いつのまにか降りはじめた雨。

きっと夕方には雪に変わるだろう。




見上げた空は、不思議と晴れていたけれど・・・






天気雪






深く吸って、吐く。その度に白煙がたなびき昇る。
変わらぬ色と変わらぬ味。舌先に乗る苦みに口元を弛め、笑みを浮かべる。それは苦笑にも近いものであったけれど。

背中を年若い街路樹にまかせ、もう一度タバコを味わおうと手を持ち上げる。
その途中、ほんの少し肩にかかる重み。
何事かと思い、振り返ったその瞬間。

つん。

突如現れた長い指に、頬をつつかれる。
いや、正しく言うのなら、置かれていた指に自ら当たりにいった。

「・・・な?」

不意打ちの感触に驚き、みはった目に映ったのは。

「ひっかかったな♪」

子供のように目を輝かせた、青年。

「・・・・・・士朗」
「よ!識!なにやってるんだ?こんなとこで」

士朗と呼ばれた青年は、先程の行為を気にもせず親しげに話しかけてくる。
あまりに楽しげな様子に毒気を抜かれてしまい、識は忘れかけ灰のたまったタバコを足もとでもみ消し、笑った。

「うちの奥さんがあそこで楽しくショッピング中でね」

そう言って識が指さした先には、今話題のショッピングモール。
季節がらか色とりどりの装飾品で飾られたウィンドウには、女性を誘惑してやまない品が飾られている。
買い物客は若い女性が主で、ふき抜けのこの休憩所には待たされているであろう男性陣が暇を持て余していた。

「荷物もちに駆り出されたんだけど、口が寂しくなってな」

そうしてポケットから一本、新しいタバコを取り出す。

「ヘビースモーカーだな」

歯を出して笑う。
咎める言葉でなく、純粋な感想。

「愛煙家なんだよ。それはそうと、お前はどうしたんだよ、買い物か?」

あるはずのライターを探しながら、からかうように問い返すと。

「エリカが来たいっていうからさ・・・」

士朗は頭上で一纏めにした髪に手を入れ、照れたのか頬が赤い。

「なんだ、デートか?」

左の胸ポケットに目的の物を見つけ、オイルも残り少ないそれをつける。
2、3度かちかちっと軽い音がして、小さな炎が生まれた。
僅かな風に踊るそれにタバコの先を近づけると、一息の間に新たな煙が立ちのぼる。
胸の奥まで吸い込むと、独特の苦みが残った。そのまま横目で士朗を見やれば、先程も赤かった頬がいっそう朱に染まっている。

「デ、デートなんて!たまたま俺が暇だったから・・・本当はセリカと行くつもりだったらしいんだけど、何か急な用事が入って行けなくなったからって・・・俺も今日はYUZと勝負する約束をキャンセルされたし・・・」
自分から場所と時間まで決めたくせにさ〜

そんなふうに真っ赤になったまま、今日のいきさつを話す士朗の声を受け止めながら、識はある一つの答えが出ていた。
(・・・はめられたんだろうな〜)
しかも、識が師と仰ぐYUZと、さらにセリカの二人に。
(この分だとエリカの方も騙されてるくちだろ・・・)
えてして、あの二人は世話焼きであるし・・・イタズラ好きでもあるから。
(まあ、気持ちはわからなくもないかな)

あの世話焼きカップルが嘘までついて引き合わせた二人。士朗とエリカは・・・

「鈍すぎだし・・・」
「え?何か言ったか?」

士朗があたふたとこちらを見る。どうも内心の呟きを口に出してしまったらしい。

「いや、降ってきそうだなと思ってさ」

話を逸らそうと見上げた空。
建物の壁に区切られた四角の空には、いつの間にか墨を溶いたような灰色の雲が浮かんでいて。

「ああ、降りそうだな」

士朗も先程までの話を忘れ、空を見上げて呟いた。
周囲の人々も雲行きがあやしくなってきたことに気付いてか、一人二人と店内に姿を消していく。
人の僅かな流れ。
それにさからいこちらに向かってくる人影が一つ。
明るい黄緑色。もうすぐ訪れるだろう季節に似合いの髪を揺らして駆けてくる少女は。

「士朗〜!ゴメンね!」

「エリカ!」

両手にその細腕でどう抱えてきたのか、というほどの戦利品を持っていた。
急いできたのだろう、薄くベージュの乗った頬は今はピンク色に染まっていて。
その様子に思わず笑みがもれる。

「レジがやっぱりっていうか、混んでてさ。こんなことなら士朗の言った通りレジまでついてきてもらえば良かったなぁ〜」

「それ持つよ」

さりげなく、士朗がエリカの肩に食い込んでいた袋を受け取る。
こうしてみていると、ごく普通のカップルに見えるんだけどな。
なんて考えていたら、エリカと視線が合った。

