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君が欲しかった どうしようもないくらい 君を欲していた 君を想う気持ち、その名前は同じなのに。 「みなみ、南…」 「…千石っ!」 名を呼ぶというよりも存在を乞うように。 呼びかけるというよりも独白に近く。 千石はただ南の名を口にした。 たった三文字の言葉を発する唇は、他人の喉下に寄せられていて。 女のように細くはない、中心に突起した部分のあるそれ。 言葉が音になるたびに細かく震えて、拒絶を表す。 肩にかけられた指は力を強くし、爪が布を突き破って皮膚に食い込むような錯覚を覚える。 覚えて、いっそそうして欲しいと千石はぼんやり思う。 頭は随分前から霞がかったように曖昧で、けれど感覚だけは冷めたように鋭利に。 押し返そうとしているのだろうその腕を丸ごと抱きこんで、何度とも知れない言葉を口にする。 「やめてくれ…」 小さな懇願のような声。 どうしてそんなに頼りなさそうな音を発するのか、千石は首を傾げる。 傾げた際に栗色の髪が相手の頬を撫でた。 それにすら、震えを伝える手。 「南、すきだよ」 「無理だっ」 それは明確な拒絶の言葉。 なのに、彼の手は戸惑いを拭いきれない動きで、ぎこちなく千石の体を突き放そうとするから。 そんな半端なものでは止められない。 いっそ、殴り飛ばしてくれれば諦めもつくのに。 「南は優しい」 「優しくなんかないっ」 声を荒げても。 理由なく人を殴れない、そんな心の形をしている。 南の背に回していた腕に力を込めて体を密着させると、まとった布越しに心音が感じられた。 少し早めの時を刻むそれに、口づけたいと思う。 なので、それを実行しようと開かれた服の合わせの部分に鼻を入れると心音は一際高く打ち響いた。 「どうして…どうしてだよ」 頭上から鼓膜を振るわせるもの。 それは嘆いていた。 いつも耳に心地よく残るその音は、今日は酷く千石の胸を締め付けた。 「南」 「ダチじゃ…ダメなのかよ」 「南が欲しいよ」 「っ…」 視線を上げると、額に暖かいものが触れた。 目を凝らすと、それは南の顎を伝い落ちる水滴で。 首を伸ばして覗き込んだ南の目は、きつく閉ざされたまま雫だけがとめどめなく溢れていた。 「泣かないでよ」 「うぅっ…くっ」 「…南、泣かないで」 「千石…ごめん」 「どうして南が謝るの…」 「ごめん、ごめん…せんごく…」 南の涙は止まらなくて。 何度も何度も、千石は指でそれを拭ったのだけれど。 乾いてしまうんじゃないかというぐらい、止まらなくて。 頬を寄せて、ただぬくもりを分けた。 涙に濡れた頬はぺたりとして違和感を千石に与えた。 それでも、離れる事は出来なかった。 二人分の重みを受けて、古ぼけた折りたたみイスは小さく悲鳴をあげた。 けして広いとはいえない一室で。 それは名も知らぬ鳥の鳴き声のように響いた。 終 Hなの?そうじゃないの? 南が乙女。ありえません。 千石は南の全部が欲しいけど、南は全部をあげることは出来ないよという。 何処まで先を見ても、片想いに似た二人。お互いを大切に思う分だけ、答えられないことが苦しい。 なんて話、よくあるよくある…よね;;(弱気) |