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それは 大きな街の 大きな道にある 小さなバス停で起きた 小さな出来事 小さな話 それは春もわずかに過ぎたうら暖かい日。 大都会の片隅、小さな路地裏。 僅かに影になった部分が雨をしのぎ、寒さを防ぎ。 小さな小さな誰にも知られることなの無いねぐらで。 みゃう…みゃ… 本当に小さな声が。 生まれて初めての声を出会ったばかりの世界に響かせた。 その声は一つではなく、続いていくつもいくつも聞こえてくる。 これから存在していく世に挨拶を。 ひとつ ふたつ みっつ よっつ いつつ… 声は全部で8つであった。 そしてぴちゃ…と舐める音。 優しい舌が、そっと何かを舐め取る。 それまで薄暗かったねぐらに、何の気まぐれか普段ほとんどさす事の無い日が入り狭いそこを照らした。 まぶしい陽光の下、色をあらわしたのは9匹の猫。 そのなかで唯一成体の虎縞猫が、他のまだ赤い弱弱しくうごく8匹に舌を這わせて付着していた汚れを落としていく。 そのどれもがまだ目も開かぬ小さな小さな生き物。 その日、はじめて生を受けた。 ***** 一ヶ月。 太陽と月が28度入れ替わった日。 ふいに訪れた雲に都会の空は瞬く間に黒く覆われて、間をあけず雫が降り注いだ。 ザー… アスファルトに叩きつける、無数の雨。 沁み込むべき大地も無くただただあふれていく、多量の水。 多すぎるそれはあちこちに溜まり、それを数え切れぬヘッドライトが照らしかき乱していく。 ワイパーはせっかちに動き、クラクションが闇に飲み込まれかけた街に幾度となく響く。 何もかもが密集しすぎているこの街は。 あまりにも多くのものを抱え込みすぎていた。 それが言い訳にはならないのだろうけれども。 ギャンッ…! 抱えきれずに取りこぼしてしまった。 小さな生命を。 8つ。 みゃう…みゃう… ザー ザー パシャン パシャン ざわ ざわ ざわ ざわ みゃう…みゃう みゃ… ザー ザー ザー ザー… その日は夜通し雨が降り続いていた。 ***** 幾日か過ぎた。 街は雨を忘れ、人々は乾いた人工の大地を蹴る。 朝が来て。 昼になり。 夜を迎えて。 そしてまた朝が来る。 それでも世界は変わらない。 ざわ ざわ 人々の喧騒。 カツカツコツ とどまることの無い人の流れ。 靴の音。 空は灰色の雲が姿を表し始めていた。 それにすら、気づく人々は少なかった。 空を見るよりも、TVを見たほうがより正確に天候がわかると人々は思っているから。 見る暇すら惜しく、せわしなく。 やがて日が傾くと共に空は雲のカーテンに覆われて。 ぽつ ぽつ ぽつ ぽつ ぽつ ぽつぽつぽつ… ザー…… 降り出した。 ガタガタ… 小さな物音。 雨の音に負けてしまいそうな、ほんとうに小さな音。 実際、今までの雨の日はいつも負けていた。 小さな小さな、ちいさな命の声。 けれど。 「なんでこんなとこに子猫がおるんやろ?」 返ってきた、暖かい音。 丸い小さな黒目に、母猫の毛に似た茶色が映る。 「独り?」 ゆっくりと。 何かが伸びてくる。 それに触れられると、次いで重力から引き離される。 なじんだ場所から離れていく。 「んー…うちに来る?」 寄せられた布地についた匂いに小さな鼻をぴくぴくさせて。 伝わったぬくもりに、飛び出ていた爪がそっと引っ込んだ。 みゃ 雨にまぎれた声に。 「そか」 暖かい場所が出来た。 それは 大きな街の 大きな道にある 小さなバス停で起きた 小さな出来事 了 |
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ししゃも話。捏造気味。 ゴミ箱がねぐらの子猫<オフィシャル。 親猫・兄弟・こうする必要なかったような気満々ですが。 すいません。 今回はあくまでししゃもを猫らしく書こうと思ったんですが四苦八苦。 ししゃもの独白とか心情とかいれちゃうと擬人化かなと思って、それは好きじゃないなあと… まあポプ画面みてると非常に頭のよさそうな(容量よさそうな)ししゃもなんですけどね。 サトウさんの言葉に毎回頭を悩ませてます… エセ関西弁…キツクならず柔らかい物腰…ムリ… |