開放 −暗転部分−





「ね、キスしてもいいの?」

恐る恐るかけられた言葉は、なんだかとてもこの雰囲気にはちぐはぐだった。
それもそのはず。
事実、今声をかけたジャック自身はセムの内部へとすでに入り込んでおり、これから高まっていこうという、まさにその瞬間だった。
先程の状態から一転。
セムは着込んでいたシャツを全て剥ぎ取られ、ジャックもまた身に付けていたものを全て脱ぎ捨てて。
それらは床にめちゃめちゃに散らかったまま。
冷たい床の上で、それを感じさせないほどに熱くなり始めている身体を重ねている。

「は…っあ?お、まえ何を今更…」

「だって、さ。なんか…」

セムが息を詰め、問い返すとジャックは苦笑する。
口の端から白い歯がちらりと見えて、それが意識に残った。

「この状態で赦しをいるようなことじゃないだろ…ん?」

そう言いながら、セムは意識して自分の内部を締め付けた。
それがダイレクトに伝わって、ジャックの最後の理性を根こそぎ剥ぎ取った。

「せ、セムッ!」

言葉と同時に噛み付くような口付け。
初めは唇だけを何度も軽く合わせて。それでも足りず、恐る恐る舌を伸ばせば、驚くほど素直にセムの唇は開いてジャックのそれを受け入れた。
勿論こんなこと、男同士ではやったことなどなかったジャックだったが。
奥へと舌を滑らせるとセムのそれも進んでジャックを迎え入れ、何度となく絡み合い、吸い、踊りあった。
キスは男も女も変わらないのだと。むしろ相手が愛しいと、狂いそうなほど愛しいと思うだけで。
こんなにも甘く、苦く。まるで酩酊しているような感覚を呼び起こすものなのかと。
唇はこんなにも柔らかかったのかと。
ぴちゃぴちゃと舐めるような音さえ、耳に優しい。

溺れる。


ようやくお互いが唇を離すころには、息は荒いものとなり。
二人の口の間にどちらのものともわからぬ唾液が糸を引いて途切れた。

熱い。
意識の端から焼け付くような感覚。
セックスとは、こんなに激しい感情を呼び起こさせるものだったろうか。

「ごめん…俺、もう何するかわかんないよ…」

「謝るな……イヤだったら思い切り抵抗してやるから、かまわずにさっさとやれよ」

ジャックの最後通達に、セムの言葉こそは辛らつであったが。
その表情は既に唇に与えられた快楽にうっすらと紅潮し、目元には普段見られないような優しげな色があった。
その顔をずっと見ていたくて。
でもその余裕を壊したくて。誰も見たことのない顔を見たいと思ってしまう。
自分だけに、色に溺れた貴方の顔を見せて欲しい。

「セムッ…セムッ!」

声はすがるように。
でもそれを発する唇は彼の首筋を下り、鎖骨のあたりで止まると軽く歯を立てた。
カリッという、かするような音。

「いッ…」

その感覚に僅かに顔を歪めるセム。
でもそれを制止したりはしない。
それが赦されているのだと、自分自身を受け入れてくれるのだとジャックは思う。

歯を立てたそこに、舌を這わせ。
ちゅうと吸い上げてやる。
もともとほんのりと赤みがついていた白い肌は、すぐに赤くなり痕になった。
汚れを知らぬ処女雪のような肌にぽつりと残った赤い点は、とてもセクシャルに見えて、ジャックはそのとなりへもう一つ。
そして胸元、肩口と次々に赤い点を残していく。
どこもかしこも。
自分のものにしてしまいたいという思考は、脅迫観念にもまさるほどの勢いでジャックの思考を支配した。

唇がセムの上半身をくまなく這い回る間も、空いた手はセムの分身を包み込み、何度も擦り、先端に爪を立てる。
指先に濡れた感触。それが彼の先走りであると、空っぽの頭でもわかってしまう。
指先で愛しくそれを扱いながら、その下の二つも掌で転がしてやれば。
ビクビクッとセムの身体が揺れた。

