これ嘘のようなほんとの話。 孔雀もセムも以前とは随分性格が様変わりしてしまったような… セム…孔雀を馬鹿馬鹿いいすぎだよ…と思いました。 ラブなんだか馬鹿なんだか両方なんだか。 そんな715でした。 …いけてないなぁ。 |