繰り返される毎朝の儀式。
日の光が斜めに差し込む2階に置かれた自室。その中で。
エンジ色(ワインレッドともいう)の変わりばえしないネクタイを取りだし、首にかける。
そのまま一瞥することなく手馴れた仕草で数回。
最後にきゅっと小さく絞り、完成。
そして同じ日常が繰り返される。

それが、彼にとっての最高の幸福であった。




ネクタイ





「まだそれに執着してるんだねェ」

そこへ、非日常的な声がかけられる。視線の向かない背中から。
声音に覚えがありすぎて、振り向けない。
ネクタイに添えられたまま動かせない両手に、背後から手が重ねられる。




「そんなに束縛されたい?セム」

くすくすと笑う声も耳朶に近く。
背中からいやがおうにでも伝わってくる、自分のものでない熱。
他人の体温。
「ふざけるな…ホリック」
吐き出すような言葉は、それに似合いの低さで背中の彼、ホリックの耳に届いたと思う。
しかしそれに何を思ったのか、重ねられていた自分より更に大きな手がするすると這いあがり、僅かに空気に触れている首筋を撫で上げた。
じり…と熱が沸いたが、あえてそれを教えてやる義理もなく。
セムはその束縛から逃れ様と身をよじらせた。

「つれないね」
一時は鎖でつながった関係だったのに?
ふっと息と共に揶揄され。
「っ!!離れろっ!!!」
吹きかけられた吐息よりも言葉に弄られて、羞恥に赤くなり全力でもがいた。それにすら、背後から回された腕にはかなわない。
「あんたとはっ…もうビジネスの関係だけだっ!」
たとえ意味が無いとしても、何度でも叫びたくなる。
突き放しているのに、突き放せない。
「赤い首輪は、お前の黒髪と赤褐色の瞳にピッタリだったのに」
心底残念そうに囁かれる。冗談にならない会話。
過去を消す事が出来たなら、まよわずこの男を消してやるのに。
「…っ五月蝿い!」


思い出しても怖気がする。
過去、どうしても妹を1人で養って行かなくてはならなくて。
腐った親戚一同に啖呵を切ってみたものの実際にはアテに出来る口もなく途方にくれていた時、末のコンクールに出したデザイン画を見て自分の元に来ないかと言ってくれた男。
疑うには自分は幼過ぎて、条件を跳ね除けるには環境がそれを許さなかった。


「でもおかげで独立できたろ?」
いけしゃあしゃあと恩ぎせがましく言うこの口を、ミシン針とタコ糸で縫ってやったら、さぞかし痛快だろう。
「貴様はその見返りに、当時16歳の健全な男に何をやらせたんだ!?ええ!?」
答え。
奉仕にSMなんでもござれのバーゲンセール。
「セムも気持ち良かったから、いいじゃないか♪」
にっこり笑顔は悪魔の印。
事実、この男。今年で三十路も通り過ぎるというのに、外見はまったく自分と同年齢とさえ。
「さ い あ く だ っ た !」
わざと一つ一つ区切って言ってやる。
苛立ちに歪んだ口元に、長い指が触れて。
「可愛いねv」

ぶつり。
ああ、何かの切れた音。

この男は地球外生物に違いない。確実に。
なんでこうも日本語が(…いや、この際種類はどうでもいい)人の言葉が通じないのだ。
第一言葉の選び方からしておかしい。
可愛いなど、26になる男にいう言葉では無いはずだ。少なくとも、セムの中では常識はそのランクであった。

「てめえは死ね」
もはや言葉など理解したいとは思わない。とりあえず消えてくれ。
そう思う。
が、やはり現実は上手くいかないもので。
「じゃあ、一緒に天国へ逝こうか♪」
言葉と同時進行で、器用な指が完成したばかりのネクタイを崩して行く。
そのままシャツのボタンを1つ。2つ…
あまりにも自然な行動におもわずそれを眺めてしまい、3つ目のボタンがはずされた所で目が覚めた。
「〜っ!!盛るな!変態!!!」
がむしゃらに腕を振りまわし、足を後ろへと蹴り上げる。
それを器用に避けながら、ぽつりと爆弾。

「妹に、ばらすよ?」

核弾頭であった。
さらにいうなら、首都直撃であった。
ガラガラとセムの中で『抵抗』という文字が崩れる。
思えばその一言の為に、ようやく立てた念願の店の合い鍵もあっさり奪われたのだった。
セムは唯一無二の妹を溺愛している。妹の為ならばなんでも出来る。
両親が揃って旅客機災害で亡くなったあの日から、セムは妹にとって父であり母であろうとした。
そしてそれは、セムにとって妹が唯一最大の弱点ということでもあった。

妹を引き合いに出されれば、勝ち目など無い。
無論、ホリックが何処まで本気なのかはわからないが、相手は宇宙人なのだ。言葉の通じない人間外の生き物だ。
いつ間違って、過去の事が妹に回るともかぎらず、それが話題の端に上るたびセムは胃を心労で傷めなくてはならなかった。

「最低…鬼畜…人でなし」

とりあえず。言葉だけは空しく抵抗してみる。
それにすら。
「ふふっ、最高の誉め言葉だねvvv」
これだ。


「さあ、セム。見た事の無い天国へ連れて行ってあげるよ♪」
30分ほど前に抜け出たベットに押し戻される形となり、覆い被さられながら。
セムの頭では。


―…リリスが泊まりで良かった…


とりあえず、妹のことが回ったのだった。










ど、どうなんでしょう。コンバンワ。
ついにやってしまいました。セム受け。
ええ、セム受けですよ。セム受け<強調しなくてもよろしい。
しかも相手はホリックですよ。ホリック。
ええ、ホリック<だから強調…以下略。
つまりはホリセム。なんですよ!!

ごめんなさい。
とりあえず所構わず謝り倒してしまいたい。
でも後悔はしてないわ!何故かシリアスのつもりがベタベタギャグに落ちついたような気がするのも気にしないわ!
裏か表かなやんで、結局表においたことも悔やんで無いよ!

セムの性格がよくわからなくて。
むしろホリックはもっとわからなくて!
とりあえずセム26歳。ホリック30歳(!!)で。
セムはホリックの元から独立して店を持ったって感じで夜露死苦!

ガタイのいい野郎二人がじゃれあうんですわ。
夢みすぎですよムスミさん。
とりあえず、うちは【ホリック→セム←リグ(リーディングサイバーの彼)】の三角関係で!
余裕の大人攻めホリックと、がむしゃら強引な攻めリグに翻弄される、妹至上主義のノーマル(になりたい)受けセム。
て感じで!
リグセムはシリアスなんですよ。
ど・シリアス。
もう周囲から冷たい目で見られてもしかたないワ…私。

『追記』
ドドン!と挿絵UP!!
優希さんからいただいちゃいました!素敵!!
ふふ…あたいは幸せもんです!!