Episode5 攻防

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絶望的な表情を浮かべ、ソファに身を沈めるシードに、バーンは気遣うように 近寄ってきた。
「大丈夫かい? 何だか気分が悪そうだけれど…。」
「あ、ああ。ちょっとショックなんですよ。これだけのもん 見せられて…。それでも自分のもんにできないって、何だか…。」
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深い溜息。
打ちひしがれているシードにバーンは優しく…だが伺うような目つきで 語りかける。
「そうだろうね…。けどこの剣を、君のものできる方法があると言ったら?」
「え?」
小声で、バーンが出した提案は、その後シードを3日間悩ませ続けた。
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ほどなくしてクルガンが部屋に戻ってきた。
「どうだ、バーン。目利きしてもらったか? どうだった?」
「クルガン、あれはやはり本物のようだ。凄い取引になりそうだよ。」
「ほぅ…、君は昔からやり手だったからな。本物となれば相当、高価なのだろう。」
「まぁな。さるハルモニアの大貴族が名乗りを上げてくれている。家宝にしたい そうだ。」
「家宝か…。剣が泣くな。使ってこその剣だろう。」
クルガンの言葉に、シードははっとした。
自分も常日頃そう思っていた。
クルガンも、そう思っていたとは…。
そうだ、とばかりに顔を上げたシードに、クルガンは視線を移すと、
「まぁ、そんな大金を要する剣なら実用とは言えないな。俺は無銘でも実用的に 優れた剣ならそれでいい。シードもそうだろう?」と同意を求めてきた。
「俺は…、刀の鑑賞は趣味みたいなもんで、実際戦闘に使うやつは、今クルガンが 言ったように思っていた。でも、あれ見ちまうと…、そうとも言えないぜ。」
言葉に、力がない。
すっかり気落ちした様子のシードに、クルガンは心配そうに どうした?と聞いてきたが、ただ無言で首を振るシードであった。
「俺、もう帰るわ。借りは返したぜクルガン。」
「シード?大丈夫か?」
「ああ……晩飯、ごっそさん。じゃあ…。」
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帰路の馬上で、シードの心の中に何度も繰り返し浮かんでくるバーンの提案。
あの場では、即答できなかった。
あの素晴らしい刀が、手に入るというのに、答えに窮してしまった。
バーンは3日だけ待つ、と言ってくれたけれど。
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クルガンには内密に、と一言前置きをしてからバーンは、天群雲剣を シードのものにできる方法を言った。
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「君があの刀に一目で魅入られたように、私も初めて会ったというのに、 君に心を奪われてしまったんだ。どうかな…、私の愛人になってくれないか。 君にこっちの趣味がないのは、言動や立ち振る舞いでわかる。けれど、 私としても、あきらめきれないんだ。悪いようには絶対しない。 勿論、軍もやめなくていい。もし、受けてくれるなら、この刀差し上げよう。 商売にはならないが、君にはそれだけの価値が…私にとってはある。 私の本気を、示す意味として受け取ってくれ。」
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―――また男から告白かよ…参ったなぁ…。愛人なんて!囲われんのか? この俺が?冗談じゃない!!
だが、あの刀が自分のものになる。それは…。
刀だけいただいて、愛人になったふりして…いや、だめだ。
すっぱりあきらめるか! 見なかった事にして。
いや…でも…あの素晴らしさは…。
こんなチャンス二度とあるものか…。
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シードは迷いつつも、つい先程目にし、手に取ったあの天群雲剣 が浮かぶ。欲しい。やはり、あきらめきれない。
今まであれほど否定していた男色という未知の世界へ踏み出せば あの刀は自分のものだ。
その相手が嫌悪感を抱くような奴どころか、寧ろ好印象を持ってし まったバーン。
顔立ちがどことなくクルガンに似ているあの優しそうなバーン なら何とか抵抗なく受け入れられるのではないか?
悪い話ではない筈だ。
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反面、自分のことをそんな目で見ていたとは驚きつつも淡い軽蔑が 生まれたシードだった。
―――個人の趣向だしな、非難できる訳じゃないけど、その対象が俺なんて!
