― その11〜その20 ―
その11今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
トホルドは静かな街だけど、すぐ南西に見える陰気な黒の森や
鍛冶師達の冷酷なまでの一徹さがボクを憂鬱にさせる。
…と思うのは、ペンギンだという理由で鍛冶の依頼を断わられた
からではない。決して。
ボクは再び河へ向かっていた。
先日の死闘で身体はベトベト。着いたらまず水浴びだ!
そう思っていたのに、目に入ってしまったので酒場へ…
来てしまったからには飲まなくては。
ぐび。ぐびぐび。ぷわー。
旅の疲れが吹き飛ぶよ! もう一杯!
早く持ってこないとーこのクチバシが黙ってないーぞー。
ぐび。ぐびぐび。ぐびぐびぐび…
…ムニャムニャ…明日もが…打倒ゴ…リ…
その12…うーん…ペンギンの城……お金…
…あ。あれ?
不穏な風でボクは目が覚めた。どうやら船の上に居るようだ。
何がどうなってここにいるのかよくわからない。
はっ。ま、まさか。このままゴブリンの城へ連れて行かれて
生涯幽閉の身に!?
いや、ニガイ薬を飲ませてボクをゴブリンにしてしまうのかも?
きっとそうにちがいない!
ボクは真実に辿り着いてしまった。五王朝に蔓延るゴブリン達は
元々ニンゲンだったのだ。悪の大王に姿を変えられ、ゴブリンの
城建設の為に働かされ…。ああ、不憫なニンゲン達。
いつか呪いを解いて、ニンゲンに戻してあげなくては!
…あ。ということは、ペンギンも増やせば…
よし、明日もがんばろう。打倒ゴブリン!
その13今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に…
……。
今、ボクは無一文。
ゴブリンの刺客か、新たな敵の襲来か。
建国プロジェクト至上最大の危機が今ここに…!
久しぶりに気持ちよく水浴びをしたボクは、五王朝北部に
位置するクンアールへ向うべく旅路を急いでいた。
都の喧噪が遠くに聞こえる…
その時、突然目の前に何かが現れたのだ!
…この後はよく覚えていない。何事かを喚き、異様な煌きを
纏うそれは夕陽に照らされ一層激しく輝く。ボクは光を眼に受け、
右も左もわからなくなってしまった。
何かがボクを跳ね飛ばした。
それは高らかに笑った。
気がつくと、お金が入っていた貝殻は空っぽだった…
明日はがんばれないかも…でも、打倒ゴブリン!
その14今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
先日の不幸な出来事は三歩あるいたので忘れてしまったが
財布代わりの貝が発する小銭の音が軽やかで虚しい…
ルルフォムリア付近には動物がたくさんいる。街道で会う
野生の者とは違って、街中の犬や猫は他所者にも紳士的だ。
酒場の前で世話好きのダックスフンドと話していると、茶色の
猫がやってきた。
「市場にサザンランドペンギンがいるよ〜」
なんて事だ!同朋がニンゲンに扱き使われるなんて、王として
黙って見ているわけにはいかない。ボクが自由にしてあげなくては!
急いで入札を確認する。あと17分で落札…444rea…
ボクのお財布には5rea。
…ごめん…
明日こそがんばろう。打倒ゴブリン!
その15今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
「凍える大地には白い鳥がいるよ〜」
街の猫に聞いた情報を頼りに道無き道を進む。
ボクは南国育ちで寒い地方には行った事がない。だからこの白い鳥を
見に行くのだ。
とぼとぼと独り歩く獣道。こんな時、仲間がいたら…
ああ、夕陽が木々の隙間から輝いている。極彩色の光がボクの周りで
見事な舞いを…ほら、身体中にキラキラした粉が…はっ。
木漏日と思っていたそれは敵意を持った蛾の鱗粉だった!
軽やかなステップで毒粉から逃れる。
飛燕斬!!
クチバシで毎夜研いだダガーが閃く。舞粉を拾い、ふう、と一息。
先を急ごうと前を見据える。巨大な樹が立ち並ぶ森。
…森?
…明日はどこへ…でも、打倒ゴブリン!
