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・同じ高さとは限らない・ 「うわー、もうついてねー」 情けない呟きが、もう何度目か解らぬ溜息とともに空に吐き出される。 南はハタから見ても丸解りの不機嫌そのものの顔で、がくりと肩を落とした。 原因は足下に転がっている。 南は恨めしそうに視線を落とした。その先にあったのは、無残にも砂とホコリにまみれたコロッケ一つ。 もちろん、口もつけていない。 「南、災難だねー」 隣からあっさりとした声が返って来て、それがさらに南を苛立たせた。 ぎいっと音がするようなオーラで横を向けば、オレンジ色の髪がふわふわと揺れる。 常なら人を食ったような笑みを浮かべている目の前の人物のその表情はしかし、今はふっくらと口を膨らませてもごもごと動かしている。 その動きさえも今の南には神経をささくれ立たせる材料だ。 「千石ッ!話すか食うかどっちかにしろっ!」 苛立ち紛れのセリフは本人の意図しないままに、口うるさい母親のようになっていたのだけれど。 それに気付いたのは隣にいた千石だけで、租借することに専念した千石は目をにんまりと細めて笑いの空気だけを伝える。 じんわりと微妙な沈黙が落ちた後。 ごくん、と千石が最後の租借を終了してその空気は破られた。 「じゃあ、ついてない南くんに、ラッキー千石がおまじないをしてあげましょう」 「いらねえ」 ぴっと一指し指を立てて笑顔で提案された言葉を寸断されて、しかし千石は気を悪くした様子も無い。 それどころか、南の肩にポンポンと手を置き諭すような表情になった。 「まあまあ落ち着いて? 今日一日の南部長の運の無さは、普段からミラクルラッキーな俺でなくても見ていて切なくなるほどだったし」 「…おまえ、喧嘩うってんのか」 「違う違うって。人の話は最後まで聞こうよ、みなみ〜」 普段人の話を聞かない人間が何をいう、と南はじろりと睨んでみたりもしたが、それが千石にとってたいした効果を持ち合わせていないことぐらい、口にした当人が一番よくわかっていた。 なので結局南は渋面のまま、諦めたようにまた溜息をつくほかはなくて。 「だからね、そんなアンラッキーだった南に俺がラッキーをわけてあげるんです! あ、いっとくけど効果は実証済みですからね♪ と、いうわけでさあさあ南くん、君の一歩先の未来の幸福のためにすこーし身体をかがめてくんないかな?」 「…何が『と、いうわけで』なんだ…」 「無難で一般常識的な突っ込みは、幸運を逃しますよ」 「…お前、絶対将来は新興宗教団体のカリスマとかだ」 「世界のアイドル千石清純君にひどい物言いですね!それだけ南の心は荒みきってるってわけだなー」 「〜ッ!もういいから、やるならさっさとやれ!」 何を言っても暖簾に手押し。糠に釘な千石の反応に、結局折れたのは南。 しぶしぶ、といった風体で腰をかがめる。 ひょこんと南が下がったことで、千石の身長が少しばかり南よりも高くなる。 その奇妙な身長差の空間を、千石はするっと猫のように近づいてにんまりと一際鮮やかに笑い。 ちゅっ とても。 とても可愛らしい音が、南の額からした。 時が凍るというのはこういうことをいうのだろう。 しばらくの微妙な間の後。南が見開いた目を瞬かせて、脳内で状況確認。 「せ、せんごくーーーッ!!!」 結果出た怒号が空気に響く頃には、千石の背中は結構な小ささになっていた。 その声を合図によういどん! 学校帰り、予告無しの鬼ごっこはしばらくの間続いたとか。 追記。 ちなみに、散々走り回って帰宅した自宅で出た夕飯は、とても綺麗に揚がったコロッケで。 南は額を押さえながらもう一度渋面したそうだ。 |
| :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: web拍手用に以前アップしていたものでした。 キスにまつわる3つのCPと言う事で、バネダビ・サエマレ・千南を書いたなあ。(遠い目) 恥ずかしくて、見返すのもやっとこです。 |