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見上げた空はどこまでも青く。 高く澄んだ風が色もなく息づいていた。 空色の街 広がる雪。一面の銀世界。 陽光が反射してキラキラと眩しい。 空と大地のコントラスト。 青と白のみが存在することを許されたこの世界に、小さな存在が踏み込んだ。 さく。さく。 純白の処女雪を踏み締めるスニーカー。 その動きに合わせて姿を変えるのは、傍から見ても少し大きいと思わせるダブダブのパーカー。 やはり大きめのフードの上には、風に煽られた細い糸の束。 それが光の加減で銀にも青にも見えると人が知ったとき、その色を頭上に抱く者はいつも少し笑った。 「ねえ、随分僕は不釣り合いじゃないかな」 突然。今まで風の歌声しか存在しなかったこの場所に、音が降ってわいた。 その音はこの銀世界に異質な存在と認められた、小さな人影のその中でも小さな唇から紡がれる。 しかしその言葉は誰に向けられたものなのだろうか。 音のトーンはほんの少しだけ、低く。 人影の白い喉元に存在している部分から、人影は男性であると分かった。 いや、男性というにはまだ早い。 それでも少年と呼ぶにはその域をとうに過ぎている…彼。 「どう思う?トア」 彼は顔を自分の左手に向けてささやく。 サラリと銀とも青ともつかない髪が頬を撫でて落ちる。 真っ直ぐな眼差しの色は、漆黒。 その黒い瞳を向けられて。 ケ――…ン …… 澄んだ高い鳴き声が返る。 「うん…ごめんよ、ここに来たいって言ったのは僕だからさ」 彼の口端が少し上がり気味になり、それはじきに笑みへと変わっていく。 彼の左肩にとまる純白の鳥。 それが『トア』というらしい。 その名が種族としての総称なのか、一個体に与えられた個別名なのかはここでは分からない。 ただ、彼はその鳥を『トア』と呼び。 『トア』もまた、それに答えていた。 しゃら… 彼の耳に、小さな音。 それはトアの首に結ばれた銀色の細鎖の揺れた音。 少しでも力を込めれば、すぐに千々に切れて消えてしまいそうな鎖の先は、彼の手の中だ。 彼はそれを人差し指に巻付けたり、ほどいたり。 手に持て余している。 「ねえ…やっぱりこれ必要無いんじゃないかな…トア」 この鎖をトアに結んでいることは、彼の本意ではない。 トアが望んだことなのだ。 「君たちはもっと自由で良いはずだし…僕は君を縛りつけるつもりもないんだ…」 困ったようにトアに視線を送る彼。 その視線にも、トアは興味を示さない。 下羽に細いくちばしを差しいれて、羽根についた雪を落としている。 「…いいけど」 彼は1つ嘆息する。 そして再び自身をとりまく景色へと意識を移した。 空は相変わらずの青天。 風も穏やか。 雪はキラキラと宝玉にも負けじと思うほどに輝きを主張して。 「空色の街って・…聞いてたんだけど」 彼がここを訪れたのは、とある人から話を聞いたから。 『ありゃあ本当に空色の街さ。何処もかしこも真っ青なんだ』 赤い鼻も大きなでっぷりとした腹を持った男。 酒場で食事をとっていた彼に突然話しかけてきたのだ。 『空色?』 彼が不思議そうに聞き返すと、男は反応を返してくれたのが嬉しかったらしい。 黒い発泡酒のたっぷりはいったカシの木グラスをテーブルに置いて、臭い息を吐き出した。 『おうよ。そりゃあ綺麗だったぜ。兄ちゃんもいつか行ってみな。ああ、でも冬場は駄目だぜ。冬はいけねえよ』 『ふうん』 「いけないって言われると…よけい来たくなるんだけど。やっぱり言うことは聞くべきだったかな」 彼はスニーカーで足もとの雪を蹴った。 ザザッと音を立てて、純白が陽光に光る。 そしてその下にあるのは。 かつん 「こんな街だって、知ってたら春来たのに」 彼の足元。雪をどけた僅かな個所から見えるものは、厚い氷だった。 さらに目を凝らせば、その氷の奥底に小さな煙突が見える。 煙突の下には空と同じ青色の屋根。 「冬は凍っちゃう街なんて、初めてだ」 分厚い何層にもなった氷の下に、広い広い街。 今は眠りに付いている大きな街。 水の中の、空色の街。 おそらく冬の初めには氷が張り、今はもう雪と氷だけの眠った街。 「まあ、これはこれで良いもの見たって事かな」 彼は相変わらず雪落しに夢中のトアに話しかける。 クックツ… トアは首も上げてくれない。 「ちぇ…いいよ。もう行こう」 彼はほんの少し、唇をとがらせて。来た道を再び戻り始めた。 銀の世界にもう一筋、足跡を残して。 さく。さく。さく。 スニーカーは進んで行く。 銀の世界に別れを告げて。 見上げた空はどこまでも青く。 高く澄んだ風が色もなく息づいていた。 彼の名は…『トウ』と言う。 ![]() end |
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オリジナル。初のオリジナルです。 なんにも考えないままに、書きたいものを書いたらこんなことに。 ちょっぴり「キノの旅」という小説に似ていることにはどうか目をつぶっていただきたく。 この話に出てくるトウとトアは、もともと去年のクリスマスお泊まり会で『自分のオリジナルキャラを他の人にも描いてもらおう企画』(長)で、私が突発的に描いたその時かぎりのキャラのはずでした。 今日、絵を整頓していて出てきた彼らについ愛着がわいてしまって。 きづいたらSS一本上げてました。 トウが士朗に似ているのにはツッコミはなしということで;; 私の描くものですから; ただの気まぐれで書いてしまったこの話。 少しでも好きになってくださったら嬉しいです<図々しい。 ↓はその企画の際に頂いた素敵絵たちですvvv 私の描いた絵とは段違いに素敵なトウ&トア展示室v |