その16今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
凍える大地へ行くつもりが何故か大森林へ…
どこへ向かえば出られるのだろうか。
森の奥から話し声が聞こえてきた。ニンゲンの冒険者だろうか。
言葉は通じないけど、身振りで出口を教えてもらえるかも…
樹々の間に響く声の方へボクは急いだ。
「…で、あるからして…聞いてるのかね!」
ずしーん、と爆音。瞬間、身体が宙に浮いた。物凄い地響きだ。
こんな衝撃、並のニンゲンでは…
「あ! 先生、ヘンなヤツがいる!」
…気づくのが遅かった。ゴブリン等小鬼達は奇声と共にばらばらと
ボクを取り囲む。引率者らしき大きな赤鬼がこちらに向かってきて…
も、もうだめだ。
…ゴブリンめ。ゆゆせん!
その17今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
ふ…
目を覚ますとルルフォムリアだった。
傍らに先日のダックスフンド。茶毛の猫が心配そうにボクの顔を舐めて
いる。まだ鈍い痛みが続く頭で思い出すに、どうやらボクは子鬼達の林間
学校に出くわしたらしい。夏休みかぁ…いいなぁ…
引率の大鬼含め、7匹ものゴブリン、オーク達。
対してこちら1匹…なんて卑怯な!
忘れずに日記に書き記しておこう。
市場で舞粉が売れて懐には45rea。最終兵器みたいな名前のニンゲンが
良い値で買ってくれたおかげだ。どうもありがとう。
これで良い装備を整えたほうがいいかもしれないと思い、商店へ。
はっ…こ、高級ペットフードが…買ってしまおうかな…
明日もがんばろう。打倒ゴブリン!
その18今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
高級ペットフードの芳しい魚の香りに必死で抗い、ボクは森の街を出た。
ああ、南海イワシが懐かしい…。
――凍える大地。
見渡す限り、真っ白。とにかく寒い。
時折、激しい吹雪がボクを打ちつける。皮下脂肪たぷりとは言え
意識がはっきりしない。
さすがの妖精も凍てつく冷気を感じるのか、ボクの金の冠の毛を
編みこんで壁を作り、風をしのいでいる。後でちゃんとほどいて
くれないとクセがついてクリクリしてしまうじゃないか…
そんなどうでもいい事に気を取られていた為か、そろそろと近寄って
くる白兎達にボクは気づいていなかった――
雪なんかキライだ。お城持ちのゴブリンもキライだ…
その19今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
街の外では激しく雨が降っていた。
冷たい水の粒子が空を舞い、いつもは平穏に見える草原に今日は
突き放すような厳しさを覚える。ボクは大きな葉っぱを茎ごともぎり
傘代わりにして封都への道を歩いていた。
撥ね返る泥で白いおなかは真っ黒。水浴びがしたいなぁ…
ふっ、と、辺りが暗くなった。
草原も、遠くに霞む森も見えない。
猫とも犬とも区別のつかない低い唸り声が、雨のこだまをかき消した。
獣の息遣いが背後に…と、思った瞬間ボクは背中を強く打たれ
湿った地面にうつ伏せていた。闇の中に見えるのは大きな、四足の…
あれは…黒い…猫??
…背中の爪痕がまた増えたような気がする…猫め!
その20今日もペンギンの城を夢見て、建国資金調達に励む。
アグナ・スネフに着いた頃には雨はもうあがっていたが
湿っぽい風は生温かく、空は未だに薄暗い。こんな日は
積み重なった大きな岩の陰でのんびり羽休めをするのが
一番幸せだ。
寝心地の良さそうな場所を確保して、市場へと寄った。
斬れ味が悪くなってきた武器の替わりはないだろうか…
…はっ。な、なんと! 「銅のくちばし」!?
ボクのために作られたと言っても過言ではない武器だ。
この勝負にボクは全財産を賭ける!
オークションからの通知をドキドキしながら待った。
眠れない夜が過ぎ去り、朝が訪れたが、銅のくちばしが
届けられる事はなかった…
…やっぱり16reaじゃ買えないか…
― その11〜その20 ―