やっぱり、男同士でなんて勘弁してほしい…。
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女には不自由しない自分が、何が悲しくて野郎同志で肉体関係を結ば なければならないのだろうか。
―――何で、ホモのおっさんや兄さんに好かれちまうのかね、俺。
顔のせいかな。その分、女にモテた方が嬉しいんだけどな…。
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バーンから正規の金額を支払ってあの刀を手に入れる事は奇跡に近い。
一介の軍人では一生かかっても無理かもしれない。
それならバーンの申し出どおり、愛人とやらになれば…。
自分のものだ。あの天群雲剣が!
シードは、あの刀で戦地で戦っている己の姿を想像し陶酔しそうになる。
だが今までの自分のアイディンティティの一切を否定し、同性との肉体 関係を抵抗なく受け入れられるものなのか。
あの刀の代償としてそれは、どうなのか…。
馬の背に揺られながら、シードの心も揺れに揺れていた。
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ルルノイエ中央広場の噴水、午後六時。
悶々と悩んでいるうち、バーンへの返答の日になってしまった。
朝、登城しながらもシードは、まだ迷っていた。
行かなければ答えはノーという事になっている。
「俺は、どうしたらいいんだ…。」
天を仰いだシードの心境を映すがごとく、その日のルルノイエ は灰色の雲が一面に、垂れ込めていた。

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01.12.04.
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クルガン一族って一体・・・(笑) .
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昼間、クルガンの隊との合同演習の最中でも、どこか心 ここに在らずといったシードだった。
―――今日の六時までには決めないと…。
そんなシードの様子にクルガンが気付かぬ筈はなく、演習も終わる頃、シードに声をかけてきた。
「シード、元気がないな、どうした?」
珍しく軍の中でも、シードが好む口調で語りかけてきたクルガンだった。
「……、クルガンか。いやちょっとな…。」
流石に正直に打ち明ける気にはならないシードに、クルガンは再び問いか けるような眼差しを向けてきた。
「俺の家から帰る時、元気がなかったが、その原因は何だ? このところ 様子がおかしいのもそれなのか?」
「うーん……。」
珍しくシードにしては歯切れが悪い返答にクルガンは畳み掛ける。
「何かあったか?バーンと。俺が席を外している間か?」
シードは、内心クルガンの勘の良さに舌を巻きつつも、思い切って切り出 す。
「いや、バーンさんとは何も…。あのな、クルガン。これは…友達の 話しなんだけど。」
「何だ?」
二人の横を通りすぎて行く部下たちが、次々と敬礼して演習場から出て行く。 クルガンとシードは、目礼を返しながら、仕事の話をしているよう な素振りで会話を続けた。
「俺の友達がな、すごく高価な欲しいものがあるんだと。けど、もう目ん玉 飛び出るくらい高くってとても一生かかっても買えるような代物じゃなくてな。 けど奴にとっては、一生かかっても払えるもんなら買うってくらい 価値のあるもんなんだ。 それがなぁ…友達にその高価なもんくれてやるって奇特な人が現れてな。 くれてやる交換条件に妾になれって言われて悩んでんだ。 わかってると思うけど俺の友達ってのも男だし条件出してるやつも男で。 つまりは同性愛者な訳。友達は、そっちの経験全然ないし、そういう嗜好も全くない奴で、すげー悩んでんだ。 で、俺に相談もちかけてきてんだけど、俺もこういう経験ないからなぁ。 何て答えてやればいいか、わかんなくってな。今日の六時までに返事 しないといけないらしいんだ。」
シードは一気にここまで、すらすらと話した。
その自然な感じは、かえって不自然さを生み出していたが、シードは クルガンが、この話しをまに受けて、何かいい知恵を出してくれる事 を、期待していた。
「ほう…。そうか、そういう訳だったのか。」
話を聞き終わったクルガンの顔色がさっと変わった。
クルガンの瞳に猛烈な怒りの色が浮かんでいる。
殺気、と呼んでもいい程の。
思ってもなかったクルガンの反応にシードは、たじろいだ。
「な、何だ? クルガン。俺の友達、知ってんのかよ?何怒ってんだ?」
「………。」
「怖えぞ、クルガン…。な、何だよ?」
