そして今日も客足は途絶える事は無い。








猫の性分








カララン。

軽いベルの音。来客の印。
BGMのない店内に、軽やかに響くそれはすぐに鼓膜まで伝わった。
手元には描きかけの新作のデザイン。
1時間ほど奮闘してみたが、どうにも気に食わない。
消しては描き、その上に殴るようにもう一線。
もとの形はみるかげもなく、あっさりそれを続ける事を放棄して視線を上げた。

「いらっしゃいませ」

営業用の声が店内に響いて、言葉と同時に向けた視線の先の人影を認識し。
はぁっと息をついた。

「よぉ、またお邪魔するぜ」

軽い口調。
まるで同年代の友人にでもするような軽い挨拶。
そして口調同様軽い笑みを浮かべた、赤い瞳。

「今日は何をお探しでしょうか?お客様?」

それでも口調には取り合わず、口からついてでたのは営業用の言葉。
いやみにもとれるそれを、しかし相手は気にした様子も無い。
カツカツと彼特有の歩調で、慌てる事も無く歩み寄ってくる。
顔は笑顔のまま。

「そんなに無下にしなくったっていいだろ?セム」

ものの数秒で目の前。
カウンターのフチまで到着。そのまま上体をかがめて片肘をレジスターの横に乗せる。
にやりと笑う口元に、妙にとがった糸切り歯。
それを似合うと、彼は知っている。

「五月蝿い。貴様はどうせ今日も給料日前で素寒貧だろう。
うちの服を買いに来るでもなしに、何をしにきたんだ、ニクス」

あっさり営業用の仮面を捨てて(というか被るのすらおっくうになって)本来の毒舌を吐いてやると。
笑顔は余計に増徴したように見えた。
気のせいじゃない。

「ようやく普通に話してくれたなー♪」

「面倒になっただけだ。お前ごときに合わせるのはな」

それはまごうことなき本音だったのだが。
ニクスには効き目はなかったらしい。

「それは俺が特別ってことか?」

「いっぺんその良くまわる口を縫ってやろうか。
タコ糸とミシン針で」

もちろんそんな取り合わせが実現可能なわけではないが、おそらく出来たなら壮絶に痛いに違いない。
いっそブツ・ブツ・と突き通す感触は楽しいのではないだろうか。
なんて常識を逸脱した思考が働いてしまう。

「第一本当に何をしにきた。リリスから聞いたぞ。
貴様、あの髭の部屋に入り込んでいるんだろう。髭の匂いのついた体で俺の店に侵入するな」

「おーもう情報が行き渡ってるのかよ。
俺も有名人だな〜」

「論点が違う」

がははと笑う口は、本当に縫ってやりたくなるくらい開いていた。

「論点?ああ、だってな〜アイツんとこ居心地良いんだぜ。
エアコンあるし、何より光熱費タダだしな!」

それはお前が払っていないだけではないのか。
なんて思ったが。

「まぁ髭が不幸になるのは俺としては幸いなところだし。
貴様を髭の疫病神として公認してやってもいいぞ」

いっそもっとやれ。
最愛の妹が現在夢中(信じたくない事だが)の髭ことサイレン。(髭で十分だが)
あいつの顔を思い出すだけで虫唾が走る。
法律が無ければとっくの昔に東京湾あたりに沈めていたかもしれない。いや、しただろう。

俺の思考が黒くなっていくのに気づいたのだろう。
ニクスが意地の悪い笑みを浮かべているのが視界に入った。

「セムも悪だねぇ〜。ま、俺としては一人暮らしより楽だから当分はお望みどおりこのままだろうけどな!
困る事って行ったら、エッチの時連れ込む場所が無くて困るぐらいだったけどよ」

それも今年に入ってアイツが一人暮らしなんてはじめたから、問題解決だしな。


続いた言葉は楽しくてたまらないという声音。
…鼻の下が伸びている気がする。

「…下半身に忠実だな。しかし…」

聞いていて胸の好く様な気持ちも感じたが、最後の一言が頭にひっかかった。
聞こうとして、多少下世話だったかと思い止める。

「あん、んだよ。言いたい事があるならはっきり言えって」

途中で止めたのが気に食わなかったのだろう、ずいとニクスは乗り出してくる。
興味の無い事にはまったく見向きもしないくせに…まったく面倒な性格だと思う。
やや朱色の瞳が、眼前に突きつけられて。
嘆息せずにはいられなかった。