「アッ…お、前…男は初めてなんじゃないのかっ…」

まるで感じる事を抑えるかのような、セムのその言葉はあまりにこの場に似合わずに。
それだけ彼の思考もまた余裕がなくなり、与えられる感覚に染まりつつあるのだろうとわかる。
あまりといえばあまりの言葉に、唇は肌から離さぬままにジャックは答える。

「初めてだけどさ…おんなじ男だから、感じるとこはわかるよ?」

そうして指をさらに奥へと滑り込ませ、繋がっている部分をなぞる。
再び、先刻よりもセムの背が反りあがり、ビクビクと反応を返してしまう。

「ココは、初めてだからよくわかんないけど」

「くそっ…お前、わざとじゃっ…んっ!」

それだけで、もう感じてしまうのだろう。
セムは唇を噛み締めて、その感覚をやり過ごそうとする。
それを邪魔するかのように耳から飛び込んでくる言葉。

「血、でちゃってるよね…ごめん…」

そう言って、何度も指で(おそらくは血を拭う動きをしているのだろうが)なぞるから。

「もっ、お前動けッ!」

とうとう、セムのほうから根を上げる形になってしまった。
これではまるで自分から欲しているようではないかと、それを考えるだけでセムの思考は目茶目茶にかき乱されるのだが。
このままでは蛙の生殺し状態だと思えば、少しぐらいこちらが下手に出てやってもいいと思う。
そんな思考こそが実は限界に近い証拠だとセムにはわからなかった。

「え、動いていいの?」

それでも馬鹿のように顔を上げて問い返してくる。
言葉尻には隠しきれぬ欲望がちらついていたが、それでも了承を得ようとするのだから、やりにくいことこの上ない。
しかもジャックが喋れば喋るだけ、その振動が繋がった部分からダイレクトに伝わってしまうのだ。
限界で白くなった指先を震わせながら、セムは孔雀の赤い頭髪を一部グイと掴み顔を寄せた。

「さっさと…しろっ!んっ」

言葉と共に唇をぶつけるような口付け。
呆然としたままのジャックの口に無理矢理入り込み、舌で嘗め尽くしてやる。
そうしておけば、これから自分の口から洩れてしまうであろう認めたくない声を彼に聞かせずにすむかもしれないと。
心の端に残ったプライドの欠片がセムを突き動かし、何度も何度もジャックの唇をついばませた。

「んっ…ふ」

絶え間なく与えられる口付けに半ば陶然となりながらも、その感覚でさらに埋め込んだ分身が力を蓄えていくのをジャックも、そして受け入れているセムも感じ。

「ふっぅ!」

律動は突然始まった。
ぎしぎしと、床が擦れて小さくうめき。
つながりあう場所からは、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が絶え間なく響き始める。
痛みもあったが、それ以上に休息に鎌首をもたげつつある『快楽』という感覚がセムを支配し始めて。
感じてしまう顔を見せたくなくて、セムは両手を伸ばしジャックの頭を抱えると、さらに口付けを深くする。
それでも鼻から時々洩れる、抜けるような声はとめられなくて。

「んッむっ…!」

腕も快楽に弱り、もう頭を上げていられない。
しかし、そのセムの背中に今度はジャックの手がまわり、彼の身体を支える。
視界の隅に映る高く上げられた自分の足が、打ち上げられた魚のようだなあと…ぼんやりセムが思ったそれすら、一瞬後にはかき消されて。
あとはただ、白くにごっていく意識ばかり。
幾度となく突き上げられ、落とされて。
ジャックもまた溺れていた。
自分から与えるのとは違う、セムからの口付けの深さに。
そしてなんどでも絡み付いてくるような彼の内部に。