「シード、今の話はバーンとお前の事だな! 高価なものとはあの天群 雲剣の事だろう?」
「何でわかった? あ!!! 俺の…ばか。」
「お前ほどわかりやすい奴もいないからな。」
「うるせえっ。くそ・・・バーンさんからお前には言うなって口止めされて たんだよ!」
「まぁそれはそうだろうな。バーンめ・・・俺がいない間に、そんな取引を お前に持ちかけていたのか・・・。確かにバーンは、筋金入りの男色家だ。 そして財もある。人物としては、信頼できる男だ。 だが、そんな事を言い出すとは・・・。 バーンとお前を引き合わせた俺としても責任を感じる。」
話すうちに、落ち着いてきたのかクルガンから殺気のような怒りの色は 次第に薄くなっていった。
「よほどお前の事が気に入ったのだな。」
「……………。」
「シード?もう答えは出ているのだろう。人に相談を持ちかける時点で 相談者というのは無意識にでも答えは出ているものだ。どうだ?」
そう問いかけるクルガンは心なしか肩を落とし、声が沈んでいる。
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―――クルガン? 何なんだ、お前…。
猛烈に怒ったかと思えば、今度は悲しそうにしたり、クルガンにしては感情を露にしている様が、 シードを大いに戸惑わせていた。
「ああ、まぁだいたいな。まだかなり迷ってはいるけど。」
「受けるのか?バーンの申し出を。」
その蒼灰色の瞳の真剣さ、追いつめられたような表情にシードは圧倒され 口篭もる。
「う…、だってこんな機会…。」
「シード………。」
訴えかけるような強い視線。
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「女じゃないし別に貞操なんかな…。あんな素晴らしい刀…。」
「確かにあの刀は、そうそうお目にかかれない逸品だ。だがよく考えろ。 軍人として、男として今まで生きてきたプライドを捨ててまで手に入れて、 快く使えるのか、あの刀を。」
「そんな事わかってる。…でもな…。」
「軍務にも支障をきたすぞ。そのうち無理が出る。妾になるという事は 主従関係なのだぞ。バーンが交易先にお前を連れて行くと言ったら従わね ばならない。軍と兼務できると思うか?」
「………。」
シードはクルガンの真剣な視線が痛く、どんどん俯き加減になってしまう。
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―――何、マジでキレてんだ、こいつ…。
我ながら正しい選択をしているとは思っていない。
一応、覚悟は決めたものの、まだ迷っている。
こうやって誰かに止めろと言って欲しかった自分がいる。
止めて欲しかったその人は、いつのまにかクルガンを望んでいた。
今、現実にその選択を責められ、心のどこかで安堵している。
けれど・・・
―――だからって、あきらめきれねぇよ…あの天群雲剣は。
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「それに…」
クルガンは、周りを見渡し一息つく。
殆どの兵士は演習場から移動し、その場にはクルガンとシードだけが立って いるだけになった。
「それに、シード。お前、男は経験がないと言ったな。その手の嗜好も全く ないと。それなら尚の事、お前が想像するより辛い事になると思うがな。」
「大丈夫だ。俺はそんなヤワじゃねえよ。」
クルガンと目を合わせられないまま、シードは自棄気味に微笑んだ。
「シード!!!」
「これはバーンさんと俺の問題だ。お前に言うつもりはなかったんだ。 忘れてくれ、クルガン。」
そういうと、シードはクルガンと顔を合わせないまま、演習場から走り 去った。
後に残されたクルガンは、長い事その場に立ち尽くしていた。
風もなく、冷たい晩秋の空気がクルガンの頬を冷やしてゆく。
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鳥の群れの声に己を取り戻したのか、クルガンは、やっと次の軍務へと 足早に演習場を去った。
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先を越されるのか?クルガン!
こりゃ週に2,3回のペースで更新しないとラストまで間に合わない(汗)
何に間に合わないかは、きかないでくださいましー。
01.12.07.
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koh mirimo
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