柔らかな日差しが降り注ぐ

それは 冬のある日






陽だまりの詩



ぽかぽかと暖かな日差し。
まだ季節で言えば冬。
それでも今日は風も無く穏やかで、まぶしくない程度の日の光は空気を和らげていた。

広々とした庭。
そこへ植えられている木々は全て手入れが行き届いており、まだ訪れぬ春を思って小さなつぼみをつけるものもあった。
玉砂利が敷き詰められたその上に、楕円の石板。
そしてそれらを全て一望できる、木造りの縁側で。
庭をぼうっと見ている姿一つ。

さらさらと、明るい空の下に輝く長い銀糸。
頭の上で一つにくくられたそれは、背中へとまっすぐに流れ落ちている。
その背をおおうのは無地の着物。
飾り気のない薄青のそれは、いつから着ていたのかもう忘れるほどに歳月を重ねていた。
そしてその青よりも鮮明な、瞳。
時間がたつことも忘れ、庭をみつめている少年。


と、幾ばくか後、その視線が動いた。


ぱた ぱた ぱた

視線の向けられた先から耳に届く音。
耳慣れた足音。
それは次第に近づいてくる。

角を曲がり、渡りの廊下を通って。


「兄ちゃん!ここにいたんだ!」

「慧暦」

足早に駆け寄ってきたのは、黒髪の少年。
まだ座っている少年より僅かに年若いようだった。
慧暦と呼ばれた少年は、ほっと一息ついて彼のそばにより、ストンと腰をおろした。
縁側に足が下りて、ぶらぶらと揺れる。
その膝小僧は、擦りむけて僅かに血が滲んでいた。

「…血、出てるよ」

「え?…あ、本当だ。さっき廊下で転んだからかな」

そっと彼が伝えれば、慧暦はまったく気にした様子も無く「唾つけとけばなおるよ」と笑う。
本当に、日の光の下で太陽のように笑う少年だった。
そのまま本当に唾をつけて終りにしようとする慧暦に、彼は懐からハンカチを取り出して傷を抑えた。

「ばい菌が入るといけないだろ?
…あとで雪さんにきちんと消毒してもらうんだよ」

「えー…雪さん怖いんだもん。きっとまた角生やして『どこで怪我したのー!』って怒るよ」

雪はこのうちの年若い使用人の一人だった。慧暦が怪我をして帰るとよく怒っていた。
気さくな女性だった。
慧暦が指をたてて頭の上にのせ、声まで真似て喋るその様子がなんだかおかしくて。
彼はすこし笑った。
ほんとうに、クスッとすこしだけ。

「あ…」

「どうしたの?」

「んーん…なんか久しぶりに兄ちゃんの笑った顔みたなって」

「…そうかな」

彼にその自覚はなかった。
でも慧暦は知っていた。いつのころからか、この僅かに年上の兄が笑わなくなったのを。

「うん、凄い久しぶりだよ。
ね、兄ちゃんはここでなにしてたの?」

「僕はここで庭を見てたんだよ」

「庭?…楽しい?見てて」

慧暦は言葉につられて庭を一望する。
でも、まだ春も遠いこの時期は咲く花もなく、鳥達も訪れない。
ただ木々が眠るように立ち並び、石は無言の世界だった。それを見て楽しいとは、慧暦は思わなかった。

「楽しいよ。日差しがあったかくて…今日はいい天気だから」

「ふーん…」

それきり、彼は理由を話さなかった。
ただ、一度だけ慧暦を見て微笑んで。あとは庭を見ていた。
なんとなく言葉を濁すのもためらわれて、何を言ったらいいのかわからなくて。
慧暦も一緒に庭を見ていた。


ただ。
二人で見ていた。





慧暦の足が、ブラブラと空気をかいた。
彼は、ただ座っていた。


鳥も姿を見せないこの冬の庭で。





暖かな日差し。

小さな陽だまりの世界。





少年達は ただ見ていた。















春はまだ 訪れない














久しぶりの兄弟SSです。
なんかこう、欠片のようなSSが書きたくなって。
陽だまりって大好きです。縁側でぽかぽか、それだけで幸せ。
年齢もとくに決めてないので、一応設定的には籠の鳥なんですが、番外ということで。

いつもお世話になっている優希魚さんに、そっと捧げたいと思います。