「たいしたことじゃない。
ただ、一緒に暮らしているという話を聞いた時、同棲しているのだと思ったからな」

本当に、ちらと。
実はそうだったらリリスが髭の毒牙にかからなくて良いかも、と思ったのだが。
それは隠しておく。

ため息と共に吐き出した言葉に、ニクスは目を大きく開けて。
ついで。

「ぶっは!」

噴き出した。
もちろん眼前で だ。

シャーペンの先でも突き刺してやろうか。
コイツ。

物騒な思考が一瞬走ったが、とりあえずシャーペンでなくティッシュを三枚とり顔を丁寧に拭く。

「俺が…アイツと付き合ってるって!?
はははは!その冗談最ッ高ーーー!!!!」

げらげら大声で笑われる。
至近距離。
耳が痛くなりそうだ。

「納得したらさっさと帰れ。うざい」

思い切り冷徹に睨んでやる。
それでもニクスの笑いは止まりそうもない。
いっそ殴り飛ばすか蹴り飛ばしてやろうかとも思ったが、手は大事な商売道具だし脚はカウンターの下で届かない。
もう頭突きでもいい。
むしろそうしよう。

どうやらあまりの大音響に脳の一部が麻痺していたらしい。
気づいたら。


ッゴン!


「ぅだッ!!」

額がジンジン痛くなっていた。
目の前には先刻より距離を置いてニクスの頭。
むしろ手で額を押さえている。
それでも可笑しいのだろう、肩がまだ笑っている。

「ず、頭突きなんて普通するか?…ははは、腹痛てぇ〜」

どうやら頭突きが余計に笑いのツボに入ってしまったらしい。
もう怒鳴る気力も萎えた。

ああ、本当に五月蝿い…
耳栓…何処にしまったかな…

手の届く小さな引き出しを1段2段と探してみたが、どうにも耳栓はみつかりそうもない。
それでも耳障りな騒音から逃れたくて、諦めずに探す。
そうこうしている間に、いつの間にか騒音が消えてきた。

「ははは、あー!笑った笑った。
セム、あんた笑いの才能あるぜ?」

ヒットヒット!

まだ顔が弛んでいる。
これでまた何かおかしなことを言ったら、今度こそ面倒だが立ち上がり蹴り出してくれよう。
そう思い始めた矢先、ニクスはさらりと普通の口調に戻って話し始めた。

「ま、そう誤解されても当然だとは思うけどな〜?
俺とあいつはそんなんじゃねぇんだよ。マジで。
第一付き合ってるヤツと四六時中一緒にいるなんて、きついだろ?」

「いきなり普通だな。
しかしきついきつくないは個人差だと思うが」

思ったまま、返すと。
ニクスはちっちっと指を振った。

「まだまだだねぇセムは。
同棲なんてよ、付き合ってるうちは良いけどもしも仮に破局しちまったとき困るだろ?
特に転がり込んでる方の立場はねえじゃねえか。明日からホームレスってわけにもいかねえしな」

ああ、なるほど。
コイツは現実を意味しっかり考えている。
ものすごく。
曲解だとも思わずにはいられないが。

「まぁそれはわかるが…その言い方だと貴様の付き合いは別れが前提のようにも聞こえるぞ」

「ま、そうともとれるかな。そればっかりとは限らないけどよ?
どっちにしてもさ、縛られたくないわけよ。俺は」

束縛なんてクソくらえだ。
恋愛でも住居でもな。


一瞬、ものすごく刹那的な生き方をしているのではないかと思った。
そしてその次には、そうでなく別の意見が頭に浮かんだ。

「貴様、猫だな」

そう、こいつの生き方は気ままな野良猫そのものだ。
好きなときに好きなものを食べ、好きなときに寝て。好きなときにセックスする。
自由の代わりにサバイバルを要求される生き物。

「はは、よく言われるぜ。なんせ野良猫フリーターだからな」

違うのは年中発情期♪


「で、その猫が今お気に入りのねぐらは髭のうちというわけか」

ここまで傍若無人にふるまって。
それでも周囲からはずされないのは、やはりコイツが猫だからだろう。

「そうそう、だから俺とサイレンはデキてないのよ。
俺とラッブラブなのは士朗だからなぁ〜v」

「…シロウというと、この前エリカちゃんと一緒に来ていた銀髪のポニーテールか?」

ニクスと同じく常連のエリカという少女と、先日連れ立って来た背の高い青年を思い出す。
確か彼女が同じような名前を呼んでいた。

「そうそう、その士朗。実は俺と付き合ってんだよ。
ぶっちゃけ!」

「…ぶっちゃけって…本気でぶっちゃけだな。
なんだ貴様やっぱりゲイだったのか」

そんな気はしていたが。
おもわずズバッと聞いてしまった。
するとニクスはへらりと笑って。

「セムだってゲイだろ?」

爆弾を落としてくれた。

「あれ、ほらアイツ。いつも入り浸ってるメカメカしいの。
孔雀。
あいつと付き合ってるんだろ?」

「貴様、どういった根拠でそんなことを口にする」

ジャックの名前が出てきて、嫌な予感がした。
むしろ自分達がそういった関係になったなど、誰にも公言していないはず。
しかし現に目の前でニクスはさも当たり前と言わんばかり。
とても。
とてつもなく嫌な予感がしたが。
聞かずにはいられなかった。

