なんだか体がだるい。
昨日遅くまで本を読んでいたせいだろうか…
向かい合う筐体。
いつもはクリアできる曲も今日は調子が出ない。

これ以上ここにいてもダメだと判断し。
早々に切り上げる事にして、士朗は仲間たちに一声かけると表へと続くフロアに向かった。






伝温






「シローちゃ〜ん♪今日もツーデラで勝負デース!」

大きな声が広いフロアに響く。
背中からかけられた無粋なその声に、士郎は銀髪を揺らしながら振りかえった。
振り返った先には、別の出入り口から入って来たと思われるサイレンが自信マンマンの笑みを浮かべていた。

「……ちゃん付けはヤメロ!」

おもわず反射的に怒鳴り返し、士朗はビッと人差し指を相手の鼻先に付きつける。
指の先に深い青の瞳があり、それは怒鳴られたにもかかわらず輝いている。

「ソーリー♪気付かなかったデス!ソーリーね、士朗ちゃん♪」

実に楽しそうに、そう言ってのける口はこれか…
士朗は頭痛がした。

「サイレン…お前、わかっててやってるだろ……」

額に手を当てうめくように口に出せば、サイレンは心外だとばかりに首を振った。
芝居がかったその仕草に、ますます頭痛が酷くなる。

頭痛ぇ…

眉をしかめ、無意識にこめかみを押さえる。
しかし頭痛は収まらず、むしろ益々酷くなるばかりで。
士朗はきびすを返すと表通りに続く出入り口へ1歩踏み出した。
が、その体は出入り口に到達する前に無理やり引き戻される。

左肩に僅かな痛みを感じて視線をめぐらすと、青いマニキュアを塗りたくった爪が視界に入った。

男のくせに…マニキュアなんてやってんなよな……

なんだか随分マヌケな事を考えていると言う自覚はあった。
しかし頭の奥にかすみがかかったようで、意識がハッキリしない。

「士朗ちゃん!逃げるんデスか!?」

耳の奥にガンガンと大きな声が割り込んでくる。
鼓膜にあたり、脳まで到達しそうだ。
サイレンの声は今の士朗にとって拷問にも近い声量だった。

「俺はもう帰る所なんだよ……」

それでも痛む頭を押さえながら、なんとか声を出す。
うめくような声音に、それでもサイレンは引き下がらない。

「私は今来たばかりデース!勝負するデスよ!!」

それどころかとんでもない至近距離で叫んでくれる。

勘弁してくれ…お前は一体いくつだ…

突っ込みたくて仕方ないが、それを口に出すのすらわずらわしい。
おもわず溜め息がついて出た。

「まだ奥に行けばセリカもエリカもYUZもいるよ…今日はNIXも来てる……あいつらに相手してもらえば良いだろ」

俺は帰るんだから…


「私は士朗ちゃんとがいいんデース!!」

ああいえばこういう。
本当に、何を言っても通じていないようで。
ガンガンと割れるような頭痛はさらに酷く、もはや目を開けていられないほどで。
ぎゅ、と目をつぶった瞬間。

