聞こえないんだよ。
聞こえない。
何も。
聞こえないんだ。

耳がキーンとなって。
頭のおくがツーンと痛んで。
急に、夜になった。



歌を殺したカナリア





真昼の街中。
ざわざわと雑踏。
人のざわめき。靴の音。
風に揺れる、街路樹。そして車のクラクション。
一つ一つを上げていけばキリがない。そんな、音の洪水。
もちろん、人はそれら全てを受け入れられるだけの五感を持ち合わせていない。
自分達が生きる狭量の世界だけの音しか、届かないのが常。

その中で。
突然1人きり、闇に落とされる感覚。
後ろから目隠しでもされたように、ふいに。
周囲の音を受け入れなくなる、聴覚。

自分の周囲が、モノトーンになってしまったよう。
一つ色の足りない世界。
自分がいなくても、何の損傷もない世界。

乗り越えたはずの過去に引きずられると、必ずといって良いほどおこる。
それは予期せず。あまりにも突然に。強引に。
訪れる…聴覚の消失。
障害といえばそれまで。
後遺症という、それも同じこと。
弱い心の引き起こす。
弱い人間の。
弱い『逃避』。


「情けない」

呟いた自分の言葉は、音になったのか。
ただ唇はそう動いたはずであったし、こんな短期間に言葉が消えるなどないだろう。
歌を忘れたカナリアでは、ないのだ。
歌を歌えるのに、それを殺しただけなのだから。


相変わらず周囲は静寂に押しつぶされそうなほど。
視界には雑多な気配。それでもその世界から、自分は切り離されているように。
ブラウン管ごしに見ている、ゆらゆらと。

今日は上客のところへ顔を出しに行くつもりだったが、こんな状態ではとてもとても、それこそ『お話にならない』。
今後のスケジュールをざっと頭で整理して。
結局、今来た道を戻る事にする。とりあえず出先には、後ほど電話で連絡をとればいいだろうと思いながら。
そうして振り向いた瞬間、髪型も格好も派手な男の肩にぶつかってしまった。
当然のごとく、相手は烈火のように怒り散らしたが、その罵声すら今は聞こえない。
ぱくぱくと動く口が金魚のようだなと思うと、ひどく可笑くて。そうした感情の波がわかってしまったのか、目の前の男は余計に顔を真っ赤にしている。
それに付き合うのも面倒で、そのまますり抜けるように離れた。
普段なら一言二言は言ってやるのだが、今日は生憎と聞こえない言葉を話してやるほどの余裕はなかった。
視界から消えてしまえば、もうその存在はなかったものにされる。
見えなければ無いも同じこと。

実際、だからこそ。
肩を掴まれるまでわからなかった。無遠慮な力でムリに振り向かされたそこには、怒りに赤く充血した男の顔。
そして振り上げられた腕。拳。
全く短絡で嫌になる。
顔をそらして避けようとして、突如視界を別の腕がさえぎった。
赤い髪がちらついて。

突然自分の前に踊り出た青年が、先刻の男をやりこめるのがわかった。
その背中。相手にすごむような表情の…でも幼さの残る顔立ちは。

「ジャック…」

呟いた言葉は、名となって彼の耳に届いたのだろうか。
男がほうほうのていで逃げていくのを鼻をならして見送っていたジャックが、くるりとこちらを向いた。
そして次の瞬間には破顔して。

「セム!」

鼓膜よりもなによりも。
心に直接打ち込まれるような、言葉。呼びかけ。
その奥に潜める情を隠すことなくあけっぴろげに、ただ惜しみなく送り続ける心。
熱い、その声を。言葉を聞いた瞬間に。

ざあっ と。

ざわめきと喧騒と…雑多な世界が戻ってきた。
すべてをない交ぜにした音は、あちこちで主張し協調しいくつもの音楽を作り上げる。
街は色づき、にわかに活気づいたように見えた。

「ジャック、お前珍しいな」
「ん、俺もこんなところでセムに会うとは思わなかった。それよりセム、変なのには気をつけないと」

いつものように。
いつものように苦笑交じりの言葉を作り。そしてそれに彼もいつものように返す。
気づかれてはいないだろう。隠しているわけでも、ないけれど。

「まぁいい。俺はこれから仕事の得意先に行く。夕飯はうちで食べるのか?」
「実はその言葉を待ってたり?…サンキュー♪」
「…なぜか、にわかに誘いたくなくなったが…まぁ気が向いたら来い」
「もちろん!」

そうして音の押し寄せる世界をまた一つ、進んでいく。



ああ、カナリアの歌が帰ってきた。
きまぐれな。
黄色の小鳥は。

何より、陽の光を好んでいた。










「フィーリングで読んでください」これ重要ポイントです。
そんなわけで、プチセム祭中。(いつでもだろ)
とりあえず公式がまだな’02.12現在、うちのセムは過去に聴覚障害になってるんですが。
(詳しくは表のキャラ設定参照)
なんか聴覚が消えてもあまり変わらないセムというか…諦めてるのか。
老成してる感じしませんか(汗)

書きたい言葉だけを詰め込んだので、どうかフィーリングで。
フィーリングでお願いします。正しく読み込むと、おそらく意味が通らないこと間違い無しなので、そこには目をつぶって…。
もっときちんと文章構成されたものが書けたらいいんですが。
すす、すいません。