「セ、ムッ!セムッ!」

いつのまにか、セムが離すまいとしていた唇は離れ。
あえかな声がとめどめなく。

「いっ…あぁっ!も、ジャックッ!」

彼の声が自分を呼ぶ。
誰でもない、自分だけを。聞いたことの無いような欲望に濡れた声音で。
それがジャックをさらに熱くさせもうとめることなど出来ない。

「好きだよセム…好きッ!愛してるッ」

「う、あ!あああっ」

二人の腹の間で擦れ合ったセム自身が、はちきれそうなほど先端を濡らし。
内部で暴れるジャックの分身もまた、限界近く。
もはや耳に届くのは、いやらしい打ち付けるような音と、二人の声だけ。
今この場がどこであるのかも、二人にはわからない。

「も、俺いくっ…セムッ!」

「だ、めっん!中はッ…あと、がっ」

それでもセムはなんとか意思を伝えようとし。
欠片ながらもそれを感じ取ったジャックは、最後に激しい挿入を開始し。
ぐちゅぐちゅと内部を掻き乱す音。
血とジャックの先走りで、繋がったそこからは水疱が生まれては破れ、そしてなんどでも。

「あ、アァッ!」

「セムッ!」


最後の突き上げと共にセムは背中をそらしビクビクと痙攣したまま白濁を吐き出し。
ジャックもまたセムが果てると同時に、自身をセムの内部から抜くと、そのままセムの足の付け根から腹へと白濁を放った。







******






「…わ、べっとべと…」

しばらくそのままで呆然と二人、余韻に浸りつつ倒れこんでいると。
胸の上に頭を乗せたままのジャックが、セムの腹を撫でて言った。
よくよく見れば、セムの身体は腹といわず、胸も足も。さらには頬にまで自身とジャックのものが飛び散ってべっとりと汚れている。
セムはまだ反論する気力もなく、ただぼんやりと空を見ている。
普段は紙よりも白いその頬が今は赤く紅潮し、さらにそこに白いものがアンバランスに乗っているので。
ジャックはおもわずそれに舌を寄せた。

「苦…」

舐め取ったそれは、想像と違い苦くて。
おもわず少々顔をしかめてしまう。

「当たり前だ…」

ぽつりとセムがそうもらしたので。

「え?セム、この味しってんの?何で?何で?」

純粋に問い返せば、セムはぐっと言葉に詰まって。

「五月蝿いッ!いいからもうさっさと上からどけっ!重いんだよっ」

突然怒鳴ったかと思うと、ぐいぐいと手でジャックを顔を押しのけようとした。
しかし、どうやら手に力が入らないらしく、それはただ触れるような状態で。
ジャックはその手を思わずちゅうっと吸い上げた。

途端、セムの顔といわず耳といわず、全身がカーッと赤く染まって。

「こんの…大馬鹿ーーーー!!」

渾身の力で(しかもグーで)殴られたジャックであった。






その後、口だけは元気であったセムだが、腰は思うように動かずにあったため。
ジャックが抱き上げて、セムの私室まで連れて行ったという。
(その際、お姫様抱っこをしたがために、頬に一つ殴られた跡を作ったのはココだけの話)





終り




そんなわけで随分過去になりますが、『開放』の暗転部分でございます。
へえ。暗転部分だけあって、エロしかございません。ええ、エロしか。ははは<渇
しかも微妙にセムの性格があの頃とは違っているきもしますが、そこはそれ。時代の流れと思って諦めてくださると幸い。
むしろ今ココで記憶消去装置を使用したい気持ちはMAX300。
くだらなくてすいません。結局セムのほうが弱い感じでごめんなさい。
エロといいつつ大したもんじゃなくてすいません。
こっそりご感想が欲しいと、実は切実に思う今日この頃です。
(というかはたしてどれだけの人が見ているのやら…)

全世界のセムファンに謝ります。ああ、すいませんすいません。
最後の後始末は全部孔雀がやったと思っておいてください。中に出してないから楽…ゲフンゴフン!
どうにもこうにも痛いSSでした。