ぐらり。

「士朗ちゃん?」

ああ、だからチャン付けは止めろって言ってるのに…

そう思う自分はどこか遠くて。
足下から感覚が抜ける。

ふ…と体が軽くなって。






「…士朗ッ!!?」











世界が、回って落ちた。












*****


ゆらゆら。
揺れる。
ゆったりとしたリズム。足下から腹に伝わる動き。
なんだかとても暖かくて。
どこか懐かしくて。

「ん…」

おもわず洩れた声に、揺れがピタリと止まった。

「士朗ちゃん、気がついたデスか?」

耳元に届く声が誰のものなのか、一瞬わからなくて首をひねる。
すると反動でさらりと前髪がかかってしまう。

「うん…?」

邪魔だなあなんて考えて。

「士朗ちゃん?」
「サイレン?」

もう一度かけられた声に、その持ち主を思い当てた。
何故サイレンが…そう続けて考えようとして、ずきりと痛みが頭に走る。

「った!」
「士朗ちゃんムリしないほうがいいデスヨ」

それがサイレンに伝わったのか、優しく諭される。
そして、その声が存外に近くから聞こえたのを再認識して。
士朗は目を見開いて状況を認識した。

ゆらゆら揺れるのは、自分の体。
そして腹が温かいのは人と密着しているから。
足は地面から離れて、足には手を回され。

「うわ!何してんだよ!!お前!!」


おんぶ、されていた。


慌てて降りようともがく士朗。
しかしその体を力強い腕がいとも簡単に止めてしまう。

「馬鹿!下ろせ!!」
「駄目デスヨ。士朗ちゃん、ゲームセンターで倒れたんですヨ。家まで送って行きマース」

怒鳴ってみても、まったく気にしやしない。
それどころか、士朗が気づいたことで一度は止まった歩調が再び再会される。
ゲーセンに着いたときから空は暗かったので、もうあたりは完全な闇だが。
それでもまだまだこの都市(まち)が眠るには、早すぎる時間帯である。もちろん往来には人々が行き交いし。
見られている。
そんな気がした。

「止めろ!人が見てるだろ!!俺なら歩けるから、自分で帰る!」

恥ずかしい。
いい年をした男が、同年代の男におぶわれているなんて。

とにかく下ろして欲しくて、もがくことを止められない。

「暴れないで下さい。エリカさんも心配してましたよ。皆さんに頼まれました。士朗を家まで送り届けて欲しいって。
だからMEには責任あるデス。下ろせません」

それでもサイレンはきっぱりとそう言い切って、てこでも動かなそうな様子。
そのうち、暴れたためか再び頭がぐらぐらしてきて。

「ちくしょ…恥ずかしいだろ…」

結局、ぐったりとサイレンの背中にもたれる羽目になってしまった。
頭痛のためか、いつもより抵抗の少ない士朗に『本当に具合が悪いんですね』とサイレンは納得しているようだった。
半ば諦めの入った状態。

おんぶされていることを感受することにする。
ゆっくりと上下するリズム。
伝わる体温。


それは酷く懐かしい感覚だった。





自分が幼いころ、父がおんぶしてくれて。
その隣で母がまだ幼い弟を抱いていた。
4人で過ぎた、遠い昔。



暖かな記憶。







「士朗ちゃん?この角は右で良いんデスか?」

背中に聞く。
しかし返答は無く、怒っているのかと思ったが。

スー…スー…

次いで耳に届いた規則正しい寝息に、士朗が眠ってしまったことを知る。
先ほどまで、毛を逆立てた猫のようだったのに。
この身の任せようはなんだろう。



「本当、士朗ちゃんにはかなわないデスネ」






呟きは誰に聞かれることも無く、夜の街に散った。







*****




結局、士朗は風邪ということだった。
原因はここのところの寝不足と、仕事疲れであったが。
元来体だけがとりえの彼はすぐに健康を取り戻し、今日も元気に2DXと向かい合っている。

そうしてサイレンはといえば、あの日にばっちり士朗からもらった菌にやられて。
今日も布団の主ということらしい。




そして変わらぬ日々が繰り返されていく。











はい、お久しぶりです。サイシロです。
キリバン200のリクエストでした。優希魚さんに捧げます。
200という数字が涙をさそいますね…本当に遅くなってしまい申し訳ありませんでした!

実はこれ、前半の部分だけは半年ぐらい前から書き散らかしてありました。
もう続きかけないかも…なんて思ったんですが今回リサイクルと相成りました。
士朗が2946よりも男の子ですよね。と思います。
おんぶの部分の描写が妙にエッチぽくなったのは気のせいじゃないかなー…;;

とにもかくにもサイシロ。
リクエストありがとうございました!!