ふわふわと



ゆらゆらと













ちゃぷちゃぷ…
耳に入る水音。

かさこそと葉のこすれあう音色に、風が吹いたのを知る。

不思議な話だが、頬を渡る風の存在に。
髪を揺らすその柔らかな感触に。
草の葉ずれがなければ気づくことも無かった。


静かな。
静かな。
夜。

その夜にまぎれそうな、己の髪色を知っている。



空は黒々とし、その中に孤独に瞬く星幾千。

そういえば空を見上げていたのはいつまでだっただろう。
星座をやっきになって探したのは、一体いつのころの話だろうか。

思い出いだすことなどできないけれど。


あいかわらず葉を揺らす風。
気持ちよく撫でていく。
水は変わらず流れている。


ああ、ここは小川だった。


よく目を凝らせば、星明りの下で小さな流れ。
小石に水がぶつかり。
そのたびに、ちゃぷり・ちゃぷりと囁くように。

その周り。
草の茂み。
に。

ぽう と灯る光。


ちか ちか ちか 

点滅する。


ついては消え、消えてはつきの明滅。
その色は薄黄緑。


と、ふわりと目の前を行過ぎた何か。
一瞬の交差。

顔を上げ、目を凝らす。

それは、ふわり ふわりと流れるように。
主軸無く。
飛び交う。




「ほたる?」


空に、そして草の茂みに。
明滅する小さな光。

一匹と思われたそれは、しかし次の瞬間。




ふわ





数え切れぬほどの光となって、辺りを照らした。

一体いままでどこに隠れていたのかという、それほどの数の柔らかな光。
まぶしくは無い、ただ暖かいようなその色。
頬の横を過ぎ、足下を照らし。


灯りの宴。



飛び交う蛍は光のカーテンとなり、少し先。
小川の向こうさえあやふや。
その先で。

一人きりと思っていたこの場所に。

いつのまにか現れた、ひとかげ。





光にさえぎられ。
暗闇に紛れ。
よく見えない。

足が動かず。
なぜかこの場に縫い付けられたよう。

そのひとは、片手に小さな花を持っていた。
ぽう、と光るそれは。
蛍袋(ホタルブクロ)の花。
小さな蛍が一匹、我が居を得たりというように入っている。


ちゃぷ ちゃぷ


水の音。


そして。








「セム」



包み込むような、優しい声。
呼びかけられた懐かしいと感じる声。

久しい音色。


誰。
自分を呼ぶ、あの声は誰のもの。


しかし、蛍の灯り。
闇の黒に阻まれて、かの人の顔を見ることはかなわない。




でもわかる。

あれは。
あの声は。

水面に自身を写しとったような。
あの姿は。




「      」



名を読んだ。その声は音にならなかった。


草葉を揺らした一陣の風に。

銀より白い髪ひとふさが ふわりと揺れて表情を隠した。



























明ける時は落ちる時よりも幻に近い。





瞳を再び開いた時。
目に映ったのは、見慣れた天井だった。
白いそれは、まごうことなき自分の部屋。



ゆめ だった。



「ん…」


傍らに人の気配。
もぞりと動くそのたびに、シーツの上にこぼれるのは夢とは似てもにつかぬ紅い糸。
眠る顔はあどけない少年のよう。

ふと肌に感じた流れる空気。
そういえば自分もまた、体に覆うもの無く居るという事実。
目を落とせば、日に焼けぬ自身の白い腕。
隣に在る、健康的な小麦色の手。

無性に。
腹が立って。



どか


気づけば、隣にいた青年を蹴り落としていた。
小気味のいい音がする。

「…うぅ〜…」

小さなうめき声が床から。
けれど、それ以上続くことなく。
再び規則正しい寝息に変わる。


ばさ


とりあえず。
風邪でもひかれたら目覚めが悪いと。
二枚あったタオルケットのうち一つ。
ほおり投げてやった。

そしてもう一枚に、再びもぐりこむ。


瞼には、新たなまどろみの気配。

薄れゆく意識。

途切れ途切れの思考回路。






その中で。











夢の中の。
彼が笑った。














それは  いつかみた      幻



















蛍です。
先日自分のところの落書きで、なかば犯行予告のように描いていたアレです。
結局書いてしまいました。
えらく抽象的ですいません。
結局クジャセム落ちですいません。

私にとって、AAAはまだ位置のつけられないキャラなんです。
兄弟にするか。
それともそれ以外の何かにするのか。
うーん…?