「根拠もなにも…なぁ?
この前何人かで飲みに行ったときよ、俺が士朗の布団での可愛らしさをトクトクと語ってやったら。
アイツ大声で叫ぶんだぜ。
『セムの方が可愛いーーーー!!!!(D2R)』って」

ぶち。

「ジャックのヤツ…そんなことを言ったのか」

気持ち、声が低くなったようだ。

「おー。あれは酔っぱらってたな。かなり。
あのあとテーブルをひっくり返しやがってさ、大騒ぎだったんだぜ〜」

ニクスの声ももはや気にならない。
それよりもかなりの勢いで沸騰しそうな気持ち。
それなのに氷点下よりも低くもあって。

「でさでさ、俺めっちゃくちゃ気になってるんだけどよ。
セムとアイツ、どっちが上なんだ?」

爆弾2発目。

ふつり。
なにかか腹の中に落ちた感覚。

「…知りたいか?」

問い返した声が今までに無く凍っていることに、さすがのニクスも察したのだろう。
へらへらした笑いのまま、両手を振って一歩後ずさった。

「…遠慮しとくわ。
あー俺もうバイトの時間だからいかねえと、遅刻しちまう!」

その場しのぎのような言葉を並べ立てて。
店内の時計を見る。
どうやら本当にバイトの時間らしい、顔色が変わったのが見えた。
そのまま店から出て行きそうな背中に、思わず。

「結局何をしに来たんだ、貴様は」

と疑問をぶつけると。
くるりと背中が反転して、口はしだけをあげた笑み。

「ここの服を見に来たんだよ、マジで。
持ち合わせはねえけど、新作でてるってエリカからメールで聞いてさ。
今日は見る暇なかったけど、すげえ好きだぜ。セムの作る服」

んじゃーな!


カララン。

ドアが閉まる。


「…そういうのは、最初に言うもんだろうが」

その糸口を与えなかったような気もしたが、あえて深く追求する事は止めた。
それにしても調子を狂わされる。
気まぐれな風のような。野良猫のような。

「変なヤツ」

それは初めて会話した時からかわることのない印象だった。












蛇足では在るが。

この後きっかり3分後に(カップラーメンが作れてしまう)。
意気揚揚と扉をあけた孔雀は、ものの3秒で店の表に蹴り出されたと言う。




「ROOTS26 CLOSE」


またのご来店を お待ちしております










「セム〜〜〜〜〜〜!!!!?」
















end



珍しく、ポップでちょっとお下品なSSに仕上がりました。
ニクスの設定が某日アル○ディアにて公式発表。
ものの数秒で佐藤ちゃんに陥落。(そこは置いておけ)
後、ゲーセンに行くまでの間の車内でどうにかならないものかと思い悩んだ末のSSです。
いっそこんな感じなら2946もオケー?
ていうかニクスのよく行く店がROOTS26で驚きを隠せない私。
高そうなイメージあるから、ニクス寄り付きそうにないなとか思ってただけに。目からウロコ。

気づいたらセムとニクスは仲良しさん(?)でした。
ていうかニクスの性格がずいぶん変わった…かも。
あれでいて士朗とらぶらぶなんですよ。ほんで士朗もスッキリしたヤツだから(竹を割ったような性格)。
案外猫のニクスと合うんじゃないかしら。ニクスがサイレンと住んでても気にしなそうだし。
ていうか自分のところに上がりこまれたら困るぐらいには思っていそう。恋愛と生活に区別をつける男、士朗(受)。

ほんでセムも大分あれな感じ。
あ、当サイトはクジャセムですのでー。
ていうかほぼそれ中心ですのでーセムは。

とりあえず見ようによってはセムニクにもニクセムにも読めてしまうSSかと思われました。
あたちNOT髭肉人種ですので。(見るのはオケーだけど。流すのは上手です私)

あとがきらしくないあとがき。
ま、こんな感じのキャラ設定でどうぞ4649。(ていうかちゃんとキャラ設定UPしろや)

ところでぶっちゃけ。
ニクスとセムは同じ猫科に属すると思います。
ほんで士朗と孔雀はイヌ科。
猫科とイヌ科をくっつけるのが大好きなようです、私。
アスレオもそうだしね。