ぱたぱたと風に揺れる


気持ちよさげに泳いでいる






こいのぼり






その勇姿に瞳を輝かせている、まだ年端のいかない小さな子供。
転ばんほどに天を見上げ、空気を胸一杯に吸い込んで。
「ふわーすごぉい」
瞳は黒。
背伸びして、手を伸ばして。
掴むように。

子供には、それが人の作った物とはわからない。
ただ、母親が読んでくれた絵本にあった大きな魚を思い出す。
「そうだ、にいたんにもおしえてあげよ!」
宝物をみつけたのだ。
子供はそれが嬉しくてたまらない。
それを誰かに教えてあげたい。共有したいと思うのは至極当然。
もう一度。
空を見上げて、おおきな魚が飛んで行ってしまわないよう。
「まだいてーね?」
お願いしてから。
くるりと向けた背中。短い黒髪が少しだけ、浮いた。


ぱた ぱた ぱた
小さな、それでいてだんだんと近づいてくる。
聞きなれたリズム。
それは、もう覚えてしまった足音のうちの一つ。

「にいたん!しろーにいたん!」
しゅっと白木の障子が開かれて、赤い顔が覗く。
「どうしたんの、慧暦?」
そこへ向けられる優しい言葉。優しい眼差し。その色は、青。
畳の上、机に向かっていたのだろう『シローにいたん』と呼ばれた少年は、首をめぐらせて子供を優しく迎え入れる。
振りかえりざまに揺れた髪は、障子の隙間から差し込む光に銀と輝いた。
「あのね、あのね!」
慧暦は早くあの魚を教えたくて、しかしその為に急いできたせいか息が切れ上手く喋れずに。
「うん、にいたん聞くからさ。ちょっと落ちついて御覧」
そっと白い手が伸びて、慧暦の頭に触れた。
さすさすと3度ほど撫でられて、気持ちがすぅーっと楽になる。
慧暦はこの優しい兄が大好きだった。
なんでも出来て、いつでも慧暦を嫌な顔一つせず迎え入れてくれる。
「おちついた?」
ふふっと微笑まれて。
ちょっと恥ずかしくなった。
「うん。にいたんのなでなで好きー」
「僕も慧暦のこと好きだよ」
「えへへ」
兄がふんわりすると、慧暦も嬉しくなる。
なんだかあったかい気持ちになる。
この大好きな兄を驚かせたくて。
「あのね、にいたん」
「うん?」
「おにわにいっしょにきてほしーの」
兄にも実際に見て欲しくて。一緒に行きたくて。それだけで出た言葉。
に。
兄の笑顔が少しだけ曇った。
「にいたん?」
しかし、幼い慧暦にはその兄の変化がわからない。
「にいたん、えれきといっしょ、や?」
それなら哀しい。
慧暦の表情が曇ると、兄はもう一度頭を撫でてくれた。
黒髪に触れる指が慈しむようで。
「違うよ。にいたん慧暦と一緒ならどこでも嬉しいよ。
にいたんはあんまりお外に出てないから、驚いただけ。行こうか?」
一緒と言われ、嬉しくなる。
「うん、いくの!」
笑顔がこぼれて。
「じゃ、おてて繋いでいこう」
差し出された手が、嬉しかった。


「みてーすごいねぇ。お魚さんおよいでるね」
指差された先に、風になびく布の魚。
「うん、凄いね。慧暦はあれをにいたんに教えてくれようとしてたの?」
「そー!お魚さん、とんでかないでよかったねぇ。えれきがお願いしたからかなぁ?」
えへと笑う、屈託のない顔。
まだこいのぼりが生き物だと思っているのだろう、子供の夢。
「えれきもあんなお魚さん、ほしいなぁ」
純粋な、願い。
「あれは慧暦のお魚さんだよ」
事実。
「え?あれ、えれきの?…わーい!じゃあお魚さんいなくならない?」
嬉しい気持ち。言葉一つで。
慧暦に贈られた、鯉のぼり。
「うん。いなくならない。ずっと慧暦と一緒にいるよ」
「ほんとー?でもにいたんのは?しろーにいたんのお魚さんは?」
一緒がいいの。
そんな子供の言葉なのに。痛い。
「にいたんにはいないんだよ、お魚さんはね」
贈られなかったから。
望まれなかったから。
気にしたようには見えなかったはず。小さな慧暦にはわからないこと。
でも子供は残酷なほどに優しく。純粋。
「じゃあえれきのお魚さんひとつあげるー。あのおっきい黒いのにいたんのね?」
小さな指が、一番空に近いこいのぼりを指差して、にこりと笑う。
「ありがとう」
ちくりと胸に痛みが刺さりながら、それでも向ける笑顔の痛さを子供は気付かない。
「いっしょね〜」
「そうだね」


銀の髪の兄と、黒髪の弟が。
一緒に見上げた青い空。
そこに泳ぎながら、それでもこの場所に繋ぎとめられた鯉のぼり。





やねよりたかい こいのぼり

おおきいまごいはおとうさん
ちいさいひごいはこどもたち

おもしろそうに およいでる








混ぜてもらえぬひごいは誰?










ほのぼのとみせかけてラスト暗く。
私の得意パターン?
ていうか慧暦、幼すぎる…(汗)士朗との年齢差は2つか3つだよねえ?
とりあえず、慧暦4歳。士朗6歳あたりで。
私的裏設定。
士朗は妾腹の出で、母親が欧米人のため認められず、本家の離れで幼い頃より暮らしていて。(隔離)
慧暦は正妻の子供。実は黒髪&黒目の生粋日本人。
そんな感じ。
こののちいろいろあって。

えっと。
ようするにエレシロです。<正直に。

追記。
本当は裏日記に書きました。文字数多過ぎで駄目と言われました。
だ、駄目じゃん!!!<日記のサーバーがな。
変えるか…(今日借りたばっかりだよ;)