猫は いつも そこにいるだけ


CAT WALK


うららかな。本当にうららかな春の日。
とあるゲームセンターの横にある路地のゴミバケツの上に寝転がる。
一匹の猫。
全身真っ黒の、目だけが緑色に鮮やかな猫は今日も定位置にいる。


#1YUZの場合

「なんや、猫やん」

赤い髪を天に向けて立てた彼は、バケツの上の猫を見やる。
別に見たくて見たわけではないのだけれど、偶然目が行ったということは日常に多々存在する。

猫が顔を上げた。

「真っ黒くろすけやな」

見た目どおりの感想を簡潔に述べて。
YUZは歩行をとめることなく、路地を通り過ぎた。

猫はひとつあくびをした。


#2セリカと#8エリカの場合

「でさぁ、そのときの店長の動揺っぷりったら…」

「うんうん!」

キャラキャラと笑いながら、通りを歩く二人。
春の風が二人の髪を優しく撫でていく。前髪を抑えようとエリカは反射的に手を上げて。
その拍子に路地の猫が見えた。

「あっ!猫ちゃん!かっわいい!!」

「嘘ッ!やめてよ、やーーー!」

パッと嬉しそうになるエリカと、サーっと嫌な顔になるセリカ。
その大きな声に猫が顔を上げた。

「やーん!目の色緑、すっごい可愛い〜!!」

「バカッ!もしも猫抱っこしたりしたら、お風呂入るまで近づかないでよーっ」

早速近寄って撫でようとしていたエリカにセリカの罵声が飛ぶ。
それにくるっと振り返って、エリカはむっとふくれる。

「馬鹿とかいわないでよー!もう、こんなにかわいいのに」

ねー?と語りかけられるが、猫は前足を丹念に舐め始めた。

「エリカの大バカッ!もう1デラおごってあげないんだから!」

言うなりダッと走り去るセリカ。

「ひど!それこの前のお礼とかいってたくせに!ちょっと待ってよ!」

そうしてエリカも慌てて駆けていく。


猫は今度は後ろ足を舐め始めた。


#3デュエルと#7孔雀の場合

「うっわ!見ろよ、こんなとこに猫!かわいくねぇ?」

「んーどこだよ」

嬉々とした叫び声。
あまりの大音響に、猫は尻尾をぱたりと一回揺らした。

「こう、さ。猫の造形って色々くるものがさぁ?」

「わけわかんねぇぞ…ってお前、これ黒猫じゃねぇか」

わきわきと両手を動かし、孔雀は満面。
その後について、路地を覗き込んだデュエルは顔をしかめた。

「ああ、そりゃあ真っ黒だけど。かわいいじゃん?」

「バーカ。黒猫はな、日本では不吉の象徴だぜ。さっさと行こうぜ」

しっしっと手を払う。
猫は目も空けないで、尻尾ばかりがパタンパタン。

「あ、ちょっと待てよ!俺の1話限りの部下になる話…」

「いいからさっさとこい!不幸が伝染るぞー!!」

最初から最後まで大声の二人。
ようやく大音響の元が居なくなって、路地はまたそれなりに静かになる。

猫はまた一つ、尻尾を揺らした。


#4サイレンと#6ニクスの場合

「こんなとこに猫、かわいいですね」

「ああ、とりあえず腹の足しになる程度には愛をもてるな」

猫は丸まって、ゴミバケツの上で眠っていた。
丸い姿が美味しそうの定義にはまったらしいニクスは、じっと猫を凝視する。
冷や汗の流れるサイレン。

「腹の足し…ニクス、お腹すいてるんですか」

「最近肉食ってネエからな」

もやしばっかりの日々は猫を食おうと思わせるに足りる日々だったぜ。
視線だけだったが、暗にニクスはそうサイレンに伝えていた。
ように思えてしまった自分こそ、もう駄目かもしれないとサイレンは思った。

