あのとき
 
 
 
 
手を伸ばして振り向かせれば良かった
 
 
腕を掴んで引き止めれば良かった
 
 
 
 
 
後悔したのは随分時が経ってからのこと

 
 
 
 
 
 
 
 
 
君と話がしたいです

 
 
 
 
 
 
 
 
 
実際、失敗していたと思う。
屋上に続く踊り場で、南と会話をしてからもうどれだけたっただろうか。
千石は吐く息も白く瞼を閉じた。
浮かび上がるいくつかの記憶の断片。
 
 
 
背を向ける南。
追いかける自分。
踊り場。
振り払われた自分の手と。
それ以上に痛そうな南の顔と。
 
ほんの少しの願望。
 
 
 
再び開いた瞳を空に向けると、既にそれは夜の空気を迎えていて、いっそう高く深くなって見えた。
首周りに巻いたマフラーが、ふんわりと暖かく。
けれど、心臓は随分前から冷えていた。
 
この街は星のひとつも見えはしない。
 
 
「なんかもう、後悔ばっかりだなぁ俺ってば」
 
千石の溜息に合わせて、彼の下でブランコもキィと小さく鳴った。
夜の公園に一人ブランコという、なんとも笑えないシチュエーションにいたって千石は自分の口元が弛むのを感じた。
嬉しくて弛んでいるわけではけしてない。
以前、この公園でブランコをこいで反省(?)したのは夏ごろ。
あの時より季節はずっと移り変わっているというのに、自分のやっていることのなんと進歩のないことか。
情けなくて笑える。
 
キィ、キィ、とブランコはあの日と同じように鳴る。
違うのは身を切る風の冷たさと、思い出す南の姿。
言葉のなくなった、その姿。
 
「あんとき、追っかけて無理にでも答え聞いちゃえばよかった…」
 
 
 
『わけわかんねえよ、もう。』
 
そう言って、酷く痛そうに呟いた南。
 
クラスの友達と楽しそうにしていた俺を見て、苛々したの?
不謹慎と思われるかもしれないけど、凄く嬉しかった。
嬉しくて。
もしかしたら南は俺のこと好きかもなんて舞い上がって。
 
 
失敗してしまったのだ。
 
 
「顔も見せてくれないなんて…予想外」
 
それまで僅かばかりあった、千石と南の接触点はその日を境に色を薄くし褪せていった。
南は千石のクラスの前を通らなくなった。
移動教室でも見つけられない。
クラスを覗いても、東方しかいない。
 
 
「キツイ…」
 
 
スニーカーが砂地につく。
ブランコの鎖が一つ鳴いて、そして静止した。
うつむいたら前髪が鼻先にかかりそうになった。
 
 
「あいたいよ、南…」
 
「話したいよ、南…」
 
呟きは、ぽつりぽつりと零れ落ちた。
白い制服の膝に、ぽつぽつと灰色の染みができる。
頬に冷えた空気が痛かった。
 
 
 
「好きなんだよ、南…
 
もうすぐ俺…誕生日だよ?」
 
 
 
去年の誕生日は、散々南にたかって飲食店を梯子した。
部活帰りの食欲に苦い顔を通り越して、怒鳴り始めた南をまだ覚えている。
そうして『来年は改めやがれ』と言われながらも、最後には笑ってくれた顔も。
 
『来年』はもうすぐそこまで来ているのに。
 
 
なによりも君が遠い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……みなみ…」
 
 
 
 
 
 
 
すがるような自分の声に、酷く笑い出したかった。