「って…識?珍しいね、ゲーセン以外って」

「ん?ああ、それはお前等も一緒だろ」

言いながら、先の短くなった煙草を携帯用の灰皿にねじ込む。
もう一本吸おうかと、手が煙草を探り。

「あれ?もう吸わないのか?」

しかし、探す動きを止めた手に、士朗が目ざとく問う。

「女の子が一緒だからな」
身体によくない。

「へえ、フェミニストだね」

「俺の前ではバカバカ吸ってたくせに」

ニ方向から言葉が飛んで来て。
それがなんだかとても楽しくて、気付けば笑ってしまっていた。
あはは、と声を上げて笑い出した自分の様子に一瞬二人はぎょっとしたようだったが。
すぐにつられるように笑いが溢れ。

ふいに上げた視線に、何かがちらついた。

思わず手を伸ばすと、それは外気にさらされ幾分冷えた掌の上にひたりと落ち。
しゅん、と溶けた。

見上げれば、深くなった雲から千切れる様に細かく。
幾つも幾つも。
数え切れぬ白い結晶。

「わーっ、雪だ♪」
久し振りに見たよ〜

天から舞い降りてくるそれが雪だと認識した後。
一番最初に反応を見せたのはエリカだった。
両手を空に上げて、くるくると踊るように規則性のないステップを踏み雪に触れる。
薄いオフホワイトのコートが、ドレスのようにひらめいた。

「季節はずれ…って感じかな」

「いや、残冬かも」

そんな他愛もない言葉を交わしながら。

「ていうかお前、今【エリカ可愛い】とか思ってるだろ」

「…!!んなっ…何言って…っ」

途端に耳まで真っ赤になるんだから。
からかいがいがあるったらないな、本当に。

♪♪〜♪

「ん?メールだ」

ジャケットのポケットに突っ込んでいた携帯がメール着信を伝える。
流れたメロディは、たった一つの番号からで。
手早く内容を確認し。

「…士朗、これから予定あるのか?」

「へ?…え、や。別にないけど…」

突然話題を変えられて、それでも鈍いながら反応が返って来る。
ひとしきり雪と戯れたエリカも駆け寄ってきて。

「何、どうしたの?」

「お前ら飯食いに来るか?」

誘いの言葉にぽかんとする二人。

「え?飯って…識、奥さんは?」

士朗が思い出したように問い返してくる。
その間にも雪はチラチラと降り積もって、路面を濡らしていく。

「だから、その奥さんからメールでな。今夜は鍋なんだと。で、呼べる奴がいれば呼んでもいいっつうからよ」

鍋は大勢で突付いた方が楽しいのだ。

「YUZは?誘わないの?」

何故ここでYUZの名前が出てくるのか。
まあ、師弟関係というのは大分前にバレていたし。というか隠しているつもりもなかったから当然と言えば当然。
しかし、今日のYUZは。

「師匠は今日用事があって、朝から出かけてんの」

そう。
この二人には言えないが、おそらくはセリカとどこかへ出かけているのだろう。
前日のYUZの様子は何処となく落ちつきがなかったから。

「で、結局来るのか?来ないのか?」

「行く行く!」

「邪魔してもいいなら」

にこやかにエリカ。そして士朗もつけたす。

「んじゃ、決定!そうときまればさっさと行くぞ。
奥さん、正面入り口で待ってるから」

そうして歩き出す。
三人で。

他愛もないお喋りを繰り返しながら。









「鍋って何鍋かなぁ」

「奥さんしだいってとこだろな」

「他に買っていくものとかないのか?」











空には相変わらずの雪。

それでも見え隠れする青い空。







次の季節の足音が


もうあと少しで 訪れようとしている。





















終わった!オチ、微妙ですが…。
実はこれ書いてたの、2001年度の冬コミあたりからです。<え!
携帯でぺそぺそ書いてたんですが、なかなかカタツムリよりも鈍い進行っぷり。
きづけばもう梅雨の時期。
雪ってなんですか、雪って!!(汗)
とりあえず、文中では3月頃と取ってやってください。

テーマは識と士朗。
むしろ識v奥さんと士朗vエリカ。
シロエリは奥手二人って感じなんですよ。私の中で。
お互いに両思いなのに、どこか勇気がでないという。
そしてこっそりYUZセリカ。

でも普通っぽい文書って疲れます…文章に違和感がある所は打っている時間に隙間があるからかと。
今後はあんまりネタが腐らない内に完成させたいです…ええ。