「ヤキニク…行きますか。お給料入りましたし」

「飲み放題つきでな」

笑うニクスと、肩で焦燥を語るサイレンは表通りを過ぎていった。

猫は丸まったまま。


#9ナイアの場合

「あら、猫」

猫は起きたばかりで、あくびを一つした。
小さな口元が意外と大きく開き、中にずらりと白い歯が並ぶのを見て取れた。

「やっぱり小さい体でもハンターなのね」

ふふと笑って、ナイアはチャイナの裾を揺らしながら歩いていった。
しゃりしゃりと髪飾りが揺れていた。

猫は顔を両手で洗い始めた。


#12ジルチの場合

「ナイア−−−ーーーーー!!!!」

大声と何か大きなものが移動する振動が、路地に響いた。
ドカドカドカと足音。

ジルチが一心不乱に走り去っていった。

猫の毛づくろいは背中にわたった。


#11ケイナの場合

「ふんふん、へぇそれでここを押すと…」

ケイナは手元の携帯を楽しそうにいじっている。

「こうなんや!」

パシャッ!とフラッシュが光り。
ケイナは携帯のカメラ機能で猫を撮った。
撮られた猫の目はまぶしさに、細くなる。

「おー、ほそなるなぁ」

にまにまと笑うケイナ。
しかし、猫が立ち上がる前に携帯が鳴った。

「わわっ!待ったって!…なんやー?」

くるっと背中を向け携帯と会話を始めると、ケイナはそのままの足取りで離れていった。

猫の目はまだ細いまま。


#13リリスと#15セムの場合

「兄さん、猫がいるわ」

「ん?本当だ。しかも黒猫か…」

セムはそう言いながら何かを思案し始めた。
リリスは視線を猫にとどめている。
猫は丁度ぐーっとのびをしているところだった。

「うーん、猫耳と言うのはどうだろう!くるんじゃないか!?」

「そしたら暑苦しい一部の人種に大人気の店になるでしょうね」

最愛の妹からの見事な切り口に、セムは白いスーパーのビニール袋を片手に、冷や汗をかいた。
猫から視線を外したリリスは兄を見上げて。

「冗談よ」

「うん、そうあってほしいぞ」

「でも猫耳はやめてね」

スーパーの袋からは、大根の葉っぱが覗いていた。

猫はのびに飽きて、また丸くなった。


#16ダルマの場合

「あーくっそ、馬鹿馬鹿馬鹿、俺の馬鹿!」

ぶちぶちと呟きながらダルマが通りを足早に過ぎようとする。
ふと、猫のいる路地に目が行ってしまい。

「見てんじゃねぇよ!」

ガンッとゴミバケツの近くの壁に張り付いていた管を蹴った。

「いってぇ!」

自業自得なのに、ダルマは猫をギッと睨んで去っていった。

猫は別に顔もむけなかった。


#17ツガルの場合

「もー!馬鹿馬鹿馬鹿、あたしの馬鹿!」

ブツブツと呟きながら、ツガルはカバンの中から小さな袋を取り出した。
それは『こざかなくん』というおつまみのようなもの。

「でもあいつも最低!誰がカルシウム不足よ!誰が!」

バリッと勢いよくそれを破き、一つ乱暴に口に入れる。
ポロリといくつかが路上へ落ちた。

「そりゃ…怒りっぽいかもしれないけど…」

視線を落としたところに、猫がいた。
ツガルの足下で、ツガルの落とした小魚を食んでいる。

「…もっと食べる?」

しゃがみこんで猫を見る。

猫は一心不乱に『こざかなくん』を嚥下していた。


#5士朗と#14エレキの場合

「うおおおおおおお!!!!!!俺のキティー−−−−!!!!!!」

声と共に飛び込んできた影。
猫は反射的に飛び退った。
だけにとどまらず、スルリと路地の裏へ走り去ってしまった。

「きょうはモンプチを買ってきたのにーーーーーーーー!!!!!」

そんな士朗をとおりの人々は不審気な目で見つめている。
ちょっと離れた街路樹の後ろから、エレキはそれを大きなため息とともに見ていた。

『ばっか兄貴!恥ずかしい奴!!』

そんなエレキの姿も、いっとう怪しく周囲の目にはうつったけれど。
気づかない兄弟。

猫はもう、次のねぐらに向かって歩いていた。



#10識の場合

「おーい、クロクロークロクロー」

「てんちょーなんですか、そのクロクロって」

識は片手に昼ご飯の残りを持って、路地裏に呼びかけていた。
バイトの一人が不思議そうに声をかける。

「クロクロは野良猫だよ、よくここにいるんだけどなぁ」

「猫は気まぐれですから」

店長も早く戻ってくださいよ。
そう言われて、識は手にあった器をゴミバケツの上に置いた。

そうしてすぐに店内に戻っていく。


猫はまだ歩いている。




うららかな。本当にうららかな春の日。
とあるゲームセンターの横にある路地のゴミバケツの上に寝転がっていた。
一匹の猫。
全身真っ黒の、目だけが緑色に鮮やかな猫はもうここにはいない。


猫は どこまでも そこにいただけ

そして今は 同じ街の別の地面の上





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日常を『猫』という切り口から表現できないか。
そんな気持ちで軽く書いてみたもの。肩鳴らし。
リハビリとも。

日常が好きです。
そして猫とか動物は人間のような感情表現はしないことにしています。
心の声とか。そういうのは人と猫は基本的に違ってるだろうし、理解できるはずがないから。
猫はあくまで猫なのでした。
黒猫なのはただ黒が好きだからです。他意なし。
全キャラ書くのが楽しかった!